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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第四章〜飛翔する若鳥〜
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第百五話ー記憶喪失のリュウセイと悪魔族のトイ〜

 





「おい、ジャック」


「なんや? リュウセイ」



 ユナが帰ってから、数日。カイルたちは休息と修行の日々を送っていた。来たる帝国との決戦の日に備え、己の力を高めんとして。

正直、あまり変化のないーーそんな通常運行な日常を送っていたある日、地下室で魔具を製作するジャックにリュウセイが話し掛ける。



「お前にゃ、話しとこうと思ってな。俺が兄貴に飛ばされてからのことをよ」


「ああ? お前確かシャイレンドラの街におったんちゃうんかい」


「兄貴に見つかったのはシャイレンドラだが、もう一つあるんだよ」


「もう一つ?」



 ジャックは魔具を作っていた手を止めて、顔を上げる。



「もう一つあるってなんやねん?」


「ハッ! まぁ、聞けよ。俺が吹き飛ばされてから――」



 リュウセイは語り始める。

これは、カイルがユナを助けに行っていた裏側で起こっていた話。


 水面下で進んでいた物語。


 誰も知らなかった、ある少年の物語――。





――――――――――――――――――――





 廃村、とそう表現するのが最も適切だろう。

まともに建っている家は一つもなく、台風でも通り過ぎた後のように、半ば倒壊寸前の家があるばかり。

ぐちゃぐちゃと、村全体がかき乱されたようだ。

しかも、その状態になってから随分と経っていると見える。

折れた材木は腐敗を始め、青緑の苔類が家屋を覆っている。


 この村は、周囲四方を山々に囲まれていた。

いや、山脈と山脈の間に奇跡的に生まれた平坦な土地に村を作った、と言うのが正しいだろう。

あるはずのない場所にある村。

世間から隔離された……隠れ里。


 かつては……そんな村だった。

が、現在の住民はネズミやタヌキなどの小動物ばかり。

人間は……一人もいない。



「あ……っか……」



 彼、リュウセイを除いては。

家を二つ貫通し、リュウセイは道のど真ん中で大の字に寝転がっていた。

その割に、彼の身体には落下の衝撃で受けた怪我が少ない。

それはシュウのお陰だった。

ヴァジュラとの戦闘中、リュウセイはシュウの風魔法によって吹き飛ばされた。

素でハクシャクと比肩し得るシュウの魔力で、風に関して起こせないことはない。

キューケンホッフルの花園から遥か遠くのこの廃村にリュウセイを飛ばし、落下の衝撃からリュウセイを守るくらい、彼にとっては造作もないことなのだ。


 しかし、それ以前にリュウセイの身体はボロボロだった。

ヴァジュラとの戦闘。暴走してのカイルとの戦闘。

【再生】を持っていないリュウセイは、ダメージを蓄積するばかり。

全身隈なくズタボロな状態である。



「ここは……どこだ……?」



 リュウセイは全身の苦痛に耐えながら、起き上がる。

少しでも身体に力を入れるという行為はリュウセイの身体に鞭打つということに等しい。

それほどまでに、彼の身体は損傷していた。



「んで……俺は、誰だ……?」



 故に、どこかで頭を強く打っていたとしても、何の不思議もないかもしれない。

痛みに顔を歪めつつも、きょとんとした表情で、リュウセイは自分の手を見つめる。


 リュウセイ、人生二度目の記憶喪失である。








――――――――――――――――――――





 一度目の記憶喪失は魔法による人為的なものであった。

しかし、二度目の記憶喪失はどうか。

これは半分物理的な衝撃によるものである。

何故、半分であるのか。

それは一度目の記憶喪失で失った記憶がまだ戻りきっていないからだ。


 リュウセイやマリン、カイルの記憶は多くの錠で封印されていたようなものだ。

全ての錠を解ききらなければ、完全に魔法が解けることはない。

カイルも出会って解けた一つ目の錠も、マリンと出会って解けた二つ目の錠も、解けたワケで消えたワケではない。

まだ、シュウに関する記憶の封印が残っているのだ。

カイルだけは、【再生】の【能力】で全ての記憶を取り戻しているが。


 

