慈悲
ジョージは翌日、村の広場に皆を集めた。
「なあ、ジョージ…。頼むから、この縄を解いてくれ。一体、慈悲ってなんなんだよ…。」
何度同じことを問いかけただろう。ダニエルはまた、弱々しい声でジョージに問いかけた。
「心配しないで、父さん。全ては、うまくいくから。」
ジョージもまた、何度も同じ答えを返すのだった。
皆が、集まってきた。村長が怯えたようにジョージに尋ねる。
「ジョージ、ジョージよ。これは一体、なんなのだ。なぜダニエルを縛っているのだ…?ニック、ハモンド、今すぐ松明の火を消せ…!そのままではダニエルが…」
そう、この集会は一般的に火刑と呼ばれるものだった。
しかし、村人は火刑という言葉も知らなければ、その概念も持たなかった。ジョージもまた、例外ではなかった。
ニックもハモンドも、村長の問いかけに答えることも、動くこともできなかった。その姿は村長と同様に、怯えているようにも見えた。
広場の異様な緊張を裂くようにジョージが言った。
「みなさん!今日は急にお呼び立てして申し訳ありません。今日は、父が慈悲を与えられ、神の元へ召されるその姿を、是非…ご覧になっていってください。」
そして、続けた。
「ニック、ハモンド。火を。」
「し、しかし…」
ニックとハモンドはお互い目を合わせ、やはり躊躇った。
「大丈夫、僕を信じて。父さんは、これで救われるのだから。」
そのジョージの言葉が、ニックとハモンドの背中を押した。押してしまった。
「やめろ、頼む、やめてくれ…」
ダニエルの嘆きが虚しく響く。
ついに、彼の足元に敷かれる藁に、松明が投げ込まれた。
村中を悲鳴が包んだ。
「皆、はやく、桶を!水を!」
村長が叫んだ。男たちは走った。女たちは恐怖していた。子供たちは呆然としていた。
「ダニエル、心配するな!必ず助ける!」
最初の水が桶から放たれた。男たちが運ぶ水が次々と放たれる。
それでも、ダニエルを焦がす炎には、ただの微塵の効果も及ぼすことができなかった。
「熱い、熱い、熱い、熱い…!助けてくれ!ジョージ、ジョージ!」
ダニエルが叫ぶ。煙が沁みるのに、瞼を閉じることさえできなかった。咳き込むことさえもう叶わなかった。
そして、残る力を振り絞って呟いた。
「ジョージ、愛し、て…」
それが、ダニエルの最後の言葉になった。
ジョージは、焼ける父を見て考えていた。生きた人間が焼けるのを見るのは、これが初めてのことだった。
父に慈悲が与えられることが喜ばしくなるのだと思っていた。
もう父に会えないことが悲しくなるのだと思っていた。
そうか、人間は火に焼かれるとき、溶けるように崩れていくのか。
その考えの裏には、何の感情もなかった。
そして、何の感情も湧かない自身を、ひどく軽蔑していた。
やがて村人全員が諦観し立ち尽くす頃、火は収まりつつあり、太陽は中天をやや過ぎていた。
そしてジョージは我に返り、村人に振り返って言った。
「皆さん。我々は生まれながらに罪を抱えて生きています。もちろん、私も。」
「父さんは生前、その罪を放つことを止めることができませんでした。しかし、こうして今、慈悲を受けて神の元へ召されたのです。」
「神は、貴方がたを赦します。祈りましょう、共に。」
跪いたのか、それとも膝が崩れたのか。
村人の全員が身を低くし、ジョージと焼けたダニエルに向かい手を合わせ、祈りを捧げるのだった。




