最終章 Ⅹ Aversion
四月になりましたね。
四月中に完結を目指して頑張っております。
最終章のテーマは『未来』『犠牲』『絶望』
この物語の終着点は今まで読んでくれている方なら予想がつくかと思います。
今回もよろしくお願い致します。
~最終章 Ⅹ Aversion~
四季の周囲には無数の銃火器が浮かんでいた。彼女を中心に円を描き銃火器が回転していた。リゼリの繰り出す規格外の攻撃に対して、四季は適切な火器を選び放つ。四季の周囲を浮ぶ火器達はどこにでもある一般的な物から、特殊なものまで幅広く用意されていた。能力によって用意された彼女の武器は、本来は能力を殺すリゼリの黒い影を傷つけた。
リゼリは現状に焦りを感じていた。リゼリの能力である黒い影は本来、敵の能力を喰らい封じる。しかし、四季の放つ弾丸は影に消されることなく、リゼリへ向かって来る。『どういうことだ?』リゼリの能力は彼自身の体に、命を蝕むものである。命を削って放つ攻撃をあの女は簡単に撃ち抜く。箱美芽 四季、俺は今までに何度もこの女との戦いをイメージしていた。リゼリのイメージはまさに圧勝であった。本来は相手を自身のゲームへ取り込むのが四季の能力である。だからこそ、リゼリは自身の能力は四季にとって天敵であると思っていた。
リゼリは両腕に纏った黒い影を鎧のように変化させ、勢いよく四季へ振った。黒い影は長く伸び、地面を抉り四季へ向かう。四季は周囲を回る火器の中から、グレネードガンを選び、迫る影へ撃つ。二つがぶつかり大きな爆発を起こす。爆発の中から四季が両腕に拳銃を構え、リゼリへ向かって来る。四季は走りながら弾丸を放つ。リゼリは黒い翼を自身の前へ出し、弾丸を防ぐ。四季はかまうことなく弾丸を撃ち続ける。黒い翼は少しずつ削られていく。
四季はリゼリが翼を使って防いだ瞬間、一機に距離を詰めた。翼の目の前まで一機に近づき、拳銃を捨て両手にショットガンを握った。銃口を翼につけ、ゼロ距離で放つ。弾丸は翼を砕く。砕かれた翼の奥からリゼリの姿が現れる。
そこには真っ黒な槍を握ったリゼリがいた。リゼリは翼が砕けると同時に四季へ槍を突いた。リゼリの突いた槍は四季の左肩を貫いていた。心臓を狙って突いた槍を四季はギリギリでかわした。槍はそれ、致命傷を避けた。肩を貫かれた四季の顔に焦りはない、リゼリは腹部に痛みを感じた。全身に纏った黒い鎧が砕けていた。そこから赤い液体が流れ出していた。リゼリは四季を睨むつけ、残されたもう一方の翼を無数の槍へ変化させ四季へ向かわせる。四季は右手に握ったリボルバーで自身を貫く槍に向けて撃つ。弾丸は槍を砕き、四季は槍を突き刺したまま、後へと大きく下がった。
「ぐはっ・・・・」
リゼリは吐血した。命を脅かす痛みが、侵食された体と心を苦しめる。『おかしい・・』現実がより一層リゼリを苦しめる。リゼリは黒い影を使って今まで一度も、苦戦したことがなかった。いや、苦戦はあったかもしれない。命の危険、敗北という危機に立たされたことがなかったのだ。侵食する黒い影は根のようにリゼリの体へ広がり、ほぼ全身へ広がっていた。リゼリは痛みのあまりふらついた。
「思っていた以上に力の差があったな」
四季の言葉がリゼリへ追い討ちをかける。実際の所、四季は何故自身の放つ弾丸がリゼリの能力に通用するのか分かっていなかった。それはセルフィアとの出会いによるものだった。四季はセルフィアの拳銃を使っていた。そのことが彼女に対能力用の力を与えた。
リゼリは限界を感じていた。これ以上この力を使えば、確実に死ぬ。そして、四季には勝てない。リゼリは黒い影を自身の体の中へ戻していく。黒い根が引くのと同時に全身へ激痛が走る。痛みで思わず声が出る。その姿を四季は槍を抜きながら平然と見つめていた。全身から根がひくと同時に、リゼリの視野が狭くなるのを感じた。
「それが人工的に造られた力の対価か」
リゼリは自身の左目から流れるモノに気付いた。真っ黒な涙。そして、視力を失った左目。
「知っていたのか・・・」
リゼリは四季の言葉に答えた。四季の目はすでに哀れみのものへ変化していた。
「あぁ、人工的な能力の開発と二重能力者の製造」