「くっそ……何にも思い出せねぇ……。

イテェし、腹も減ったし……ここどこだよ……チクショウ」



 そして記憶の封印魔法は言うまでもなく複雑な魔法だ。

ちょっとのミスや些細な手違いで全ての記憶が封印されてしまう事態に陥ることだって十分に起こり得る。

今のリュウセイが、その状態だ。


 記憶封印魔法の残滓が残った状態で強く頭を打ち、全ての記憶にロックがかかってしまった、というワケなのである。



「見た感じ、ここにゃあ誰もいねぇみてぇだし。俺はなんでまたこんなところにいんだよ……」



 リュウセイは傷付いた身体を引き摺りながら、廃村を徘徊していた。

それはさながら恨みを持った亡霊が呪う相手を探し回っているようで、いささか滑稽ではあった。



「ハッ! んなこと考えたってしょーがねーな」



 記憶は失っても消えない口癖。

口の悪さはどうあっても変わらないようだ。



「まずはこの怪我を……いや、先に食うもん見つけるのが先決だな。食べねぇことには治るもんも治らねぇ。幸運なことに、寝床は--」



 リュウセイは今にも倒壊しそうな家々の中でも、まだ原型を保っている部類の家に入る。ホコリまみれで、蜘蛛の巣が張りまくっているが、一応ベッドらしきものの存在は確認できた。



「………まぁ、あるっちゃある」



 少々げんなりしつつ、リュウセイは外に出る。

ぎぃいい、という古びた洋館の扉のような音が出たが、リュウセイは気にしないことにした。

一応家の形は保っているのだ。

いくらなんでもそう簡単に崩れはしないだろう。

そう楽観視していると、



「アハ☆ どうしてキミがこんナ所にいるのカナ?」



 高い、子供の声が背後から浴びせかけられた。

その声が耳に届いた瞬間、全身を走る痛みを堪えながらリュウセイは一足飛びで前方に跳躍。

背後の気配から距離を取り、翼を出し、振り向き、左腰の刀に手を置く。

記憶はなくとも、身体が戦闘を覚えている。

全身を打つ心臓の拍動が、目の前の人物の危険度を伝える。



「アー。そう言えバ、あのシュウって有翼族二吹き飛ばされてタネ。そっカ……こンな所にまデ飛ばされてたノカ……」



 目の前……先ほどリュウセイが入っていた家屋の屋根らしき部分に腰掛けるその人物は……まだ年端もいかぬ少年だった。


 だが、ただの少年ではない。色素が全て抜け落ちてしまったかのような一点の曇りもない白髪。

獰猛な獣のような赤い瞳に、半月型に歪んだ口元。

どう見ても扱えそうにない、少年の体躯よりも遥かに大きな長刀。


 その少年は帝国三強の一人……


 帝国軍第一部隊長、“神童”トイフェル!



 どうして彼がこのような廃村にいるのかは定かではない。

しかし、現実に彼はそこに座っている。

ぷらんぷらんと足を動かして、興味深そうにリュウセイを見つめている。



「デモ……丁度良かっタヨ。

ボクはちょっとだけイライラしててネ、相手をしてくれル人が欲しかったンダ……」



 力を抜いた自然体のまま、トイフェルはゆっくりと立ち上がる。

そのまま彼はンーっ、と声を出して伸びをする。

油断しているように見えるが、リュウセイは一歩たりとも動けない。

その動作に、油断や隙など欠片もないことが分かっているからだ。


 伸びをしたトイフェルは笑みを浮かべたまま、腰の長刀――ソロモンに手を掛けて、



「サァ、遊ぼうカ!」



 リュウセイに向かって跳躍した!

