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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第四章〜飛翔する若鳥〜
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第百十一話ー反撃の刻

サーバーがどうたらでしばらく投稿できませんでした……orz

今回は反乱軍カルミアサイドの話です。

前よりもっと残念っぷりに拍車がかかってる人がいますが……まぁ気にしないでください。

もっと残念になるように精進します。

 




 カイルたちの故郷、浮遊島。

その場所は現在、カイルたちも所属している反乱軍カルミアの主要拠点となっている。

浮遊の原因ともなっている複雑に織り成された魔法陣を解析した結果、この島の土地をいくら増やしても高度が落ちないことが判明したため、土属性の使い手により土地を増やし、浮遊島は現在最大収容数八万人という巨大な島となっていた。

いや、もはやこれは島と呼べるのだろうか。


 魔具の大砲や投石機、敵を寄せ付けない防壁などを配備したこの島は、島というより要塞。

対帝国のための決戦兵器とも呼べるものとなっていた。


 そんなカルミアの浮遊要塞の作戦会議室で、総大将であるスミレと総大将補佐であるサテラが、補給部隊隊長であるザフラから報告を受けていた。



「カルミアの総員は十万人を突破。

各主要都市からの取引で物資はある程度まで集まったわぁ。

それからこの前出会った……元ヴェンティアの街の住人。

カイル君たちとも面識のある彼らが集めてくれた食糧や物資があれば決戦が起こってもしばらくは大丈夫そうよぅ」



 補給部隊隊長、巨人族(ジャイアント)のザフラ=アルファロメオ。

身長はおよそ三メートル。

暗めのオレンジの瞳と白みを帯びたピンクの短髪をした精悍な男。

彼の一番の特徴はその右腕。

肩の辺りから人間としての腕はなく、代わりに付いているのは巨大なカマキリの鎌。

蟲皇・アガレアレプトの鎌だ。

赤黒い甲殻に禍々しいフォルムの鎌。

今は折りたたまれているためその刃は見えないが、ひとたび閉じた鎌を開けば日本刀を彷彿とさせる輝きの、銀の刃が現れる。

その腕と、愛用のハンマーを振るい戦う……カルミア屈指の実力者だ。


 そして彼はオカマである。



「ぅーんっ、上々上々♪

足りないものは戦争直前に帝国の支部を潰して、根こそぎ奪っちゃえば問題ないでしょうっ。

これで準備は整った、って感じかしらね。

ねっ、総大将様?」



 スミレに向かってニコリと笑いかける妖精族(フェアリー)

