第9話 邂逅
烈とミリアの戦いが始まる。
ミリアの先制攻撃。土煙を上げながら風が烈を切り裂く。
しかし烈は直前に避ける。
真正面から来ることを予想していたからだ。
「威力が増してる……。強くなってんなミリア!」
烈は褒めた。
しかし風で遠くから打たれまくったら一向に近づけない。若干の不利に冷や汗をかきながら、遂に禁忌を発動する。
「俺も見せてやるぜ!見てろ!」
平等の天秤━━━━
辺りが白く
今までと違う平等の天秤。それは
「えっ!?なんで?私とレツしか居ないはずなのに私の力が減っている?」
自己を含む力の均等化。
「お前の力を俺が受け取ったんだよ。これで平等だな。」
ミリアは驚愕の顔を表す。
「え!?そんなことできるようになったの!?」
「すげーだろ。」
烈はドヤ顔をする。
ミリアは賞賛した。リヤがトルに話しかける。
「あいつそんなことしてたの?」
と、そんなことを聞くが平等の天秤の修行はゼノにつけてもらったものなのでそんなこと知る訳もなく
「初めて見た……。」
もの珍しい目で見ていた。
烈はミリアに接近する。しかしミリアは風を飛ばし、近づけさせない。
めんどくさくなった烈は捨て身で攻めることにした。
「うぇ!?な、なに!?」
真正面から進んでいくとミリアは驚いていたが、落ち着いて低気圧を置き風を飛ばした。
烈は風を殴る素振りを見せた。
トルとの修行を思い出す。肉を切らせて骨を断つ。
烈の腕はズタズタに引き裂かれたが風を受け流すことが出来た。烈の顔は強ばったがその流れ拳はミリアの顔面を吹っ飛ばした。
ミリアは痛ったー!と頬を抑えながら立ち上がる。
烈の怪我をした自分の腕はぶらぶらと垂れている。
「大丈夫!?」
烈は痛みに耐えながら次の攻撃を繰り出そうとする。
「余計な心配すんな!」
ミリアは低気圧を置く、ただし範囲は大きい。烈をとにかく吹っ飛ばすことに特化している。
「何をするつもりだ!?」
烈は手も足も出ずに吹っ飛ばされる。
そしてミリアは貯め始める。烈は手も足も出ない。
凄まじい集中力だ。
「……止めなやばいやつかもしれんな!」
烈は風の壁を乗り越えようと必死に手足を動かすが、ズルズルと地面だけが引きずっている。
「くっそまずい!」
そしてミリアはニヤッといたずらに笑い
「行くぞ!真空波ーー!!」
その瞬間雑音が消えた。
キーーーーーーン
耳鳴りがとてつもなく響く。全身に鋭い痛みが走る。
烈は凄惨なダメージを負ったが、それはミリアも同じことのはず。
しかしミリアは烈よりは怪我をしていない。
自分に申し訳程度の低気圧を付与し、一部を殺した。
だが客観的に見たらどちらも重症。
ミリアは「はぁはぁ」と息切れしている。
「トル、大丈夫?」
「まぁ、多少は……」
観客にも障害が起きている。烈達はそんなことに気がつかず。
ミリアは汗を拭い
「もっと本気だすよ!」
と、限界を超える気でいるようだ。
烈は負けじと叫び、走り出す。
「うぉーっ!くらえ!」
風が四方八方から襲いかかる。
烈は最初こそ避けるが次の風は避けることが出来なかった。損傷を負ったが、たかが風。連続すると他の風と混合してしまう。
その事を考えると必然的に間が空く。
「甘いな!避けやすいぞ!ミリア!」
風を仕掛けている内に
ミリアが溜め始める。烈が警戒するが、前回の技のクールタイムを考えると余裕を持って強制解除することが出来る。
解除することが出来た。
そして殴り合いに発展する。
烈がミリアを殴るがミリアは高気圧で身体を包みダメージを抑えた。
このままではミリアの勝機は薄い。リヤとの修行を思い出す。
***
ミリアが上手くリヤの動きを捉えられない時に教えられたこと。
「戦略を考える上で大切なのは、相手のことをよく考えてそいつなら何をするかを考えてそれを逆手にとる。」
「ミリア、あんたの気圧変動は不意打ちにも長けている。あんたなりに工夫しな、」
「はーい」
***
と言われたことを思い出し、
ミリアは烈の性格を考える。