トイフェルの跳躍の衝撃で廃屋と化していた家は崩落し、ただの木屑に成り果てる。

リュウセイの斜め上から飛来するトイフェルは、そのまま袈裟懸けに刀を振り下ろした。



「七星流・護りの型・其の壱・柳星」



 振り下ろされた刀の軌道に合わせ、リュウセイはそっと刀の腹を当て、その斬撃を受け流す。

流水の動き、水の流れのようにしなやかに。

身体への負担を最小限に抑えつつ、ソロモンの間合いの内側に入り込んだリュウセイ。


 その位置取りは、リュウセイの刀――小竜景光の間合い。

刀の受け流したことで脇構えの体勢をとっていたリュウセイは、刀の刃先をトイフェルへと向け、



「っるぁ!!」



 トイフェルに向かって一息で振り抜く!



「ケルタ!」



 バリッ! という雷音。

ソロモンから発生し、トイフェルの身体を流れる雷は神経に作用し、トイフェルに超常的な反射神経を与える。


 ソロモンを伝い、滑るように自身に向かってくる小竜景光。

それを、上体を背後に倒すことによってトイフェルは回避する。

薄皮一枚分、トイフェルの鼻先を小竜景光が通り抜けていく。

そのまま下半身を上にあげ、トイフェルは空中で上下反転の状態となる。


 元々の跳躍の勢いは消えておらず、リュウセイの真横を、トイフェルは通り抜けて行く。


 目線と目線がぶつかる。

お互いが完全に刀を振り抜いた故の硬直の時間。

お互いが刀を振れない空白の時間。

その時間に、二人は目線を交わす。

リュウセイの顔の横に、トイフェルの顔。


 上下を入れ替えるという曲芸のような真似をしたトイフェルは笑みを崩していなかった。

やっていることは紛うこと無き殺し合い。

しかし、リュウセイは思う。

この目の前の白いガキは、きっと遊び気分なんだろう、と。俺との斬り合いも、笑ってこなせる程度の遊びなのだろう、と。


 それは心底イラっとした。

どうしてなのかは分からないが、舐められているのは腹が立つ。


 だから――、



「っだらぁ!!」


「アイタッ!?」



 思いっきり、頭突きをしてやった。

刀を振り抜いた衝撃で筋が伸び、筋肉痛のような痛みに苛まれていたが、関係ない。痛みを堪えてでも、そのニヤけ面を違う表情にしてやりたかったのだ。

結果は上々。リュウセイはトイフェルの額をピンポイントで頭突いた。痛みに顔を歪めるトイフェルの顔を拝むことに成功した。

トイフェルは頭突きの反動を器用に利用し、反転、空中で何回転かしてのち、着地。

片手でソロモンを握り、もう片方で額を押さえたトイフェルはリュウセイを見やる。



「イタタ……頭突きなんてやらレタのは初めてダヨ……。そんナ子供の喧嘩みたイナ攻撃、今まで誰モやってこなかっタからネ」


「ハッ! テメェはっ、ガキだろうが、よっ!」



 トイフェルはそう軽口を叩ける余裕があるのに対し、リュウセイは違った。

彼の身体はトイフェルとの戦い以前にボロボロなのだ。

今もまともに打ち合えたのが奇跡と言っていい。

そんな身体で後先を顧みない頭突き。

ダメージとしてはトイフェルよりもリュウセイの方が大きかった。


 だが、リュウセイはそんなことよりも……



――なんだ……? この感覚……っ。

何も覚えてねぇってのに、身体が勝手に動きやがる。

俺の知らねぇ言葉が、俺の口から出てきやがる。

七星流? んだよ……そりゃ?

知らねーっての。けど……、



「何か、思い出せそうなんだよなぁ……っ!」



 リュウセイの身体に刻み込まれた戦闘の経験。

叩き込まれた技術の経験。

それは記憶が消されたくらいで消えるようなものではなかった。

刀を振るたびに、戦闘を経るたびに、記憶の底がチリチリと刺激されていく。

その感覚を忘れないように、その刺激を引き出すように、リュウセイは身体の痛みを無視して己が身体の赴くままに行動する。


 リュウセイは左の腰骨の前部に刀を持ってきて、構える。

左半身で、腰を低く、切っ先を相手に向けた突撃の構え。

相手から攻撃され、それに反撃するという形で受動的に技を出すのではない。

戦いの差中、蘇ってくる感覚に従ってリュウセイは技を放つ!