総大将補佐、サテラ・エレオノーラ・フェアリーだ。

ザフラと違って彼女の体躯は小さい、本当に小さい、小人族(ドワーフ)よりも小さい。

手のひらに乗れるほどだ。

種族的な特徴としては森精族(エルフ)のように尖った耳と、蜻蛉(カゲロウ)のように透き通った薄羽。

個人的な特徴としては陽の光に映える真っ直ぐ垂らした銀の髪に同色の銀の瞳。


 それから妖精族(フェアリー)の女王であるということだろう。



「そうね、私もこちらの準備は整ったと思う。

後はジャックおにぃ……カイルさんたちの準備が整うのを待つだけ。




 スミレはお話ばっかりでもう疲れたよぉ……」



 そして……唐突に口調が子供っぽくなり、机にアゴを乗せてげんなりしているこの少女こそ、反乱軍カルミアの総大将スミレなのである。

まず驚くべきはその幼さ。

なんと彼女は若干、十一歳なのだ。

どうしてそんな少女が反乱軍総大将であるのか。

それには彼女の出自と、【能力】が関係している。


 彼女の育ての爺であるゲンスイは前反乱軍総大将であり、剣の達人。

リュウセイに七星流をも教えた彼は帝王に比肩する唯一の人物と言われ、強さはもちろん人望の面でも反乱軍に欠かせない人物であった。

その孫であるスミレにも、ゲンスイは彼の剣術の一端を伝授し、スミレを並みの兵士を歯牙にも掛けない戦士へと育てたのだ。

彼女は強い。

そのことが、理由の一つ目。


 そして次の理由とは彼女の【能力】。

スミレは亜人族ではない至って普通な人族(ヒューマン)であるため、普通の【能力】は持っていない。

持っているのはもっと別の【チカラ】。

変異(パンドラ)とも言われる特異な【能力】。

それは闇属性の魔法であり、闇属性に宿る【未来予知】だ。

数多ある未来から、自らが望む未来を掴み取る【チカラ】。

戦争において、これほど有益な【能力】はない。

なにせ、相手の作戦を実体験として知れるのだから。

どのような事態も先読みし、対処することのできるという、上に立つ者の才能。

これが、理由の二つ目。


 以上二つの理由により、(すみれ)の花の 色のように鮮やかな紫紺の髪と瞳が愛らしい少女が反乱軍総大将という重責を背負っているのだ。


 口調が硬く、気を張り詰めている時は総大将スミレモード。

 口調が幼く、気が抜けている時はスミレちゃんモードと、影で呼ばれていることを彼女は知らない。



「ヴァレイン様たちを筆頭とする新王国の重鎮となる人物の説得……ねぇ。

ワタシは初回以外参加しなかったんだけど……そんなに辛いものなのぉ?」


「辛いって言うより面倒なのよ面倒!

こう……なんて言うのかしら……ッ!


 為政者特有の本音は出さずにでも本音を言葉に混ぜつつ決して表情には出さない皮肉に皮肉を重ねて相手の粗を探して見つけてほじくりかえして非を認めさせて引け目を作って自分の主張を通す腹黒い本当に腹黒いやり取りとかに加えて新王国の自分の立場とか給料とか他に選出された人とか身の安全反乱成功の確実性とかもうほんとその辺を事細かに聞いてくるやつの相手をするとかでもそんな相手でもこっちはニコニコ澄ました顔で相手しなきゃいけなくて牽制とかこっちの希望とかをこれまた出来る限り面倒くさく婉曲させた言い方で伝えて理解させて説得させて連れてきて連れてきたかと思えばこっちで道ですれ違うたびにやれ備蓄はどうだやれ戦況はどうだ本当に勝てるのか勝てたとしても再建費用とか復興費はどうなっているのとかあーっ!! もう!!


 知らないわよ面倒くさい!!!」



 サテラが一気呵成に捲し立てる。

相当に不満が溜まっているようだ。

もしかしたら自分が女王だった頃の鬱憤も含まれているのかもしれない。

鬼気迫るサテラの形相に、ザフラも思わずたじろぐ。



「……スミレ、反乱が終わっても絶対に政治になんて関わらないもん。もう決めたもん」


「私だってもうコリゴリよ!

スミレちゃん! 一緒にバックれちゃいましょう!」


「ダメに決まってるでしょう貴女たち。

それくらいはワタシでも分かるわよ」



 片や、反乱軍カルミアの総大将。

反乱を成功させることになる立役者。

片や、総大将補佐にして妖精族(フェアリー)の女王。


 政治に関わらないように生きる方が困難である。

むしろ、反乱後に何かしらの役職に着かなければ問題が起こりそうだ。



「やぁ〜だぁ〜! スミレは静かに暮らしたいのぉ〜! 働きたくなぃ〜っ!」


「女王の位なんていらないぃ〜! 仕事なんて嫌ぁ〜!!」



 ぐりぐりと机の上でブーたれる子供と妖精。

絵面だけは可愛らしい。

全くもうしょうがないな、と呆れ顔でその頼みを聞き入れたくなってしまうほどだ。

だが、二人の主張が認められることはない。

有能な人物をニート状態にしておいても、何の益もないのである。

何より片方はいい大人なのである。

その上、女王。問題発言にも程があった。



「はいはい、二人とも文句言わないの。

そろそろクレアたちも報告に来ると思うけど……」


「むぅっふっふっふぅうううううううう!!

あぁエルちゃん、嗚呼エルちゃん、っぁあエルちゃんっ!!

