第1話 あくまでこれは必然に
「世界はいつになく不平等だ、それを変えられる方法は、俺たちが動く事なのではないのか?」
東京の片隅、雑居ビルの一室。
鈴木烈はノートパソコンの青白い光に目を細めていた。22歳、社会学を専攻する大学生。今現在は、部屋に籠もってブログを更新していた。
机には空のコーヒー缶が散乱し、画面には「平等の炎」という匿名ブログが映っている。
「現代社会は不平等のゴミ溜めだ。金と権力が全てを牛耳り、弱者はただ踏みつけられる。この腐ったシステムをぶち壊さない限り、誰も自由にはなれない!」
「上が動かなくてはダメだ。今の全ての政策は、上からの改革に過ぎない。」
烈の指はキーボードを叩き、怒りを文字にぶつけた。
烈は子供の頃から不平等に敏感だった。
母の遺産と保険金を使って大学へ進学し、学んだ社会学は、烈の怒りに理論を与えた。
そして今日、裏金問題や、税金の不正使用のニュースを見た。
そして烈は今に至る。
「格差は構造の問題だ。資本と権力が弱者を搾取する仕組み…こんな世界、間違ってる!」
ブログは過激だったが、ネットでは数千人の支持者がいた。コメント欄には賛同や批判が飛び交い、烈は夜通し議論に没頭した。
だが、現実は厳しかった。
バイトと学業の両立で睡眠は3時間。過労で目眩し、手が震える。
どうしてこうなんだろう。人はみな均等に作られているはずだ。
どうして格差が生まれる。みなが均等であれば、そんな格差は生まれないはず。高め合うはず。
なんで人は対立し合うのだ。自分自身を語るのにどうして他人を犠牲にしなければならないのか。
「…くそ、こんな生活も不平等の産物だろ…」
日頃の習慣。今日も仕事の後、2時間ほど自分の話への意見や批判を順当に捌いていた。
烈はコーヒーを飲み干し、ブログに最後の文を打ち込んだ。
「平等な社会ってのは、誰もが自分の力で輝ける世界だ。俺はそれを信じる。俺達国民で作ろう。
誰もが機会の平等を得れるように」
それを投稿した、次の瞬間、
激しい目眩に襲われ、烈の意識は闇に落ちた。心臓が止まるような感覚。これは眠いだけなのか、過労で疲れてるだけなのか烈には分からなかった。
ただ一つだけ、自分は目が覚めたらこの世界には居ないだろうと感じた。
神すら俺を見捨てた。
敗北してしまった!最後の最後まで!
復讐できなかった。俺の身体と心をも愚弄し蝕ませたあいつらに。
目を開けると、そこは見知らぬ世界だった。
整備されてない草と土しかない路地、煤けた建物、遠くにそびえる巨大な時計塔。空には蒸気で動く飛行船が浮かんでいる。
烈は呆然と周りを見回した。
「…何だこれ? 夢か?」
だが、汗と埃の匂い、遠くの喧騒、肌を刺す冷たい風はあまりにもリアルだった。
腕に鋭い痛みを感じ、見ると擦り傷から血が滲んでいた。服はボロボロのジャケットとズボン。転生前のスウェットとは別物だ。水たまりに映る顔は、16歳くらいの少年。黒髪、鋭い目つき、青白い肌。
別人のように感じる。
「…俺、若返ってんのか?」
混乱する頭で考える。眠っていたはず。いや死んだのか?死んだらどうなるかなんて考えてもなかった。ありえない話だが、目の前の世界は現実そのものだった。
(転生ってやつか?)
そう思った瞬間。突然路地の奥から叫び声が響く。
「やめて! 離して!」
少女の声だ。助けを求めている。
烈の足は自然に動いていた。強者からの不平等に対して推測にはすぎないが、胸を熱くした。
何が起こっているかは分からない。だが、助けを求めてるなら手を差し伸べてやりたい。
路地の奥、豪華な服の貴族と私兵たちが少女を取り囲んでいた。少女はボロボロの服で、怯えた目で貴族を見上げていた。
「貧民の分際で俺に逆らうとはな。連れていけ!」
どうやら騒ぎが起こったようだ。しかし貧民だと?烈は、その言葉を過剰に受け取った。
貴族の命令に、私兵が少女の腕を掴む。
「てめえ、ふざけんな!」
烈は叫び、飛び出した。そしてそれと同時に言葉を荒らげる。
「なぜ、貧民などと差別する!?