1つ思いついたが必ずしもそうなるとは限らない。しかしそんなことミリアが考える訳もなく。
ミリアが自身の腕を風に乗せて攻撃する。
烈はトルの攻撃を思い出し、身体を横に向き当たる面積を減らし、腕を巧みに動かしその「風」を受け流した。
そして生まれた隙。反撃はされるかもしれないがたかが触れられる程度だけ。それだけじゃ攻撃には及ばない。
「そこだ!」
拳を突き出す。
しかしミリアはニヤッと笑い。
「引っかかったな!」
烈は必ずかカウンターに出るはずだ。避けたとしてもそんなに大きくは避けないはずとミリアは見込んだ。
「なに!?」
今回は運がよくミリアの勘が当たり、烈の身体に優しく触れる。
そうするとメキメキと何かが軋み、崩れかけそうな音がした。
「ぐはっっ!!」
烈は血反吐を吐く。
内蔵に損傷が与えられ血が流れ込んでいるのだ。
「ちょっとレツ大丈夫なの!?」
リヤが心配している。
トルが冷や汗をかく。
「高気圧をレツの体に付与したんだ。低気圧は恐らくミリア自身に、高気圧を選んだ理由は慢性的な攻撃を狙った?」
ミリアも腹を抱えながら次の攻撃を出そうとしている。烈は悶え苦しんでいる。そして力をふりしぼり声を出す。
「俺の体に……付与したな?お前も……この痛みを受けろ!」
平等の天秤━━━━━
まさかの二回目。今度は力の均等化ではなく痛みの均等化。
「ぐぅっ!?」
この声は2人の声。2人は倒れた。
そしてトルが叫ぶ。
「ミリア!制御輝石を思いっきり握れ!」
その声をトリガーにミリアは制御輝石を力いっぱい握った。
「大丈夫か?2人とも」
トルとリヤは2人に近づく。
気圧の変動が終わったことでミリアと烈は一気に
「ぷはぁー!!」
と息が抜けた。そして急いで呼吸をする。
そして2人は笑う。
高らかに笑う。トルも次第に笑い、リヤは呆れている。
「しっかし、ほんと強くなったなミリア!」
「レツ……もね!」
烈とミリアは互いに褒め合う。
そしてトルがこの戦いをフィードバックする。
「ミリア、お前は当たって砕けろすぎる。もう少しリスクの少ない方法で攻撃すべきだ。レツはもう少し実戦を積むべきだったかな。体技を上手く組み込められて無かったかのように感じるよ。」
厳しい評価を貰った。ミリアと烈は顔が引き攣っている。
そしてトルとリヤの介抱によって家に帰った。
今日はゆっくり休むことに。
リヤが烈とミリアの怪我を処置している。
体のダメージが特に酷いのは烈だ。
「2人とも無理しすぎだよ。」
烈の腕に包帯(使用してない布)を巻きながらそういう。
ミリアが「あはは……」と微笑する。
2人の損傷が酷いところは内蔵。しかし素人には治せない。
処置に困っているとトルが思い出したかのように提案する。
「ここから東にずっと進むとソクリ街がある。そこにいるトントンに話を聞いてくれ、俺の元同僚だ。回復の輝石を扱えると聞いた。」
それはいい情報ではあるがこの怪我だらけの身体で遠くは行けなさそうではある。
「遠くないか?」
「普通に歩いても半日で着くから1日泊まり……ぐらいかな?」
普通の歩きができないのは置いといて、ミリアの補助もありきで恐らく行けそうではある。
「まぁ今の状態じゃ歩くことさえままならないだろうから。とりあえず今日は自宅療養だな。」
今日は送迎会(と言っても帰っては来るが)も兼ねて村長の家で休養することに。今日は修行は無いと思っていたが……。
「今日は戦略の座学を行う。わかったか?ミリア、レツ。そしてリヤ。」
「なんで私も!?」
先の戦いからまだまだ未熟だと感じたトルは動けないことを良いことにゲストルームへ皆を引っ張り座学を始めた。
「えぇー!つまんなーい!」
とミリアは退屈そうな態度をあからさまに出す。そしてぷいっとそっぽを向いている。
「座学は永遠に出来ます。」
体を動かすことより頭を動かす方が烈は好きなようだ。
前世でも成績はかなり良い。
「私関係ある!?戦わないよ!?」
