崩れる幸せ
楽しんで貰えれば幸いです
酷く雨が降っていた
何も考えたくなかった
気付けば私は海と呼ばれる場所に来ていた
そこには奇妙な生物が居た____
私は子供の頃から何不自由ない生活を送っていた
裕福とは言えなかったが、生きていく上では困る事はない程で食事も記念日には豪勢な料理を振舞って貰えたし、欲しいものを選び買ってもらうこともできた、それだけでも父と母からも十分過ぎる程に愛を貰っていたと感じられる。
数年が経って大人になり騎士団と言う立派な仕事に就き私にも愛すべき妻子ができた
私の様なまだまだ未熟者に妻を最後まで愛せるか、子供を育てられるかなど不安な事も多く、不安感で長いこと苦労してしまったが両親に相談したところ、同じ悩みを抱えていたという事で私は、これが普通なのだと理解し不安感は忘れないよう、それでも少しの安堵を抱えた。まぁそんな不安もすぐに吹き飛んでしまい苦労と言う物を味わったのだが、それでも私は幸せと呼べる生活を送れていた。
「行ってらっしゃい」
「あぁ、行ってきます」
靴をトントンとリズミカルに床に叩きつけ履き心地を調整してからドアをガチャリと開け、私の大切な嫁と毎日変わらない挨拶を交わし、外へ出た。億劫な仕事を頑張れるおまじないのようなものだ、そう勝手に思っている……これがなければ仕事は続けられないだろう。
そんな変わらない日々、変わらない幸せ、何気ない会話でも私の心はいつだって満たされていた
家族の為にならいくらでも己の身を削る事をいとわないほどに
だが……
私の仕事柄だからか?
単に幸せそうだったから?
はたまた誰でも良かったのか?
仕事から家に帰った私に待っていたのは、幸せとは程遠いまさに地獄を体現したような空間だった。
血の匂いが充満し、大切な子供は胴体が2つに別れており、臓物や糞便が撒き散らされ近付けば強烈な異臭を放っていた。
妻は人とはもはや認識できないような悲惨な状態であり、もはや肉塊と呼んだ方が早いのではないかと思った。
そんな2人の姿を一目見た瞬間から私は嗚咽が止まらなかった
だが、頭は妙に冷静だった
どこからか笑い声が聞こえた
酷い笑い方だった……うっとおしい程の強い音の響きが頭を支配する。
犯人かと思い、憎悪と殺意を込め一瞬、辺りを見たが人の気配が感じられない
じゃぁこの笑い声は?一体誰が?そう疑問に思い、少し間を開けてから気付いた。
笑っていたのは私自身だった
「なぜ、私は……?」
あぁ、憎い
誰が?
____私だ
時間が経てば、いやでも自然と感情の整理がついてくる。
だがいくら時間が経ち感情の整理ができたところで1度死んでしまった人は戻らない、私はまた強い感情に頭の中を支配されそうになるが、このままではダメなのだと同時に強く感じた。
怒りと憎悪で震えおぼつかない左腕を伸ばし、子と遊ぶ為に購入したバットを力強く掴み、自分の頭を強く打ち付けた
____あぁ、痛い
強烈な痛みで感情を塗りつぶそうとした。痛みはじんわりと広がり、激しくなっていく
これで感情の整理は着いただろうか?いっそこのまま……
死後の世界があるのかは分からない。だがもしあるなら……
死ねば私はまた家族達と出会えるだろうか?
だがここで死んでしまえば妻にあの世でどやされてしまうだろう
だから今すぐ死ぬ訳にはいかないのだ少なくとも自死は……
死にたいのに死んではいけない……
よく分からない感情に襲われた……妙に虚しく、悲しくそして私はとにかく動いていたくなった。
これがやるせないと言う感情なのだろうか?
動いていたい、そう思いたった私は家を出た。
私は何も持たず、行く先を決めた訳でも無かったがただただ走り始めた。
走れば何も考えなくて済むのだと、この気持ちも多少は落ち着くのだと、そう思いたかったから
実際に気は紛れたてしまった
だからとにかく走った
そして
酷く雨が降っていた
何も考えたくなかった
気付けば私は海と呼ばれる場所に来ていた
見ればそこには奇妙な形をした生物が居た
一この化け物は私を殺してくれるかもしれない、そう思っただけで顔は綻び、前へ進もうとしてしまう……だが、私は進む足を無理やり止めて、しばらく悩んだ
自殺する訳にはいかない、ならばあくまで……あくまで、たまたまそこにいた化け物に殺されてしまったと言うことにする為にはどうすれば良いか?
手を顎に当て、その場に立ち続け考え
「貴方はここに何をしに来たの?」
そんな事を考えていた私の頭に声が響いた。辺りを見回したが誰もいない……いや、それは正確ではなく、この奇妙な生物だけがこの場にいる。
まさかこの生物が私に……?いやありえない、何故ならこの生物には言葉を発する器管が見当たらない
丸い大きな頭に1つの大きめな目と触手のような物が生えている事以外特に目立った特徴が無い
「ごめんなさい、驚かしてしまいましたか?」
また私の頭に言葉が響いた
誰だ?本当にこの生物が話しかけているのか?だが一体どうやって?全く検討がつかない
「聞きたいんだが……私に話しかけているのは君かい?」
「そうです、怖がらないの……?」
怯えていると言った感じだった。
自分から話しかけにきておいてなぜそんな事を聞くのか?
