第8話 改革者
俺が越えなければならない「壁」
ゼノ。なぜここに居るのか、烈目当てなのか?
「そんな怖い顔しないでよ。」
警戒心を解くためかか、ニコッと笑うがそれが恐怖の象徴。
最初に会った時もそうだ。突然現れた。理由もなく烈にデザイアルのことも教えた。利点はないはずだ。変にライバルを増やすだけ。烈に何を期待してるのか……はたまた、ただ増やしたいだけ?
「僕が何しに来たか知りたそうな顔してるね。」
見透かされている。いやこんなのは普遍的反応だ。
ゼノは岩から降りた。黒いローブをヒラヒラとさせながら。
「当たり前だ。俺に突っかかりすぎだ。」
そう言うと、ゼノは腰に手を当てて言う。
「ごめんごめん、ただ少し気になったんだよね。」
烈に近づく。語り出すように顔だけを突き出す。
「君はこの世界の人間か?」
!? バレてる。誤魔化すか、正直に言うか。
ゼノに誤魔化しは効かなそうだ。そう思い烈は正直に話すことにした。
「……そうだ、俺はこの世界の人間じゃねぇ。」
ゼノが驚く。
「え、そうなの?」
二人の間に沈黙が走る。
微動だにしない。
そして最初に動いたのは烈。
「いやいやいやいや、お前が聞いてきたんだろーが。」
どうやらゼノは推測でものを言ったらしい。
「てか何その丸太。罰?贖罪?」
「あぁ、今外す。」
ゴロゴロと、身につけていた丸太を外した。
適当な部分があるが、当ててはいるので勘が鋭い人間なのだろう。と、その場を納得するための解釈をした。
「つまりレツくんはルミナリスの人間では無い……ということ、つまり異世界からの客人だ。なーんてね。」
そうか、異世界では日本の方が異世界というのか。
烈はなぜ異世界に呼ばれたのか。この根拠を見つけるための手がかりがないのに考えるのは時間の無駄だ。
「俺にそれを聞くためだけに来たわけじゃないだろ。」
「逆、かな?偶然だよ、レツくんと会ったのは」
納得してしまった。烈に必然的に会うのは魔法かなんかの能力じゃなきゃ不自然だ。烈に会ったのは何かのついでということだ。
「じゃあ何しに来たんだ?」
「簡単だよ。」
それを言うと同時にゼノはゲレソナ村の方向へと歩みを進めた。
そして衝撃の言葉をゼノは口走った。
「ゲレソナ村を破壊するよ。」
は?。様々な視覚からの考えが烈の頭に無数に入る。差別。気分。快楽。私情。運命。共同。雰囲気。極端な感情。なぜ、破壊する。
「どいてくれないかな、レツくん。」
脳に直接届いた「不愉快」は、感覚神経から脊髄に行き運動神経へと繋ぐという、脳に情報伝達する判断を壊す脊髄反射によりゼノの行く手を阻んだ。そして烈の目は極限まで高めた獣の目をしていた。その目は蔑みと怒り、
そして不平等を踏みにじり、根絶しようとするもの。
「通すわけねぇだろ。なんでそんなことする必要があんだよ。」
ゼノが烈と距離を開ける。
「ゲレソナ村というかね……。トルっていう人間を知ってるかい?」
トル……!なぜトルを知っているんだ。
いや、確かにそうだ。ゼノやガルドを凌ぐかもしれない存在を知らないわけがない。
「トルの翠眼。あれは危険な代物なんだよ。野放しには出来ない。世界を崩壊しかねない。可能性は潰しておくものだよ。僕がシャルトで願う物を破壊しかねない。」
「じゃあ君も、壊すしかないね。レツくん。」
2人の緊張はピリピリと今にも破裂しそうなほど張っていた。ゼノは未知数の強さで未だに何の輝石を使用しているかが読めない。だが烈にはどうでもよかった。ただ、目の前の不平等を叩き直したかった。
「お前の不平等な思想を改革してやんよ。」
最初に動いたのはもちろん烈だ。
予選で見せた圧倒的な近接戦の強さ。
だが烈は近接以外で戦う術を持たない。だからこそ命懸けで戦う。いやないことは無い。
烈が大振りの右でゼノを殴る。
しかしひらりと避けられ横腹を撫でるように張り手をされてしまった。
ぶっ飛ばされ呼吸が1つ2つと出来なくなり3つでようやく吸えることが出来た。
烈は地面を這いずるように立ち上がり倒れたことで開いた土汚れた手は固く握られていた。
「君が僕に勝てるわけないだろ?」
その言葉を流し近づいて行く。
走り出したその時ゼノは目の前に来た。
殴られそうになる。その瞬間にゼノは怯んだ。
烈が倒れた時に持っていた土が目に当たったのだ。
これは痛そうな顔をしている。
その隙に全力で殴る。
右左右左右左と、連撃を繰り出す。
ゼノが充血した目を開けるとまるでその威圧感に圧倒されたかのようにぶっ飛ばされた。実際はただ反撃されただけ。
烈が息が切れそうながらに質問する。
「ゼノ……、予選の時に見せたあの力はどこいったよ。俺如きに使えねーってんじゃあねぇだろうな。」
「正確には今は使えないんだよ。僕は物質的に存在している輝石を使ってないんだ。」
輝石を使用していないだと?。だったらなんであんな強いんだよ。普通の人間が出していい力じゃない。でもまて、物質的に存在していない……言い方が妙だ。
そうか逆だ。形がない輝石を使っているってことだ。
「だから条件がある。この能力は太陽が出ている時にしか使えないんだ。」
弱体化した状態でもこんなにも差が出るものか。
「んじゃ本気で行くよ。」
そう言った瞬間閃光のように一瞬で烈の前に現れる。
殺気が溢れている、殴られる!
ドゴッ
なんとか防━━━ぎきれてない!強すぎる。
烈は一旦距離を置く。朝買った輝石があれば良かったのにと後悔している。
だが輝石がないのは相手も同じ。
反撃する隙がないのがダメだ。1対1は厳しい。
!