と必死に必要性の無さを説明する。
トルがリヤの肩に手を置き
「まぁお前は大事な妹だしいざという時は自分を守れるようになって欲しいんだ。」
「トル……」
トルはリヤのことを大切に思っている。
だからこそ自分の身は大切にして欲しいと考えている。
「本当は私に自分より強くなって欲しいんでしょ。」
その思いとは裏腹に本当はトルは自分と同じ力を持って欲しいと思っていたようだ。
「バレた?」
「私言ったよね!?トルが強いからって私が強いとは限んないって!」
トルは言葉を遮るように後ろを向いた。
兄妹仲睦まじい会話をしていた。それを見たミリアは顔がほころんでいる。
「それはそうと、じゃあ座学に入るよ。まずはね」
そしてやっと座学に入ることになった。これを機により幅広い戦略を練ることができる。ミリアに出来なかった頭脳戦が出来るようになるかもしれない。
あっという間に時が流れ、日が沈んだ。
「さてと今日はこれぐらいで終わりかな」
トルは腕を伸ばす。烈は立ち上がり体を伸ばす。
「はいお疲れ、よし飯にすっぞ」
ふと横を見るとミリアが突っ伏してた。
烈はそれを見兼ねて
「……ってミリア、いつまで寝てんだ!」
バシッと背中を叩く。
「ミンダスイハッッ!!……え?もう終わった!?」
ミリアは最初こそは頑張って起きていたが午後の昼食をとった後の講義はとてつもない睡魔に襲われたらしい。
リヤはというと烈と同じくメモ的なのをしていた。
ただひとつ違うのは字の綺麗さ、リヤの字は繊細でまるで硬筆のお手本のような上手さ。
「お前、めっちゃ字綺麗だな。」
と、思わず指摘してしまった。
リヤが淡々とどこか自慢らしく言った。
「私は器用だからね。細かい作業はなんでも出来るんだよ。」
ミリアも便乗する。
「そーそー!どっかの不器用とは違うんだよー」
烈が怒りを露わにする。
「どこのどいつだ?それは」
「さーだれでしょー?」
そんなこんなで晩御飯を食べる。
みんなで楽しくご飯を囲む。
「みんな〜でっきたよー!」
出てきたご飯を見てみると
最初の料理を思い出した。これまでのご飯はほぼ全てミリアとリヤが作っていた。
そう考えるとこの味は
「なんか最初より上手くなったか?」
そう感じた。
「そう!?んっんー!女子力ってやつが上がっちまったようだな。」
ミリアはご機嫌上々で鼻を凄く高くしている。
リヤも腕をくみながらどこか自慢気に口角を上げていた。
トルが唐突にレツの肩を組み
「レツ、手料理が食えるの最後かもしれねーぞ〜?今の内たらふく食っとけ!」
と大盛りご飯を渡された。烈は食べる度に少し傷が痛むが、この恩を仇にする気は流石にないので最後まで食った。
「レツさん、どうです?この村は楽しかったですか?」
突然ゲレナ村長にそんなことを言われた。
そんなもの決まってる。
「修行は大変なことばかりだと思っていた。だけどリヤやトル達に出会って最高だったよ。楽しかった。」
ゲレナ村長は「ほほほ」と笑っていた。
そして烈達は部屋に戻る。
ここに来るまで色々なことがあった。大変だったなぁ〜と修行の厳しさを思い出している。
とりあえず体を休めるため今日ばかりは早く寝ようと思った時。
コンコンコン
窓から音がした。
烈は不思議に思った。
なぜならここは「2階」だからだ。
カーテンは締め切ってる。恐る恐る窓を開ける。
そこには長い髪を垂らした……
ゼノが居た。
「お前……何してんの?」
とりあえず窓を開けゼノを中へ入れた。
「いやーレツくんが修行に来てくれないから心配してね。何その体。」
事の顛末をゼノに話す。
ゼノは頭をかきながら考えていた。
「そうか、ならもう教えちゃおうかな。」
烈は疑問を露わにする。
「僕がシャルトで願う内容。つまり僕の思想。」
そういえば強くなったらシャルトで願う事を教えてくれる約束だった。
「それはね━━━━━━━━━」
突然夜風が部屋に入る。その寒さは烈の体をきしませた。
「わかった?じゃ、身体大切にしてよ?」
