真実
先生は、続けて静かに語り始めた。
「優くんにはカン違いさせていたかもしれないけど、アレは、私からハナちゃんに頼んだの。レンくんの眠っているチカラを強制的にでも引き出すために、影で魔導をコントロールしてあげるように…ね。」
レンは、ずっとうつむいていた。レンの魔導をコントロールしていたなど、気付かなかったのだろう。
「ごめんね。優くんの気持ちに全く気づいてなかったから、こんなことになるなんて思いもしなかった。でも、一番驚いたのはハナちゃん本人よ。」
オレは当時、ハナとレンが二人きりで仲良さげにしていた光景を何度も見た。それがそうだったんだろう。当時のオレは気づくはずもなく、しばらくハナとレンを意識的に避けていた時期もあった。それでも、家が近くて、親同士が繋がっているため、限界がある。だから、レンと二人でちょっかいを出して、嫌われればいいと思った。
でも、今は…苦しい。アイツに会って、謝りたい。
オレはそぉ思った。
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「ハナちゃんは、秋葉原にいるわ。探偵の卵を育成する学校があるんだけど、そこでお世話になってる。彼女自身調べたいことがあるみたい。」
レンの様子は相変わらずだったが、ふと顔を上げて言った。
「先生!オレと…魔導の特訓をしてくれませんか?」
どうやらレンは、ハナに魔導を使えるようになったところを見せた上で今回のことを謝りたいらしい。いわゆる、ハナに会うための口実作り。それを知ってか知らずか、先生はあっさり了承。
「ありがとうございます!」
「早く始めようぜ。時間、あんまないし。」
「待って!特訓を始める前に、二人に渡すものがあるの。」
そう言って渡してきたのは、星、ダイヤ、クローバーの形をしたブローチだった。
「これにはある人の魔力が込めてあるの。これさえ身につければ、簡単な魔法なら使えるようになるはずよ。頑張ってね。」
「そんなの、フェアじゃ…
「このブローチに魔力を込めた人によると、"これを聞いてどっかの誰かさんはフェアじゃないとか思うかもしれないけど、これは友情の魔法なんだ。魔力を込めた側と使う側の心が繋がってないと使えない、特別な物だから…でも、私の幼なじみなら大丈夫!!"だそうよ。」
「オレ…頑張ります!!」
「今のお前に必要なのは、そのブローチと、"自分の気持ちと向き合うこと"だな。…まぁ、いい。今にわかるときが来るだろう。」
こうして、レンの特訓が始まった。オレはベンチに座って特訓風景を眺めながら、ふと考える。
(ハナ。ホントにお前なのか?あのブローチに魔力込めたの。オレらのこと、どう思ってんだよ?)
先生が隣に来て言う。
「あなた最近、抱え込みすぎてる気がするわよ?いろいろと。」
「そう…ですかね?」
「レンくんを見習ったら?」
先生は、一呼吸置いて続ける。
「あの子、スゴイ素直よね。分かりやすいっていうか。自分の気持ち、あまり押さえ込まない方がいいわよ?」
「ハイ。」
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「好きなんでしょう?レンくんと同じように。」
先生は、オレのすべてを知っているのか?