そうだ。1対1じゃなく、1対多だ!
ゼノに攻撃を仕掛ける。
ゼノは低い姿勢でカウンターの構えだ。しかし烈はゼノの頭上を回転しながら飛び越え目の前にある顔を掴み回転の勢いで烈はゼノを地面に叩きつけた。
ゼノはギリギリで受け身をとる。受け身をとったといえど多少の脳震盪はある。烈はその間に下準備をする。
持ってきた丸太や民家にあった鍬やレーキをまばらに置く。
ゼノが立ち上がったところで烈は再び近接戦に戻る。鍬のような武器があったが使わない理由は、小細工をしているのがバレないようにするためだ。
烈はゼノに右ストレートで殴り込む、しかしゼノに顔面を殴られてしまった。その時に唇を切ってしまった。
烈が怯んだ瞬間にさらに追撃で腹に足蹴りを食らわされてしまった。
ぶっ飛ばされた。だが予想通り……!
2つの丸太を持ってゼノに突撃する。
「急に武器を持ち始め多少攻撃力が増えたか、」
ゼノが警戒する。しかし烈は突撃する。
突然1つの丸太をゼノの頭上へ放る。注意が上へむく。そして思いきり真っ直ぐに残った丸太を投げる。
烈は丸太の陰に隠れながら横に移動する。
ゼノは2つの丸太を防いだ。そして烈がニヤリとゼノの横に出てくる。
華麗なる右ストレート!!!
「喰らいやがれ!!!」
しかし正面丸太を止めた時の右腕の肘で防がれてしまった。
「僕にそんなもん簡単なトリックに引っかかるとでも?」
烈は笑う。
「策は二重三重に考えておく。そうだろ?」
ゼノは顔が引き締まる。烈はゼノを押し切る。ゼノはよろめいている足がふらっとなり、やっと足の位置が定まった瞬間に
「炸裂しろ!」
勢いよくゼノの後頭部に鋭い衝撃が迸る。レーキだ。レーキの先を踏んだことにより柄の部分が当たったのだ。
前に倒れそうになった所で烈がゼノを押し倒す。
マウントを取った。烈の心に余裕が生まれた。
「なんでだ、トルが何をしたって言うんだよ!」
よく顔を見てみると鼻血を出したボロボロのゼノが喋りだした。
「翠眼、トルはマタオクロスという緑色の眼をしている。彼の眼は彼の強さの秘密だよ。そういう一族なんだ。彼を殺す理由……そうだね、彼に生きててもらっては困るからね。彼が生きていたら僕の願いが果たされない。」
理不尽だ。そんなもの理不尽だ!
「お前の願いってなんなんだよ!」
「君には関係ないだろ。」
そう冷たく言い返し烈の重点をずらし、立ち上がった。
「もう君には策はないだろ?」
その通りだ。もう策なんて無い。
ここの踏ん張りで勝敗が決まる。
体力が許す限りの猛攻を続ける。
烈左フックを決める。ゼノが反撃する。丸太を再度あげる同じ作戦。そんな単調な攻撃を続けている。
烈の息が切れてきた。喉から音が鳴る。限界が近い。
「諦めなよ、もうさぁ。」
ゼノも疲れてはいるが、烈よりは体力に余裕がある。
ゼノが烈の顔面を殴る。防ぎきれはしなかったが、多少のダメージを防ぐ。
「諦めるわけねぇだろ。ここで終わるわけねぇだろ。」
トルは烈に対して優しくしてくれた。
応援してくれると言ってくれた。それを理不尽な理由で破壊することは許さない。
「ここで負けたら、デザイアルにも出れなくなる。神は見ているからね。」
ゼノはどこまで烈の思想を踏みにじるつもりなんだ?
ゼノは烈にとどめを刺そうとする。
「終わりだ、じゃあね。」
ドスッ、と、烈はよろける。薄れゆく意識で浮かんだ光景。
***
「レツ、君と一緒に平等を目指したい。自分がこれまでやってきたことが無駄じゃないと信じてみたい。」
「教会を追い出されたことに怒りが湧いている。そんな私にとって平等は良い世界か?」
「私もデザイアルへ連れてって。」
「それが烈だよ!力は弱いけど思想だけは誰にも負けないんだから!」
「その悔しさを糧にして誰にも負けない強者と……なれ?」
「なってやるよ、お前にも負けない最強に。」
「俺は、復讐する。あいつらに。」
***
仲間達が俺を応援してくれている。
だからより思想が形になるんだ。俺がその思想を曲げたら、無下にしてしまったら━━━━━━━━━
「俺がここで負けるかよぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
よろつく足を強く地面に叩きつけ、最後の力で顔面に全力で自分の身体をゼノに埋め込ませた。
2人とも風を切って吹っ飛ぶ。
地面に倒れ込み、時間が流れていく。
ゼノが立ち上がる。
「予想以上だよ。僕は君を甘く見てたかもしれないね。」
しゃがみこんで烈を見る。
烈はもう動けない。ここまでかと半分諦めている。
ゼノが烈に手を差し伸べる。
烈は腑に落ちない。どういう風の吹き回しだ?