まぁいいか……
「私が君を怖がる理由は無いからね」
「本当に……?」
「あぁ、本当だよ」
なんだろう……この生物は
少し可愛いな
不覚にも私はそう思った。
だが先程に化け物呼ばわりをしてしまった事で少し心が痛い
私は申し訳ない気持ちがあった、だがこの生物と少し話をしてみようと思った。
話をして楽になるとは思わないし、人間でも無い生物に話しても分からないとは思ったが、このような生物であろうとも、今の私は少しでも縋っていたかった……今日あった事を話した。
「……突然だが、先程あった事を聞いてくれるかい」
「ぇ?分かりました」
話し始めるまでは、聞いてくれる訳がない、興味あるはずがない……そう思っていた
だがその生物は意外にも私の話を親身に聞いて、共に悲しんでくれた
私の心は幾許かは楽になった。
話を聞いてくれた事に先程は流れていなかった涙が自然と溢れた
私はちゃんと悲しんでいた事に少しの安堵を覚えた
それ以降は何があったか覚えていなかった。ただ、私はその日から毎日のように海へと足を運んでいた
理由は単純だ、あの生物と会って話をして、いつか殺して貰え無いかという淡い期待しているからだ
だがいくら会って話をしても殺されるような事は一切無かった
むしろこの化け物……いや、彼女は私がいつ訪れても嫌な顔一つせず歓迎してくれた
私はそれがたまらなく嬉しかったのだろう。ついつい彼女に甘えて毎日のように通ってしまった。
「今日も来てしまった……」
「気にしないでください、私はこれが嬉しいのですから」
触手を使って私の頭を優しく撫でてくれた。少し粘液が髪に絡みついてしまうが、そんなものはもはや気にならなくなってしまった、寧ろこれが今の私には嬉しかった。
「そうだ、今の仕事はやめたんだ」
「……仕事を?」
「そうだね……今の仕事をとてもじゃないが続けられる気はしなかったんだ」
私の仕事は王家直属の汚れ仕事を担う特殊騎士団の団長、そんな仕事柄だからなのか、当然多くの恨みを買うことになった。そのせいで私の家族が殺されてしまったのでは?そう考えると、とてもではないがこの仕事を続ける事に意味を見出だせなかった……ただ、1つだけ
「王には申し訳ない事をした」
少し苦笑が混じりの顔で、空を眺めた
「……ん?」
そんな私の視界を覆うものがあった。
あまりにも大きな影で、あまりにも高い位置に鎮座していた……それは
「燃える鳥……?」
赤く、赫く、紅く、緋く、強く燃え盛っていたあまりにも巨大な火ノ鳥……私は、あまりの大きさに唖然とした。
咄嗟に、彼女は大丈夫かと視線を落ろしまた違った赤々しい生物を視界に納めた。
「あ、久しぶりだなぁ」
触手を空に掲げ、左右へゆっくり振りまるで挨拶のような仕草を見せた。
「知り合いなのか……」
「そうです、弟のような……そんな存在です」
「弟……!?見た目からまるで違うのに」
「そんなに驚かなくても……」
「いや驚く」
あまりに驚愕な話に、つい目を見開いたが……
ここまで来ると、このような生物達の母と父が気になってくる。一体どのような存在なのだろうか……
「興味あるな……」
「……何に興味が?」
天に輝き揺らめく火ノ鳥が私の目を純粋無垢な子供のように照らしている、それのせいか私は……ただ心までもが子供に戻ってしまっているような、そんな気持ちで……ただ、思った言葉を吐露していた
「__キミに」
あれから数ヶ月が経った、私は……ここしばらく彼女の元へ行けていない。仕事を見つけ、只管に忙しかったからだ。
特段、会う約束を決めていた訳でもないが顔を見せられなかった事に詫びとして花束を抱えて小走りで海へ向かっていた。
海に着くのには数分とかからなかった、もしかすれば居ないのかもしれないと考えていたがそれは杞憂だった。彼女は今もその場で待ち続けて居たらしい……だが、彼女の隣に、もう1人私以外の誰か……人間が居た。
何故かは分からないが私はそれに対し、胸の内から燃える様な痛みを感じた……私はこの感情を知らない、痛み意外にも胸が重く締め付けられるようで、どこか身体がおぼつかなくなりそうになる。
その人間は、長年切られても手入れもされていないのか、酷く長くボサボサになっている薄い緑の髪で、その上からフードを被ったギザ歯で暗いサングラスをかけている青年のようで、ただ笑顔で……だけれど淡々としたような口調で彼女に言葉を投げかける。
「でさ〜君には死んでもらいたいんだよね」
「……は?」
読んでいただきありがとうございました。
彼女はタコっぽいだけのただのバケモンです、ただし……
ちなみにどのキャラも名前は出てきてませんが、最後に出します。
2〜3話くらいで完結させるつもりの短編連載的なものです




