旅立ち
レンが日本に滞在する最後の日。
エージェントルームのみんなが高級レストランを貸し切ってお別れ会を開いてくれた。
その席でみんなは様々なプレゼントをあげた。オレとハナは、魔導学校幼学部だった先生たちにも協力してもらって、ビデオレターを作った。
レンは、ケッコーこの会でも回りを見て動いてくれていた。
飲み物の減り具合とかに注意してなくなってたら店員さんに注文していたりした。
幹事気質だな、レンは…
この5日間で若干、レンの顔に疲れが見える…気がする。
ま、久し振りの日本で疲れているんだろう。
…ところが、そこには"他の理由"があったことに、レンが再び帰国した後、知ることになるんだ…
すると、オレはレンに
「話がある。」
と言われた。
じゃ、外出るか。
話って何だ?
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…今日で、とりあえず日本とはお別れだ。
エージェントルームのみんなが、オレのためにお別れ会を開いてくれた。
その席で色々なプレゼントをもらった。アメリカでの勉強漬けの毎日に役立ちそうなものばかりだ。
そんな中、オレはミツに声を掛けて、部屋を出るよう促す。
ミツにだけは、言わなきゃだから。
オレの気持ちに気付かせてくれたんだからさ。
店内の通路へ出たオレは、部屋から少し離れた場所で壁にもたれて、言った。
「オレ、ハナのこと本気で好きになったから。」
すると、気付くのが遅いとでも言うような口調で返された。
「修行の前のミツの台詞でうっすら気付いてたけどさ、病院にいながら考えていたら、自覚したよ。」
……まさか、病院で泣いてるハナを抱き寄せてたの、オレに気持ちを自覚させるためだったのかよ。
オレ、めっちゃイラついたんだからな?
ホントにドSだな、コイツは…
とりあえずオレは片口角を上げて、オレがアメリカにいる間にハナに手を出すなよって言ってやった。
「出さねぇよ!!」
って言ってたけど、どーだかな。
「レン。オレのことは気にせず、向こうでいいカガク捜査官になるんだな。」
「わかってるって。」
オレたちは固く握手を交わすと、部屋に戻った。
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お別れ会を終えた一行は、エージェントルームに泊まり、深夜3時前に伊達さんの車で成田空港へと向かった。
飛行機の搭乗時刻は5時過ぎ。
30分も早く着いてしまった。
オレはミツに初日の出来事で迷惑をかけたことを謝った。
アメリカでは無茶するなって返してくれて嬉しかった。
ハナのことをオレの代わりに守ってやってほしいってことと、ハナに手ぇ出すなってことを再度強調して、別れを告げた。
3年後の再会を固く誓って。
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ミツに別れを告げた後、オレはゲート近くにいるハナを発見。
ハナは泣くまいと、必死で下を向いていた。
「あと3年したら、ちょうど今ぐらいの時期には帰って来れるから。」
すると、首に違和感が…クローバーのネックレス。
オレが無事カガク捜査官になれるように、ってことか。
ありがとうと言おうとしたとき、空気を壊すようにアナウンスが流れた。
"5時5分発ANA707便でN・Yへご出発のお客様、まもなく搭乗手続きが始まります。"
うるさいっ、放送!!!
空気読めよっ!!!!(怒)
「時間でしょ?」
そう言って搭乗手続きの受付に向かうハナの手を強く引き、彼女をきつく抱きしめる。
病院のときはミツみたいにハナを抱きしめてやる権利なんてなかったけど、ハナを好きだって自覚した今は…権利がある。
だから最後にハナの温もりを感じたかった。
ハナのほうは、抵抗もせず、オレの胸に収まっている。
オレはハナに帰って来たら一緒に事件を捜査してほしいと言って、体を離す。
「うん!!何かあったら電話するね!!」
その言葉を聞いたオレは、口パクで「じゃあな」と言って搭乗手続きの受付に向かった。
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そして私とミツは、レンの乗った飛行機が雲の向こうに消えていくまで見守っていた。
なんか目の奥が熱い。
ヤバっ、泣きそう…
今日で泣き虫を卒業する、って決めたのに…
「泣けよ。」
声と共に、ふわっとした温もり。
…ミツだ。
「イヤだ。こんな人がいっぱいいるとこで…」
そうは言っても体は正直だ。
目からは涙が溢れている。
「ったく…ハナが強がってることなんて幼なじみのオレにはお見通しなんだからな。」
ミツは私に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いた。
するとレンが狙撃された後の病院のときみたいに抱き寄せてくれた。
だけど、力はカクジツにあの時より強い。
何かを伝えようとしてくれているのかな?
そんな気がした。
こうして、幼なじみだった私たちは離れていってしまった。
だけど、レンは"ゼッタイ日本に帰ってくる"って言ってた。
信じてるからね、レン。
ゼッタイ帰って来てね。
そして私たち3人が"再会"できるのは、ホントに今から3年後のことだった。