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第7話 懸念点

ルミナリスの荒野、蒸気管が絡まる街道の果て。烈、ミリア、ルナ、セレナ、リズの五人は、神願の試練「デザイアル」の参加資格を手にしていた。


烈はボロボロのジャケットを羽織り、ミリアとセントラルの方へ来ている。予選の傷がまだ疼くが、目は燃えていた。


昨日の予選、烈達はゼノやガルド達の戦いを見て心がズタボロに朽ちた。デザイアルにはこれと同等、もしくはそれ以上の実力者がいる。


それを超えるべく、烈達は自己を鍛えることにし、それぞれの修練所へ、出向いた。


烈とミリアはルミナリスの邸宅街の中央セントラル・ルミナへ行っていた。


セントラル・ルミナは治安が良く、まるで貧民街差別がないような生活を営む。

ひとつ気になるのは中央の建物の規模、あれは城と言うべきだ。もしくは王宮。そうなればここは城下町と言える。


烈は思った。現代の日本ではない地面の塗装、車等の交通手段はないので、地面はアスファルトではなくクリーム色の地面なんだと。どこかしこも洋風な建築で、治安の良い海外へ居るみたいだった。


ちなみに烈は立って、走れるほどに傷は回復した。

烈とミリアは、輝石の店へ行きパワーアップを図ろうとしていた。


「いい店はあるかしらねぇー」


オネェ口調で烈は店を転々としている。


ミリアが正規に購入した果物を齧り、烈の後についていた。


烈達は予選を勝ち抜いた時に、賞金をもらった。ミリアに金は危ないと思い、烈が預かっている。ミリアは最初、ずるーいと顔を膨らませていたが、なにか買ってやるとすぐ笑顔になった。


「おぉ、ここなんかいいんじゃないか?」


輝石の店へ足を踏み入る。中は明るく包まれており、様々な輝石が瓶に入っている。高価で能力も凄まじいような輝石は厳重に保管されている。


烈は手頃な輝石を数個選んだ。ミリアはうーんと、どの輝石にしようかと迷っていた。


烈は会計を済ませた。その後ミリアが欲しい輝石があると言ってきたので、見てみると先程言った、高価な輝石を指した。


「これ欲しいー!買ってー」


と、子どものように無邪気に頼んできた。

この輝石は、永久に使えるタイプの輝石で、能力は輝石の力を正確に制限ができるというもの。精密動作が上がって応用のしやすくなる輝石だ。


しかし代償として少し魔力の容量が少なくなる。つまりゲームで言えば最大MPが少し減る。あまり実用的ではない。


だから烈は


「ダメだ。高すぎる、すぐ金が無くなってしまうぞ」


この輝石は、所持金の半分はする。1ヶ月の生活が苦になるレベルだ。


欲しい欲しいーとおねだりをしまくるが、ことごとく無視する烈。だが、烈は少し過去を思い返し……。


「ミリア、これを買ったらお前はどうなるんだ?」


さっきまでの烈は、根拠なしの否定ばかりであった。それが転生前の鈴木烈の心と、重なった。根拠なしの否定ばかりをされた彼はとてつもない激情を持った経験がある。


自分にされて嫌なことは人にはしない。


そうしてミリアは慌てて、自己の能力を説明する。


「私の輝石って、風の力じゃん?だから、えーっとだからじゃなくて、でも私の輝石は大雑把で上手く照準も合わないし応用も効けないから、無理やり輝石の力を制限して応用がしやすくしたい。例えば、風の力を細くしたら鋭い空気の刃みたいなの出来ると思うんだ。だから強くなれると思う。」