恐る恐る手を伸ばすと立ち上がらせてくれた。
どっちにしろ烈は動くことは出来ない。岩に腰掛け、ゼノの話を警戒しながら聞く。
「レツくん、ごめんね。今のは全部演技だよ。」
鼻血をローブで拭いながら衝撃な一言を落とす。
烈は怒った。
「冗談でもそういうこと言うんじゃねーよ!」
ゼノは烈を見ながら静かに笑う。
烈はゼノの行動に引いてる。
「君らしいね。君の思想を試していたんだ。君ならどうするか、をね。」
続けて話す。
「君が思う思想がもし、僕との戦いでへし折れてしまう程度だったら本気で殺すつもりだったよ。」
ゼノから殺気が際立つ。
そよ風が吹く。少し肌寒い、ミリア達は今頃何をしているのだろうか。
「なんでお前はそこまで俺に執着するんだよ。」
当然ながらゼノの行動には疑問しかない。
「別に、ただ君には他の人にはない異質なものがあったからね。僕の勘は的中率100%だよ。」
当たってる。神のいたずらかと思えるほど、的中している。
「しかし、ここも随分懐かしい所だ。なんでレツくんはここにいるの?」
それはこっちの知りたいところだ。と言おうとしたがそれよりも気になることがある。
「懐かしいってなんだ?お前は魔女を知っているのか?」
ゼノが手を振って答える。
「ごめん、懐かしいだと語弊がある。レツくんはここの魔女の話を知ってるんだね。」
ゆっくり話し始めた。
「魔女というのは代々人を呪うために存在していると言われている。それは悪魔であり、忌み子なんだ。」
「実際、目撃情報が少ない。ただ推測することに分かることは、あいつらは人間を殺すことになんら躊躇を求めない。」
烈は目を閉じ深呼吸した。しかし怒りが滲み出ていて、それを見兼ねたゼノは烈に話したかったことを話す。
「レツくん、僕と修行しないかい?」
突風が吹く。
突然、そんなことを言われて烈は呆気に取られていた。
もちろん烈は疑問に思う。なぜデザイアルで敵である存在に鍛錬を積ませるのか。
「僕のシャルトの願い事、聞きたい?」
言うまでもないが、あぁ、と了承の意をゼノに述べた。しかし
「僕の願いは君にとてつもなく似ていると思うよ。もし君が強くなったら、デザイアルで十分にやっていけるようになったら、教えてあげよう。」
そう冷たく微笑むように烈を見つめた。
烈が望む平等な世界。それと類似しているゼノの願い。とても気になる。それに警戒はあれど修行をつけてくれるとのこと。断る理由はない。
「いいぜ、お前が平等を目指してるかは知らんが、修行できるなら構わねぇぜ」
承諾の意を介し、2人は奇妙な間柄が芽生えた。
一息ついたところでゼノが話し始める。
「言っとくけど僕の修行は厳しいよ?なにしろ一月でまともな人間に育てなきゃダメなんだから。」
烈はその言葉にイラッときた。しかし事実なのは間違いない。
「僕の修行は夜がメインだよ。」
厳しいと言っていたが夜だけの修行だと案外楽そうに聞こえる。
「夜以外もやったら体がもたないからね。」
その言葉にドキッとした。
地獄のような日々がまた戻ってくるのか……。
「それじゃあ明日の僕との修行でしてもらうルーティーンは」
それは地獄のようなスケジュールだった。
全部聞き終えた時、烈はゼノに質問をした。
「ゼノ、お前は平等をどう思う?」
思想を試していた。とゼノは言っていた。ならば平等を目指す烈に何かを見出そうとしていたのではないか。
「面白い考えだと思うよ。でも難しいんじゃないかな。なにしろ、互いを思いやらなければならないのだから。」
平等とはなにか、今ひとつ難しいところではある。
しかし烈みたいな不平等な人間を増やさないために平等は必要だとは思う。が、実現が本当に難しい。
「でもそんな難しいことは出来る、だろ?」
烈が口角を上げる。このルミナリスには不可能を可能にする物がある。
「シャルト……だね。君の終着点。」
烈が空を見上げ反論する。
「いや、それだけじゃねぇよ。シャルトを使って平等な世界をこの目で見た時、その景色を使って俺は現実世界で平等を目指したい。」
ゼノは一瞬目を開いたあと直ぐに目を閉じて微笑む。
「そういえば、そうだった。君は異世界から来た事。今度は実現することで君の思想を見せてよ。明日の夜、ここで待ってるよ。」
そしてゼノは岩から身体を起こし、手を振って闇に消えていった。烈はそれをみとどけたあと、走って村へ帰っていった。
時刻は既にゼノとの戦いが昨日の事となった。
リヤとミリアとどんな顔をして会えばいいのか分からない。トルも許してくれそうだろうか。
明日からデザイアルまで過酷な毎日が続きそうだ。
不安と億劫さが募りため息を漏らしてしまった。
村に着くとほんのり明かりがついてるところがチラホラあり、安心感に包まれる。村長の家のドアを開けると誰も居なかった。恐らくみんな寝てるのだろう。
と、床をきしませないように歩くと人影が見えた。
リヤだ。リヤがこちらに気づく、烈は気まずそうにしながら歩きだす。リヤがいる方向に部屋があるからだ。
すれ違うその瞬間。
「別にそんな顔しなくていいわよ、わざとじゃないことぐらいわかってんだから。」
その言葉に驚いた烈は振り返る。リヤは顔を背いたまま
「レツもギスギスした関係は好きじゃないでしょ。私もずっと気まずいのは嫌い。」
そうキッパリと言って、自分の部屋に入っていった。
烈の心はなんだかスッキリした。良かった。ここで嫌われてしまったらどう過ごそうかを迷ってたから。
烈は疲れた身体を癒すためにお風呂に入ることにした。しっかりと確認しながらゆっくりと入っていった。
至福の時間で、久しい時間であった。
とにかく今日は休み抜くことに決めたのだ。
風呂をあがった烈は
自分の部屋に入る。時刻は2時、まだ起きれる。ゲストルームにあった本を漁り、持ってきたものをとりあえず読む。そこでふと思う。
地理的状況を見てみると不可解な点がある。
それは貧民街と邸宅街の境。不自然なほどに境が綺麗なのだ。まるで作られたかのように。
3時を過ぎると睡魔が眼を包むのでそのまま眠ることにした。
翌日、朝早く起きるとトルがスイダミンハを飲んでいる。烈が
「それ、俺も貰っていいか?」
と、おすそ分けを要求する。トルは即、了承の意を返した。
「ええよ、話したいこともあるし」
話したいこと……一体なんだろうか。
スイダミンハをカップに注ぎトルの前に座る。
「んで、話したいことって?」
トルがスイダミンハをソーサーに置き、ゆっくりと話し始める。
「よし烈、俺と修行しないか?」
目を見開く。
「ちょ、烈!?スイダミンハ零してるぞ!」
それで気づく、ピリピリと熱さを感じる。
「アッツ!!」
絶叫した。
零したものを拭いて、とりあえず替えの服をトルに貸してもらった。
「まじでかよ!トル!」
トルはニヤリと笑っていた。
戦いを嫌いと言っていたがあれはどうなったのか?