「七星流・陸の型・天満星!!!!」



 天満星は、超超高速の突きの連撃だ。

まるで夜空を満天の星が埋め尽くすように、視界の全てが突きで埋まる。

纏わせた雷が尾を引き、空中に帯電。

まるで雷の壁が迫ってきているのかと錯覚するほどの突きの嵐。

それが陸の型・天満星。



「その技ハ……一度見てルヨ!」



 だが、トイフェルはこの技を見たことがある。

正確には、ゲンスイの見せた幻の中で、だが。


 幻の中でとは言え、かつてトイフェルはこの技を刀も抜かずに対処することができた。

故に今回もトイフェルは余裕の表情で構える……が、



「一天!!!!」


「ッ! サンクトゥス!!!」



 この天満星は、ただの天満星ではない。

天満星・一天。ゲンスイから学んだ型にリュウセイが改良を加えたものだ。その上、リュウセイ自身の技量もあの頃のものとは比べものにならない。空間を埋める突きが、ただ一点……トイフェルの喉元に集約される。まるで蛇が獲物の首筋に食らいこうとするように、鋭い突きがトイフェルの喉元に向かい、放たれる。


 しかし、この程度でやられるようでは第一部隊長など務まらない。こんな小さな子供だとしても、人を食ったようなフザけた態度をとっていても。

トイフェルは帝国三強の……否!


 帝王を除いて最強の人物であるのだ!


 リュウセイの刀を先回りするように展開する雷の盾。その盾を貫かんとする帯電した刀。雷と雷。二つの稲妻がぶつかり、弾け、閃光が周囲を埋める。


 視界が一瞬、白に埋め尽くされる。何も見ることのできない一瞬の白色。その一瞬の世界の中で、トイフェルはソロモンを納刀する。柄頭をやや下に、鞘先を上に……脱力。


 閃光が引き始め、視界がぼやけながらも戻ってきた頃。リュウセイの視界に映ってきたのは、抜刀術の構えをしたトイフェルの姿。



「ゼノ!!!!」



 刹那、トイフェルの刀が振り抜かれる。

極々僅かな時間、閃光の余韻が残る間隙。

その一瞬で、トイフェルはソロモンを振り抜き、キン……と納刀までしてのけた。


 これが、“神童”トイフェルの絶技、ゼノ。

彼の最も得意とする、神速の抜刀術だ。

その剣閃の速さは視認することさえ叶わず、後には両断された死体が残るのみ。

彼の経験上、これを捌いたのはリュウセイの師であるゲンスイ、それから兄であるシュウ、帝王の三人のみだ。



「………いいネ! キミ! とっテモ、とっテモいいヨ!!!」


「うっせぇ、よ……っ!」



 そして、リュウセイで四人目となる。

リュウセイは咄嗟にトイフェルの構えから刀の軌道を読み、その軌道上に刀を置いたのだ。

それはくしくも……彼の師であるゲンスイが初見でゼノに対処した方法と同じであった。



「ハハッ! ハハハハッ!! まだボクが【形態変化】を使っていナイこと踏まえテモ、キミ凄いヨ!

ちょット前マデ(・・・・・・・)のキミなら、ゼノを防ぐどころカ一合目で終わってタヨ!


 ソレが今はどうダイ!? そんナ傷だらけの身体デ! 

ボクと斬り合えタどころカ、ゼノを防いデ見せタ!

