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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第十話―カルト山でのとある1日

明けましておめでとうございます。

CAILもやっとこさ十話です。長かった。実に長かった。この小説を読んでくれた皆さんが良い一年を迎えれますように、誠心誠意祈ってます。


ってユナが言ってました。それでは本編をどうぞ。

 






「ハァッ!!」


「うらぁっ!!」


「なんのっ」



――わたしたちがカルト山に着いてから三日が経ちました。天気は晴れ。見上げると、青い空がどこまでも広がっていて、お日様がぽかぽか気持ちいいです。こんな日はゆっくりお昼寝をすると幸せな気分になれそうですね。



霞初月かすみそめづき


「ハッ! 今さらそんなもんで俺の目を騙せると思うなよ!」


「うおっ!! 前が見えねえッ!」



 ……天気は霧。

一メートル先も見えないほどの濃霧が立ち込めて、太陽の光も届きません。見渡す限り真っ白な世界はこの前見たときと何も変わりがありません。少し、肌寒くなってきました。

こんな日は洞窟に戻ってゆっくりと読書をするといいでしょう。



「そこだっ! クリスタルバレット!!」


「うおっ! テメェ何しやがる!!」


「あれ? なんだ、リュウセイか……」


「テメェ……


 七星流・壱の型・一ツ星!!」


「うぉあ!!」


「一ツ星! 一ツ星! 一ツ星!!!」


「うぉぉおっ!! 止めろチビホシ!」


「一ツ星イィ!!!!」



 ……て、天気は雷っ!

横方向に飛んでくる雷はとても危険ですっ! 何本も何本も悪口を言われた腹いせのように飛んでくる雷はしっかり防御しないと大変なことになりますっ! こんな日はすぐに洞窟に……きゃっ! こ、こっちにも飛んできました!



村雨むらさめ


「うわっ!」


「冷たっ!」



 ……天気は大雨。

激しく打ち付ける雨は目も開けていられないほどです。局所的な大雨を目の前で見ているというのはなんだか新鮮な気分です。こんな日は……うーん。洞窟でお料理でもしましょうかね?



「今日の天気は晴れのち霧のち雨時々雷。今日も絶好の……」


「修行日和でぇーっす☆」


「ジャックさん……わたしの台詞とらないでください」



 横にはジャックさんがあぐらをかいて、手を後ろについて座っています。人を小バカにしたような笑みを浮かべて、してやったりみたいな顔を見てるとちょっとイヤな気分です。そりゃあ、昨日も同じ事を言いましたけど、だからってわたしの台詞をとってそんな顔をされるのはちょっと……



「やって昨日も言うてたやんかぁ。おんなじ台詞を言うんはとってください~って言うてるようなモンやろ?」


「そんなものなのですか?」



 信じてはいけない気もしますが、わたしは対人経験が普通の人より少ないので、世間一般の会話の常識が少ないのです。


 もちろん、普通になら会話は出来るんですけど、冗談を交えた会話はちょっと……。っていうか常識がないってカイルさんみたいで嫌です。



「そんなもんやっ!」



 そうなのですか、では覚えておくことにしましょう。



「っていうか……また説教されとんのかあいつら」



 見ると、カイルさんとリュウセイさんが正座させられて、ゲンスイさんに怒られています。これも昨日と同じことなのですが……



「何度言えば分かるのだお主は! 視界が遮られても、魔力の流れで敵の位置を探らんかっ!」


「ちゃんと探ったって!」


「それで味方を攻撃しては意味ないだろう! 戦場で味方を攻撃するなど、連携もあったものではないぞ!」


「うっ……」


「ハッ! ちゃんと魔力で人も特定出来ねぇなんて思ってもみなかったぜ」


「んだとチビホシ!!」


「やんのかバカイル!!!」


「止めんかぁ!!」



 ゴツン!と鈍い拳骨の音が聞こえてきました。とっても痛そうです。二人とも頭を押さえて地面を転がっています。



「それとリュウセイ!!」


「ぅぁああ……なんだよ……俺はちゃんと戦えてただろ?」


「ユナちゃんに一ツ星が当たるところだったぞ?」



 ゾクッ……って音が聞こえました。聞こえたような気がするんじゃなくて、ハッキリと聞こえました。ゾクッ……っていう音が。先程までの説教とは違う……明らかな殺気を放ってリュウセイさんを睨んでます。