と、あたふたしながら理由を話してくれた。ごもっともな意見で筋が通っているように見える。


「でもさ、一番の理由は輝石の力を封印して、自分の力を上げたい。」


衝撃的な理由。横着をせずに誠実な努力がしたいと言う。真剣な眼差し。


「俺もそう思ってたんだ。輝石とかいう前に自分の基礎をあげるべきじゃあないかってね。」


烈もミリアと同じ気持ちだった。

ミリアの心意気を買い、輝石を仕方なく買ってあげた。


ミリアは喜んだ。それは子どものように。そしえすぐさま首につける。

烈は今後の生活についてやりくりしなければならないので頭の中で色々と計算している。


デザイアル予選は、セントラル・ルミナの近くにあるので当然、噂は流れる。それは予選出場者を褒める声もあり、当の本人もそれを聞く機会はある。


「デザイアルの予選見に行ったか?」


烈が街中を歩いていると、声が聞こえた。今現在予選はやっている最中だ。


「あー!あの天災(カタストロフ)様が、大暴れしたやつか!」


ガルドの話が出ている。たしかにあれは凄かった。

それを超えるために修行をしている。


「あいつもかっこよかったなぁ、なんて言ったっけゼノ?」


ゼノ。ミリアと同じ時期に会ったここの人間。

いまだに謎が深いが、強いというだけわかっている。


「そういえば!第1試合のやつ、あのーなんだっけ!あいつすごいよなぁ!」


烈は期待を膨らませた。自分の話が出てくるかもしれないからだ。前例が無く、異例だと思われる平等の天秤の能力。そして基礎不足なのにデザイアル出場を果たした。


「ねぇねぇレツ、あの人たちレツのこと言ってんじゃない?」


小声でそういうミリア。ミリアもあの話を聞いていたようだ。


「レツ・キツツキだっけ?あいつ凄かったよなぁ」


キツツキ……。俺はレツ・スズキだっつーのに。

凄い……承認欲求満たすことが出来るかもしれない。

烈は、耳を大きくして聞いている。


「あいつ卑怯な戦法使ってたよなぁー、力弱いからって大剣捨てたり、しがみついたりして……やっぱ漢は正々堂々と戦わないとな!」


烈はカンカンに怒った!


「なんだと!?」


すぐさま飛び込もうとしたところ、ミリアに止められる。必死に止められる……が、なぜか止まらない。


「輝石がさっそく効果を発揮しているー!!」


着々に大地を踏みしめながら進む。


「オラァー!おまえらァ!」


「うわぁ!!!レツ・キツツキだぁー!」


街の人達は逃げ出した。


烈は叫んでいる。輝石を外したミリアに連れられながら。


そして烈はセントラル・ルミナを出る。


「てかなんでさ、ルミナにずっと居ないの?」


落ち着いた烈は、前を向きながらミリアに話す。


「誰かさんのせいでただでさえ生活費が足りないからさ、修行も兼ねて貧民街で泊まるの。」


それを聞いてミリアは機嫌を損ねる。


「レツがいいって言ったんじゃん。」


レツは後ろを振り向き、優しく微笑んだ。


「嘘だ。元から貧民街で修行する予定だったんだよ。」


ミリアはそっぽを向いてしまった。

レツは「はぁー…」と言いながら進路を進める。


しかし一月の間どうすれば格段に強くなるだろうか。一般的な方法では今と変わらない結果となってしまう。しかしここでは俺が思う一般はない。恐らくあるのだろう。不平等に力を底上げする何かが。


「ねぇレツ、貧民街の中でも具体的な場所は決めてないでしょ?」


と、時間が経って先程のことを忘れたミリアがそう聞いた。


「あぁ、たしかに決まってない。」


烈は貧民街はおろか、ルミナリスに対する地理的状況があまりわかっていない。


「じゃあ、私のオオスメの場所教えてあげる!私はもうみんなに顔を知られてるからきっとレツもすぐ覚えられて馴染むはずだよ!」


烈は思う。不平等に生きているのにこんなに明るい人を見ると嫌でも覚えてしまう。少しだけ烈は笑みを浮かべた。


関所が無いところを通り、貧民街へ入る。

セントラル・ルミナを思い出す。

怒りが湧いてきた。しかし抑える。何のためにここに来たかを再確認する。


「んで、どこにあるんだ?」


レツはミリアに確認する。


「割と奥の方なんだよ!さっ、早く行かないと日が暮れちゃうよ!」


貧民街は広い。広大だからこそ支配が届かない。裕福な所を知らない人達もいるのだろう。

ちょっと小走りで向かう。しかし烈は体力が少ない。7分そこらでバテてしまった。周りは、もう貧民街の景色しか見えない。


ミリアに呆れられてる。ミリアの顔から左に逸らしたところにあったのは、煙。


「火事かもしれねぇ!行くぞミリア!」


そして煙が出ている方向に寄り道することに、


「えぇ?」


烈がさっきの疲れが嘘のように全力で疾走する。ミリアも烈の後を追いかける。


そしてそこにあったのは想像を絶する……いや、想像すらままならない光景が広がる。


地平線。日本でも極僅かでしか、というか普通の住宅街で見られない。


地と空の境界が水平に見える。だが、少し周りを見ると家は普通にある。そこだけが抉り取られているのだ。


1つの街が丸ごと消えたような広さ。誰がこんなことを?