やっぱリ、キミたちもボクらと同じ―――」


「ちょっと待て」

 


 子供のように無邪気にはしゃぐトイフェルに、リュウセイは横槍を入れる。

今のトイフェルの言葉に、どうしても捨て置けない言葉を見つけたからだ。



「なんダイ? キミのお陰でボクは気分が良くなッタ。

話しタイことがあるナラ、聞いてあげテモいいヨ」


「ハッ! そうかよ。じゃあ遠慮なく聞かせてもらうぜ。

今お前……ちょっと前までの俺っつったよな?」


「………??? ウン、言ったヨ?」



 トイフェルは手をアゴに当てて、頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

まぁ、当然だろう。彼はリュウセイの今の状態を知らないのだから。

けれど、リュウセイにとってそれは大変意味のある言葉である。

その発言はつまり、記憶を失う前の自分と目の前の少年は面識があるということなのだから。




「そっか……テメェは俺のことを知ってるんだな?」


「何ダイその言イ方? それじゃあまるで――」



 と、トイフェルはそこまで言って気がつく。

リュウセイが抱えている問題に。



「マさかキミ……記憶がないノ?」


「はぁ……くそっ、そのまさかだよ」



 リュウセイは小竜景光を納刀し、不機嫌そうに腕を組む。

そんなリュウセイをトイフェルは未確認生命体でも見るかのような目つきでジロジロと見る。



「んだよ、その目は」


「イヤ、記憶喪失なんテ珍しいナーって思ってサ」


「んな珍しいもんか?」


「知人がそんナ状態にナルのは珍しいンじゃないカナ?」


「知人っつーことはやっぱりテメェ俺のこと知ってんだな。教えろよ。ここはどこで、俺は誰だ」


「エ、エェ〜………」



 トイフェルが珍妙な生命体を見るかのように目を見開く。それもそうだろう。

ここはどこで私は誰? という記憶喪失の定型文を大真面目に聞くことなど、誰の経験にもありはしない。


 ひとしきりリュウセイの様子を確認したトイフェルは、その様子に嘘はないと判断する。そもそも、記憶があればこんな悠長に話をしていられないだろう。


 リュウセイとトイフェルは、そのような間柄ではないのだから。


 お互いに刀をしまい、会話に勤しむこの状況がリュウセイが記憶喪失であることを証明していた。





「……ココは、かつテ悪魔族(デビル)の一族が住んでイタ村。地図にモ載っていナイ西の辺境地帯にアル村ダヨ」


「ふー……ん」


「あんマリ分かってないヨネ、キミ。マァ、いいヤ。君についテだケド……


 君は有翼族とイウ種族の生き残リで、名前は“流星(りゅうせい)”。流レル星と書いテ、流星(りゅうせい)って言うんだ」


「……その名前を聞くとスッッッゲー、ムカつくんだが」


「アハハー☆ 気のセイじゃないカナー」



 さりげなくトイフェルはリュウセイに嘘の名前を教える。

いや、言葉の語感で言えば確かに正しいのだが……その名前はリュウセイの二つ名であり、その名前を付けた相手を絶対に切り刻んでやるとリュウセイが誓ったほどの名前なのだ。

何よりアクセントの位置が()ュウセイではなくりゅ()せいである。

記憶はなくても本能がその名前を拒絶するようだ。


 当然のように、トイフェルはそんなリュウセイをスルーするが。



「……まぁ、いい。

そんで? お前は誰だ? 俺とどんな関係だったんだ?」



 リュウセイはひとまず名前に感じた不快感を棚に上げ、トイフェルのことを尋ねる。

と、ここでリュウセイは、元々悪そうに見える顔をさらに険しくした。

今は普通に話しているが、目の前の子供は出会い頭に切りつけてくる危険人物だ。

自然、警戒もするというものである。



「ボクかい? ボクはネェ……」



 トイフェルはそこで一度言葉を切り、沈黙した。

その瞳は伏せられていて、何かを考えているようだ。

その奇妙な沈黙の後、トイフェルは……



「ボクはコノ村の……悪魔族(デビル)最後の生き残りのトイ(・・)って言うンダ」



 顔を上げ、ニッコリと無邪気な笑顔を浮かべて、



「キミの親友ダヨ☆」



 そう、口にするのだった。

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