第十一話―かくれんぼをしよう
「おーぃ、ユナー? 朝だぞー?」
――むにぅ……まだ眠いですぅ……もう少し寝かせて下さいよぉ……。
「ええんちゃう? もう少し寝かせたっても」
そうですよぉ。もうちょっと寝かせて下さい……今とっても気持ちいいんですからぁ……。
「こ、このユナちゃんの寝顔……たまらんっ……!!!」
「ハッ! ダラダラと鼻血たらしやがって。みっともねぇなぁロリコンジジイ」
「なぁー、ユナー、いい加減起きようぜー?」
いーやーでーすぅー……まだ寝るんですぅー……――
状況を説明しよう。結局昨日のユナは眠るまで暴走? を続け、カイルも一緒にベッドで寝た。
ちなみに普段は二つしかないベットをユナとゲンスイしか使うことを許されていない。ユナにベットを使わせることについて異論は出なかったが、残りの一つのベッドを誰が使うかで揉めたのだ。
大変揉めたのだ。
喧嘩にまで発展し、勝者が使用権を得るいうことになった。結果、ゲンスイが権利を勝ち取り、他の三人は床で寝ることになった。そんなこんなでベッドは二人の独占だったのだが、昨日に限っていうとユナがカイルの翼を離そうとしなかったため、ユナとカイルが同じベットで寝ることになった。
現在の時刻は朝。カイルの翼にしがみついて離れようとしないユナを起こしている段階である。
「ハッ! つーかカイルが翼消せば起きるんじゃないか?」
「あぁ!! その手があったか!」
「なるほどっ! お前頭ええなぁ!」
「はぁはぁ……ユナちゃん……ええのう、かわええのう」
翼が赤い光を放ち、分解されるように空中に消えていく。ユナの手が空を掴み、ベットに落ちる。無くなった天然羽毛枕を探そうとしてユナはむずむずと動いている。それで起きると思われたが……
「ふ………ふぁああぁぁあああん!!!!」
ユナの瞳から大粒の涙が流れ落ち、人目を憚ることなく大声で泣き始めた。身体を布団に押し付け、子供のように泣く。
子供とは大人には理解できない事情で泣く生き物だ。お菓子がないから、泥にはまってしまったから大好きなおもちゃがなくなってしまったから、そんな理由で子供は泣く。子供の頃に理解できていた涙のワケも、大人になるにつれて分からなくなる。それはひとえに純粋さが失われていくからである。
お菓子がないなら我慢する。泥にはまったら洗濯する。おもちゃがなくなったら買えばいい。そんな考え方が根付いていく。
今のユナは子供と同じである。
純粋な心をもって、純粋な理由で泣く。
枕兼布団代わりにしていた翼がなくなったから。
そして、純粋さを失った者たちは涙の理由に気づけない。
「うわぁあ!! 泣き始めた! どどどどうしたらいいっ!?」
「落ち着かんかい! こういう時は笑わせるのが一番や! ゲンスイっ!」
「うむっ!!」
目と目で会話する二人、こういう事態に慣れているのだろうか。子供のように泣く子供をあやすという事態に……。
いや、ゲンスイがいるのだ。多くは語らずとも分かるだろう。きっとそんな事態が数多くあったのだ。
「「耳ブランコ!!」」
ジャックがゲンスイの耳を両手で掴みぶら下がる。そして二人ともそのままの姿勢で変顔を決める。目尻を大きく下げ、それに比例するように広角を上げ、アゴを突きだし、舌を出す。
見ていてとても気持ち悪い図が完成した。
これで誰が笑うと言うのか。泣き叫ぶの間違いではないのか。ジャックとゲンスイが今までどんな子供を相手にしていたのか、疑問に思う光景である。
「ふわああぁああああ!!!!!」
ユナは二人をチラリとも見ずに泣き続けた。無視される形となった二人は寒い空気を纏って部屋の隅でうずくまる。
何があかんかったんやろうなぁ、さてのう……。
などという力無い言葉が部屋の隅から聞こえてくる。
「何やってんだよあの二人!」
「クッソ! 使えねぇなぁ!」
「どーすりゃいいんだよリュウセイ!」