貴女はどうしてこんなに愛らしいの!

貴女はどうしてこんなにも私の心を射つの

かしら!

見た目身長性格手触り舌触り匂い感触触覚食感雰囲気肉感抱き心地揉み心地に加えて私が今やってるみたいにペロペロクンカクンカモフモフハグハグパクパクレロレロスーハースーハーした時の反応が私のサドっ気と性癖を的確に揺さぶるのぉおおおおおおお!!!!!」


「た、食べるのはっ、や、止めっ!?

た、助けてくださいなのですーーーーっ!!!!!」



 バァン! と扉を押し上けて部屋に飛び込んできたのはちょうど話題に上がっていたクレアとエルだ。


 クレアの赤と青のオッドアイが爛々と輝き、エルを貪る様子はまるで獣のよう。

というか、まんま獣だ。

狼というのも狼に失礼な気がするほどの貪りっぷりだ。


 ちなみに貪られている方が男で貪っている方が女である。



「クレアお姉ちゃんー、治療薬の方はどーぉ?」


「まぁ必要最低限は集まった感じよでも治療薬はどれだけあっても困ることはないから他の物資が集まりきっているのなら優先的に補給して欲しいわ以上報告終わりスミレちゃん今はスミレちゃんモードなのねいいじゃないいいと思うわそういう素がでてるの私の方はここしばらくエルちゃん成分を補給できていなかったからちょっと老化がげふんげふん元気が失われてきているのよええきっとそうよっはっそうよそうだわ私長く生きてきているし淫魔族としては特殊な性癖を持っているから興奮の必要間隔が短くなってきているのよきっとそうだわそうに違いない早く補給しないと死んじゃうかもしれないからエルちゃんを今から性的に襲うわよいいでしょいいわよね答えなんて聞いてないんだからぁぁぁぁああああああああ!!!!」


「イヤーーーーーーッ!?!?!?」



 治療部隊隊長、クレア・エムプーサ。

類稀なる製薬技術に加え、種族柄フェロモンを操る彼女に怪我や病を治すことに関して右に出るものはいない。

そして、変態度合いで右に出る者もいない。

これは決して淫魔族だからというわけではない。


 ただ、個人的にダメなだけだ。


 そして襲われている金髪碧眼の森精族(エルフ)の少年は魔具職人部隊隊長、エル・ロットーである。

ジャックによって魔具製作のイロハを教え込まれ、その後任を務めている。

そして彼は声や体格、その他様々なことを考慮しても……女らしい。

その辺の女性よりも愛くるしい容姿をしている。


 男の娘なのである。



「治療薬かー、むーぅ、はぁー、既製品を集めるのはお金をたくさん使うから……ちょっと待っててねクレアお姉ちゃん。

スミレ、【未来予知】するからぁ……」


「大分お疲れなのねぇ、スミレちゃん」


「そりゃーそうよホントにもう政治関係は面倒臭いんだから!

だから、私ももう少し休んでから……」


「ヴァレインだ、失礼する。

私の補佐に当たる者についてスミレ総大将に話を…………………………………あぁ、【未来予知】中か。

では、サテラ総大将補佐、話を聞いてもらいたい」


「ほぉ〜らぁ、サテラ、仕事よぉ」


「うへぇ……もう嫌ぁ」


「ヴ、ヴァレイン様までスルーなのですっ!?

ちょっ、誰かホントに助けっ!!?