ゼノの思想を教えてもらい決意が固まった。
烈は相槌を打ちゼノを返した。
そして一夜を明けた。
目が覚めてリビングへ行くとミリアが準備を済ましていた。ミリアが烈を見るなり
「おっはよー!レツ!」
と元気よく挨拶してきた。烈もそれなりの挨拶をし準備をする。
準備と言ってもほぼ無いのだが。
準備を済ませ外へ出る。
朝食も食べた。お金も持った。ミリアも居る。
忘れ物は無いだろう。トル達はお見送りに来た。
「ミリアー、寂しくなるなぁ……」
「わたしもー……」
ミリアとリヤが抱き合っている。
「元気でやれよ……というのはおかしいかな?」
「まぁまた会えるしな。」
烈とトルに関しては別れをそんなに大事にしていない。
「レツ、恐らくお前を狙うやつらがいるかもしれない。気をつけろよ?」
トルは心配しているが、心なしか烈なら大丈夫だろうという気持ちが湧いている。
「おう。任せてろ」
拳を交わす。
「あ、トントンによろしく言うといてくれ。」
烈は了承の意を返し、
そして、烈とミリアは旅へ出た。
和やかな村を抜け素朴な土を歩いている時、ある少女がポツンと言葉を零す。
「まだつかないのー?」
数分も経たないうちにミリアがそんなことを聞いてきた。
「出発したばかりだぞ?まだまだこれからだぞ。」
と、返事するとミリアは明らかに気だるそうにする。
そしてミリアは何かを思い出したかのように烈に問いかける。
「レツってさ、リヤのことどう思う?」
と突拍子のないことを言った。
「は?、いや急にそんなこと言われてもなぁ……。」
「まぁ、良い子だな。努力家なところが見えるしな。」
ミリアが「ほほぉ〜」と顎を擦りながら相槌を打つ。
「それにな、もしリヤが俺と同じく平等を目指してるなら、きっと俺以上に凄い思想家になるかもしれんな。」
そんな相変わらずの烈を見て。
ミリアが呆れる。烈がテンパるところをミリアは見たかったようだ。
「なんでそっちの話になっちゃうかな〜。」
「あいつはなんか才能があるぜ。勘だけどな。」
烈がそう確信する。
リヤは原石だとそう言い張った。
その推測を聞いたミリアは唸って考える。
「私にはわかんないな〜。」
しかしそうは見えなかったようだ。
今度は烈が何かを思い出す。
「あ、そうだ。ルナ達は何してるんだろうな?」
ミリアが口を大きくして楽しそうに笑う。
「みんな私達と同じように修行頑張ってるのかな!?」
烈は笑い、ミリアを見て言う。
「俺と一緒に平等を目指しているからな、当たり前だ」
と肘を曲げて手をグッと握った。
そんなこんなの会話が続き、いつの間にか烈達は
初めの会話を思い出せないほどの会話を募らせた。
そして目の前に貧民街とは思えない豪華絢爛たる「街」がそこにはあった。
「なんだこれ……、ここは本当に貧民街か?」
ミリアが口を手に抑え驚きを隠せていない。
「セントラル・ルミナみたいな雰囲気じゃない……?これ。」
そうの通り、比喩するならまるでセントラル・ルミナのようだ。
「ここがソクリ街。」
綺麗に加工された石がソクリ街とそれ以外の境界線を張っている。
「街並みが凄いなぁ、どれもこれも綺麗に作られている。」
ミリアも目を輝かせている。すごそうな店をミリアは片っ端から行こうとする。
そんなミリアを烈は止める。
烈達は街中へと足を運ぶ。
「たしかトントンさんはわかりやすい治癒業を営んでいるらしい。……わかりやすいってなんだ?」
ともかく歩いてみると、目が勝手に視界に入れたものはストロボ照明に包まれた1つの建物だった。
でかでかしく看板が置いてあり、そこには
「ダイナミックドラゴンハート……?」
という奇妙な名前をした建物があった。
ミリアが突然。
「かっこいい……!」
と言った。烈はそれを聞き開いた口が塞がらなかった。
そんな感じで店の前で呆然としていたら中から誰かが出てきて
「やぁ君達、用だね?ここに用なんだね?ようこそダイナミックドラゴンハートへ!さぁさぁ!」
「え、え!?」