「知るかっ! 子守りなんてしたことねぇよ!」
「と、とりあえずなんかしようぜ!」
「なんかって何すんだよ!」
「つ、翼だ!! もっかい翼で機嫌をとるんだ!!」
「ハッ! しゃーねぇな!」
リュウセイの背中が黄色く輝くと、その背中から竜の如き翼が生えてくる。カイルのものとは全く別の翼だ。全体が鱗で包まれている翼はとても無骨で、固そうだ。触り心地はイマイチのように見える。
「おらっ! 思う存分触りやがれっ!」
リュウセイがそう言ってユナに翼を押し付けた瞬間……
「やぁぁあああああ!!!!」
「グハッ!!」
ユナが思いっきり嫌がり、リュウセイの腹にグーパンチを繰り出す。当たりどころが悪かったのか、ユナのパンチが強かったのか定かではないが、リュウセイの意識は刈り取られ、床に倒れ伏した。
「えぇぇえ!!!? ちょっ! これどうすりゃいんだよおおお!!!」
カイルがユナに恐る恐る翼を触らせるのにはもう少し時間がかかったのだった……。
――――――――――――――――――――
「かくれんぼをするぞい」
「ぁあ? どういうこった?」
結局、あの騒動は全員の心の中にしまっておくことになった。当のユナに大泣きした記憶が無かったためだ。ユナはカイルの翼にしがみついて寝てしまった羞恥心しか感じておらず、何やら顔を赤らめていた。この上さらに羞恥を重ねさせないのが優しさというもの。
忘れてしまうのが最善なのだ。お互いに。
「カイル君の魔力探知の訓練の一環じゃよ。ある程度は感じられるようになっておるから、今度は実践で使えるレベルに持っていかねばならん」
「俺んときはそんなことしなかったじゃねぇか」
「二人でかくれんぼは恥ずかしいじゃろう?」
それ以前に、いい年こいた大人がかくれんぼをすること事態が恥ずかしいとはゲンスイは思っていない。
「んーで、何やんの? ワイは魔具作んのにリュウセイの戦い方を知っときたいねんけど? カイルのと違って刀タイプの魔具は個人の戦い方とかに合わせたやつを作らなあかんからな」
「俺の魔具作ってんのか?」
「あれ? ゆーてなかったか?」
「初耳だぞ?」
「そーやったっけ?」
「ハッ! ったく、しょーがねーやつだな。この魔具バカ」
「それは否定せぇへんな!」
むしろ誉め言葉、とばかりにジャックは嬉しそうである。
「では、そろそろ始めるかのぅ」
そんなあれこれを全て無視して、ゲンスイは本題に戻す。
「俺は何をすればいいんだ?」
「我ら四人がこのカルト山のどこかに隠れる。お主はそれを見つけるだけでよい」
「へ? そんだけ?」
「あぁ、それだけじゃ。では起きたときからスタートしてよいぞ?」
「それってどういう……」
コツン、とゲンスイが刀の柄でカイルの額を小突く。するとカイルはいきなり地面へと倒れこんだ。
「えっ!? カイルさんっ!?」
「大丈夫や、これはただ寝てるだけ。その刀--〝幻海〟の【能力】によってな」
「【能力】……ですか?」
「【幻夢】というのじゃよユナちゃん。強烈な幻覚を見せることが出来、油断さえあれば、今のように人を眠らせることも可能なんじゃ」
「ハッ! それで俺らは今から隠れたらいいのか?」
「かまわんが……それについて言っておくことがある」
ゲンスイが意地の悪そうな顔を浮かべている。何かを企んでいることも隠そうとしていない、そんな顔だ。
「――――――というわけじゃ」
「へぇ……ゲンスイもたまにはおもろいこと考えるやん」
「ハッ! 意外とおもしろそーだなぁ」
「大丈夫なんですか……それ?」
こうしてカイルの魔力探知を鍛えるかくれんぼが幕を開けた……。
――――――――――――――――――――
「っは!!!」
――なんだ? この目の覚め方? 目覚めが良いってもんじゃねぇな……。なんていうか準備が出来たから無理矢理起こされたみたいな………準備?