「あぁー……。これは、随分昔にあったものだよ。」


この風景は昔ながらのもの。確かにこの風景がさっき起きたとすれば、音がしないはずがない。


「誰がやったんだ?こんなこと。」


町が崩壊した。何か理由があるはずだ。ないならそれは貧民を差別する何かだ。自然災害ならこんなに綺麗にえぐれるはずがない。


「昔、この世界のどこかに、魔女の一族がいるとされたんだ。そいつが人間に対して発動した輝石の効果。」


なぜ人間に対し輝石を発動させたのか……。それは憎しみなのか、愉しみから来てるのか。後者なら烈は許さない。


ここは戦争の跡なのだろうか。

ミリアに聞いてみる。


「私もそこまで知らないけど〜……。かなり前にね国全体で起こった戦争があったんだ。その時に起きたらしいんだけど、なんでかは分からない。」


動機があやふやではあるが、街の人たちをも顧みない行為からとてつもなく無慈悲な一族というのが分かる。


「ただ私が聞いた話だと、かなりの被害があったらしい。」


烈は、歯を食いしばりすぎて嗚咽してしまった。


いやまて、この悲劇が今ここで起こったことじゃあないならあの煙はなんだ。


「あと、レツが追いかけたあの煙は、あの家がゴミを焼いているだけだよ。」


抉られた土地の周りの家を見ると、レーキや鍬、畑道具などが置いてあり、人が住んでいる気配はあった。

烈はホッとした。大事がなくて良かったと思った。この跡に関しても後々情報を集める必要がある。


「ちなみに魔女なんだけどね、大昔に絶滅したと言われていて、今は恐らくいないと思う。」


ミリアは淡々と話す。この世界は様々な民族がいるのか……?。

そして何かを思い出したかのようにミリアが話す。


「あーあと、この跡は1人の魔女の力らしいよ。」


この力……魔女が1人でもこの威力はさすがに怖い。


とりあえず、烈はこの場を後にして小走りで町へ向かう。


日が西に随分傾いた時、烈は村に着く。ミリアより、村の名前はゲレソナ村。烈は全身から汗をかいていて、周りの温度が高くなっている。

ミリアは元気そうに声を上げる。


「やっほー!みんな帰ってきたよー!」


村はルミナとは違って床も土で家もそんなに立派ではない。だが、ルミナのような活気はあり人がちゃんと生きているというのを感じる。


「おぉ!ミリアじゃねーか!」


大柄な男が手を振って近づいてくる。


「おぉ、クサリャーじゃないか」


この男の名前はクサリャーと言うらしい。

この男は頭のタオルや手袋などから分かるように加工職をしている。今も何か鉄を焼いているようだ。


「お姉ちゃん!」


その声に下を見ると、女の子と男の子が居た。恐らく姉弟であろう。


「おぉーお前たち、元気してたかぁー?」


子どもが元気そうにいるとなんだか笑顔になってしまう。

ミリアは慕われているように見える。


「ミリアちゃんこの男の子はどなたなの?」


主婦層の方がミリアに問いかける。


「ほら挨拶して」


と、ミリアが烈をつつく。

そして烈は大きな声で話す。


「俺はレツ・スズキ!平等を目指すものだ。」


自信満々でそういう。

ミリアが笑いそうになる。

そして皆は笑う。


「ゲレソナ村へようこそ!よろしく!レツちゃん!」


皆が歓迎してくれた。

なんだか烈も嬉しくなる。


「ねぇ、レツ……?」


ミリアが何か言いたそうだ。


「良いよ行ってこい、俺は一人で行ける。お前と違って子どもじゃないからな。」


と、ミリアの気まずそうな顔を壊してやった。

ミリアが一瞬眉間を寄せたが、すぐに戻りありがとうと言って子どもとどこかへ行った。


烈はこの町の人たちと仲良くなって色々知識をつけなければならない。


「ミリアは、いい子だろ?」


クサリャーがそう言う。


「まぁ、子どもっぽくて騒がしいけど、それなりに助かってはいる。」


クサリャーが口を大きく開け笑う。


烈は、村を散策している。

そしたら突然誰かに声をかけられた。


「貴方がレツ・スズキさんですか?」


見るとご老人が居た。


「はい、私がレツ・スズキです。」


「そうですか、ミリアちゃんの……。あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私はこの村の村長のゲレナ・トーテムです。」