…そう思わせるかのようなセリフ回しだった。
「…でもレンくん、自分の気持ちに気付いてないわよ。気付きさえすれば、レンくんの能力は…目覚めるハズ。」
そう言ったのもつかの間、高く大きな光の柱が現れた。
「おめでとう。特訓終了よ!!」
と言う先生。
「オレのアドバイスのおかげなんだから、感謝しろよ?」
そして翌朝。
学校に泊まったオレたちは、朝食の席でアコール先生に呼ばれる。
「ハナちゃんは"中高生狩り"事件を調査しているわ。ここから電車で一時間のキョリだけど、なるべく早く見つけてあげて。"大切な人の身に何かが起こる"ってタロットカート゛に出てるから。」
先生は最近、タロットカート゛にハマっているらしい。
「先生、魔導師より占い師のほうが向いてるんじゃないですか?」
「ありがとう。」
「おいレン、時間ないぞ!!」
「やべっ!」
オレらは寮の階段を駆け上がって、荷物を持ち、先ほどの階段を駆け降りた。
先生が声をかける。
「気をつけてね!!」
オレたちは人差し指と中指を顔の斜め前に出してVサインをすると、足早に学校を出た。
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それから数時間後、秋葉原に到着。
「注意するべきは、"黒い車"か…」
「それよりオレは、"大切な人の身に何かが起こる"ってのが気になる。」
「ミツ。当たるもんだな。"悪い予感"って。ちょうどそこに黒い車が…」
「まさか…な。」
瞬間、オレの耳に女の悲鳴が届いた。この声…間違いなく、ハナのものだ。
車の窓の外からでも中は丸見えで、ハナの上には男が馬乗りになっていた。
すぐさまオレは魔導でカギを開け、男に意識喪失魔法をかける。
「大丈夫か?…久しぶりだな。こんな形で再会するとは思わなかったけど。」
「ミツ!なんでここに?」
「その話はあと『カチャ』 背後から聞き慣れない音がした。
ただ、緊迫した雰囲気で分かる。銃を向けられたのだ。
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〈レンside〉
ハナを探して秋葉原へ。しばらく歩くと黒い車発見。イヤな予感…。
案の定、悲鳴が聞こえる。…あれ?この声……ハナのだっ!!!
急いで車に近づき、ミツがハナの上にいる男の意識を奪う。
オレ…何も出番ねぇなぁ。せっかく昨日修行したのに。
すると、ハナとミツに銃が向けられた。
もう一人いたのか。
オレの脳裏に今朝言われた「銃に注意」という言葉がよぎる。
…何が、銃に注意だよ。オレだってFBIカガク捜査官のはしくれだぜ?銃くらい慣れてるって。向こうは銃社会だし。
「危ないっ!!」
そう叫ぶとオレはハナとミツにシールド(内部の力の場を外部から遮断する空間)を作る。
これで、銃が暴発したりしても、被害を受けるのはオレだけだ。
…パァン!
…オレの意識はそこで薄れた。
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<ミツside>
「…!!レン!嘘でしょ…しっかりしてよ!レン…!レン……!」
オレはレンのカバンに入っていた手錠で犯人を拘束してから、ハナを落ち着かせる。
「ハナ…落ち着けって。」
そう言うが、ハナは宝物の指輪を握りしめてレンの前から離れない。
やがて救急車到着。病院まで同行した。
医者によると、傷はそれほど深くないらしい。
すると、アコール先生が駆け込んできた。
「レンくんは…?」
「意識が戻れば大丈夫だそうです。」
「…先生。なんでミツたちはここがわかったの?」
先生はさっき魔導学校で話した通りのことを語る。
「二人で話し合って来たら?」
こんな場所で本音を話していいのか?
♪~
メールだ。
『"錠","復活"のカート゛が出てたわ。』
アコール先生からだった。
この言葉と、"今日聞かなかったら一生聞けなくなるかもしれない"という気持ちのおかげで、迷いは消えた。
話し合うことにしたオレは、レンの病室の近くのソファーに座って言う。
「このブローチに魔力込めたの、ハナなの?」
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ブローチを突き付けて追及すると、意外にもあっさりと本音を話す。