「そーいや、かくれんぼとか言ってたな」
成る程、隠れる時間が終わったから起こされたのか……。なんて無茶苦茶な。いや、もういいや、理不尽は今に始まったことじゃない。それよりも……
「探さないといけないんだよなぁ」
もう皆隠れてるみたいだし。それにユナの姿もないってことはアイツも隠れてんのか? まぁ、いーや、全員見つけりゃいいんだろ? 魔力探知だよな……
「意識を集中して……身体の外の魔力を感じとる……」
これが基本だ。今までも何となくは出来てたんだけど、意識してやろうとすると難しいんだよな。っと、早速なんか見つけたぞ……これは……リュウセイか。
魔力で人を判別するときはまず属性を感じ取らなきゃいけない。
その辺は人それぞれの感受性が試されるぞい、ってゲンスイが言ってた。リュウセイの雷の魔力は………なんか肌がピリピリすんだよなぁ。静電気みたいな。まぁ、今はどうでもいいや。一人目を見つけたんだ。それもリュウセイ。
「待ってろよ! リュウセイっ!!」
ソッコーで捕まえてやる! と、意気込んで、俺は空に向かって羽ばたいた。
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「ふぅっ、到着っ!!」
さて、この辺りのハズなんだけど……もっかい探ってみるか? 集中……集中……集中………!
見つけたっ! あの木の後ろだっ!
「リュウセイみーつけ……た?」
あれ? いない? 確かに魔力を感じたのに……
「ハッ! ほんとバカだなお前、ただ魔力を探知するだけのかくれんぼだと思ったのか?」
ん? リュウセイの声?
「ここだぜ、マヌケ!」
「いでぇっ!!」
なんっだ……!? 今思いっきり頭を叩かれたような……? でもリュウセイがいない? なんなんだよこれっ!!
「【擬態】っつってな、回りの風景に擬態することが出来る魔具をジャックから借りてきた。
さぁ、俺からの試験だ。姿が見えねぇ相手を魔力探知で探って一発入れろ、それが出来たら俺を見つけられたことになるし、【擬態】も解けるようになってる」
「ちょっ、ちょっと待てよ!? 試験ってなんだよ? これかくれんぼじゃねぇの!?」
「このかくれんぼで四人全員見つけられたらクリアだ。見つけられる条件は人それぞれだ。ま、せいぜい頑張れよバカイルっ!!
七星流・壱の型……」
「おいっ待てっ!」
「一ツ星っ!!」
っぶねぇ!? ちょっとでも反応が遅れてたら当たってたぞ! あのバカ本気かよ。
しかもこんなのが、あと三回もあんのか。
「でもま、悪くはないか!」
「ハッ! そういう考え方は俺とそっくりだな胸くそワリィ!」
「それは、こっちのセリフだよっ!!」
一ツ星の発射点に駆け込みつつ、フェルプスを大きくして、戦闘体勢に入る。ここにリュウセイがいるハズだっ!!
「そんなとこにゃ、もういねぇぞっ!」
「ぐあっ!」
一発入った……っつう~~っ!! お、落ち着け……魔力探知が出来りゃすぐ見つけられるさ。集中だ、集中……
「隙だらけだバカイル!!」
「うっ!!!」
耐えろ俺っ!! 一発入れりゃ合格なんだ。集中を切らすな……。
「七星流・弐の型・双星」
あぁ、たしかこの技は変な切れ方をする技だったな……どういう仕組みなん……っ!?
俺は慌ててその場から飛び退く、さっきまで立っていた場所を見ると地面が十文字に切られていた。
「そういうことか……」
刀の斬撃とは別に魔力を薄く伸ばしたものを飛ばしているんだ。その魔力が不可思議な切れ方のトリックってわけだ。成る程。
「双星を見切ったくらいで勝った気になるなよ?