と、長ば強引に中に入れられてしまった。
そして椅子に投げ込まれ烈達を連れ込んだ女性が話を始める。
「さぁ、今日はどこを治して欲しいんだい?」
と言われたことから察するに恐らくここは……治癒業だ。もしかしたらこの女性がトントンかもしれない。
「あのー、トントンさんですか?」
と、聞くと突然女性が立ち上がりボサボサとした黒髪がふわっとなりその合間の赤髪が見えた。
「質問を質問で返すなぁー!!!」
と言って机を持ち上げようとしたが、「はっ!」となっていた。どうやら我に返ったようだ。
「すまない、興奮するとついこうなってしまうんだ。」
烈は「あはは……」と苦笑した。
落ち着いたところで話し始めた。
「トントンって随分久しぶりな呼ばれ方だ。トルの知り合いかい?」
「はいそうです。友達です。」
「そうかそうか、あいつに友達……がねぇ〜。」
その言葉に引っかかった。
「トントンさんとは友達じゃないんですか?」
トントンの目がキリっとなる。
どうやらなにか深い事情があるようだ。
「あたしらは戦友だった。まぁ、かなり昔の話だけどね。」
烈は思い出す。トルは戦いが嫌いだったこと。戦いを嫌いになるということは戦いを経験していないとその考えには至らない。
「まぁそれはいいや、今日はどした?治癒なら負けとくよ、1割ほど」
少な!と思ってしまったが、よく良く考えれば減らしているだけありがたいものだ。村長達のおかげで食費もかからないのでお金の心配はなかった。
「そういや挨拶まだだったな、あたしはニトン・ヴェスパー。」
トントンはどうやらあだ名だったらしい。恐らく2トンという所に引っ張られ、より発音しやすいトントンとなったんだろう。
「俺はレツ・スズキ。こっちはミリア。」
「どもー!」
そうして病院の待合室のようなところから診察室へと足を運ぶと、診察用のベッドがあった。
「じゃ、施術するよ。横になって2人とも。」
と、言われるまま横になる
「よし、やるよ。」
そう言うとトントンは目にかかりそうな髪をかきあげ見えやすくした。その時に見えた真面目な顔にはギャップを感じた。
「一応説明しておくと、私の潜在輝石は分割。君の体に手のひらを置く。そうすると」
ドクンっと繋がった感じがした。
「……すごいなこの傷。何したらこうなるの?」
烈は説明に困っているとトントンが
「大方、誰かと戦ったんでしょ?おそらくこの傷は何かで圧迫もしくは膨張させたことによる傷?」
と代わりに説明してくれた。
治癒業を営んでいるだけあって傷の出来方をわかっている。
「まぁ、少し痛いかもなー。ま、行けるっしょ。」
そしてトントンはそっと腹を切るような感じで指でなぞる。
「分割」
そう言うとピリッとする痛みが何回もした。それと引き換えに身体の内の痛みがスッキリと消えていた。
「そしてこの治癒輝石で、治癒。」
見てみると烈の身体の至る所に軽めの傷がある。それを順に直していく。
「ふぅーこんなもんかな」
見ると傷はスッキリ良くなっていた。
「治癒輝石は大きな傷は治せない。だが小さな傷は何度も治せる。だから私の潜在輝石で傷を分割してそれを治す。というのがあたしの仕事。」
理にかなった、発想力のある考えだ。
烈は興味深いと思った。
ミリアも同じように治した。
「おぉ〜ほんとだ!一瞬ちょっと痛かったけどすぐ治った!」
そして待合室で烈達はトントンと話す。
烈はふと思い出した。
「トントンさん、なんで最初の時、無理やり俺達を上がらせたんですか?」
トントンは腕を組み答えた。
「客が少ないんだ。店の前で呆然とされたら客だと思うだろ普通よぉ。」
思わない。しかしこんなにも完璧な治癒技術なのになぜこじんまりとしているのか。
「なんでこんなに客が居ないんですか?」
トントンは頭をかきながら苦笑する。
「みんなお金が無いし。痛い、よりゆっくり時間かけて治す方が安上がりなんよね。……それに」
「それに?」
「ここは貧民天国だ。怪我する方が少ない。」
貧民天国?それはなんだ?