自己紹介が済んだところで本題に入る。


「良かったら少し上がりません?」


村長の家へ招待されてしまった。

断る理由もなく了承し、そのまま家に向かった。


村長の家といえど、他の家と大差なく佇んでいた。中に入ると綺麗に整えられており懐かしい香りを感じた。そう、線香の匂いだ。


「こちらに上がってくださいレツさん」


烈は、敬語にちょっと慣れていない。


「もうちょっと砕けた言葉でいいですよ。」


「じゃあレツくん。」


ゲレナ村長の導かれるがまま進むとゲストルームに案内された。椅子が2つ、ソファー1つ。いかにもである。ゲストルームにはマナーがあるだろうが、烈は知らない。ので適当に座ることに


「お茶を用意しますね。」


とゲレナ村長は席を立つ。

それは申し訳ないと思った。


「あ、お構いなく!!」


とその瞬間、お腹が鳴る。

烈は顔を赤く染める。


「ふふっ、お菓子も用意しますね。」


ゲレナ村長は微笑み、奥へと行ってしまった。

烈はその間、近くにあった本棚を見た。

おとぎ話と言った類もこの世界にはあるみたいだ。烈が手に取ったのは地理的状況に関する本。貧民街と邸宅街の違いについて触れているようだ。


「おじいちゃーん?」


と、玉を転がすような声が聞こえる。

ゆっくりと扉が開いた。


烈はその女の子と目が合う。その透き通る美しい翠眼と。

その子は驚いた拍子にドアの枠にゴツンと肩未満まで伸びた白緑色の髪を揺らしながら当たってしまった。


「痛たた……。」


烈は心配する。


「大丈夫ですか?」


そしたら


「いったいわね……!」


と、後頭部を抑えている。

そして烈を見たら


「あなた、誰!?不審者?」


と、突拍子もないことを言われた。


「いや、俺はゲレナ村長に、てか不審者じゃねぇ!」


と、言い合いをしている。

そしたら後ろから、音が聞こえる。


「何やってんだよ、リヤ。」


と、低い声が聞こえた。

扉から覗いたその顔は、またしても翠眼。今度は男の子だ。


「あぇ、お客さん?」


「俺はレツ・スズキです。ゲレナ村長に呼ばれて」


あぁなるほどと、手を打った。

どうやら状況を理解したようだ。


「リヤ、この人はお客さんだよ。失礼なこと言わないの。」


少し咎めたあと、奥からゲレナ村長が戻ってきた。

そして様子を見兼ねたのか、説明をしてくれた。



結果的に不審者じゃないことを証明できた。


「へぇー、ミリアの友達……。」


この子達は兄妹らしい。

面倒見の良いのが兄で、少し抜けている元気なのが妹


「私はリヤ、リヤ・トーテムよ。」


リヤが烈を睨みながら話している。

暗緑色の髪が目立つ兄が話し出す。


「俺はトル、トル・トーテムです。」


敬語で、世渡りが上手そうな人だ。

もちろん烈ももう一度


「俺はレツ・スズキ!」


しかし


「ねぇ、ミリアが帰ってきてるんでしょ?」


と、遮られてしまった。


「まぁな、俺たちがここに来たのはデザイアルへ行くためなんだよ。」


そしたらお茶を飲むゲレナ村長がむせる。


「なんですと!?」


「俺は平等を目指すためにシャルトを求めてる。」


平等を目指す旨を話した。


「おじいちゃん、シャルトって何?」


リヤが、シャルトについて聞く。


「シャルト……それを手に入れる争いの源、デザイアル。1000年前のデザイアルは世界が崩壊しかけたと言われている。」


烈もその話に興味が湧く。もしかしたらこの政治体制もシャルトによるものかもしれない。前のゼノの発言からもそう読み取れる。


「この不平等の社会もシャルトによってできたのか?」


烈は自分の確信を聞く。


「いや、それは分からない。輝石教会の教主様が何を願ったか、どんな試練内容だったかは分からないんだ。」


しかし確実な状況は取れなかった。

輝石教会教主、アガネ・ゼエル。謎が深い人物。