お前みたいなクズがこの世界を腐らせてるんだよ!」
貴族が鼻で笑う。他の兵士が嘲笑を始める。
「なんだ、このガキは?」
私兵の一人が拳を振り上げる。烈は咄嗟に腕を上げた、普通なら暴行罪。しかしここが異世界ならば、
日本の法律は通用しない。そしてここが異世界ならば、
俺には何かしら能力というか才能があるはずだ。
それに賭ける!!!!
しかし意外なことに
私兵に叩きつけられ衝撃で地面に倒れた。
「ぐっ…!」
当たり前だが戦闘経験がまるでない烈に勝ち目はなかった。そして烈の腹に私兵の足がめり込み、意識が遠のく。
「こんな奴ら…許せねえ…のに」
烈はそう呟き、地面に倒れた。
「ねぇ、大丈夫?」
軽やかな声が烈を呼び戻した。目を開けると、黒髪のツインテールの少女が覗き込んでいた。15歳くらい、黒の軽装に短剣を携えている。身軽そうな格好。きょとんと烈を見る。先程の女の子だった。
烈を心配しながらしゃがんでいた。
「死ぬところだったよ、英雄気取り!」
「…英雄じゃねえ。くそ、痛え…」
烈は体を起こし、少女を睨んだ。
「お前、誰だよ?」
「ミリア・クロウ、よろしくね。んで、君はなんであんな無茶したの? 死にたいの?」
ミリアはニヤリと笑う。烈は立ち上がり、ボロボロの体を押さえた。その体は細かく疼く。
「あの貴族のクズが…君を虐めてた。貧民という理由だけで、、黙ってられるかよ。」
ミリアは目を丸くした。
「へえ、中々熱いじゃん。でもさ、ルミナリスじゃ貧民が貴族に逆らうなんて自殺行為だよ。まぁ、正確には私は少しぶつかっただけだけど」
烈は吐き捨てて言う。
「ぶつかっただけ?結局差別じゃねーか」
(ミリアはルミナリスと言った。
この国の名前か……。)
「この一連の騒動を見たところ、確信に変わった。この世界は不平等だ。確実に根本から腐ってやがる。こうなりゃ、俺が変えてやるしかねぇ。」
ミリアは笑い声を上げた。
「不平等を変える? 面白いこと言うね! でも、そう簡単に死なないでよね。君弱いし!、それと……せっかく助けたんだから。」
烈は「助けた?」と聞き返す。ミリアは得意げに短剣を見せた。
「私の風輝石魔法でね。風の刃で余裕でビュッと!」
烈はミリアの軽快な態度に苦笑した。
「…へぇー。つまり、助けられたんか俺は……」
自分で助けに行こうとしたら返り討ちにあい、その上助けにいこうとした人に助けられるとは……と、烈は自分の弱さに悄気っていた。
「ねぇ名前教えてくれる?」
名前……、ミリアという横文字。ならば合わせる必要がある。
「レツ・スズキだ。」
「レツ、でもありがと、レツがいなかったらきっと反撃は防がれたと思う。」
感謝をされた。その笑顔はとても健やかで元気だった。なんだか複雑な気持ちだ。
そしてミリアの言っていた言葉。
風……きせき?魔法……。
恐らく魔法というところから異世界特有の魔法というのが輝石だ。
烈は理解した。
その時、路地の奥で小さな鳴き声。子猫がゴミ箱の陰から顔を出していた。ミリアの目がキラリと光り、子猫を抱き上げる。
「うわっ、めっちゃ可愛い! どこから来たのぉ?」
子猫と、烈をチラチラ見て、
「お前、烈より100倍可愛いな!」
烈は「は? 俺と比べんなよ!」と突っ込む。
「えへっ、なんちゃって」
ミリアの無邪気な笑顔に毒気を抜かれた。
そんなこんなで烈はミリアとこの世界について貧民街を散策しながら色々聞いてみることにした。
「なぁ、ミリア?、このルミナリスってどういうとこなんだ?」
ミリアは指を口に当て、上を向いて、んーと言いながら考える。
「ここはね、ルミナリスでも割とハズレの方だよ。正確に言えば王都からね。」
「王都?」
王都、その言葉に烈は引っかかった。この世界は王政を採用しているのか?。立憲君主制のような制限のある統治ならまだしも、支配されるという仕組みは良くない。まぁ一方的な推測だが
