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7.ニュー・ウィング宮殿へ

 「やっぱり、人違いじゃないのですか?」

 馬車が止まって降りるよう言われたので、ヴォーンは再び尋ねた。

「いえ、ヴォーン・マーベル、貴方を連れてくるようにと陛下は仰せでいらっしゃいます。決して人違いではございません」

 ヴォーンの目の前に座っていた騎士が立ち上がりながら答えた。騎士は穏やかな笑みを浮かべているのだが、ヴォーンには裏があるように思われる。もっとも、国王陛下の狙いが分かったところで、ヴォーンにはどうする事もできないが。

 ヴォーンには陛下に呼ばれるような理由などない。…いや、()()()()()()のだが、陛下のお耳に届いているわけがない。

「陛下をお待たせするわけにはいきません。どうぞこちらに」

 騎士がヴォーンに早く降りるよう催促する。ため息を吐き、渋々馬車を降りる。

 ヴォーンが馬車を降りたのは、ニュー・ウィング宮殿の一隅、貴族などが宮殿を訪れる際に使う停車場だ。本来ならヴォーンの如き者が立ち入れる場所ではない。()()()()なのだが…


 徴兵期間を終えたヴォーンとレノックスは、この日、王都サプントンに帰って来た。

 西正門には騎士が5人いた。本来ならこの西正門には騎士は2人しか常駐していないはずである。

「何かあったのか?」

「さぁ…」

 レノックスに聞いてみるが、予想通りの答えが返ってきた。

 訝しむながらも、ヴォーンとレノックスはいつも通り西正門をくぐって王都へ入ろうとした。

「貴方がヴォーン・マーベルでございますね。我々にご同行願います」

 騎士の1人が西正門をくぐったヴォーンに笑顔を向けて声をかけてきた。

「…はぁ、私がヴォーン・マーベルですが、騎士団が私にどのようなご用件で?」

「我々ではございません。国王陛下が貴方をお呼びでいらっしゃいます。陛下の命令にございますので、拒否することはできません。ご理解いただけましたか」

 一瞬、頭の中が真っ白になったが、すぐに意味を理解した。ヴォーンの選択肢は1つしかないようだ。

「…分かりました。レノックス、そういうことで俺は行かねばならんみたいだ。王都にいれば、また会えるだろう。それまで…」

 レノックスの方に向き直り、右手を差し出すと、レノックスが握り返してきた。

「あぁ、達者でな、ヴォーン」

「では、こちらに」

 騎士がヴォーンを促す。いつの間にやら、騎士の隣には馬車が用意されている。

 ヴォーンは全てを諦めた。何もしたくない。何も考えたくない。ただ、なされるがままに…。

 騎士に促されるままにヴォーンが馬車に乗り込むと、騎士は自分も乗り込んで馬車のドアを閉めた。窓の外を見ると、レノックスが手を振っている。ヴォーンが振り返そうとした瞬間、馬車が走り出した。

 さすが騎士団の馬車である。ヴォーンが振り返す間もなく、レノックスがあっという間に見えなくなった。

「急がせてしまい、申し訳ございません。陛下はニュー・ウィング宮殿にてお待ちでいらっしゃいます。あぁ、まだ名乗っていませんでしたね。私は騎士団第二隊隊長のマクマスター・ゲーデルと申します…」

 馬車は進む。窓の外の景色は流れる。騎士団第二隊隊長、マクマスター・ゲーデルは話し続ける。ヴォーンはそれを聞き流す…。

 馬車の行手には、ニュー・ウィング宮殿の荘厳な佇まいが浮かび上がっている…


 ガチャ。

「こちらで少しお待ちください。謁見の準備ができましたら、別の者が呼びに参ります」

 宮殿に着いてすぐにヴォーンが案内された部屋は、待合室のような一室だった。

「何かあれば、部屋の外に待機している騎士にお申し付けください」

 “逃げようと思うな”と暗に言い残して、ここまでヴォーンを案内してくれた騎士、マクマスター・ゲーデルは部屋を出て行った。部屋の中にヴォーンを1人残して。

 すぐに陛下の御前に通されるのではと期待していたヴォーンとしては、内心落胆したが、このまま陛下に会わずに帰れればいいと思う気持ちを否定できない自分がいるのも事実だった。

 部屋にあったソファーに腰を下ろし一息つくと、ふと、なぜ急がされたのか疑問に思った。どうせここで待つことになるのなら、急ぐ必要はなかったのではないか。家に帰ることも…

 家。親父とタリーがいる場所だ。なぜ今まで忘れていたのだろう。思い出したら、いろんな感情が込み上げてきた。元気にやっているだろうか。ヴォーンが魔法を使えることで迷惑をかけていないだろうか。なかなか帰ってこないと心配しているだろうか…。


 同じ頃、ニュー・ウィング宮殿の正門には3人の青年がやって来た。

 3人とも立派な馬に乗っている。横に並んで馬を駆って来た3人の内、両側の2人は服装からみて騎士だろう。とすると、中央の金髪の青年は国の重要人物(VIP)なのだろうが、服装は完全に庶民のそれである。縫口はボロボロだし、ところどころ擦り切れている。どこからどう見ても重要人物(VIP)には見えない。

 ニュー・ウィング宮殿正門を警備する騎士達もそう思ったのだろう、門の前で槍を交差させて尋ねた。

「何者だ。止まれ。ここから先はニュー・ウィング宮殿だぞ。」

「何と無礼な…」

「ルーファス殿下にあられるぞ」

「待て、確かにこの格好では誤解されても仕方あるまい。お前らの隊長を呼んできてくれ」

 左右の騎士が怒るのを制し、ルーファス殿下と呼ばれた中央の青年が冷静に指示を出す。

 “ルーファス殿下”と聞いて顔色を変えた騎士が、すぐに隊長を呼びにいった。

 ニュー・ウィング宮殿正門を警備する騎士達の隊長、騎士団第三隊隊長は早々とやってきた。来た時は部下の報告に半信半疑という表情だったが、青年の顔を見て即座に顔色を変え、深々と頭を下げて言った。

「これはルーファス殿下、大変失礼いたしました。どうぞお通りください」

「いや、こちらも紛らわしい服装ですまなかった。警備、ご苦労。これからもよろしく頼む。行くぞ」

 騎士達が頭を下げる中、顔色一つ変えず、金髪の青年(ルーファス殿下)は正門をくぐってニュー・ウィング宮殿に入っていった。

 ヴォーンは知る由もなかった。彼が待たされた理由は、ルーファス殿下の到着を待っていたからだということに。

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