 またです……昨日も同じことがありました。昨日は吹き飛ばされたリュウセイさんがわたしとぶつかってああなったんですよねぇ……。



「あーあーあー、ゲンスイ怒っとるなぁ」


「なんで笑ってるんですかジャックさん」


「やっておもろいやん。あいつの変態っぷりが見れんねんで?」


「……はぁ」



 そうなんですよねぇ……。ゲンスイさんは普段は紳士で優しい方なんですけど……どうしようもなく変な性癖をお持ちなんです。


 ロリータコンプレックス。略してロリコン。


 ゲンスイさんは孫を愛するあまりに、孫と似たような体型をしている人や、小さい女の子を極度に可愛がり、愛する人らしいです。愛と言っても家族愛で、好きという感情のものではありません。


『全てのロリはワシの孫じゃ』


 なんて爆弾発言も飛びだして、その変態っぷりはジャックさんと同じくらいかも知れません。



「ワイは正常や!!」


「ではジャックさんの好みの人は?」


「ぼいんぼいんの胸をしてる色っぽいお姉ちゃんや!!」


「ジャックさんの方が変態です」


「なんでやぁ!?」



 世間からすれば確かにジャックさんは正常なんでしょうけど、それでもジャックさんはわたしの敵です。不倶戴天の怨敵と言うやつです。だからといってゲンスイさんが正常かどうかと言うとそうでもないんですけどね。

ゲンスイさんは孫と似たような体型をしている人も愛するんです。似たような体型というのは……



「貧乳の子も愛するねんな」


「……言わないで下さい」



 どういう思考回路をしているのでしょうか? 十歳くらいの子と同じくらいの胸をしている子も愛するなんて……おかしいです。

十歳ですよ? そんな子の胸なんてないのと変わらないじゃないですか。


 そして、わたしに対する過保護っぷりは目を見張るものがあります。食器は洗ってくれますし、(リュウセイさんが命令されて)服の洗濯はしてくれますし(ジャックさんが命令されて)食料調達まで……(カイルさんが命令されて)。

そして、わたしに粗相をしようものなら、今のリュウセイさんのように殺気を向けられ、死ぬほど説教されます。


 でもこれって……



「ユナちゃんが貧乳ってことやんな」


「だから言わないで下さいっ! っていうかさっきからわたしの考えてることがどうして分かるんですか!?」


「考えてることって……ユナちゃんは頭の中で考えてるつもりやったかもしれんけど、思いっきり口に出てたで?」


「えっ!?」



 そ、そんなっ! 口に出ちゃってたんですか!? ぅ、うわぁぁ……は、恥ずかしいです……。



「い、いつから」


「ん?」


「いつからわたしは口に出してましたか……?」


「えぇっとぉ~~~








 天気のくだりのあたりからかな?」


「全部ですかっ!!!?」



 なんてことでしょう。今の今まで気づかなかったなんて……。



「--だからの、ロリというのは人類不変の宝なのだ。純真無垢なその小さな身体に夢と希望と愛がつまっておる! そんなロリを愛するのは人として当然のこと!!


 全てのロリはワシの孫じゃ!!!


 その成長を阻害するものは何であろうと誰であろうと全て叩き切ってくれる!!! たとえリュウセイであってもじゃ!!


 そして、ロリと同じくらいユナちゃんのような小さな胸にも夢と希望と愛がつまっておる!! 発展途上のその胸は未来へと飛び立つ鳥の卵であり、美しい花の蕾でもあり、可能性の宝庫でもあるのじゃ!


