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第5話 手違い

 満足げな顔で子爵閣下は口を開いた。


「一応先に確認しておきたいが、君の領に王家から家令や執事などは派遣されているか?」


「いえ。我が家の使用人は、父が軍から引き抜いた元部下と地元住民のみです」


「だろうな。たぶん手違いがあったんだろう、陛下側に」


「は? 手違いですか?」


 なにかすごいこと言い出したなこの人。陛下がミスったって口に出したぞ。


「先ほど言ったように、平民を後見して貴族家を起こすときは、その者の補佐ができるような優秀な娘を嫁がせることが多いのだ。逆に言えば優秀な愛娘を嫁がせてもいいと思った男を貴族に任命する。

 君の父上があげた勲功も、少数の兵で一地方を守り、敵国軍に大打撃を与え、その後の戦争を回避した、まさに英雄と呼ぶべき成果であり、陛下としても彼を貴族に任命することに異存はなかっただろう」


「はぁ・・・」


「問題が起きたのはそのあとだろう。吟遊詩人が歌っていただけで私も詳しくは知らないが、レオン殿は現地で君の母上に恋をして、妻に迎えたと聞いている。物語としては素晴らしい話だが、陛下は困っただろうな。自分の娘を下賜したいのに、そんな経緯で迎えた娘を側室に押し込めば民衆から反発を食らう。かといって一国の王女を側室にするなんてもっとできない。そのうえ、そうこうしている間に彼は領地に行ってしまった」


「・・・」


「あの領には貴族の知識を持つ人はいないのだろう? 陛下は困ったら相談されると考えたのだろう。少なくとも十数年も引き籠もられるなんて想像もしていなかっただろうさ。結局何も問題は起こらなかったし、話題になることもなかったから忘れてしまったのだろう。陛下もお忙しいからな」


「・・・なるほど」


「レオン殿が外に出てこなかったのはアレリマ公爵家(うち)に引け目があったこともあるだろう。後見を受けておきながら、他のところから叙爵されたわけだ。フィアトロンと道がつながってるのは公爵領しかないが、まあ出てきづらいだろうな。公爵家としては陛下の暴走だと考えていたから、特に隔意はなかったが。

 しかしレオン殿にどれだけ引け目があろうと、領内に補佐役がいれば挨拶くらいはするように促されているはずだ。彼が来ない以上、王家は補佐役も派遣しなかったということで間違いない」



 外に出てようやくうちの領の現状が分かってきた。父が一切外に出なかったのはこれのせいか。なにが「お前が私の代わりを果たせるようになれば」だ。会いづらい相手が近くにいただけじゃねえか。


 貴族知識を誰も知らないと思ったら手違いってなんだよ手違いって。王家がそれでいいのか。自分で叙爵した貴族のことを忘れるなよ。


 それ以前に元軍人の父は、補佐さえいない状態で領地経営を回していたのか。本当によく回ったな。


 というかそのせいで俺は結局、貴族関係を全然理解できていないんだが、このまま王都に行って本当にいいんだろうか。いや、もうよくわからん、この人に相談しよう・・・。



「あの、相談させていただきたいのですが・・・。私はこれから貴族学園に入学するのですが、貴族についてまるで理解できておりません。何か問題になりますでしょうか」


「ふむ? ああ、学園入学か。だからこの時期に挨拶に来たのだな。学園については問題にならんだろう。低位貴族の放蕩息子が入学することもあるからな。世間知らずにも対応できる。見た限り君の魔力量は相当のものだし、貴族にふさわしくないなどとは言われないだろう。問題は君自身だろうな」


「私自身ですか?」


「ああ。結果として君は、「どこにも紐づいてない新興高位貴族の嫡男」というおそらく唯一の存在になっている。しかもどことも交友がなかったということは許嫁もいないだろう? それほどの魔力を持っていれば問題になる相手もいないだろうし、多くの貴族が君を狙うだろうな。当然婚姻によるものも含めて」


「ええ・・・? 私が言うのもなんですが、フィアトロンですよ? そんなところに来たがる女性はいないと思っていましたが」


「別に結婚したからと言って、その領に根付かなければならないと考える女ばかりではないからな。王都の情報収集をすると謳い、ほぼ常に王都にいる貴族夫人もいる。夫がいない間に自由にしたいと考えている女にとってねらい目なんじゃないか?」