七星流は攻撃に特化した七つの型と護りに特化した七つの型で成り立ってる。まだまだ、見せてない型はあるんだからよぉ!!」
何処からか声が聞こえてくる。あと三つも試験ってのがあるなら、リュウセイで時間を食うのもアレだな。場所はぼんやり分かってる。一気に行くか。
「コロナ!!」
右手のフェルプスに炎を集中させる。炎が大きく膨れ上がり、密度も高くなり、周りの温度も上がってきた。俺らしい、一発が重い大技だ。前回リュウセイと引き分けたこの技はジャックにコロナと名付けられた。
だけど、今使ってるコロナはあのときのコロナとは少し違う。出会った頃ジャックが言ってた、多人数相手の為の技を俺なりに考えた。そんで出来たのがこれだっ!!
「ショット!!」
右手を前へ突き出して、纏っていた炎を前方へと撒き散らす。
散弾銃っていう銃をイメージして作ったのがこの技だ。圧縮した魔法を細かい弾へと分解して発射する。広範囲を攻撃出来て、射程距離もクリスタルバレット程ではないけど、それなりにある大体リュウセイのいる当たりに撃ったから、一発くらい……
「うわっ、あっち!!」
当たったみたいだな。これで試験もクリアか? 姿も見えるようになってるし。ほんと魔具ってスゲェのな。
「おいこらテメェ! ちゃんと魔力探知で探りながら攻撃しやがれっ!!! 何のための試験だと思ってんだバカイル!!」
「一発当てたらクリアっつったのはリュウセイじゃねぇか!!」
「なんだと!?」
「なんだよ!?」
「「やんのかてめぇっ!!!」」
もうちょっとだけ試験? してから他の奴等を探すことにした。見つけたんだからクリアだろ、クリア。
第一の試験クリアだぜっ!!
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「ってぇ~~っ……リュウセイのヤロー本気で切りかかって来やがって……」
それに乗った俺も悪いんだろうけどさ。まぁ、もういいや、次だ。次。早くこのかくれんぼを終わらせねぇと。
「ん? この魔力は……」
ジャックだ。案外簡単に見つかったぞ。
えーっと……この洞窟からか? 洞窟ってかくれんぼっぽいなぁ。さっさと見つけよっと。
その時……俺はジャックだからって、どこか甘く見てたんだ。普段のだらしのないアイツだから、あっという間に試験を終わらせられる。そんな風に思っていたんだ……。
「なんっだよこれぇえ!!!!」
洞窟内は地獄だった。どういうことかっていうと……洞窟の中はトラップでいっぱいなんだ。
一歩歩けば、石が飛んでくる。
二歩歩けば、岩が降ってくる。
三歩歩けば、雷が落ちる。
かといって歩かないと水をぶっかけられる……。悪意の塊みたいな洞窟だぜ。
しかもアイツ俺の心を読んでるみたいにトラップを張ってるんだよ。休憩しようと思って座った岩には魔具が仕込んであって爆発して、その爆発で飛んでいった先には泥水、中々抜け出せなくて苦労してたら、上から岩なだれ。
まだまだこんなもんは序の口だけどな。何かわかんねぇけどすげぇ臭いモンを顔面に叩きつけられたり、触れたところが痒くなる薬みたいなもんを吹きかけられたり、塩水の中に入れられて傷口をいためつけられたり、ネバネバする蜘蛛の糸みたいなもんで動きを邪魔されたり……まぁ他にも色々だな……。
この洞窟内にジャックがいるのは分かるんだけど……アイツ……多分トラップを仕掛けながら洞窟内をウロウロしてやがる……!!
『ポチッ』。うわっ! やべぇ、何か踏ん……
「うぉわぁあ!!」
足元で爆発、そして横方向にすっ飛ばされる。対してダメージはないけど、このパターンは飛ばされた先に何かまたトラップがあるパターンだ。
そんなことを考えながら飛ばされた先は坂だった。
「ぅわあぁぁぁぁ!!」
受け身を取ろうとしたら思いの外勢いがあって、それを殺しきれず、物凄い勢いで坂を転がり落ちていく。それだけならまだいい方だ。地面に初めて着いたとき、ポチッていう音が聞こえた気がしたんだけど……。
うわっなんだっ!? 冷たっ! 水かけられたっ!