 スミレの胸も小さく、それはそれは中身がつまっておった……。スミレはええ娘じゃ、優しくて気立ても良くて、おじいちゃん、おじいちゃんと呼ぶその健気な瞳……あぁなんと素晴らしきことかな……」



 ゲンスイさんは変なスイッチが入ってしまいました……。

っていうか小さな胸って言わないで下さい! 虚しさが心に染み入ってきますから! あんなのをカイルさん達はずっと聞いているのですか……。



「まだ、続くのか……」


「あと、三時間くらいはな」


「うわぁ……」


「そこの二人聞いておるのかっ!!!」


「「はいっ! 聞いてますっ!!」」


「ふむ……どこまで話したかのう? おぉそうじゃ! わが孫のスミレの話じゃったの。その健気な瞳に見つめられたら心が洗われるような心持ちになって………」


「「はぁ……」」



 今日もいつも通りとっても平和な一日です――


 



――――――――――――――――――――






「今日は結局どんな修行をしてたんですか?」


 ユナが料理に手を伸ばしながら話す。

 今日の料理は焼き魚と白ご飯、山菜のおひたしという和風料理だ。焼き魚には適量の塩がふられ、モンスターの味をそれとなく支えている。山菜のおひたしは独特の苦味があるが、慣れれば癖になる味だ。



「今日はカイル君の魔力探知の修行じゃな」


「えっ、魔力探知ですか? でも、それって……」


「うむ、戦闘における初歩の技術。周りの魔力の流れを読んで、どこに敵がいるのかを探る技法。訓練を積めば個人も特定出来るようになるのう。カイル君はそれを本能でやっとる節があるから、意識的にできるように調整しておるのじゃ」


「まぁ、俺からすればもう完璧っ! って感じだけどな」


「ハッ! よく言う。今日の修行で俺に攻撃してきたのはどこのどいつだよ」



 うーん……とカイルが思案顔をして……








「ジャックじゃねぇの?」


「なんでワイやねん! ワイ修行に参加してないやんけ!!」


「お前のことだよバカイル!」


「そうだっけ?」


「忘れてんじゃねぇ!!」



 まったく……とリュウセイが焼き魚に手をかける。するとバカにされた気がしたカイルがリュウセイを糾弾する。事実バカにされたのだが。



「じゃあ今日の修行でユナに一ツ星を当てそうになったのはどこのどいつだよ」



 箸を止めて、んあー……とリュウセイが思案顔をして……








「ジャックじゃねぇの?」


「だからなんでワイやねん! 双子揃ってワイに擦り付けようとすんなやっ! 無理があるわその設定!!」


「フー、それにしてもユナちゃんの料理は美味しいのう。こんな料理を食べたのは久し振りじゃ。やはり、小さな胸には無限大の可能性が詰まっておるのじゃな」


「そこ、変態発言すんなや。ユナちゃん引いてるやんけ。料理が旨いんは認めるけどやな、言い方ってもんがあるやろ」


「アハハ……」



 ユナがドン引きしている。食事中にも関わらず、ゲンスイは絶好調のようだ。



「んでも、リュウセイは相変わらずだな……」


「いきなりどないしてんお前」


「いやー、焼き魚の骨を取るのが未だに苦手なんだなぁ、って思ってさ」



 皆がリュウセイの手元を見ると、焼き魚が皿の上でグチャグチャになっていた。骨と身が完全に混ざり合い、この状態から骨だけを取り除くのは不可能といっていいだろう。

いや、骨だけならまだいい、魚の頭や目玉を全部ひっくるめてグチャグチャになっている。

見た目は最悪で、食欲を全くそそらない風体に仕上がっている。

もうこれ焼き魚じゃないだろ、みたいな料理を作りあげた当のリュウセイはいきなりの指摘にちょっと慌てる。普段は口が悪く、目付きも悪いのだが、今に限っていうと、口ごもって上手く喋れず、目は完全にカイルから逸らされて、冷や汗をかいていた。