クレアさん、そこはっ、そこは噛むところじゃないのですぅうううううううううう!!!!」



 部屋に入ってきたヴァレイン新国王(予定)はエルとクレアの痴態を冷めた目で見つめた後、何事も無かったかのようにサテラに話を振る。


 慣れとは、恐ろしいものである。






――――――――――――――――――――





「治療薬に関してはディアスたち戦闘部隊に治療部隊の人たちを護衛してもらって、魔境の森で使える薬草を採取。

群生地を後で地図にチェックを入れておくわ。

それを加工、薬品にして補充する。

並行して魔具職人部隊は出来得る限りの魔具の整備、改造、生産を行うこと。

魔具もあるだけあって困ることはないから。


 補給部隊は物品の整理。

Aの八番のコンテナの中にある物品が記載のものと違うから、定位置に戻しておいて。

戦争が起こる前に全ての物品の配置を覚えておくように。


 それからサテラ、パックに伝えて欲しいのだけど、諜報部隊の何人かをシャイレンドラの街に向かわせて。

あの街はヴェンティア同様、龍に支配されている街だけど、実はそうじゃない。

帝国の派遣した者は天龍に殺害され、元の街の町長がそいつに成り代わって政治を行っているの。

天龍を街に留めて帝国への対策とするくらいの腹黒くてやり手の人物だと思うから、ヴァレイン様の補佐に相応しいかどうか、調査をしてくるように言っておいて」


「「「「了解」」」」



 ザフラ、クレア、エル、サテラの四人がスミレの指示を受け入れる。

反乱軍カルミアはスミレを頂点に置いた完全なアップダウン制だ。

スミレの指示に、反乱軍全てが従う。


 【未来予知】による確かな結果が約束された指示、だからではない。

勿論、新しく反乱軍に加入した新参者はそうであろう。

しかし、古参の者たちや実験場で共闘した者たちはそうではない。

ゲンスイを思い起こさせる、その確かな人徳に。

カリスマとも呼べ得るスミレの天性の指導者としての資質に従っているのだ。


 ふざけていたクレアも、真面目な顔をしてエルと同時に部屋を出る。

その面構えは普段のクレアの様子からは想像もつかないだろう。

戦争が近い。反乱の命運を左右する決戦が近い。

そんな表情にもなるというものだ。


 しかし、二人が部屋を出た瞬間にエルの悲鳴が鳴り響く。

まぁ、予定調和(おやくそく)である。



「後は……マリンたちの準備が整えば」


「ええ……戦える。この帝国の横暴を、止めることができる」


「……準備、整うかしら。まだ、あの子が死んでからそんなに経ってないでしょう?」



 スミレたちは知っていた。

フィーナが第三部隊長ヴァジュラの手によって殺されてしまったことを。


 帝国の発表した手配書が更新され、フィーナの名前が消えていた。

【未来予知】や、諜報部隊も使って情報を集めた結果……その情報が真実であると分かった。


 スミレやサテラはフィーナのことも、その半身とも呼べる双子のマリンのことも知っている。

あのお互いに依存し合っていた二人は、その一人が欠けたとして、平常でいられるだろうか。

壊れてしまってはいないだろうか。


 

「……大丈夫だよ、きっと。

マリンさんの傍には、カイルさんやユナさん、リュウセイにジャックおにいちゃんがいるもん。

それにマリンさんは、そんなに弱くないよ。


 だから、大丈夫」



 サテラの不安を、スミレは否定する。

スミレ自身もたくさんの死を“視て”きたし、見てきた。

その経験で分かったことがある。



「死は悲しいし、辛いよ。

それでも、乗り越えられるもの。

私は……そう思うよ」



 スミレは幼い口調でそう呟く。

それは幼き日、反乱軍にいた頃のことを思い出しているからなのか。

サテラにはスミレの心情を推し量ることはできない。

【未来予知】なんて重い【チカラ】を持つが故の苦悩など分からない。

しかし、サテラもそれなりに大切な人の死を経験してきた。

だから……


 死は乗り越えられる。


 その言葉には、共感できた。



「そう……そうね。大丈夫よね。

ユナちゃんのことだってなんとかなったみたいだし」


「【未来予知】でユナさんが助かるって分かってたから、私たちは手を出さなかったけど……。

カイルさん、ますます強くなってるね。

第二部隊長、それと同格のハクシャクも退けちゃうんだから」



 話題は昨日(さくじつ)のユナの処刑に移る。

ユナの処刑は大々的に公布されていたため、当然スミレたちの耳にも入っている。

諜報員を送り込めば問答無用で殺され、ジャンヌの兵士とされたため、現実では反乱軍は送り込んでいないが、顛末は【未来予知】で既に幹部全員の知るところとなっている。

裏付けの捜査も終わり、状況は完璧に把握している。



吸血鬼族(ヴァンパイア)……また凄い種族が味方になったわね。

というか仲間集めはこっちに任せてって言ったのに……まったくっ。

何をやってるのかしら、あの子たち」


「集めるっていうより、惹きつけられてるんだと思うよ?