転がりながら周りをみると俺と一緒に魔具が転がっていた。球状にされている魔具はとてもよく転がりそうだ。しかもそれは1つじゃ無かった。二十個くらいの魔具が一斉に転がっている。嫌な予感しかしない。
「あっつ!!」
今度は熱湯かよ!! いや、それだけじゃない、他の魔具からも色々飛んでくる--!
そこでチラッと周りを確認して、目を開けなければ良かったと一秒後の俺は後悔した。
「目が……目がぁぁあ!!!!」
何か目に吹き付けられたぁっ!!! うぉおお、何も見えねぇっ!! いてっ! 何か飛んでくるっ。でも見えねぇっ!
うわっ! くさっ! さっきのやつかぁあ!!!
転がる魔具の攻撃を全部受けて、最終的にボロ雑巾みたいにされた。
「ぐあっ!!」
と、止まった……。ここは何処だ?もうやだこの洞窟。目が見えない。なんかブーンって音がするな……
……ブーン?
「いってぇ!! 刺されたっ!!」
どうやらここは蜂……かは見えないから分からないがそれに近いものの住みからしい。
そうして俺は蜂の猛攻にめっためたにされた。
「なんなんだよこの洞窟はっ!!」
なんとか蜂から逃げて、今日何度目か分からない苛立ちを壁にぶつけた。ポチって音がした気がする……。え?
「おい……嘘だろ?」
顔から血の気が引いていく。いやいや、でもよく考えろ?
今まで踏んだ地面からもポチっていう音は何回も聞こえた。その時はすぐにジャックの悪意トラップが発動してひどい目にあったじゃないか。今はどうだ? うん、大丈夫だ。何も起こってない。
ってことはこれは不発なんだな。いや、ジャックのことだから、この音で俺をビビらせるのが目的かも知れないな………。全くアイツはホントに性格がひんまがって………ゴォォォォォ、ん? なんだ? 変な音が……ゴォォオオオ、やっぱ聞こえゴォオオオオオ!!!
イヤイヤ……イヤイヤイヤイヤ……おかしいだろこれは。普通こんなもん仕掛けねぇよ……
目の前に迫ってくるのは土石流、洞窟の天井ギリギリまで水位をあげているそれは物凄い勢いで俺に向かってきている。砂が混ざって濁った色をしている土石流に呑まれたら……
「って考えてる間にうわぁぁあぁあぁあ!!」
身体が色んな方向に回転して、もうどっちが上だか分かんねぇ……砂が目とか鼻とか耳とかに容赦なく入ってきやがる。
息が苦しい。いつまで流されてりゃいいんだ……
「ぶべばっ!!」
ぐぁぁぁあ……! 壁にぶつかった……ッ。頭が……ぐるぐると回転する頭じゃ何も考えれねぇ……ぐるぐる……ぐるぐる……ぐるぐる……ほんとにいつまで流されりゃいいんだ……
そんな考えを何回繰り返した時だったか、不意に空気が肺に流れ込んできた。
「ぷはぁっ!! ハァーっ……ハァーっ……ハァーっ!」
し、死ぬかと思った……服の中とかに砂が入って気持ちわりー……
「ったく……こんな洞窟で俺にどうしろっていうんだよ……」
思わず愚痴る。この試験、本当に何の為にやってんのか分かんなかった。ジャックが俺を苛めたいだけだったんじゃないか、とさえ思えてくるぜ……。
「お前っ! なんで土石流発動させとんねん!! 」
不意に横から声が聞こえた。横を見ると俺と同じくらい……もしくは俺よりももっと酷い状態のジャックがいた。
「知るかよっ! お前が仕掛けたんだろ!?」
「あれは発動せえへん前提で仕掛けたんやっ! その魔具を殴るくらいせえへんと発動せえへん仕組みになっとったハズやぞ!!」
「殴ったから発動したんじゃねえかっ!」
「なんで殴っとんねんんんん!」
思わず言い返してしまう。っとそうだった。ジャックを見つけたんなら言うことがあったよな……!!