「うーわ、なんやこれ? どうやったらこんなグチャグチャになんの? 骨とるのにこんな苦戦するもんなん?」


「焼き魚をするときはいつもそうやってグチャグチャになっておるのう」


「べ、別に苦手な訳じゃねぇよっ! ただ、俺が食べやすいようにほぐしてるだけだしっ!!」


「嘘ついてんじゃねーよ! 子供の頃いっつも母さんに全部骨取ってもらってから食べてたじゃねぇか! 普段は口悪いクセに焼き魚がでると、


『母さん……骨とって……』


 って遠慮がちに目を俯かせて焼き魚を渡してたじゃねぇかっ!!」


「て、てめっ! そんなこと言ってんじゃ……」


「あはははっ! リュウセイさんがそんなこと言ってたんですか!?」


「あっはっはっは! リュウセイがお母さんに全部骨取ってもらってたん!? お母さんに魚の骨を取ってもらうリュウセイ……プフっ! 母さん……骨とって……。プフフ!!!

あっはっはっは! は、腹が捩れる!! アカンて!! ギャップが激しすぎる!!」



 ユナ、ジャックは大爆笑している。ゲンスイも笑っているわけではないが肩がとっても震えている。笑うのをこらえているようだ。

隠せてないところが、またリュウセイの羞恥心を浮き彫りにする。


 本人もカイルに会うまで忘れていた事をこんなところで暴露されて、恥ずかしさのあまりリュウセイはその異彩を放つ焼き魚を思いっきりかきこんだ。



「「「あっ」」」


 三人が口を揃えて驚きの声を上げる。ゲンスイと出会ってから焼き魚を食べるときはいつもこうしてるリュウセイなので、ゲンスイは未だに肩を震わせてその様子を見る。


 口のなかに小骨が刺さりまくり、大きな骨が身を噛むのを阻害し、頭部の苦味が口のなかに広がって苦しそうな表情をするリュウセイ。それでも噛み続けて、舌や歯を器用に使って、身と骨を口の中でより分ける。

噛むたびに骨が口腔に突き刺さってとても痛い思いをしているが、なんとか口の中でより分けが終わって、より分けた骨を少しずつ皿の上に出していく。そうして口の中に身だけを残すことに成功すると、とても満足気な顔をして……



「どうだ! 俺は一人になってからの数年で焼き魚を克ふきゅ……」



 どうやら、一本小骨が残っていたようだ。得意気に話していたリュウセイの出鼻を見事に挫く形でその小骨は歯茎に刺さった。予想外の小骨の攻撃の痛みでリュウセイは少し涙目になり、額を机に打ち付けて深く刺さっていた小骨を手で引き抜いて皿の上の骨ゾーンに置いた。惨めなことこの上ない絵面だ。



「あっはははっ! セ、セリフも噛んどるし、小骨残っとるし、全然克服できてないやけんけ!」



 ヒィ、ヒィと苦しそうにお腹を抱え、笑い倒すジャック。



「り、リュウセイさんっ……ちょっと大人しくしてて下さいっ……笑いすぎて苦しいですっ……」

 


 同じようにお腹を押さえて、リュウセイとは別の意味で涙目になっているユナ。



「食べ方がなってないからそんなことになるのじゃ。一度口に入れたものを出すなど、行儀が悪いぞ。……フ」


「おい、こらジジイ笑ってんじゃねぇ!」


「照れ隠しも昔と変わんねぇなぁ」



 頬杖をついて、楽しそうにカイルが言う。魚の脊椎から尾にかけての骨、つまり普通の焼き魚から身だけを取り除いた部分を口から覗かせて、リュウセイに見せつけるようにバリバリ音を立てて噛み砕き、飲み込んだ。



