表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライJK今日も征く  作者: ゆー
師と、弟子と。 〜約束事〜
8/16

第7話 息を合わせましょう

「…我こそが真の三國…は無いので、天下無双なり」


虚ろに煌めく空が消え、星々の輝く夜空の下。サヤが血に塗れた刀を払い、納めれば、既にその場に立っているのは、彼女と彼女の愛する弟子の二人だけであった。

化け物達の夥しい量の死体が積もる…かと思いきや、怪異は力尽きれば早々に塵となってしまうので、実際はそうでもない。そして、世界が戻れば、何も無かったかの様に元通り。そこはある意味では救いなのかもしれない。


耳に手を添えると、サヤは装着したインカムに声をかける。


「…常磐さん、任務完了。お迎えちょーだいな」

『分かりました。今から向かいます。…雪村さん』

「…ん?」

『お疲れ様でした』

「…よきにはからえ。後で、ジンくん撫でてあげてね」

『…考えておきます』


薄い感情の中に、優しい葛藤を確かに感じ取ったサヤは、ほくそ笑みながら通信を切った。中年親父の安いツンデレなど、若者にとっては、からかう為のおもちゃでしかない。


「師匠ー、お疲れー」


さて、どんな愉快な姿を晒してくれるのか。サヤが悪い笑みで妄想を広げていたところへ、肩で息をしていた弟子が、さあ勝利のハイタッチをいたしましょうと、手を上げながら騒がしく駆け寄ってくる。


「…うん。ジンくんも――」


あどけない姿に頬を緩ませていたサヤがその気配を感じ取ったのは、彼女が手を上げたその時であった。


「っ…ジンくん!」

「へ?うわっ!?」


突如として世界が移り変わり、二人の間の空間がまたも歪んだと思いきや、虚空に開いた亀裂の中から、先程までの小鬼とは比べ物にならない丸太の様に太い腕が突然現れ、彼女が手を伸ばすよりも早く、弟子にその牙を向ける。

風を切り裂く轟音に、一瞬、サヤの血の気が引いたが、拳が当たるその瞬間、素早く屈んでいた弟子がまたひょっこりと元気に姿を見せたので、ほっと小さく息をつく。


「師匠!」

「…うん。分かってる。ジンくん、こっち」


刀の柄に手を添え、戦闘態勢を崩さぬまま、サヤはジンを呼び寄せた。

ジンがサヤの隣に並んだそのタイミングで、腕が虚空を鷲掴むと、亀裂を無理矢理に押し広げ、その全容を徐々に明らかにさせていく。


『――――――ッッッ!!!!』


現れたのは、サヤ達の三倍以上はあろうかという巨大な体躯を誇る強靭な鬼。

手下だったのか、はたまた家族だったのかは知らないが、その凶悪な顔からは既に抑えきれない程の怒りを発して、対峙する二人を睨みつけている。


「(…危険度C……?いや、B級以上、かな)」


あくまでもサヤの主観ではあるが、連戦の疲れをものともせず、彼女は冷静に敵の戦力を分析した。

全身から放つ醜悪な殺気。先ほどまでの小鬼達とはまるで比べ物にならない。


「(…どちらにしても、今のジンくんには荷が重いか)」


この場は己が引き受けて、彼には後方支援に徹してもらった方がいい。


「…ジンくん、下がって――」

「大丈夫!」

「…む?」


そう結論づけたサヤの考えを、弟子の力強い声が遮った。


「…ジンくん?」

「大丈夫!」


「………」


思わず目を丸くする師匠に、弟子は再度同じ言葉を口にする。

弟子の瞳をじっと見る。疲れはあれど、恐れはない。そして揺るぎも。


「…そっか」


子の成長は早い。少し目を離した隙に、いつの間にやらまた一つ壁を乗り越えていた可愛い弟子の成長に、無意識にサヤの口から笑みが零れていた。


「…なら、背中預けちゃおっかな?」

「っ!うん!!」


サヤは腰を折ると、ジンの顔を覗き込んで優しく笑いかける。

それは、己を一人の戦士として認めた証。弟子は敵の眼前であることも忘れて、大きく顔を綻ばせた。

改めて武器を構えると、二人は強大な敵と向かい合う。


『――――――……』


鬼が獰猛に二人を睨みつける。

己の腰にも及ばない小さな生物。吹けば飛ぶようなそいつらは、生意気にも、まるで恐れる様子も無く、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。