「最悪じゃないですか・・・」



 そんな女を嫁にしなきゃいけなくなったら、絶対父にねちねち言われるし、母に怒られるし、妹には泣かれる。いや、まずフィアトロンの領民は認めないだろうし、それ以前にリディに殺されるかもしれん。どげんかせんといかん。



「どうしたらいいのでしょうか・・・」


「それを私に聞くことが間違っているとは思うが。私の立場からの答えならできるが聞くかね」


「どういったものでしょう」


「私が紹介状を書くから、王都にいる私の父に会えばいい。何も知らない貴族はフィアトロンはアレリマ公爵傘下だと思うだろうし、ほぼ間違いなく父はそうなるように動くだろうが、君の今後に差し支えることはないだろう。隣領である公爵家としてもフィアトロンに潰れられると困るからな」


「な、なるほど・・・。ありがとうございます。お願いします」


「ああ、書こう。・・・ないとは思うが、王家が出てきたときだけは注意するように。フィアトロンの後見は王家がすると言われれば、公爵家も下がらざるを得ない」


「その場合はどうすれば・・・」


「わからん。王家の出方によるな。王女を下賜するなどと言われれば受けるしかないだろうが、英雄本人ならともかく嫡男に王女を嫁がせる価値があるとは考えないだろう。お前が何かやらかさない限り問題ないだろうな」


「何かとは・・・」


「何かは何か、だ。私にもわからん。少し待て」



 何かとは何だろうか。そもそも今回の話し合いの内容は、父に相談もせず決めてよかったのだろうか。いろいろと思うことはあるが、すべては俺に教育係を用意できなかった父が悪いととして諦める。



「ああ、そうだ。お前の父に対しても、お前の面倒は公爵家で見る旨、書状を出す。行商が来た時になるから、いつ届くかはわからないがな。何か伝えたいことがあればともに送るが、何かあるか?」



 伝えたいことなら山ほどある。俺は紙とペンを用意してもらい、父への手紙を書く。


 とはいっても、わざわざ紙を消費して文句を書き連ねるわけにもいかない。他家と一切かかわりがなく、貴族事情を理解していない現状が問題であるとわかったため、公爵家の支援を受けることにしたこと。王都で公爵と会う予定であること。そのくらいだ。


 最後に、手紙に魔力紋を焼き付け、俺の直筆だと示す。


 魔力紋は書類の本人確認によく使われる方法だ。紙をつまんで魔力を流すと、つまんだ人間の魔力の波紋の形に紙が焼き付く。魔力の波紋は人それぞれ固有の形を持つため、直筆の証明になるわけだ。比較対象が必要だが、フィアトロンなら俺が焼き付けた魔力紋なんていくらでも残っている。父ならわかるだろう。

 

 書き終えたため、手紙を封筒に入れる。少しして、子爵閣下も紹介状を書き終えたようで、封筒に入れてこちらに渡してきた。俺も手紙を子爵に渡す。


「これを持って王都の公爵邸に行けばいい。おそらく父は邸にいるだろうから対応してもらえるだろう。ああ、邸に行くより前に学園に行くように。制服がもらえるはずだからそれを着ていけ。流石にその服では使用人も取り次いでくれないかもしれん。お前の父の顔を知っている者だけではないからな」

 


 そう言うとにやりと笑い、立ち上がって手を出してくる。握り返して応える。



「わかりました。・・・いろいろとご迷惑をおかけしました。ありがとうございました」


「本当にな。私がここまでするのだから、変な女に引っかかってくれるなよ? さっさと父に会ってくれ」


「はい! それでは失礼いたしました」


「ああ、またな」



 子爵閣下に頭を下げ、部屋を出る。廊下で待っていたリディが近寄ってきた。・・・話の内容は聞いていたようだ。貴族の話を盗み聞くことの良し悪しはさておき、行動予定を告げる。



「とりあえず、出るぞ。街で魔石を換金して、街を出るのは明日だ。細かい話は宿で部屋を取ってからにしよう」



 リディは頷いた。とても不満そうな表情であった。

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