「おい」


「ん? なーんだよ、リューセーイ?」


「ん? じゃねぇだろテメェ。何骨ごと食べてんだよ」



 骨ごと食べる。

その選択肢はリュウセイのこれまでの人生の中に有ったのだが、いくら練習しても骨が刺さりまくって散々な結果に終わっていた手段なのである。

自分が練習しても出来なかったことをさらっと目の前でやられたリュウセイはかなり怒っているように見える。キレる寸前だ。こめかみに青筋がいくつも浮かんでいる。



「俺は何年も森の中で暮らしてたんだぜ? 骨ぐらい食えるようになるって」


「あーそうかよ……でもそれをなんで俺の目の前でやってんだ?」


「骨も寄り分けられねぇ可哀想な弟をからかう為に決まってんだろ」


「ハッ! ……ケンカ売ってんのかてめえ!!」



 とうとうリュウセイがキレた。自分のダメな部分を暴かれ、目の前で見せつけるように骨を処理されたのだ。キレて当然とも言える。



「べっつにー? そんなつもりは微塵もなかったんだけどなー?」


「うっぜぇ。つーかカイルにだって苦手なもんくらいあんだろーがよ」


「その言い方やと自分が魚の骨とるん苦手ですって言ってるようなもんやで……!!」



 腹を抱えたままのジャックが律儀に指摘する。完全に自爆したリュウセイは……



「ハッ! カイルには俺と違って苦手なことがたくさんあるよなぁ?」



 さっきの発言はなかったことにしたようだ。



「無かったことにしやがった……」


「だまってろ、バカイル。てめーが女装したことバラすぞ」


「ちょっ! バカ!!! それはっ!!

つか苦手なことでもなんでもねぇじゃねぇか!」


「女装……ですか」



 いつの間に笑い終えたのだろうか、ユナがドン引きした表情でカイルを見る。その目は変態発言をしてしまったゲンスイや普段のジャックを見ている目を全く同じ目だった。



「カイル……それは流石にワイも引くわ。ユナちゃんのようにドン引きした目でお前を見ることしか出来ん……」


「この目はいつもジャックさんに向けてますけどね」


「なんてことや……ワイは女装する変態と同じレベルなんか……」


「ハッ! ザマーみやがれ! 自業自得だ!」


「まてまてまてまて! なんで俺が自分から女装したみたいになってんだよ! 違うんだってアレは!!」



 かなり焦っている様子のカイルが弁明しても説得力に欠けてしまうのはどうしてなのだろうか。目がぐるぐると渦を巻き、頭のなかではどうやってあのときの状況を説明したものか必死に考える。


――えぇ~~っと、あんとき俺はなんで女装したんだっけ? なんか……勝負の罰ゲームだった気がする……。なんの勝負だっけ?

なんだ? 全然思いだせえねぇえええ!! 記憶の封印解けろよっ! ヤバいヤバいヤバい! このままじゃ俺まで変態にされちまう!! と、とりあえずなんか言わねぇと! 話題を逸らすんだ!!!



「ば、暴露大会!!」


「ん?」


「はい?」


「なんじゃ?」


「んだよ?」


「俺とリュウセイの昔話ばっか不公平だ! どうせなら全員の恥ずかしい話を暴露しあおうぜ!!!」



 ど、どうだ!?乗ってくるか?



「えー、ワイは今の話題でも……」



 バカヤロー! ジャック! そんなこと言ってんじゃねぇ!!



「恥ずかしい話と言えば、ジャックは男と一緒に一夜を過ごした経験があるのう」



 よっしゃナイスだゲンスイ! よく言ってくれた! この流れだっ! この流れなら俺の話題なんてすぐに忘れられる!! 男と一夜を過ごす!! この話題ならいけるっ!!

意味は全っ然わかんねぇけどこの話題で押しきってやるっ!!



「ちょっ!! ゲンスイそれはちゃうやろ! そんな言い方したら「へぇー!! ジャックお前男と一夜を過ごしたことあんの!!? うわー!!! それは恥ずかしい! すげぇ恥ずかしいな! 恥ずかしすぎるぜ!!!」ちょい待てぇ! アレはそーゆーんじゃなくて……」



 言い訳なんてさせてたまるか!

ここからはお前の話題で盛り上がるんだ! そんで、自爆したな……お前は最後の言葉で男と一夜を過ごしたことを認めたんだ!!