それがただひたすらに、気に食わない。


『――――――!!!』


神社を揺るがす程の強烈かつ凶暴な咆哮を上げた鬼が、目の前で跳ね回る虫を潰すべく、鋼に覆われた左腕を振るう。


目標は、一番脆そうなガキだ。


「………!」


石畳を絹の様に削り取りながら、下から勢い良く迫り来る、まともに食らえばまず間違い無く半身が吹き飛ばされるであろう豪風。


それをジンは、なんとその場から身動ぎもせずに真正面から迎え撃った。


「ちょ」


一皮向けたと思っていた矢先の蛮行。思わず隣にいたサヤも、顔を真っ青にして目を見開いてしまう。

庇う暇もなく、視線の先で弟子の小さな身体が豪風に飲み込まれた。


「ジ…っ」


サヤの脳裏に、半分になった弟子の無残な姿が過ぎる。

視界がどす黒く染まりかけた、その瞬間。


『―――――ッッ!?』


突如、巨大な体躯の顔面が跳ね上がる。

いつの間にか鬼の腕の上にいた弟子が、その大きな顎に強烈な蹴りをお見舞いしたのだ。突如として、顔に襲い掛かった衝撃に、鬼もまた、サヤと同様に目を見開いていた。


「…ジンくん!?」


蹴りの反動で空に放り出された弟子の姿に、サヤの口から驚嘆の声が漏れる。


ジンが取った行動は、至極単純であった。

剛力が己を吹き飛ばすその瞬間、後ろに飛び退くことで衝撃を殺してみせたジンは、そのまま鬼の拳に抗うこと無く、運ばれる形で上昇。そして勢いが止まったその瞬間、拳に騎乗する形で身体を翻し、振り抜いた腕の上を疾走。無防備な顔面に攻撃を見舞ってみせた。