「この世界の仕組みは輝石が中心なんだよね。輝石が発掘されて文明は発展したの。」
輝石というのがさっきミリアが使ったやつだ。恐らく魔法のようなものだと推測した。いや、もしくは魔法を使用する触媒のようなものだろう。
俺も使ってみたいなという気持ちもある。誰もが憧れる魔法に。
文明が発展し科学も発展した。そして今の世界ができたみたいだ。
「今の生活は好きか?」
そう言われたミリアは驚いていた。どうやらそういうことを考えるのは初めてのようだった。
「私は生まれた頃からここで育っていてね。たまに来る貴族たちは怖かったけど、何もしなければ何もしてこないから大丈夫だったよ。」
そんな、平和を知らない人が、劣悪環境のことを普通だと感じているその現状に烈の胸が締め付けられた。
ミリアが、あ、という顔になる。
「ごめんごめん質問の答えになってなかった。今の生活は━━━━━━━好きだよ。」
そして今度は烈に質問をする
「それはそうとレツはどこから来たの?ここにいる人じゃないよね。私、だいたいの人の顔は覚えてるけどはじめましてだから。」
鋭い。しかし烈が本当のことを言っても混乱させてしまうだけだ。
「俺は貧民街生まれではない、まぁちょっとここのはずれのとこ出身だよ。」
「ルミナリスのはずれのはずれ?」
結局混乱させたみたいだ。
散策して思ったこと。ここの生活水準は相当酷い。かなり最悪な環境を過しているようだ。鼻をすする。ツンとする匂い。刺激臭がした。
烈とミリアが一通り見回ると突如、より一層路地の空気が急に重くなった。
烈とミリアが振り返ると、黒いローブの人物が立っていた。フードの下から覗く顔は息をのむほど美しいと思える。フードからこぼれ落ちる影を持つ銀灰髪は大変趣がある、透き通った肌、中性的な声。聞くものを魅了してしまうような音。
「こんにちは、君の名前を教えてくれるかい?」
烈は警戒しながら立ち上がった。
「てめえ、誰だ? 」
謎の男が質問に答える。
「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね、私はゼノ。」
そしてゼノは微笑んだ。ミリアが警戒する。どうやら貧民街のものでは無いらしい。
「怖い怖い。 ただの通りすがりの一般人さ。ただ、ここにふさわしくない人がいると思ってね。」
ミリアが短剣を構える。
「随分昔の匂いがする……あんた何者!?」
ゼノはミリアを無視し、烈に近づいた。
「君は貧民街生まれじゃないね。」
と、早速見抜いてきた。そんなに分かりやすいのか。
烈の格好は。
「さっきの話聞いてたよ。君の怒りは正しい。だがね、この世界を変えるには力が必要だ。」
烈は目を細めた。
「俺はレツ・スズキだ。」
ゼノはローブから輝く石を取り出した。その石は白色に光り、烈の目を奪った。
「大いなる輝石『シャルト』って聞いたことある?…世界に一つだけしかない、どんな願いも叶える力を持つ。だが、神域の聖峰に封印されている。1000年に一度の神の遊び『神願の試練「デザイアル」』で1000人の1人にならねば手に入らない。」
ゼノの声は低く、神秘的だった。
「もし君が本当に平等を求めるなら、デザイアルに参加し、シャルトを手に入れるといいよ。」
烈は眉をひそめた。
デザイアル?シャルト?、意味がわからない。
「願いを叶える? そんな都合のいい話…そんなもんで願いが叶ったら格差は生まれねぇよ」
ゼノの笑みが深まる。
「まぁそれには深い事情があったのだよ。なにしろ1000年に一度だしね。1000年も前なら今の生活と全然違うことも有り得る。もう一度言おう。デザイアルという試練に君が参加して見事優勝し、シャルトを手に入れたらひとつだけ君の願いは叶う。」
烈は考える。そのようなものが実際にあったとして平等が願ったとして、それは平等と言えるのか?