「ジャック、みーつけた!!」
「しまったぁぁあ! 見つかってもうたぁぁあ!!」
第二の試験、難なく(?)クリアだぜっ!
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「あ、あと二人……」
精神的にも肉体的にも疲れたぜ……。ちゃんと試験になってるのかさえ微妙だし。愚痴ってもしょうがねーけどな。魔力探知魔力探知ーっと……………
おい、ゲンスイ……これ隠れる気ねーだろ。魔力駄々漏れじゃねーか。二人見つけたからってことなのか?
まー、難しいことは考えてもわかんねーんだ。とりあえず行ってみるか。
この辺りだな。霧がものスゲー出てる。ゲンスイの魔法、霞初月だな。
もう一回探知してみるか。集中……えーっと……ゲンスイの魔力がー……
一つ、二つ、三つ、四つ……合計八つもあるぜ!
「って、えぇええええっ!!」
「フッフッフ、気付いたか」
「なんで、ゲンスイが八人もいるんだよ!」
霧の中からゲンスイが出てくる。勿論八人だ。
刀を持ってるゲンスイ
双剣を持ってるゲンスイ
忍者刀を持ってるゲンスイ
ナイフを持ってるゲンスイ
曲刀を持ってるゲンスイ
大剣を持ってるゲンスイ
何も持ってないゲンスイ
それぞれが霧の中から現れた。
「七人は魔法で作り上げた分身じゃ。どれが本物か当てたら試験はクリアじゃ」
「……なーんか、今までの試験の中で一番まともっぽいな」
流石はゲンスイってことか、そーゆーとこはしっかりしてんだな。
「ユナちゃんのあんな顔を独占するカイル君など……少々痛め付けた所で問題はないかのう……」
前言撤回、やっぱこのじいさん駄目だわ。
「さぁ、行くぞっ!!」
八人のゲンスイが襲いかかってくる。これ結構本気じゃねーのかっ!?
「くそっ! コロナ・ショット!!」
炎を前に見えるゲンスイに浴びせかけるけど、一つも当たる気がしねぇっ!!
「七星流やワシの編み出した数々の流派の技をその身に受けるがよいわっ!!」
七星流ってゲンスイが作った流派なのか。ってそんなことは今はどうだっていいんだ! いや、まてよ……勝利条件は勝つことじゃないじゃないか。ゲンスイを見つけることだったじゃねぇか。本物を見つければ俺の勝ちだ。よーし……
っ! 忍者刀を持ってるゲンスイ! あれの魔力が他の奴と少しだけ違う!!
「ゲンスイみーつけ……」
「言わせぬっ!!」
「だっ……!」
素手のゲンスイに鳩尾を攻撃される。息が止まって、言葉を出せない……!
まさか……こいつは……!!?
「んー、どーしたのじゃ? カイル君、言いたいことがあるならはっきり言わんか」
「に……忍者と」
「そぉいっ!」
「う〝っ……」
俺に喋らせる気がまるでねぇっ!!
「さぁ、まだまだ試験は始まったばかりじゃぞ!」
その後のことはあまりよく覚えていない……喋ろうとする度に、呼吸器官に的確にダメージを与えられて、地獄のような時間だった。
そうして、目が覚めた時には、もう洞窟だった。
第三の試験、クリアならず。納得いかねぇっ!!
あれ? ユナは……?
こしあん「ユナは結局なにやってたの?」
ユナ「わざとらしい聞き方ですね。あなたが知らないはずがないでしょう?」
こしあん「いやー、それでもこういう聞き方の方が進みやすいかなー、って思ってさ」
ユナ「ずっと隠れてましたよ。わたしの場合は試験とか関係なく、本当にかくれんぼだったので、闇属性と今までの経験全て使って隠れてました。ちなみに洞窟にいたんですよ?最後は料理とかしてました」