何を願ったのか、どんなものだったのか……。


「そんな危ないところになんで行くんです!」


トルがそんなことを言った。


「俺は平等を信じてるからな。」


端的に自分の信念を伝える。

ここから本題に入る。


「なぜ突然ここへいらっしゃったんですか?」


そう言われた。烈は予選であったこと、ゼノやガルドの強い力を見せられてから、強くなりたいと思い、ここで修練を積みに来たということを伝えた。


「ここで良かったら別にいいんですけど、あんまり鍛錬に向いていない気がするんですけど」


確かにそうだ。なにか憶測があってミリアはここに来た……とは考えにくい。

その瞬間、扉が開く、噂をすればなんとやらミリアがやってきた。


「やっほー!おじいちゃん……って、レツ!?」


なぜか烈が居て、ミリアは驚いた。

そしてリヤが突然立って、ミリアに抱きつく。


「ミリアー、久しぶりー!」


「おぉー!リヤじゃまいかぁー!」


再開……と言ったところだろうか。

その時ミリアがトルの方を見て何かを思い出したかのような態度を取る。


「おっ、トル!レツレツ!私がこの村が鍛錬に向いてるのはトルのおかげだよ!」


なんの事か烈には分からなかった。

トルは少し目を開いていた。

そしてミリアはとんでもないことを口走る。



「トルは、私が知る中で1番強い人だよ!」



衝撃的な発言。

意外過ぎた。ごく普通の村人かと思いきやゼノやガルド達に匹敵する力の持ち主が現れるとは……。


「ねぇねぇ、トル、レツと1回手合わせしてみてよ!」


とミリアが不可能な事を突きつける。


「いやいやいや、勝てるわけないだろ。」


烈はすぐさま否定する。だが葛藤した。


「いや、勝たなきゃダメなんだ。」


決心した。

いずれは戦うのは当然。乗り越えなければならない。

しかしトルが


「いや、戦いませんよ。」


と、予想外の反応に

烈は目を丸くした。


「俺は戦いは好きじゃないんですよ。人を傷つけるのはもう……。」


トルは俯く。過去に色々あったようだ。人を傷つける。相当優しい人間のように見える。

なら少し言葉を変えよう。


「これは戦いじゃない。俺に挫折を味合わせるだけの対話だ。証明させろ、俺に弱さを。」


そう言ったらトルは、顔を上げた。その顔は目にハイライトが灯っている。

そしてため息をついて


「……分かりましたよ。」


と、了承してくれた。

リヤは驚いていた。トルが戦いが嫌いなのは本当のことのようだ。


「ダメだよ!あなたねぇ、トルがなんで戦闘を好きじゃないか知ってるの!?あんなに人を━━」


「リヤ、いいんだ。」


何かを言いかけた時トルは語頭を強調した。まるで何かを隠すかのように。

その発言にリヤは唇を噛んだ。


「じゃあ、外に出ましょうレツさん。」


烈はなんだか歯がゆいようだ。


「敬語じゃなくていいよ、タメだろ?」


敬語を使われるのに全く慣れない。

特に同年代以上に。


「まぁ、そうで……そうだね。」


善処して、敬語を外すのに努力している。


そして烈達は外へ出た。そして適当な広い場所へ出る。夕焼け空の下、荒野に立つ2人、十分な距離は取れている。

ミリアとリヤとゲレナ村長は遠目で見ている。


ミリアは胡座をかきながら、2人の様子を見ている。


「おぉー、最強と最弱の戦いだなぁー」


ミリアの声は大きいので割と聞こえる。

当然烈にも聞こえていて


「誰が最弱じゃ!」


と、突っ込まれる。

リヤが冷静に考える。疑問しかないのだ。


「なんでなの?初対面だとは言えどミリアに強いと言われたんだから勝てる算段が見えるわけないじゃないの……。どうしてそんなに自信満々な顔をしているの?」


烈の自信が全くほど理解ができない。果てしなく力が強いのか?奇策を効かせられるほどの頭が冴えてるのか?相手を疲労させるほど戦える持久力はあるのか?