いや言える。仮初の平等でも、いつかは慣れるんだ。「平等」に。だんだんみんなは平和を求めるようになる。人と人が正しく共存できるように。
「だけどリスクがある。シャルト自体の代償の重さ。本末転倒な代償なんだ。」
「シャルトの代償は…願った内容を二度と考えられなくなること。平等な社会を願えば、平等という概念を失う。耐えられるか?」
烈の胸がざわついた。平等を失う? そんな代償…。確かに本末転倒だ。平等を願うのに平等を求める心が失われたら、俺自身が平等を保てない。
だが、ミリアが教えてくれた貧民街の現状、転生前の俺のために頑張ってくれた母の過労、が脳裏に浮かぶ。
「平等な社会を目指すなら…そんな代償、覚悟の上だ。」
やるしかない。俺1人の心が失われても、世界が平等になるのなら━━━
ミリアが叫ぶ。
「ちょっと待って! それがほんとうだとしてもよ?、そんな危険なもん、ほんとに狙うの? 次は本気で死ぬよ!」
ゼノはやっとミリアに話しかける。
「君は……?」
「ミリア・クロウ……」
「ミリアくん、君はレツくんに着いていくのかい?多分レツくんの旅はとてつもなく面白く儚い旅になると思うよ。」
と抽象的に言い残し、消えていった。
烈が考え込んでいた。
「ミリア、俺は本気で平等を目指してるんだ。だから俺が臨める限界まで平等を追い求めたい。色んな人を救いたいんだ。」
救いたい。その言葉に遠く置き去りにしていた過去を烈の、ミリアの鼓膜を叩いた瞬間だった。
ミリアは、何かを思い出した。
ミリアが頭を押さえてうずくまる。 さっきミリアの感じた違和感と、烈の「救う」という言葉が、ミリアの中で強引に結びついたのだ。
忘れていたかった。忘れていれば幸せだった。 なのに、脳裏に焼き付いた鮮血の記憶が、濁流のように溢れ出してくる。
「ごめん、レツ、その言葉で悪い事思い出しちゃった。」
ミリアの無理に笑顔を作る表情に
烈は何かがおかしいと心臓をドキドキと鼓動している。胸が苦しい。
ミリアは、憂いのある表情で語り始めた。
しかしそれは自身の中に抑えるのが辛かったように見えた。だからこそそれは自然と吐きでた。
「貧民街の人間の扱いは最初から酷かった。だから昔、私の友達も殺されたんだ。」
***
ミリアが6歳もなかった頃。ミリアは、ここの貧民街で出来た初めての友達━━━━セリア。
ミリアとセリアは近所に住んでいて、毎日日が暮れるまで遊んでいた友達。
水色の長い髪色や、透き通った声に、煌めかしい碧眼は、貧民街の酷い生活に活力を与えた。
ある日セリアが妙なことを言った。
「今日はちょっと遠く行ってみようよ!」
遠くというのは、貧民街の境界へ行ってみるということ。ミリアは、ダメだよーと言うが、外の世界に興味があった。
そして行ってしまった。
貧民街の境界では、貧民街と邸宅街の外交が盛んである。なぜなら貧民街には貧民街の環境でしか育たない特産物もあるからだ。そして労働力も。
その日も至極当然、貴族たちがここへ来ていた。
ミリア達にはその人たちがどういう人か分からなかった。貴族に近づいては行けない。境界には近づいては行けないと言われていたが、肝心な貴族というのが分からなかったのだ。
「ミリア!ここ、なんか私たちの町より綺麗だね!」
そんな無邪気なセリアが微笑ましかった。ここは本当に貧民街とは思えないほどの美しさを感じた。
これが格差だと、当時は、全く慮れなかった。
ミリアは
「そうだね!」
と言った。本当に、こんな毎日が続いて欲しいと思った。なんの代わり映えもない平和な物語が。
だが、神はそれを許してはくれなかった。
セリアが1歩踏み出そうとした瞬間━━━━━━━━
━━貴族とぶつかってしまった。
貴族の人は怒っていた。洗練された装いから目を上げると、そこには心の底から侮蔑し軽蔑する眼が自分達を刺していた。