貧民が天国のような気分になれる場所ということだろうか?
「いいかい?この世界には豊富に塩があるところがある。海と呼ばれるものだ。」
「海から塩を汲み上げるには貧民街を跨がなければならない。だから貴族達は言ったんだ。「海までの道真っ直ぐは貧民街ではなく邸宅街にする。」と。そうして貧民街の中の邸宅街として貧民天国なんて呼ばれている。」
確かに塩を採取するには岩塩と海水が必要だ。沿岸部は全て貧民街。
だからこんなに雰囲気が違ったのだ。
「ま、こっちの事情はこんなもんだ。トルに変わりは無いかい?リヤちゃんも元気してる?」
ここでの話を終え、今度はこっちの話をすることに。
「トルもリヤも元気だよー!多分昔と変わらないんじゃないかな!あ、あとゲレナ村長もー!」
ミリアがペラペラと自慢気に話す。
トントンがほっとしたような表情になる。
「そうか……、あのリヤちゃんがね。」
明るく振舞っている彼女は昔は違うとでも言う気なのだろうか。少し暗い表情をトントンはした。
「レツ、リヤちゃんのこと頼んだよ。彼女は寂しがり屋だから。」
烈は驚愕したあのリヤが寂しがり屋だったとは。
「強い兄を持つリヤちゃんはねどしてもトルと比べられちゃうんだよね。トルはそんなこと気にすることなくリヤちゃんと接してるけど、周りの目はごまかせないよね。」
ミリアが机をダンっと叩く。
「私はそんなこと思ってないから!トルもリヤもそれぞれいいとこあるんだから!」
ミリアが必死に反論する。
その様子にトントンは驚いている。それを見兼ねて烈は
「落ち着けミリア。」
ミリアを制止した。ミリアは烈を見る、しかし烈の目はギンギンになっていて身体が震えていた。
そうするとミリアは口を閉じた。
「ごめんな。ミリアちゃん。」
トントンはミリアに謝罪をした。
「レツ、もしリヤの様子がおかしかったりいつもより元気が無かったりしたら、そっと何かしてやれ。」
当然のこと。しかし何かやれと言われてもピンと来ない。
「何かってなんですか、抽象的すぎてわかんないんすけど。」
そう聞くと立ち上がるように言われ、言われるがまま立ち上がりそして、
「んなっ!」
「はわぁ……!」
暖かく柔らかいものに包まれた。顔で感じた程よい肌の質感と圧迫さに烈はもがいている。
「こんな感じにな。」
トントンはニヤっとする。
烈は動揺している。
「何しているんです……?」
あわあわとミリアは手を口元に寄せている。
そしてトントンは席に戻り
「ともかくだレツ、あいつらが困ってたら助けてやってあげろよな。」
烈も落ち着いたようでミリアを呼ぶ。
そして治療費を払いミリアと一緒に店を出る時に1つ。
「当たり前ですよ。なんせ俺は平等を目指す思想家っすからね。」
と、捨て台詞を吐いていった。
そして店は以前と同じように静寂を取り戻した。
「面白いやつと友達なったな、トル。」
日も暮れるというのに街どころか人間すらも賑やかさが絶えない。烈達は今日の泊まり宿を探している。
「少し不安になってきた。宿なんてあるのだろうか?」
あくまでもここは貧民街。貴族と接触しかねないところに泊まりたいなんていう人間はそうそういない。
そう不安になっていると、人気が少ない道が1つある。そこだけは街灯に包まれていない。なぜなら家が背面で向き合っているため、つける必要がないのだ。
その証拠にゴミが投棄されていた。
しかしよく目を凝らしてみるとゴミでは無い何かがある。なんだろうか人形……?。
それはバタッと倒れた。
「ねぇ、レツ。あれ人間じゃない?」
烈は走り出した。
そして着くと
「大丈夫か!?」