ミリアがリヤを見て笑いかける。


「それが烈だよ!力は弱いけど思想(こころ)だけは誰にも負けないんだから!」


リヤは呆気に取られていた。


風が吹き通る。

烈が肩を回して、準備体操をする。

トルは、正装に着替えていた。黒のシャツにフチが緑のフロックコートを着ている。


誰かに似ている。


……ルナだ。ルナと同じ雰囲気を感じる。

まぁいい。とにかく烈は、壁を再確認しなければならない。目標、超えなければならない。


「手加減なしで頼むぜ。」


と、挑発しておく。


「まぁ、できる限り」


舐められてはいるようだ。

烈は本気で望むつもりだ。だが烈は平等の天秤を封じる。もし勝つ事が出来ても平等の天秤という不平等に頼った結果となる。成長には繋がらないし、


それは俺の平等()をねじ曲げる。


「それじゃあ行くよ。レツ。」


その掛け声とともに構えをする。そして瞳が光る。


烈は戦慄する。トルのオーラがとてつもなく溢れている。それを無駄な消費だとは思えなかった。仕方の無い消費。末端の消費。あまりにも壁が高すぎる。


目の前に戦っているのは人間なのか。いやまて、何勘違いしてるんだ。まだ始まってすらいない。

怯む訳にはいかない。


「来やがれ!」


戦闘が開始した。


日が通らないトルの方へと走る━━━━━━はずだったのに、目の前に広がった光景は鮮やかに落ちて行く夕焼けだった。


その瞬間、背中に重い衝撃。

鈍い痛みが全身に広がる。


ミリアの口が開く。

リヤが当然だと言わんばかりに見ている。


一瞬にして烈は倒されたのだ。トルによって。


「勝負ありー!勝負ありー!」


ミリアの発言により、烈は自覚した、自分の敗北を。


「大丈夫?レツ。」


トルは烈に手を差し伸べる。腰をさすりながら烈が立つ。


「お前、強すぎだろ……。」


トルは、笑った。そして烈の前に指を立てて


「レツ、それが敗北だ。悔しいだろ。」


続けて言う。


「その悔しさを糧にして誰にも負けない強者と……なれ?」


敗北した彼に慰めるように言葉を立てる。それはなにか託すように。


「最後の最後で台無しだな。決めゼリフぐらい最後まで言えよ。」


と、呆れられながら言われる。トルがあはは……と、苦笑をする。烈は踵を返し、歩く。そしてトルに振り向く。


「なってやるよ、お前にも負けない最強に。」


烈がそう言うとトルが、頑張れと言う。2人は並び歩き出す。

この2人は友情が芽生えた。初対面のように全く見えない。


「おつかれおつかれー!」


ミリアが2人を労った。




そして家に戻る。日が暮れた。

烈とミリアは1日だけ、村長の家に泊まることにした。


そして2人は食事を摂る。まともな食事を食べたのは初めてだ。烈とミリアはバクバク食べる。


「うんまぁーーーー!!」


あまりの美味しさに2人は口を零した。

ゲレナ村長は嬉しそうに笑う。

トルも笑っている。


「ねぇミリア、今日一緒に寝よーよ!」


とリヤが言うと、ミリアが了承する。


「いいよー!」


なんとも微笑ましい会話だ。

烈の心も満たされていた気がする。


食事も終わった頃、ミリアたちは先に席を立っていた。


烈は借りた部屋でゆったりと本を読んでいる。

貧民街での特産品。水利が悪く、柑橘系の果樹園が豊からしい。烈の好きな柑橘系は、みかんだ。レモンも捨てがたいがやはりみかん。


烈達がいる場所の真反対の貧民街では、今は雪が降っているそうだ。そこで栽培されている、ほうれん草やキャベツが甘くて美味しいらしい。なぜなら霜により甘く熟成されるからだ。