「お前が言った通りレツ、俺は君に対話をしたい。今日からデザイアルで余裕で通用する力を俺がつけてやるよ!」
ありがたすぎる。しかし烈にはゼノとい先客がいる。
修行を受けるには時間が、
「朝食後から日が暮れる前まではどうだろうか。これなら無理もないだろ?」
そんな心配は杞憂となってしまった。
2人の修行を受けることが可能となった。確実に強くなるに違いない、しかしその分心身に影響を及ぼす。
そんな小さなデメリットで平等を実現できるならやらない選択肢はあるだろうか。いやないだろう。
よってもちろん烈はゼノの誘いを
「あぁ、いいぜ。乗った。」
軽快に承諾した。
そして朝食を済ませた後、外へ出ようとする。そしたらミリアとリヤに会う。
「おはよー!レツー!どこ行くのー?」
ミリアは朝とは思えないテンションで問いかける。
「今から外でトルと修行をする。」
ミリアがおー!?と、心踊っていた。リヤは驚き呆れて、
「トールー!戦いが嫌いって言ってたのは嘘だったの?」
そういうとトルは
「別に、これは戦いじゃないよ。俺が嫌いな戦いじゃあないよ。俺はこういうのが好きなんだ。きっと。いや、レツだからかな?、」
と、そんなふざけたことを言うとリヤは鼻で息をフッと吐いて安堵を表した。
「やかましいこと言わないで出るぞ。」
烈が痺れを切らしトルを外へと連れてく。
烈の去り際にミリアが叫ぶ。
「絶対強くなってよー!」
と、応援をされる。
もちろん烈は
「おう」
と、若干後ろを向き口角を上げて言った。
一月後の自分が楽しみだ。
外へ出る。
外は賑やかでトルに挨拶する村人もいた。
村長の息子で、愛想が良いなんて強い。
そんな中、とある男が太い声で烈に話しかけてきた。
「おぉ〜い!レツー!トルー!」
その声の方向へ見るとクサリャーだった。
相変わらず歳を重ねているはずなのに元気で若い。
「レツ、どこかに行くのか?」
「あぁ、トルとな」
「そうかそうか!」
大きな声で笑う。笑う要素がどこにあるのか分からないが。何かを思い出したトルがクサリャーに質問する。
「そういや、俺の剣はできているのか?」
剣。貧民街の人間でも剣を持っているのはあまり見かけない。烈が世間知らずなだけかもしれないが。
「あぁ、あれはもう少しで出来そうだ。」
「そうか、まぁ急ぐことは無い……いや。レツのためにも頼んだぞ。」
烈のため?嫌な予感がするが、とりあえず荒野へ行く。
「さぁてと、レツ。基礎の格闘技を教えてあげよう、君との戦闘はあまり見てないから戦いの中で教えてやるよ。」
早速の戦闘。と言ってもトルはただ受け流すだけだろう。
「行くぜ」
烈の右腕の攻撃がトルに炸裂する。
しかし止められてしまう。
「押しが弱いな。速さが足りない。普通の人より弱い感じがする。」
右腕左腕右足左足と、あらゆるものを数分間ずっと指摘されまくった。
良い所はほぼなかった。しかし一つだけ
「こんなに打っても諦めないのすごいね、かれこれ数十分罵倒しまくってるのに。」
精神の強さを褒められた。
そこだけが取り柄だと烈自身も認めている。
「うん、だいたい分かった。レツ、まともな戦闘をしたことないだろ。正々堂々の戦い、殴り合いだけの、ね。」
ライララとの戦いが正々堂々ならそうだが、殴り合いだけでは無い。
転生する前は普通のしそうかだったんだから実戦経験は少ない。
「でも、その場合簡単だよ。力の使い方を教えればいいんだから。」
確かに。早速実践も兼ねて
戦いながら教えてもらうことに。
「レツ、君はとにかく俺の攻撃を受け流せ。反撃できるならしてもいいけど、君がしなければならないのはあくまで守りだ。」
どっちかというと正面突破の殴り合いの方が烈は好きだ。
しかし楽しいことばかりが過程じゃないので仕方なく承諾する。
「それじゃあ行くよ。」
その掛け声の後トルは地面を蹴り、烈に向かって突進する。
最初の攻撃は食らってしまった。烈はあまりの痛さに絶句している。トルは距離を置き話す。
「ほらほらどした?身体全体を使って受け流せ!そうだな、お前は今まで平等を求めるために何をしてきたんだ?お前ならできるはずだぜ。」
その言葉に烈は真剣な表情と化す。
受け流しの具体的な方法は烈には分からない。しかし、烈は攻撃の避け方を知っているはず。
まずは前世の討論でのインプット。そして数少ない実戦のアウトプット。
これを上手く使えれば。
烈はトルが放つ拳を動かずに受け流した。
「さすがだね。今のはフェイント。避けたところを打つ、さすがに厳しいかなと思ったけど行けそうだね。」
相手の行動をよく見る。
大体の避けは2通り。さっきのは「無視」だ。相手が討論をしかけた時、逃げ場所が無いほど完ぺきな論なら変に取り繕うとせずに逃げなければいい。勝手に自滅する。
「まだまだ行くよ!」
そして第2。論点をずらす。あえて論点をずらすように導くと。
そして烈はトルの攻撃を横に受け流し、
論点をずらしたことで隙が生まれる。そこを目掛けて論破する。
生まれた横腹の隙に反撃を打つ。
バギィッ!