この言い訳をさせないように会話を中断させる技術……ジャックから学んどいて良かったぜ。

こういう技術を知っとけば、なんかの時に役にたつでー、っていうのは本当だったんだな。さらば、ジャック……この空気を乗りきってくれ………




 また今度ユナにでも一夜を過ごすってやつの意味を聞いとくかな……――




 カイルは女装の危機を乗りきった!




―――ヤバいヤバいヤバいヤバいでぇえ!!

何やってんねん! ワイは!!

アレはもう男と寝たって言ってるようなもんやんけ!!


 しかもカイル、ワイが教えた会話を無理矢理中断させる技術、〝割り込んで大声で喚く〟を使いよった!

教えといたら、変なタイミングで使ってくれると思ってたのに! ベストタイミングかっ! なんでこんなときに外さへんねんっ!


 あぁ、周りの空気が冷たいなぁ……


 って違う違う違うねんて! ザフラとは何もなかったってゲンスイは知ってるよなぁ!! あんのロリコン楽しんどる! 絶対そうやぁあ!!



「ジャックさん……男の人となんて……」


「ち、ちがっ! ユナちゃんそれは誤か「朝起きて、ジャックの部屋に行くと一緒のベットで寝ておったんじゃ、あれはびっくりしたのう」ゲンスイぃい!! こんのロリコンがぁあ!!」


 

 あのロリコンジジイ余計なことをぉお!!

冷たいよっ!? ユナちゃんその目はとっても冷たいんやけどっ!!

なんやこれ、今までの比じゃないくらい冷たいっ!! っていうか刺さる!!

視線が刺さる! いや分かるけど! 誤解やから!!


 そんで、リュウセイお前はなんでケツを隠しとんねん! 違う!! ワイはそんなやつやない!!

っていうかワイが攻めに見えるんか!?

カイルは何も知らんのになんでこいつは知ってんねん! ゲンスイかっ!! あいつが余計な知識を教え込んでんねんな!


 これはアカン! 下手に言い訳したら逆に言い逃れできへんくなるっ!ここはカイルみたいに話題をそらすのがベストやで。しゃーない……取って置きのネタでこの場を沸かせたるでっ!!



「ゲンスイ」


「んん?」


「お前はワイにとんでもない濡れ衣をきせた!! これはアレを話すしかないなぁ……」


「濡れ衣も何も全て事実じゃろう?」



 事実やけども! それを言い返してまうとワイが逃げられへんくなるやろ!!



「それにアレとはなんのことかのぅ?

スミレと毎晩お風呂に入っておったことは公言しておったし、ワシの枕にスミレが描いてくれたワシの似顔絵を貼っておったこともスミレの着替えをワシがしてたことも敵方の素晴らしく可能性を秘めた胸の子の色仕掛けにやられかけたことも幹部クラスの人間は皆知っておったぞ?


 あぁ、もしかしてアレかの? スミレの成長記録を毎日つけていたことか?」


「なんっで全部言ってまうねん!!!」



 こいつに羞恥心っつーもんは無いんか!!

……ないやろうなぁ。うん、リュウセイはいつもゲンスイのこーゆーとこ見とるからなんも動じてへん。カイルは理解してないな。

ユナちゃんももうこいつの変態性には驚かんか……全くゲンスイも困ったやつやで……簡単に暴露もさせてくれへんとは……。



「ってまずいやん!!」



 こ、これじゃ話題を逸らされへん! くっ……! 男と寝たなんて不名誉なこと皆の中に残しておくわけにはいかん!!!


 ワイは男の中の男や!!


 こ、こうなったら最後の可能性にかけて……



「ユナちゃん!!!」


「なんですか?」



 止めて! そんな目で見ないで!!



「み、皆、一通りの暴露は終わったで? 後はユナちゃんだけや! さぁ暴露してもらおうか!!!」



 さぁ……この空気を吹き飛ばすんや!

皆が今までの会話を全部忘れるくらいどぎついので頼むで!!