カイルさんたちの……人徳っていうのかな。

強さとか、言葉とかに。

……あの人たちは、帝国に虐げられてる人たちにとって眩しいから」



 ヴェンティアの住人たちにとって、カイルたちは引け目を感じる存在だ。

生贄にして、殺そうとした対象だ。

だが、それだけで彼らはカイルたちの手助けをしようと思った訳ではない。

贖罪。その気持ちは確かに彼らの中に存在する。

しかし同時に期待の感情も存在しているのだ。

カイルたちなら、この帝国をぶち壊してくれるのではないか、と。


 吸血鬼族(ヴァンパイア)たちにしてもそうだ。

たった一人で帝国兵相手に大立ち回りをする姿を見たことで、変異(パンドラ)の力を肌で感じたことで、彼らはカイルに期待をしている。



「惹きつけられる、ねぇ」


「なんにしても、仲間が増えるのはいいことだよ。

それからサテラ、シュードラの街に使いを……パックに直接行ってくれるように伝えて?」



 口調は幼いままだが、スミレの瞳に鋭い光が宿る。

シュードラの街、カイルたちが現在拠点としている街だ。

そのことはサテラも知っている。

そこに人を送るということはつまり……



「決戦の日取りを、聞いてくればいいのね」



 決起の日を……帝国を潰す日取りを聞くということだ。

反乱軍カルミアの方は何時でもいける。

後は……カイルたちだけ。


 腐りきった帝国を、淀みきったこの国を終わらせる。


 平和な、誰もが安心して暮らせる国に戻すのだ。

スミレはサテラの問いに肯定の返事を返す。

サテラはその答えを聞くと、すぐに部屋を出て行った。

パックのところに向かったのだ。



「……ふぅ」



 スミレは浅くため息を吐いて背もたれに寄りかかる。

首を少し上に傾け、目線は窓に。


 少し前まで、窓の外には灰色の空しか写らなかった。

逃れられない実験場の鋼鉄の檻が、ただ広がるだけだった。

その光景は、今でもありありと思いだせる。

だが、今は違う。

青空と、白い浮雲が空を揺蕩う様子が見て取れる。

もう二度と見ることは叶わないと、半ば諦めていた景色だ。



「……ユナさん」



 同時に思い出すのは、一人の少女。

スミレと同じ闇属性をその身に宿し、スミレと同じ苦悩を抱えた少女の姿。



――いや、私とあの人は違う。

ユナさんは……私なんかよりもずっと重いものを、私よりもずっと長く、持ち続けてたんだ。



 国とは、どれほど重いものなのか。

スミレには想像することさえできない。

そんなものを独りで、八年も抱え込むなんて考えられない。

自分なら、きっと挫けてしまうだろう。

その重さと責務に耐えかねて、命を投げ出してしまうだろう。

自分が……そうしようとしたように。



「でも、もう……大丈夫。

どんなに重くても、どんなに辛くても……独りじゃないから。

支えてくれる人たちがいるから。

一緒になって背負ってくれる人たちがいるから 。


 私たち(・・)には素敵な仲間がたくさんいるから」



 だから、大丈夫。

スミレの中でずっと引っかかっていたモヤモヤとした想いは消えていた。


 実験場で、ユナには頼れる仲間がいないのかと勘ぐってしまった。

実際その時はまだユナの苦悩はユナだけのもので、カイルたちはその苦悩を背負ってやれなかった。


 けれど、今はそうではない。


 ユナはもう……独りじゃない。

そう確信が持てたスミレは、窓の外にそっと笑顔を向けるのだった。


 

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