太い腕で死角となっていたからサヤには見えなかったが、年端もいかぬ少年がとるには、あまりに大胆過ぎる作戦。


「師匠!」


空中に舞いながら、弟子が師の名を呼ぶ。


「……!」


敵を見る。左手を振り上げていたから、脇腹ががら空き。サヤはすかさず疾走すると、無防備な脇腹にすれ違いざまの斬撃を叩き込む。

鋼鉄に覆われた肉体すら断ち切ってみせる、卓越した剣技。鬼の腹が深々と裂け、痛々しく鮮血が噴き出した。


「さっすが師匠!」


素晴らしい会心のコンビネーション。ジンも思わずガッツポーズ。


「…………………ジンくん後でお説教ね」

「何で!?」


だがそれはそれとして、ぶっつけで行うには少々やんちゃが過ぎる行動。

肝をこれでもかと冷やしたサヤは口を尖らせ、重たい溜息を吐き出した。


『……………!!!』


その時である。予想外の低評価に愕然とするジンの視線の先で、少なくない血が流れでる脇腹を押さえた鬼が、徐ろに腕から謎の煙を噴出し始めた。


「あれ!?」


そして、ジンは驚愕に目を見開く。

何と、手を離すと、あれだけ深かった鬼の出血が止まっているではないか。いや―――


「…掌から炎を出して焼くことで、無理矢理止血したんだね。それであの煙か」

「そんなこと出来るの?」

「…ジンくんは手から炎を出すのはまだ早いかな」

「出ないよっ!そうじゃなくて、そう考える頭があるんだってこと!」

「…確かに。知能という概念が存在しなさそうな筋肉のくせして、存外頭が回るんだね」

「そうそう。だって見るからに力だけに全振りしてそうな脳筋タイプじゃん。師匠が作るキャラとおんなじだね!」

「……し、失礼な。師匠はちゃんと考えた上で、当たらなければよかろうなのだの精神で全振りしてるの。あんなゴリゴリ肉達磨とこんなかわい子ちゃんを一緒にしないで」

「でも、それで結局追い詰められていつも俺に泣きつくよね?」

「…………ジンくんこそ、いっつも平均的に割り振るだけのつっまんないキャラのくせしてさ」

「はあー!?俺は師匠の面倒を見ることまで考えてちゃんとスキル構成も考えてますけどぉー!?」

「…いるよね。あれこれ考えてるつもりで、よくよく見るとほとんどの能力を活かせていない中途半端君。ぼく?スキルはとりあえず多ければ良いって訳ではないんでちゅよ?」

「はああー!!そういうこと言うんだ!!弟子にあるまじきばりぞーごんが口から飛び出しそう!なら、もう師匠の回復してあげないから!」

「構わんよ」

「師匠と遊ばないから!!」

「あ。それは困る。………やだ………」




『…………………………………………………………』


なんだ。こいつらは何なんだ。

対峙する己を放ったらかしにして、くだらない内輪揉めを始めた小さな存在達を前に、鬼はただひたすらに混乱していた。

止血したとはいえ、傷は見た目以上に深い。あんなに小さく、脆そうな刃がこれ程の深手を負わせたのだ。もう、奴らは侮っていい存在ではない。


「…なら師匠がこいつ倒したら、師匠の考えが正しいってことでいいよね?」

「俺がこいつ倒したら、俺が正しいってこと?」

『……………』

「…ふん。小僧っ子に体術を教えたのはどこのかわい子ちゃんだと思っているのか。見せてあげましょう、我が奥義『血骸崩拳ちがいほうけん』。相手は死ぬ」

「なら、俺だってこの間編み出した『滅殺爆殺・ウルトラジャスティスずんどこ掌』出すし。相手は死ぬ」

「…………………私が勝ったら、その技の名前『じんぱんち』に変えるから」

「やだよそんなパンみたいな技!?なら、俺が勝ったらその技の名前『ばりばりばーにんぐファイアー師匠ブロー』ね!」




「「………………」」




「「負けられない!!!」




……ない…………はず。


脇腹に奔る痛みを筋肉で無理矢理抑え込むと、鬼は拳を振るう。

当たれば何者をも砕く鉄拳。けれども、決して動きが鈍ったつもりもないというのに、奴らの身体は揺れる木の葉の様にすり抜けていく。

そして、隙を晒せば、狙い澄ましたかの様に苛烈な斬撃と強烈な打撃が飛んでくる。

どんな敵であろうと、剛力で押し潰してきた鬼にとって、それは初めての感覚だった。それでも、鬼には拳を振るうことしか出来はしない。


何度も振るう。


振り回す。


何度も。


遮二無二。


「………!」


これで何度目だろうか。大振りの拳を空振った瞬間、抑えこんだはずの傷口が開き、ついに血が噴き出した。刹那、目の前で飛び回るばかりだった人間が、すかさず踏み込んで、刀を振るった。

鋭いだけでなく、重さを伴う斬撃。傷口を削ぎ取られた激痛は、塩を塗り込まれるよりも遥かにきつい。鬼が苦悶の表情を浮かべると、更に畳み込む様に少年が、小さな体躯からは想像出来ない力の込められた水面蹴りで脚を刈り取った。鬼は堪らず膝をついてしまう。