「あのね、幼稚園の頃は3人でよくつるんでたのに最近はそういうのなくなって、なんか寂しかったの。レンもアメリカに行っちゃうし、ミツもいじめてたから…もう私のことキライなのかなって…だから、このブローチを使って確かめたかったの。まだ私達の心が繋がってるのか、ってことをね。」
オレは、ひたすら謝った。そして、すべて伝えた。また3人で仲良くしたいということも。
「私こそ。ミツとレンに嫌われてると思って勝手に心閉ざしてたし。良かった。これでまた毎日楽しいなぁ。昔みたいには、いかないかもだけど。だって、二人のこと男としてイシキしてないわけじゃないもん。」
「ま、そうだよな。お前、危なっかしいからほっとくと何するかわかんねぇし。」
「ちょっと!それ、どういう意味!?」
…この感じ。懐かしいな…。オレがそぉ思ったとき、ブローチが光った。
オレはハナの顔を覗き込んだ。この光りの意味を聞きたいだけだったのに、なぜか泣いていた。…コイツは昔から、オレらの前でもめったに泣かなかった。珍しっ。
「何だ。私達、ちゃんと繋がってたんだね。」
オレはたまらず、ハナをそっと抱き寄せた。
「ごめんな?泣くなよ…」
「ミツもレンも昔から変わってないね…。私に何かあったら自分を犠牲にしてでも助けてくれるし。もう助けてくれることなんてないと思ってたから…」
オレの腕の中で泣きじゃくっている彼女を、さらに力を込めて抱いた。戸惑う声を遮るように言う。
「オレも…ずっとハナに会いたいって思ってたから…会えて嬉しかったし。急にこんなことしてごめんな?」
「気にしないで♪って…あっ!!」
「どした?」
「レンの意識、戻ったみたい!!オーラがはっきりしてるし。」
「マジで?」
オレらは、レンのいる病室へと向かった。
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「レン…!!」
「よっ!ハナ、ミツ。帰国して早々心配かけたな。」
「バカ!!レンのバカ!!何でこんなことするの!?謝れば済むハナシでしょ?」
「オレはハナに昔から助けてもらってばかりだったから、借りを返そうと思っただけだよ。って、なんで泣くんだよ!?泣かなくてもいいじゃん!昔はめったに泣かなかったのに…」
そういいながら服の袖で彼女の涙を拭う。
「オレ、知ってるよ?ハナ、さっきも泣いてたってこと。」
「な、なんで知ってるの?」
「外での二人の会話、全部聞かせてもらったからね。」
「レン、まさか、"盗聴"してたのか?」
「さっすがミツ。頭いいな!」
レンはバッグの中をまさぐって何かを探し始めた。すると中から紙切れが落ちる。全て英語で書かれている。レンのFBIカガク捜査官学校の課程修了書らしい。
(英語は得意だけど、これは読めないよ…。)
「それ、ハナなら読めるかもってミツと二人で話してたことがあるんだよ。ムリ?」
「ムリだよ!レンこそアメリカにいたんでしょ?読めないのおかしくない?」
「オレ、英語ニガテだし。」
(今までどうやって生活してたわけ?)
私の心のツッコミが聞こえたのか、英語の本格的な勉強は5日後、もう一度アメリカに行ったときに勉強するという。それと同時に、彼の手の動きが止まる。
「ほら。コイツだよ。この盗音機にバッチリ入ってるからね?二人の会話。」
「盗音機?盗聴機のマチガイだろ。」
「盗音機って、盗聴機と録音機を合体させたやつだよ!!ってか、なんでそれをレンが持ってるの?」
私はレンからキカイを奪い、底面を見てみた。すると、不敵な笑みを浮かべて、二人を見る。
「知らないの?」とでも言うかのように。
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オレは二人に明るく話しかけた。ハナは若干オレにキレ気味口調でバカと言ってきた。
あのときは何も考えられなくて、ただ、ハナとミツを守ることしか頭になかった。
オレも昔ハナに色々助けてもらったから、オレが助けるべきだって、思ったんだ。…気づいたら、ハナが泣いてた。
今日、泣くの何回目だよ。昔はめったに泣かなかったのにさ。いつからそんな泣き虫になったんだよ?独りのときは泣いてたのかなとか、考えてしまう。
とりあえず、服の袖で彼女の涙を拭った。ヤベー。ハナのお兄さんの気分だよ、オレ。こーいうのいいなぁ。
って、オレなんでこんなこと考えてんだ?