と呼びかける。倒れている少女は目を半分ほど開けると
「お腹……空きました…。」
と言った。今ここに来たミリアに烈は
「ミリア何か食べるもの買ってこい!」
「了解!」
と、ミリアにお金を渡し何かしらこの子のために食べ物を買ってきてと頼んだ。
ミリアが帰るまでの数分、烈はずっと呼びかける。
「寝るんじゃねぇぞ。俺が来たから大丈夫だ。寝るな。お前は生きろ!生きるべき人間だ。」
やっとのことでミリアが帰ってくるとすぐにパンを食べさせ水を与えた。
1口目は烈がさせると、少女は目が開き自分で食べるようになった。
その様子を見て2人は安心した。
少女は食べ終わると安心したかのように深呼吸をする。そして立ち上がり
「お二人とも、助けて頂きありがとうございます。」
と見た目と反して言葉遣いが丁重だった。
少女は自身の銀色の髪を綺麗にし話した。
「私の名前は、エリカ……ガジェと言います。」
スチームパンクの服を着ていて、本物の人形のように見えた。
「俺はレツ・スズキ」
「私はミリア・クロウ!ミリアって呼んでいいよ!こっちはレツね。」
エリカは目を見開き烈を見た。
「あなたが、レツ……。」
烈はその言葉に違和感を覚えた。
「俺を知ってるのか?」
エリカは目を爛々にして頷く。
「知ってるもなにも、平等平等と予選であれほど豪語してたじゃないですか!忘れられないですよ!」
どうやら予選を見ていた客の1人だったようだ。
「痺れましたよ、あれは。」
感嘆に包まれた言葉を聞き、烈は笑みを隠しきれなかった。
「そうだろそうだろ。平等は至福だろ〜。」
初めて平等を分かち合える人間と出会えたことに烈は嬉しく思っていた。
烈は平等を語り始めた。そんな烈の話をエリカは熱心に聞く。
ミリアは完全に置いてけぼりにされていた。
我慢の限界に達したミリアは二人の間にひょこっと飛びでた。
「ねぇ!、レツ、もうすぐ日も暮れるし宿探さないといけないじゃないの?」
それを聞いて烈もハッとする。
「そっか、忘れてたな。」
ミリアがエリカを見て提案する。
「エリカも連れてこーよ!1人じゃ心配だよ。」
と言うとエリカが手を振る。
「いやいや、そんないいですよ。」
烈が便乗してくる。
「いやこんな所に少女を置いていくのは人間として平等を目指すものとして捨ておけない。」
と言うとエリカは視線を逸らして頬を赤らめた。
そしてボソッと
「そこまで言うのなら……お願いします。」
と承諾の意を示した。
適当な宿を見つけると烈は店の前に立ち止まった。
そんな烈の行動にミリアは困惑する。
「どうしたの?入らないの?」
そう聞くと烈はミリアに近づく。
「ミリア、お前に頼みがある。というかお願いだ。」
ミリアは固まる。
一体何なのかが分からないからだ。
「えっとその……俺と一緒に寝るのはダメか?」
ミリアはまるで毛が逆立った猫のように驚く。
その言葉に面食らったミリアは言葉が上手く出ずにいた。しかし別に一緒に寝ること自体はそこまで嫌悪感はない。
そうしてると烈が続きを話す。
「なんでかって言うとな、トントンの時は余裕があったけど意外とかかったから、金が無くなると困るので節約のために部屋を少なく……したい。もちろん無理には」
ミリアは唖然とした。
しかしブンブンと顔を振り笑顔になって
「全然いいよ!さっさと行こ!」
と言って、中へ入っていく。
外装が綺麗だったのは当然のことだが、中はより磨きがかかっている。
白い大理石の上には赤いカーペットが1面中に敷いてあり、そこから見上げると、烈でさえ見たこともないシャンデリアが鎮座していた。
受付の人間は、美しく着飾っていた。
烈は受付を済ますと、部屋に案内される。