トルは後方に飛ばされて立った。
上手くいくとは思わなかった。
「いいじゃあないか!レツ!その意気だぞ!」
レツは褒められ気分は高揚する。
そして少しだけ調子に乗って、
「余裕だぜ!トル!このまま本気で来やがれ!」
トルが嬉しそうに声を出す。
「おー!ほんとに?」
そして思い切り力む。
「じゃあ行くよ!レツ!」
その掛け声と共にトルは走り出した。
烈はニヤリと自信満々に受け流そうとする。
烈はトルが拳の突き出しを受け止めようとした時
目の前に見える光景は真っ直ぐにそびえる太陽だった。
「これがフェイント!」
受け流し……、はできなかったが、防ぐことは出来た。
肉体が、警戒している状態ではあったのだろう。
「さすがにこれは対応しきれなかったね。これをずっと続けるぞ。」
こうして段々と2人の影面積は狭くなっていった。
烈は完全に疲れ切っていた。汗を垂れ流して、身体が痙攣している。トルはレツの様子を見て
「レツ!そろそろ昼食にすっかー?」
烈は見下されたと思い、既に息が切れていたが頑張って言葉を発した。
「舐めんじゃあねぇ!まだまだやる━━━━」
その瞬間、グルルルと何かが悲鳴をあげる音がした。
「……、飯にしよっか!」
半ば強制的にご飯に連れ出された烈(そういう体)。
家に帰るとゲレナ村長がリビングに座っていた。
「レツさん、おかえりなさい。今ミリアさんとリヤが料理をしていますよ。」
なんと疲れきった烈とトルのために精がつく料理をしてくれているとは、ミリアの成長を感じた。
汗をかいたのでタオルで身体を拭いている。拭いたあとのスッキリさは素晴らしいものだった。
しばらくしていると、軽快なステップで皿を持ってくるミリアと「危ないわよ?」と注意しながら歩くリヤが現れた。
皿の上には香ばしく、刺激がある匂いがした。1度臭ったら忘れられなさそうなものだった。
「へいお待ち!貧民街特製、ガラクタ丼だよ!」
中身を見てみると、鶏肉が入ってはいるが、皮のものばかりで一見高脂質に見えるが、茹でて脂質はしっかり落としてある。そしてレバーも入っている。ただし匂いと見た目から野菜(烈が推測するに、ニンニク、ショウガ、ニラ、玉ねぎ等)でしっかりと臭みは取れている。しかし貧民街だからだろうか、普段の家庭で使われなさそうな肉の部位を使っている。
「これどこで買ってきた?」
ミリアは天真爛漫に答える。
「ふふーん!貧民の掟その3、使えるものは使っとけ!、みんなが捨てる予定だったお肉を再利用したのだよ!刺激臭がするのは、そこら辺の草を引っこ抜いたんだよ!大丈夫大丈夫!一応薬草らしいし水で洗ったから!」
そのセリフのせいで、烈の頭に本来存在して欲しくない不安が芽生え始めた。
漠然とした不安があるが、とりあえず食してみる。
塩味が強く、疲れた身体に効いてくる栄養がこの食事を通してヌルりと入ってきた。
素晴らしい味だ。
思わず感嘆の声が口から漏れる。
「ねぇ、リヤ、レツが食べてるのリヤが作ったやつじゃない?」
小声でそう言う。からかわれたリヤは顔が赤くなり。
「だからなによ!あ、あんまりそういうこと言うんじゃない!」
と、ミリアに猛反発する。しかしリヤは満更でもなく烈のところをチラチラとみている。
一方烈は笑みがこぼれる勢いでご飯が口から溢れそうになる。
「なんだこれ、めちゃおいしい……!温かくて今まで食べてきたご飯の中でいちばん美味いかもしれねぇ。」
褒め言葉が出る度に、リヤの顔は沸騰する。
しかし烈は母親が健在だった以降まともな食事を取っていないので信頼度は今一つである。
「なぁ、レツこの後はより強く修行するぞ。」
嬉々としてトルに言われ、これは骨が折れそうだな。
食事を取り終わったあと、早速家を出た。
そしてまた同じ荒野で守護のトレーニングを続ける。
一方、烈達を見送ったミリアとリヤは何かを秘密裏に話していた。
「ほんと諦めないわね。トルはなんであんなやつに付き合うんだろ。」
と、烈達が出た何分か後にミリア達も出ていた。
烈達が修行している間なにもミリアは何もしていないわけではない。一緒に平等を目指すと誓った仲間なのだから。
村外れにある廃墟に着いた。なぜかここは神聖な雰囲気で貧民街の見た目はしているが、規模はセントラル・ルミナにあっても違和感はないほどの大きさだった。
ガラスのない窓所と天井を覆う生い茂る葉から木漏れ日が指す。
ミリアは黒の正装に着替えており、その場でストレッチをしていた。
一方リヤは、正装らしき正装も無いので比較的動きやすいショーパンで臨んでいる。
「急に修行したいだなんて、珍しいね。」
ミリアが目を閉じて健やかに笑う。
「へへーん、試したいこともあるし。なにより、今よりもっともーっと強くなりたいからね。」
リヤがジトーっとなる。
「デザイアルのため?、ほんと平等好きね。」
「私は平等を信じてるから、きっと世界は豊かになるよ!リヤも一緒に目指そ?」
突然そんなこと言われたリヤは答えを出せずにいた。世界を変えるという規模の大きな話には少々手が出しづらく、
「私はそういうのは好きじゃあないなぁ。」
と、中途半端な返事をした。さすがに失礼かなと思って、ミリアはどう思うだろうかとリヤは少し心配する。謝罪をしようとした時、
「レツもいるよ?」
「やかましいわ!」
と、何も思っていないかのような返事をされた。
リヤの心に安堵感が灯る。
「じゃあ早速始めるよ!」
ミリアの修行が始まる。
しかしミリアは修行内容をリヤにしっかりと伝えておらず、
「私は何をしとけばいいの?」
自然と疑問を作った。
「私の輝石を受けとけばいいよ!」
リヤは驚愕する。
「だ、大丈夫なの?それ。」
「大丈夫大丈夫!」
と、全くの信頼性の無い大丈夫をリヤは受け取った。
心配が募ったが、多少鍛えてはいるので力はある。
「私の制御輝石を試すだけだから、そんなに力は出ないはずだよ。」
そう言って、風を吹かすとミリアは宙に浮き、転んでしまった。
「アイタ!」
リヤは呆れながらミリアを起こした。
「制御の仕方がいまいち分からないなぁ?」
輝石を強く握ったり弱く握ったりしている。
「イメージを変えてみたらどうだろう。」
そこでリヤが提案する。
「イメージを変える?」
ミリアは恐らく工夫しきれていない。
より簡単に制御できる方法を見つければ良い。
リヤは具体的な方法を提示した。