『……〜っ!!』


地に手をついて、鬼は歯を食いしばりながら、それでも闘志潰えずに、石畳もろとも大地を握り締めると、悪意に満ちた視線で目の前を見据える。


『―――――』



いない。




何処へ。


呆気に取られる鬼の脇腹に、両側から優しく手が添えられた。


「『血骸』…」

「『滅殺爆殺ウルトラジャスティス』ぅー…(早口)」


視界の外から、声が聞こえ、鬼の全身が総毛立った、次の瞬間。


「『崩・拳(ずんどこ掌)』っ!!!」


異空の夜空に響き渡る、耳を劈く様な凄まじい打撃音。


鬼を挟み込むようにして、規則正しい構えから放たれた二人の強烈な一撃。それは奇しくも、鏡合わせの様に同じ動き。

左右から強烈な衝撃を、しかも寸分のズレもなく叩き込まれた鬼の身体の内側が、ぶつかり合った力によって、四方に暴れ回り、シェイクされる。

無理矢理例えるならば、内臓を引きずり出され、乱暴に引き千切られるが如き激痛、だろうか。人間であろうが、鬼であろうが、その様な苦痛、耐えられるはずもない。


『〜〜〜〜〜ッッッ!、……………―――』


堪らず口から大量の血を吐き出すと、鬼は成すすべも無く、静かに地に倒れ伏した。












「………迂闊」


常磐は吐き捨てる様に呟くと、車両のアクセルを更に踏み込んだ。

想定を遥かに超えた成果を上げてみせた二人の戦士。彼らの働きに正当に報いようと、簡潔に報告する要点だけを纏めて、車に乗り込んだ瞬間だった。


神社の周辺から、またもや異常なエネルギーが検出されたのだ。


通信を繋げても、未だに返事は無い。

ざわつく鼓動を感じながら、常磐は神社の前で車両を停めた。


「状況は…………」


焦りはあれど、油断は無い。

専用の改造を施した銃を携え、弾倉と安全装置を確認すると、常磐は神社に走り出す。


「む?」


…走り出そうとして、気づく。

先程の異常は、既に影も形も無い。


侵蝕は、既に収束していた。


「………ふむ」


いつでも撃てる態勢で警戒だけは解かずに、常磐は一段一段、踏みしめる様に階段を登っていく。


『――――!』

『―――――!?』


程なくして、上から声が聞こえてきた。

よく耳に馴染んだその声に、常磐はふっと息をつく。そして、最後の一段を飛ばして階段を踏破する。


彼の目の前に広がるその光景は――――






「…何度も言ってる。とどめをさしたのは師匠。だから権利は師匠にある」

「違うよ俺がやったよ!!最後に俺がバーってやってドカっとしたからあいつがグワァーってなったの見てたでしょ!?倒したの俺だよ!!」

「……そもそも、ジンくんのあの技、師匠が教えたやつでしょ?つまりパクリじゃない?あのさぁ、困りますよお客さん。今のご時世、そういうのには厳しいってご存知でしょ?」

「ち、違うし!師匠が教えてくれたのはもっとこう、ズバッとなるやつじゃん!俺がやったのはズオッとなるやつだから別物だし!!」

「………可愛くないもん、その名前。師匠はそんな技、断固として拒否します」

「はあー!!俺のネーミングセンスが悪いとでも言うの!?」

「そうだよ(迫真)」

「かっちーん!!弟子おこぷんぷん丸!!」






「…………………………」


起きたはずの異変の影など、欠片も感じさせずにはしゃぐ子供達。

綺麗に毒牙を抜かれた常磐は、ゆっくりと銃を下ろして、懐を探る。そして、すぐに己が禁煙していたことを思い出して、仕方なく側の鳥居にもたれかかると、夜空へと深い深い溜息を吐くのだった。
















▶必殺技


サヤが駄々…粘りに粘った結果、技は二人の連携技とすることにした。

尚、ジンは、『ハイパーデンジャラスシンクロぱんち』と名付けるつもりだった。

じゃんけんで勝った時、サヤは拳を天に突き上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