ここの村でも美味しいものがあるとゲレナ村長が言っていた。明日、少し行ってみようかなと思った烈は


今日も夜を更かす為にカフェインを摂取しようとゲレナ村長の所へ向かう。階段を降りてすぐ右にゲレナ村長の部屋がある。


コンコンコン。3回ノック。


「どうぞ」


その掛け声で烈はドアを開けた。

ゲレナ村長は椅子に腰かけ、眼鏡をかけてゆったりと新聞らしきものを読んでいた。


烈が尋ねる。


「カフェイン……、目が覚めるものが欲しいんですけど何かあります?」


ゲレナ村長が新聞を閉じて、徐ろに目を閉じる。


「確か、キッチンの戸棚にスイダミンハがあった気がします。取ってもらって構いませんよ。」


烈は感謝した後、キッチンの方へと歩く。その時に何かを思い出したかのようにゲレナ村長が話す。


「それと風呂湧いているので入ってもらっていいですよ。」


ゲレナ村長がそう言った。

風呂……?ここに来てから風呂はろくに入っていなかった。


かなりハードな生活をしてきた烈は切れるものは全て切ってきたそれはもちろん風呂も。入る日もあるにはあるが、まるで滝修行のようなあまり清潔を保つ行為には思えないものだった。


シャンプーとかボディーソープとか色々あるだろうが、いまいち分からない。試行錯誤で色々やってみよう、と思う烈。


異世界での風呂は良いところなのだろうか。

リラックスできる良いところであって欲しい。

そう思い、烈はコーヒーを嗜む前に風呂場へと直行する。


湯気が立ち上る風呂の中で、あどけなさと賑々しい雰囲気に包まれた2人の女の子が体を流していた。


リヤは髪を洗い流し、ミリアは湯船で目を横に伸ばして至福の表情を浮かべている。


「いやぁ〜、お風呂なんか久しぶりに入ったよぉ」


リヤが驚く、驚いた拍子に目にシャンプーが入ってしまった。リヤが目をこすってミリアに向き直す。


「ミリア、それほんと!?」


ミリアが首を傾げる。風呂に入っていないと言っても、ミリアの髪はサラサラで黒光りしていた。


「毎日、ここのお風呂使っていいよ。」


リヤの気遣い。ミリアは


「悪いってぇ〜」


と言うがリヤは、


「臭うわよ。」


と一蹴した。さすがにこの言葉はミリアには堪えた。

渋々了承したミリア。


シャワーが済み湯船に浸かるとリヤは考え込んだ。

ミリアはぶくぶくと口まで浸かって泡を吹かせている。

突然リヤが、


「ねぇミリア、レツっていってもあんなんなの?」


と言った。ミリアは顔を出した。


「うんそうだよ、いつも自分の信念に真っ直ぐで仲間想いのいい人だよ。」


リヤは烈がトルとの戦いの時に疑問に思っていたことを聞く。


「なんでレツは、あの時あんなに自信満々だったの?」


勝てるはずがない。それなのに立ち向かう。普通は逆だ。勝てるわけが無い。だから逃げる。それをしないのはなぜなんだ、と。


「そんなの簡単だよ、烈は平等を目指してるからね!平等を目指しているのに怖気付いて、立ち向かわないなんて……えーっと、とにかく!挑戦せずに諦めたくないんじゃないかな!」


ミリアは半分は推測。しかしほぼ合っている。

リヤは顔をしかめる。ミリアは驚く。

リヤがため息を吐く。


「ミリアがどんだけ烈のことを信用しているかわかったわ。」


ミリアの信頼度が保証する烈の思想は相当なもの。烈はどんな事があっても自分の信念を通したい人だということが分かった。


でもトルが()()戦うなんてありえなかった。それだけ、トルは戦いが嫌いだった。だから比較的安全なこの村を作ったのに、トルは烈の何が気に入ったのか?なにもかもトルに劣ってる。負けたのに勝ったような振る舞いをしている。


(意味わかんない。レツ……一体何なの、変なやつ……)