「ミリアは多分抑え込めるっていう感じでやってるでしょ?。それを絞り込むイメージでやってみて、容量を減らすんじゃなくて範囲を減らすんだよ。」
ミリアはふむふむと話を真剣に聞いている。
「ほら、やってみてよ。」
ミリアは手を翳す。そしてキュッと滑らかにかつ素早く右腕の指を小指から順に閉じていく。
すると、緩やかな風が勢いを帯びて、それを犠牲に範囲が狭くなり、鋭い刃のようになった。
そしてそれを放つと、朽ちた廃墟の壁を小さく貫通した。
「おぉぉー!ねぇ!リヤ受けてみて!」
「死ぬわ!」
上機嫌でリヤに要求したが、ツッコまれてしまった。
「でもでもー……、」
と、残念そうな顔をしている。
仕方の無いなぁ〜と、リヤは渋々承諾すると、
ミリアの顔はパァーっと笑顔になる。
「いいよ来ても、多少の攻撃なら相殺できるから。」
ミリアが何かを思いついたかのように手を打つ。
そして輝石を2つ持って腕をクロスし身構える。
リヤも腰を低くし戦闘態勢に入る。
「決闘ってことだ!行くぞ、リヤ!」
なんでそうなるかは分からないが
とにかくやろう。
「行くよ!」
右腕にある風の輝石を翳し、左腕にある制御輝石を強く握る。そして右腕をさっきのように順に指を折る。
風が鋭く吹く。それは煙によって形作られ、素早く突き進む。
リヤは華麗に避ける。
ミリアは残念がり
「えぇーなんで当たんないのー……?」
と言い、リヤは腰に手を当て話す。
「軌道が丸わかりなのよ。やっぱりワンパターンだからいけないのね。曲げるのってできない?」
ミリアがうーんと唸る。
「やってみなきゃわかんない!」
結論を出せずにいた。
確かに実験しなければ確証は得られない。
「んじゃ、実践ね。もっともっと打ち込むわよ!」
先程と同じ工程で風を吹かす。今度は腕を引く。
しかし暴走して壁にぶつかった。
もう一度。もう一度。
時は流れミリアは疲れた。最後にもう一度全力で上に翳した。
その瞬間、ブワッと暖かい何かが通った。
上方向に風が流れたみたいだ。
「こうじゃない!?」
と、嬉しそうに語るが
「これ上方向に流してるだけよ、曲げなきゃダメでしょ。」
疲れたぁーと駄々を捏ねている。
どうやったって出来ない。何が足りないだろうとミリアは嘆く。
しかしリヤは少し考えてみるととんでもない事実に気づいた。
(暖かい風……?そうか!)
「ねぇミリア、あんたの輝石ってどういう仕組みかわかる?」
「知らない!」
ミリアは即答する。
リヤは自分の考えを出してみる。
「恐らくだけどその輝石は低気圧か高気圧を操る輝石、もしくはその両方。」
ミリアは頭に大きく「?」を浮かばせている。
「簡単に言えば、ミリアの輝石は空気の量、密度を操るんだと思う。風の現象は高気圧から低気圧へ……、えーっと」
リヤが淡々とミリアにわかるように説明する。
「空気は常に一定の量になろうとするの、だから低気圧、つまり空気の量が少ないところには必ず高気圧、つまり空気の量が多いがあって一定の量になろうとする時に」
「高いところから低いところへ流れていくのが風の仕組みなんだね!」
「そう!正解ピンポーン」
と、1回ミリアの頭をポンと撫でる。
そして更にリヤはミリアの技を発展させることにした。
リヤはミリアと少し距離をとった。
「低気圧を私に置いて、風を打ってみて!」
ミリアはよく分からなかったがとりあえず感覚で打つことに。
「てやぁー!」
風は鋭く吹く。リヤの頬を通り、壁を破壊する。
どうやらリヤにとっては失敗したようだ。
「さっきの威力をより強く出来たらいいんだけど……。」
ミリアは閃く。
威力をただ強くするには不必要なものがある。
「制御輝石をはずそう!いくよリヤ!」
しかしそれは威力を制御できなくなる。範囲を絞れなくなる。危険性の方が明らかに高い。
「ミリア!やめろーーー!!」
その言葉が届くには距離が遠すぎた。
ミリアは発動した。極度の低気圧を。
瞬間。風は音速を超えて壁を崩壊させた。リヤが直前に避けなければ肉体は崩れ落ちることだろう。
空は美しく雲ひとつの無い快晴となり、リヤは激しい耳鳴りに襲われた。
ミリアの目に映るのは白く無の世界━━━━━
「ミリア!ミリア!」
その声は風に乗って届くことは無かった。
ミリアは気絶した。急激な気圧変動によりミリア中心に高気圧が発生したのだ。
ミリアが目を覚ますとリヤの部屋にいた。
「ここは……?」
リヤはミリアが目を開けたことに気づいた。
リヤの目には涙が流れており、
「ミリアーー……!」
と、本気でミリアを心配していた。
一段落着いた時、リヤはミリアに起こったことを話した。極度の気圧変動によりミリアの魔力底を尽き、尋常じゃない圧力がかかった。
そしてリヤはミリアを酷く叱責した。
ミリアはとても反省している。
制御輝石を使わないで気圧変動させるのを禁止にした。
しかしそれだと、どうしても容量が減り輝石の力を最大限に使えない。
「じゃあ、私のデザイアルまでの目標は制御輝石を使わないで風輝石をマスターすることだ!」
後ろから熱気を感じる。リヤが怒っている。
「も、もちろん制御輝石を使って風輝石の操りをマスターしてから……ね?」
ミリアが強くなるためにはあの真空の力を借りなければならない。他に打つ手がないのでリヤは最後まで修行をすることに決めた。
「もっともっと強くなってやるーーー!!」
ミリアの未来は見えた。あとは実現させるだけ。またあの廃墟へと足を進めた。
太陽が沈み、夜がやってきた。
烈はトルとの修行が終わり、ミリアもリヤとの修行が終わった。
晩御飯を囲み、食べる。
今回も栄養が豊富な食べ物だ。みんなはすぐに平らげた。
いつもの皆と違う表情であり、前より仲良くなっていたように見えてゲレナ村長はニコっと笑っていた。
しかし烈の修行はまだ終わっていない。
これからゼノとの修行が始まる。
みんなが解散したあと烈は一人でこっそり外へ出た。
そして急いであの地へと向かう。
相変わらず、虚無を感じる。ここで一体何があったのか聞いてみたい気持ちもあるが、本当に聞いてしまったら烈が烈でなくなるかもしれない。
コツコツコツと、誰かがあるく音がする。
昨日ここで戦闘し、敵だったゼノ。
奇妙なことに今は師として存在している。
「や!昨日ぶりだね。」
相変わらずいつもの服で来ている。
まぁそれは烈も同じことだが。
「んじゃ、さっそく修行始めていいよ」
、、!?