「貴様、下民の分際で我が七聖覇貴族アルタ・カーリタ様の着物をよごすだと?虫唾が走る。、今すぐ…」
アルタの服から青白い腕が出る。しかしそれは磨きあげられた肉体。
「死ね。」
そう言われた瞬間セリアは顔面を殴られ、関所の壁に勢いよくぶつかった。その衝撃が地面揺らす。
ミリアは目の前の状況を理解することが出来なかった。この状況はミリアにとってあまりにも刺激的すぎる。
セリアはまだ殴られる。血が出ても、歯が欠けても、顔が原型が以前のセリアではないものになったとしても。
一通り終わった。終わった。ミリアはただ、ずっと立っていた。目は涙を流すことなくただ乾いていた。ミリアは非力で友達1人も救えないことに自責の念を感じた。
アルタは輝石を取りだした。放たれた光が剣状になり、その刃が、
この世にセリアの肉体を2つに作ってしまった。
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
「ついでに貴様も死ね。」
刃がミリアに向く。その瞬間、
「何をしているんだ。お前は」
冷徹な声に、憤りを乗せていた。謎の男が止めた。
そこからのミリアの記憶は失せていた。その後何事も無かったかのように家に居た。そして現在に至る。
***
途中ミリアは、涙が溢れていた。そして最後には、嗚咽し始める。頭の中から再び消去したそうにひたすら嗚咽。口からは喀痰しか出なかったが、それでも必死に出したそうにしていた。
聞くも無惨な話。腹の底から煮えくり返りそうな話。不平等を根源から表しているような話。そのなにもかもから不快の声をあげていた。
そんな空気を読まずに
突然の路地の奥から足音。貴族の私兵が再び現れた。
「あのガキだ! 殺せ!」
リーダーの男が剣を抜く。烈は立ち上がったが、体はまだ痛む。
「くそ…またかよ…!」
覚悟する。ミリアにとって苦にはなるかもしれない。しかし現状を変えるしかない。再びその惨禍を起こさないために。
烈はミリアの腕を掴む。
「着いてこい!俺が平等を見せてやる!」
烈に腕を引っ張られ、ミリアがよろよろ着いていく。
ミリアが涙目で驚いた顔をしていた。しかし、嫌がる様子もなく、烈について行く。次第に自分の足で走り始めた。
ミリアも感じた。この現状を変えるために、セリアみたいな被害者を出さないために。世界を変えなければと。
ミリアの短剣が風を切り、私兵の剣を弾く。風輝石魔法が炸裂し、風の刃が鎧を切り裂く。
「行くよ、レツ!」
烈は歯を食いしばり、走り出す。
「ここから逃げるぞ、ミリア!」
「はいはーい!」
二人は路地を駆け抜け、貧民街の迷路のような通りを逃げ回る。私兵の追跡は執拗だったが、ミリアの機動力で振り切る。路地の角で息を切らし、烈は壁にもたれた。
「…お前、すげえな。助かったぜ。」
ミリアはニヤリと笑う。
「まぁね! それはそうとさっきの話、レツ、私もシャルトを狙うよ。レツが求める平等に興味湧いてきた。」
さっきまでのミリアの表情とは全く違う。
その顔に烈は微笑み、遠くの時計塔を見上げた。
「当たり前だが死ぬのは怖え。けどよ、この世界のクソみたいな不平等…見過ごせねえよ。」
「平等……かー」
貧民街の廃屋で休息する二人。烈はゼノの言葉を反芻していた。シャルト、デザイアル、代償…。平等な社会を目指すなら、どんな犠牲も払う覚悟が必要だ。
「ねぇ、レツ。シャルトってさ、ほんとに平等な世界作れると思う?」
烈は空を見上げ、
「…わかんねえ。けど、やれるだけやろーぜ。」
「ここから俺とお前は仲間だ。一緒に平等を目指そう。」
ミリアがこくりと頷いてくれた。烈は、自分の思想に賛同してくれてとても嬉しかった。
遠く、神域の聖峰が暗闇にそびえていた。デザイアルが始まるまで、残り数ヶ月。烈の戦いは始まったばかりだった。
のらりくらりと進んでいく。ただ一つの目標に向かって。




