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静寂

「雨、か。」

今日の夕は晴天が続くと思い自宅で物語を読もうと思っていたジョージだったが、アテが外れてしまった。

雨漏りに濡れないようにと既に読みかけていた本を慌てて棚に戻し、寝床で毛皮の毛布を被った。


ダニエルの遺骨は、多くの者が立ち入ることがない教会に安置されることになった。この村で初めて慈悲を受けた者として。あれ以来、村からは活気が失せていた。

村人のほとんどは未だ慈悲とダニエルの死、その関係に納得することができていないようだ。それを口に出す者はいなかったが、ジョージもまた同じだった。

頭ではわかっている。父さんは慈悲を受けたのだ。僕がそれを導いたんだ。神の元に召され、罪から解放され、安息を得たはずだ。

そうジョージは何度も自分に言い聞かせていたが、心の中に在る空虚は消えなかった。


翌朝ジョージが目を覚ますと、村は何やら騒然としてた。どうやら集会場の方だ。

何があったのだろう。ジョージは集会場へと急いだ。

「えっと、何か、あったのですか?」

集会場に集まる皆はジョージの姿を確認した瞬間身を(すく)めたが、重い間の後、村長夫人が口を開いた。

「…主人が、亡くなりました。」

村長が珍しく寝坊していると思い起こそうと触れたところ、その身は冷たくなっていた、とのことだった。

村の男たちで話し合ったところ、流行り病の可能性はないという結論に至った。


火葬はその日のうちに行われた。

遺体は腐る前に焼く。この村の風習、というよりは、誰も疑うことのない習癖だった。

広場で、村長を焼く煙が昇る。その最中に誰かが呟いた。

「…村長もか。早かったな。」

亡くなるにしてはそう早い年齢ではないはずだった。誰も口にすることはなかったが、何から早かったのかは皆、理解していた。

空気は、重苦しかった。ジョージがこれまで経験してきた火葬の中でも、これほどまでに気が沈む火葬は初めてだった。

ジョージは、耐えられなかった。なんとかしたい。皆の心を、少しでも軽くしたい。

そして、意を決して声を上げた。

「皆さん、聞いてください。」

こいつはまた何を言い出すのだろうかと、衆目は不安と冷たさで満ちていた。

それでもジョージは続けた。

「神の物語の中に、ヌーアという人物がいます。彼は世界に危機が迫ったとき、皆を守るための家、海を渡れる大きな家を作りました。神はその善行を祝福し、ヌーアを聖人として迎え入れました。」

「村長も、彼と同じです。村の皆を守るため、導くため、先頭に立ってここまで村の発展に貢献してきました。時に優しく、時に厳しく。神は、その行いを見ています。村長は今日、神の元へ召されたことでしょう。」

ジョージの言葉を聞いて皆、目を丸くしていた。だが、その静寂を破るように号泣する声が響く。

「あ、ぁ…うわあああああ!」

村長夫人だった。

別の家の夫人が慰めるように村長夫人を抱く。

その様子を見て、怒りに駆られた男がいた。

「おい、ジョージてめぇ、こんな時に…!」

「待って!」

それを止めたのもまた、村長夫人だった。

「…お願い、待って。お願い…」

夫人は嗚咽で言葉を続けることができなかったが、皆、夫人の言葉を待った。

やがて夫人が涙を拭い、鼻を啜りながら口を開く。

「…主人が亡くなって、悲しくなるだけなのだと思っていました。主人はただ、消えてしまうだけなのだと思っていました…。私には、神様とか、そういう難しいことはわかりません。でも今はジョージの言葉を聞いて、主人が誇らしいのです。」

そして続けた。

「ありがとうね、ジョージ…先生。」


この日から、火葬が行われるたびにジョージの言葉が求められるようになった。

これが村で初めて行われた、「葬儀」だった。

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