なぜ自発的に、完全にゼノに修行をつけてもらう流れだと思っていた烈。
「ま、さすがに丸裸で放り出すのは可哀想だ。少し話をしよう。潜在輝石についてね。」
潜在輝石、新しい単語だ。普通の輝石と違うのだけは確かだ。
「潜在輝石、僕もその類だよ。てか誰でも手に入れる素質はある。」
と、烈の顔を見て静かに話し始めた。
「前にもちょろっと言ったけどそもそも潜在輝石というのは、非物質的……つまり形を持たない輝石のこと。
と言っても他の輝石とさほど変わらない。強いて言うなら能力の種類が少し違うってことと、少し条件があるということ。」
ゼノが日中でしか輝石の能力を使えないというのが条件なんだろう。
もしかしたら烈のあれも?
「察しの通りレツくんの平等の天秤も潜在輝石の1種だと思うよ。」
やはりそうだった。
しかしそうなると烈の条件とはなんだろうか。
「発動条件は……なんだろうね、本人なら分からないはずがないんだけどねー。」
確かに、自分のことなのだから。
恐らく平等に関わることだろう。
「それと君の能力の弱点というか欠点は自分が能力の恩恵を受けないということ。」
平等の天秤の効果は烈自身には受けない。どうしても他人よりも弱くなってしまう。
「だけどそれ改善できるよ。多分。」
衝撃的な事実に思わず
「は!?本当か!?」
と声を漏らしてしまった。
自分が平等の天秤の恩恵を受けることができたら戦略が格段にひろがる。
しかし烈は平等の天秤を好まない。
だが、平等を目指せるならそれでいい。恒久的な平等を実現できるなら一時の不平等ぐらい腹を括ってやる。
と顔を歪めながら
「俺に平等の天秤の真の力を引き出させてくれ。」
「ええよ。」
そしてゼノは推測する。
どうやら見えたようだ。目を見開いた。
「考えてみれば簡単なことだよ。」
それはどういうものなのか、もしかしたら烈を愚弄するものなのかもしれない。
「レツくん、君は外れ値として扱われてる。」
迫真の顔でこちらを見る。
ほう……興味深い。平均をとる上で邪魔な存在なのが外れ値。平均を求める際外れ値は数えられない場合が多い。
烈は拳を握る。
「だがそれは改善できるよ。簡単だ強くなればいい。」
決意を固める。
さっそく本題に入る。
「じゃあ早速やっていいよ。」
やはり自発。何をすればいいのかいまいち分からない。
「何をすればいいんだ?」
「え、昨日会った時に言ったじゃんあのメニューだよ。」
あーあれか。と思い出してしまった。
とにかくあのきつい練習をこなす。
烈が必死こいてトレーニングをしている間
ゼノは岩にもたれ寝ている。
トレーニングと言っても内容がハードなだけで時間はそんなに取らない。
終わった瞬間徐ろにゼノに近づく。
そして岩に全力に蹴りを入れた、が思うように力が出さなかった。
「な?思うように力が出せなくなっただろ?それが君の弱いとこ。意外と少ないだろ、ここを完璧にしたら敵なしだと思うけどね。」
烈はゼノの態度にムカつきを覚える。
「そう怒んなって、それじゃあ潜在輝石の特訓だ。」
潜在輝石を鍛えるためにはとにかく輝石を使いまくる必要があるらしい。
「じゃあしまくるぜー!」
平等の天秤
辺りが白く包まれ発光する。しかし対象は1人しか居なくて、力を奪われたり増えたりしなかった。
「はぁ……」
先程のトレーニングも相まっていつもよりも疲れている。
「何疲れてんの、まだまだやるよ。」
搾り取られる。烈は絶望感に包まれた。
この特訓の目標は、烈の平等の天秤を使用後、疲労感を無くすためと、使用回数を増やすためと、範囲を大きくするためと、応用方法を編み出すためと、様々な目的がある。
果たして1ヶ月で大成できるのか。
「きっつ……だがやりきってやるぅぅー!!」
そしてそれから烈達は修行に励んでいく。
「はっ!はっ!はっ!」
誰かが遠くで叫ぶ声が聞こえる。その声は一定で同じ時間に聞こえてくる。
「ふぁーあ」
最近はその声でいつも朝起きている。彼女にとっては彼は目覚ましのようなものだ。
「今日もレツは頑張ってるなぁー……。」
ミリアは窓際で烈の自主練を見ている。
本格的に修行が始まったことで積極的に奮励している。
そうしていると、一緒に寝ていたリヤが横に入ってきた。
「なんか目の色変えて頑張ってるわね〜。」
リヤが烈を褒めた。
ミリアがふわーっとあくびをしながら答えた。
「ん〜、朝はさすがに元気が出ないなぁ。でも修行しちゃう?」
「いいわよ。じゃ、すぐ行こ!」
壁に塗られた磯の香りを放つ漆喰に、まるで地位の高さを証言するかのような傲然と敷かれた真紅の道。
そこにその場所には絶対的な地位を確立したかのように存在する人間とふさわしくない人間が対面していた。
誰もが尊敬するその人間は、不必要な人間に静かに語りかけるように口を開く。
「よくもまぁ、のこのこと帰ってきたもんだね。ルナ・ヴァルティア」
ルナは男に跪き下を向いていた。
「誠に申し訳ございません。」
立ち上がった男はルナの周りをコツコツと歩いている。
「謝罪が欲しいわけじゃないんだよ。お前は何しにここに来たんだ?騎士団……いや、ルミナリスを裏切って。まさか贖罪かい?」
ルナは何も口を出せずに黙ったままだ。
男はわざとらしくはぁー、とルナに聞こえるほどの大きな声でため息をした。
「償えるわけないだろ?貴族を傷つけたのだから。君はこの世界の秩序を破ったんだ。それとも何かい?