「なんで自分から恥ずかしい話をしないといけないんですか?」



 詰んだっ!!



「そ、それを言ったら始まらんやん!!

これ暴露大会やろ? なんか暴露しよーな!」



 だか、食い下がる訳にはいかんのやっ!



「いやです」



 今度こそ詰んだっ! バッサリいかれた!



「それに、わたしはジャックさんやカイルさんと違ってそんなやましいことしてませんから!」


「ちょっと待て! なんで俺まで入ってんだよ!!」


「女装癖のカイルさんですよね??」


「誤解だぁあ!!」



 お、なんかカイルも巻き添えになっとる。

そーいやコトの発端はあいつやったな! いい気味やで!!



「くっそ……ユナがそんなこと言うなら俺にだって策がある!!」


「策ですか……?」


「ユナの秘密を公開してやる!!」



 な、なんやってー! カイルがユナちゃんの秘密を握っとんのか!! よっしゃ、いけっ! 何もかもを忘れさせろっ!



「そんなもの無いです。わたしは真面目に人生生きてますから」



 いや、真面目に生きるのと秘密があるのはまた別の話やろーに……。



「これを見てもそう言えるのか!」



 カイルの背中が赤色に輝いて、朱色の翼が生えてくる。

大きく広げられた翼は横三メートルはあるな。

でもいつも通りの【形態変化】や。

これが一体何やっていうねん?



「っ!!」



 な、なんやっ!? ユナちゃんが急に立ち上がったで!? なんかスゴい緩んだ顔してるし……。おぉ? カイルの方に歩いてく……背中に回り込んで……。

固まってもうた……。



「ふ……」



 あ、カイルの翼の先っちょを握った。

もみもみもみもみ………。

触り心地を確かめるみたいにしてるなぁ………。

そういや、カイルとリュウセイの翼って違うよな。カイルの翼はふわふわの羽毛って感じやけど、リュウセイのは竜の翼みたいや。同じ有翼族でも違いはあんねんなぁ。

ユナちゃん、ずっとカイルの翼触ってるけど<、そんなに気持ちええんやろうか?



「ふ、ふにゃぁあ!!!」


「おわっ!!」



 そのときワイは自分の目を疑った。

ほんの数秒、数秒前まで冷たい目でワイとカイルを見ていたユナちゃんがこんなことをするなんて信じられへんかった。ワイらのツッコミ係、お仕置き係をやっているユナちゃんが……こんなこんな……



「~♪♪~~♪♪♪」



 カイルの翼に顔を埋めて……



「もふもふですぅ~~」



 子供っぽいしゃべり方をして……



「うにゅぅ……」



 こんな可愛い顔をするなんてっ!!!



「が……眼福……ここがこの世の楽園か……」



 ゲンスイ……鼻血を出しながらそんなセリフを出すなや。いや、分かるけどな?


 今のユナちゃんはヤバい、ヤバすぎる。

淫魔族のヤツと勝負出来るくらいのフェロモン的な何かを振りまいてる。

見てみ? リュウセイも顔赤くしたで?

あのリュウセイがっ! 顔を赤くしたでっ!? それぐらいの破壊力は十分にあるってことをわかってほしい。緩んだ顔に目は閉じられて身体全体でカイルの翼を堪能してる。

キラキラの……見てる側の心を浄化するような空間がユナちゃんの回りに形成されとる……。



「えっとな……俺もこれを見るのは二回目なんだけど……こうなったユナは寝るまで止まらなかった。

なんか、旅の最中もこの話はしなかったから、これがユナの恥ずかしい話なのかなーって……」



 カイル……お前はなんで平然としていられる?

そのユナちゃんを背負ってなんでやっ!?



 いつの間にかリュウセイが魚の骨を取るのが苦手なことも、カイルが女装したことも、

ワイが男と寝たことも、ゲンスイが色々やらかしたことも、ユナちゃんの豹変っぷりを見て、皆の記憶から消えてましたとさ……



 









 

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