複雑な心を抱いているリヤを見兼ねてミリアが言葉を出す。


「リヤはレツのことどう思ってんの?」


かれこれ長く風呂に入っている。ミリアは変貌は無いが、リヤはまるで逆上せたかのように肌が赤く染め上がってる。


「はぁっ!?別に好きじゃないけど!!」


リヤの切羽詰まっている迫真の顔にミリアは疑問に思い、その答えを考えて理解した時、ミリアは口角を上げ、にやけ笑う。


「えぇ〜別に私()()なんて言ってないよぉ〜?」


リヤは煽られると激昂した。

ミリアが笑うと今度はリヤが問い詰める。


「じゃあ、ミリアはレツのこと好きなの!?」


ミリアの時が一瞬止まる。左上に視線を向けて記憶を遡っている。だんだん頬が染っていく。


「別にそんなんじゃないかも〜……」


あやふやな返事、2人は気分が高揚している。

気分を落ち着かせるためにリヤは冷水を浴びている。

ミリアもとりあえず湯船から身体を出す。


リヤは考えれば考えるほど烈が頭に過り再び顔が染められる。


烈が浴場へ着き、脱衣所を見ると、銭湯のような雰囲気がある。しかし一般的な家庭の大きさしかない。


烈は、風呂の様子を見るためドアを開けた。


そこで見た光景はあまりにも━━━━━━━━━━


烈が大学在学中、あまりにも生活が苦痛すぎて講義中に倒れ、精神科医に休めと言われた翌日。やることがないのでたまたま目に入ったシャボン玉セットを買った。


何を思ったのか部屋で椅子に腰かけシャボン玉を呆然と膨らませた。


部屋はシャボン玉だらけだ。

そこら中にシャボン玉が引っ付いている。

烈は机に伏した。


ふと顔を上げると目の前にシャボン玉がある。

烈は艶やかで純白な2つのシャボン玉がゆらゆらと揺れているのを見た。そして2つのシャボン玉がくっつき、激しく揺れていた。


━━━━━━━━激しく揺れていた。


風呂場の湯気が外へ流れて湯気が、ぶわりと顔を撫でた。霞んでいた景色がより鮮明に見えていく。


「あ……」


完全に目が合う。


「な!な!な!なにしてんだぁぁ!!このやろぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」


文字通り赤裸々のリヤが冷水シャワーを烈に向かって放つ。ミリアは湯船に浸かる。


「ぶふぁぁ!!!」


烈は目を瞑り、まともに息ができなくなる。


「すまん!リヤ!ミリアー!」


謝意を込めながら後ろに下がると何かにぶつかる。


「レツくん」


それは低く響いていた。

明白な怒りが乗せられていた。恐る恐る油の切れたブリキのように後ろを振り向くと笑顔でこっちを見る、


トルが居た。


言い訳をしようとなんとか言葉を編んでいる。

しかしその前にトルが話す。


「レツくん、君が強くなりたいのなら僕も全力で応援したい。だからさ」


ゴクリ。烈は嫌な予感がした。


「外にある丸太を持って外周して。今すぐ。」


優しさを持つ言葉に反して目は笑みを浮かべていなかった。トルは烈をたたせ、手を引っ張り外へ連れていく。そして夜も更けているのに関わらず外に出されてしまった。


外には丸太が1本置いてあった。とりあえずそれを背負って、走り出そうと前に傾いたその瞬間、丸太に下敷きにされた。


仕方が無いのでそこら辺の丸太を集めてちょうど良い重さにした。そして走り出した。


暫く走り続けた。足がパンパンになっていて、流れ落ちる汗と夜風とさっきの冷水のせいで体温がとてつもなく下がっている。


体が悲鳴をあげており脾臓が酸素を供給している。


相変わらず貧民街は活気が無い。夜は誰もいないみたいに静かだ。


魔女が抉りとったという所へ再び訪れる。とても広く、綺麗に均されてある。ここでは、月がよく見える。あれは月と言えるのかは怪しくはあるが、人っ子一人もいない。ここで叫ぼうと周りをよく見る。しかし


ん?


目を凝らして遠くの岩の上を見てみた。人影がある。

突風がビューっと吹く。


岩へ近づく。だんだん影が実態を帯びて

烈が知っている人物へと変貌を遂げる。


その銀灰色の髪色は夜の世界でも麗らかに映り、その佇まいは烈に魅せただけで格の違いを見せられた。


「なんでお前がここに……!」


「予選ぶりだね、レツくん。」


そこには本来こんなとこではなくデザイアルで戦うはずの人間。目標である存在。


ゼノが居た。

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