まさか俺に個人的な頼みとかあるのか?」
ルナの体が一瞬揺れる。
その動きを男は逃がそうとはしなかった。
「図星……かな?」
「誠に恐縮ながら、折り入って頼みがございます!」
ルナは突然思い切り立ち上がる。
男は粛然と立ち止まった。
「なんだ?言ってみろ。」
ルナは敬礼をし、真摯な姿で力強く声を出した。
「イザナ・ギルドラ団長、私にご指導いただけますでしょうか。」
その目は反抗の目。部下と上司の関係はないように見えた。
イザナの白髪がふわっと流れる。
そして彼の生命力に満ちたひとみにはまるで翡翠をはめ込んだような麗らかな翠眼がルナを凝視する。
「うらぁぁ!!」
けたたましい叫び声が響く。
それに覆い被さるかのように怒声が唸る。
「こんなもんじゃねぇだろぉ!セレナ!」
「こっからじゃボケ!ガルド!!」
地面を粉砕したり隆起させたりとやりたい放題していた。しかし貧民街でよくある更地なので近隣住民からの苦情などはない。
戦いに一段落が着いたとき
「いい感じに体技が強くなってんじゃねぇか」
ガルドが鍛えられたセレナの身体を褒める。
セレナは口角をあげる。
「まだ時間はある。こっからもっと強くなっぞ!」
休憩をしていたはずだったが、すぐにまた再開した。
暗黒が床、壁全てを形成している。
その中で彼女は自己を極めていた。
「これが潜在輝石……ってやつなのかな〜」
影の輝石とはまた別に新たな殺法を創り出していた。
周りは消し飛んだかのように不自然な地形と化していた。
「全魔力を消費したらこんな力がでるなんで驚きだよ〜」
リズは歩き出し土地を転々とする。
次第に彼女は闇夜に消えていく。
「レツ、今日は輝石からの対処法そして使い方を学ぼうか。たしかレツ、輝石持ってたよね?」
今日は一転して輝石を主に修行をする。
レツは着々と力をつけていく、心折れそうな時もあったが平等を思いここまでやってきた。そしてここからも。
「レツくん、そろそろ自分を含める平等の天秤の使い方を研究するかい?レツくんの強さは著しい。外れ値とは言えないんじゃないんかな。」
ついに弱点を克服する特訓に入る。
ここからは応用だ。
そして長いようで短い時は流れ、デザイアル残り1週間。
烈は相変わらず朝早く起きる。しかしいつもとは違う光景がそこにはあった。
寝床の隣で艶やかな黒髪の女の子がベッドにもたれかかり烈を待っていた。
「おはよ!レツ。」
寝顔を見られたと思うと少しだけ羞恥心を感じた。
そんな顔は表に出さず冷静に言う。
「何してんだよミリア。」
そういうとミリアはぴょこっと立つ。
「レツレツ!今日はさ試合しない?」
唐突な提案に烈はとりあえず起きながらふるびたジャケットを着る。
「突然だな、どうしたんだ?」
質問を質問で返してしまったがミリアはそんなことを気にもとめなかった。
「私達はデザイアルに向けて修行したでしょ?私は対人をあまりしてないからレツと試合がしたいの!」
まともな戦いは烈もしていなかった。この状況は烈にとっても得でしかなく。もちろん烈は
「よし、飯食ってさっさと行くぞ。」
「おー!」
と快諾した。
そしてリヤとトルを叩き起した。ゲレナ村長は自分で起きていた。
全員で朝食を囲んだ。
そして栄養を取り込んだ所で外へ出る。
場所は烈が指定した。
もちろんゼノと修行した、魔女の跡地へ。
「ほんとにここでいいの?人が多いとこ選ぶかと思った。」
ミリアは準備運動をする。
烈も関節をほぐす。
「いつまでも人に頼ってらんねーからな。今度は俺自身が戦う。」
朝の冷たい風が吹く。
トルはリヤにヒソヒソと話す。
「お前、こっそりミリアと修行してたんだな。」
リヤが微笑する。
「別に隠すつもりはなかったんだけどね。」
トルが1つ提案した。
「どっちの弟子が強いから勝負だな。」
どちらがより優れているか賭けを提案する。
リヤが呆れる。
「あんたねぇ……。てか私は師匠とかそんなんじゃないんだけど。」
「まぁでも、ミリア!!頑張って!!」
賭けには乗り気では無いがミリアを全力で応援する。
「任せといて!リヤ!」
トルも烈に一喝。
「勝てよ!レツ。」
「当たり前だ!」
自信満々にそう答える。
2人の緊張が兄妹の合図により解かれる。
修行で自己を高めた2人が激突する!