リゼリは四季の言った製造と言う言葉の意味をよく知っていた。そうまさに製造、欠陥品は処分され、使えるものだけが生残る。
四季は右手のリボルバーの銃口をリゼリへ向けた。リゼリも反撃しようとし、武器を召喚しようとした。その時、体の奥から衝撃が走る。リゼリの体は大きく揺れ、地面へと崩れ、膝をつく。リゼリは大きく咽、真っ黒な血液を吐血した。四季は哀れむように引き金へと力を入れた・・・・・
トリギオンの司令室いた全員が目を丸くしていた。ヴァイパーは銃口をマルクトロスに向けたまま映し出される戦場の映像を見ていた。その時だ、司令室の扉が開く。開いた扉の奥から半身を失った全身を布で覆った死体が投げ込まれた。死体はちょうどマルクトロスの真横に落ちた。扉の奥から全身を返り血で染めた愛が表れる。ヴァイパーは思わず、扉から向けられる殺気に反応してしまった。その隙を狙い、マルクトロスは隠し持っていた拳銃をヴァイパーへ向ける。ヴァイパーはすぐに気付き、引き金を引こうとした。
「・・・・・・・」
司令室に重いボールが転がるように音が響いた。体から切り離されたマルクトロスの頭が司令室の床を転がる。
ヴァイパーは真横に立ち、マルクトロスの首から噴出す鮮血を気持ち良さそうに浴びる愛に恐怖を感じた。赤く光る愛の右目がヴァイパーへ向く。返り血で血化粧された愛の顔が真っ直ぐにヴァイパーを見た。その時、司令室にいた兵士達が一斉に銃口を二人へ向けた。ヴァイパーが動く前に、一人の兵士は真っ二つされていた。次々に上がる血飛沫、ほんの数十秒で司令室は二人きりになった。最後の一人を殺した愛はヴァイパーを見た。愛は笑いながら泣きながら言った。
「私を・・・殺して・・・お願い・・・殺して・・・」
ヴァイパーはすぐに理解した。愛の真意に、今振るっている刀は彼女の意思に反している。その刀は敵を傷つけるだけではなく、彼女自身も傷つけているのだろう。赤く光る右目は活き活きと輝き、左目は悲しく泣いている。ヴァイパーはゆっくりと自身の持っていた拳銃を愛へ向けた。一段下がった場所に立つ愛へヴァイパーは見下ろすように銃口を向ける。ヴァイパーはすぐに引き金を引くべきだった。愛の体は反射的に動き、自身へ銃口を向けたヴァイパーを敵と見なした。愛は一瞬で距離を詰め、刀を振るった。その刀はヴァイパーの持っていた銃を切り裂き、ヴァイパーの首元を微かに切り裂いた。ヴァイパーはすぐに手に残った銃を愛へ投げ。司令室の出口へ逃げ、扉を閉じた。ヴァイパーは直感的に感じた。『殺される』最初の一撃が彼の命を奪わなかったのは愛の意思によるものだった。彼女の最後の抵抗がヴァイパーの命を救った。そのことにヴァイパーは気付いていた。ヴァイパーはトリギオン内部を走っていた。自身に迫る殺気を背後の感じながら。
私の父は強い人だった。真っ直ぐに世界を見つめ、己の刀で世界を変える為に戦い散った。残された母は私に言った。
「あなたは好きな道を選びなさい。刀の道でも、普通の道でもあなたの望む道を進んで」
私は刀を振るう道を選んだ。小さい頃から私は一族の中でも神童として扱われていた。本来は宿るはずのない能力を産まれもって持ち、常人を超える身体能力。そして、何よりも強さを求める貪欲さ、私は負けることが嫌だった。どんなことよりも嫌だった。世界には自分より強い人間がいることは良く知っていた。それでも負けることは嫌だった。ハウンズに入り第三小隊のエースとして戦場駆け抜け、多くの者を切り伏せた。
そして、私は大きな力と対峙した。明らかな敗北、二度に渡った敗北。それは私を焦らせた。恐怖させた。私は友を失った。自身の力のなさが、友の命を奪ったのだ。あの時、私が彼女を止めることが出来ていれば・・・・
「そして、私は力を欲し、飲み込まれた」
血に染まった自身の姿が愛刀に映る度、私の心は切り裂かれた・・・・・
~つづく~
最後まで読んでいただきありがとうございました。
最終章ということで文字が多めですね。
この物語は完結すると同時に『 』になります。残すところあと9話です。
最後まで彼らの物語にお付き合いしてくださると嬉しい限りです。