なんと部屋は
ワイドキングサイズベッドがあった。
簡単に言えばクソデカベッドというわけだ。
ミリアはその光景を見た瞬間一目散にエリカとベッドへダイブした。
烈はベッドに座るとここの宿の概要を見た。
「はへ〜温泉なんてあるんやな。」
ダイブしてたはずのミリアはいつの間にか烈の隣へ来ていた。
「温泉?ってなに?」
烈は写真の浴場を指して答える。
「大きい風呂の事だな。色んな種類がある。入ってきたらどうだ?俺も行ってみたい。」
久しぶりに温泉が楽しめると思った烈は2人を温泉へ行くことを促した。
ミリアはエリカを見つめて笑顔で
「エリカ!行こ!」
と言った。エリカも笑顔になって。
「はい!行きましょうミリアさん!」
「ミリアでいいって!」
そう言うとエリカは少し恥ずかしがって
「じゃあ、ミリア……お姉ちゃん」
と照れくさそうに言った。ミリアに手を繋がれて行く瞬間。エリカは烈に耳を貸してほしいと言われた。
「レツさん、お風呂早めに上がってください。話したいことがあります。」
そう言い残し、ミリアと共にお風呂へ行く。
烈はなんの事かしばらく考えたが考えてもキリがないので烈も追いかけるかのようにお風呂へ直行した。
広々しく、ゴツゴツとした岩が床となっていて大変趣がある。
烈は掛け湯をして身体を慣らした後、ゆっくりと熱気溢れる水面へと足を突っ込む。
入れた瞬間足元に冷たいような感覚が一瞬ブワッとした後、燃えるように身体は温まっていった。
そして浸かったあと外から熱気により圧迫され、喉からつい声が出る。
「あ〜」
寝てしまいそうな心地良さに包まれ、それをつつかれるようなお湯の熱さ。烈はゆったりとしている。
露天風呂があることに気づき、早速赴こうと上がると、爽やかさを感じた。そのまま外へ出ると、ちょうど良い夜風に吹かれ少し肌寒い。
気持ち早歩きで水面に足を入れる。
先程の室内とは違うところ。それは外と内の温度差がはっきりしている。
出している頭は涼しく、それ以外は熱い。
烈は少しの間浸かっているとふと思い出した。
(そういえば)
***
「レツさん、お風呂早めに上がってください。話したいことがあります。」
***
(とかエリカが言っていたな。)
そう思い、烈は風呂から出ると颯爽に着替えて部屋に戻った。
部屋に戻ると、銀髪を揺らし、先程とは違う雰囲気をした少女が1人佇んでいた。
「待ってましたよレツさん。」
エリカはついさっき部屋に着いたみたいだった。ミリアはと言うと全ての風呂を網羅すると言って様々な風呂を楽しんでいる最中だそうだ。
「それでなんだ?話したいことって。」
ついに本題へとはいる。
窓際で立って話している。座って話すほど穏やかな話題ではないのだろうか。
「レツさんは誰にも偏見を持たず、平等に接してくれるんですよね?、少なくともそれを目指しているんですよね。」
烈は答える。
「あぁ、そうだ。そのために俺はデザイアルへ行く。」
続けて話す。
「だがな、エリカ。誰しも平等に接すると言っても俺は世界を不平等にするやつは許せない。それだけはわかってくれ。」
エリカは何かを安心したかのようにほっと胸を撫で下ろす。そしてまた息を吸い上げゆっくり吐く。
「良かったです。そんなレツさんになら話しても良さそうですね。」
烈は不思議に思う。
なぜこんなにも確認作業を行っているのか。
「何を話すんだ。」
エリカは心して言う。
「信じて貰えないかもしれないですが私━━━━━」
直後、ここで出されるはずのない単語が聞こえてきた。
「━━━━━魔女なんです。」
烈はその言葉を聞き戦慄した。