そもそもは、オレがアメリカにいたときに"試供品"として手渡されたキカイを病院内の病室前に設置して、様子を見てたら…ミツが泣いてるハナを見て抱き寄せてた。しかも、だんだん力を強めてたし。
前までなら、相変わらずだなって、笑って様子を見てられた…はずだったのに。
今、この光景を見て妙にムカついている自分がいた。
オレも、ハナを抱きしめてやりたい。でもオレにはそんな資格はない。オレは二人に、盗聴していたから外での会話も様子もわかってるって言って例のキカイを見せてみる。
このキカイのこと、知らないだろうなぁ。
……でもハナはこれが"盗聴機"と"録音機"を合わせ持つことを知っていた。しかも、オレの手からキカイを奪って、底のほうを見ている。
そして、片口角を若干上げてオレとミツのほうを見る。ハナがこーいう顔をするときは、オレらが知らないことを知っているときだ。
……なあハナ。オレらが傍にいない間に、何してたんだよ?なんで、このキカイのことを知ってるんだ?その様子じゃ、もっと知ってるはずだ。
オレ、ハナの全てを知ってると思ってた。
でもオレ、知らないことが多すぎるんだよなぁ。
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ふふ。やっぱりそうだ。"F・E・R・C・made in JAPAN"って箱の底に書いてある。レンは知らないみたい。
「この底に書いてある英語、ファー、イースト、リサーチ…って読むの。」
「何で知って…」
「だって私、ここの社員だもん。5カ月前から。」
所在地は社員以外には秘密。入りたい人がいれば別だけど…。そこは、学校のPC室を広くした感じで、パソコンがズラリと並んでる。1カ月に一回、自分の調べた事をレポートにまとめて提出。たまに発表会とかプレゼンをやるくらいで、すごい自由。
私が独りでいるところに社員の方が声を掛けてくれたのがキッカケ。自由に調べ物が出来るっていうから、入った。社員の人も、すごい優しいし。
「ハナ、そこに伊達 徹って名前のスゴ腕エンジニアいる?」
「いるよ。会いたい?」
「FBIの同僚が『ココにあるキカイはほとんどスゴ腕のエンジニアがいる日本の会社から輸入してるんだ。日本に一時帰国したら行くべき』って言ってたから、行って会ってみたいなあ。」
ミツが仕事内容を聞いてきた。
「いろんなことやってるけど、今は事件の報告書作成かな。といっても、ホントの殺人事件じゃなくて、火の玉とか、ミステリアスなヤツだよ。最近は霊媒かな?」
「なんだそれ…」
「自分の体に死者の魂を乗り移らせて、その人物になりきれるってヤツ。この能力は"綾里"って苗字の女性にしかないみたい。」
調べはしたけど、自分でも半信半疑ってことは秘密にしておく。
「レン、二人で行こうぜ。案内はハナに任せてさ。」
「わかった。じゃあ、レンが退院した後にね。
…あ、それからあのブローチ、ただのブローチだと思わないでね。」
私は、先程と同じく片口角を上げてそう言った。
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その翌日、レンは何事もなく退院し、私たちはF・E・R・Cの有能エージェントたちがいるエージェントルームに向かっていた。そこの扉の前でブローチをかざして10秒くらいすると扉が開いた。
そう、このエージェントルームはブローチとオーラを識別するという入念な防犯システムによって守られている。ブローチが入室許可証になっている、というワケだ。
そしてエージェント兼エンジニアの伊達 徹さんに施設内の案内をしてもらい、ミツとレンはここが気に入ったようで、すぐさまエージェントルームの一員になると、1人一台のパソコンと電子辞書が割り当てられた。
実はこの電子辞書には、ヤポーJAPANやGoggleなどの検索エンジンが入っている上に、パソコンのソフトウェアまでインストールできるようになっているのだ。
それから、レンは残りの3日間を実家で過ごし、最後の日にはエージェントルームのみんながお別れ会を開いてくれた。
その席で伊達さんは、「よく分かるカガク捜査入門」、ハゲ頭が特徴のエージェントルームの室長、柏木康一郎さんは、「危険物百科事典」というソフトウェアをそれぞれレンにあげていた。
柏木室長がくれたソフトウェアは、毒物、毒薬、毒性生物、危険物まで全てのデータが入っている。
それに加えて現場状況を入力すれば、どんな危険物が使われた可能性があるかコンピューターが弾き出してくれるという機能もあるのだ。
すると、レンはミツに声を掛けて、二人で部屋を出ていった。
私は、黙々と料理を口にしながら、閉まるドアを眺めていた。