第五章 Start to(E.N.D)Ⅰ
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~第五章 Start to (E.N.D)Ⅰ~
フロルが受けた攻撃は二回、エングレープの蹴りと拳。それ以外の攻撃はすべてかわす、もしくは防ぐことが出来ていた。フロルは蹴りを受けたわき腹を押さえながら、エンブレークから一定の距離を置いていた。
「あなたの能力は二種類ある」
フロルはエングレープへと話かけた。エングレープは特に表情一つ変えることなく、フロルへ返答した。
「流石だ、その通りだよ。自身の能力の種を明かすのは少し甘やかしすぎな気もするが、ばれてしまったことだ。白状しよう」
エングレープは左手に握っていた拳銃から一発の弾丸を取り出した。
「一つ目はこれだ」
エングレープは弾丸を自身の真横へと投げた。そして、エングレープはそれが地面へと落ちる前に弾丸へと追いつき受け止めた。
「今の能力の種はなんだい?フロルくん」
「あなたの一つ目の能力は絶対速度の操作。これはあなた自身の速度を操作している」
エングレープは少し満足そうに笑った。フロルは更に話を続けた。
「この能力が私が反応出来る方のもの、この能力は自身の速度を早くする。でもあなた自身の反応速度が上がる訳ではない。だから僕にも反応出来る」
「正解だよ。その通りさ、いくら私の動く速度早くしても、私自身がその速度について行けなくては意味がない。では二つ目の能力はどんなものか説明してもらえるかな?」
「説明するよりもこの方が手っ取り早い」
フロルが言い切ると同時に周囲の温度が一気に低下し、全方行からエングレープに向かって氷結が迫る。周囲が真っ白に凍りついて行く。ちょうどエングレープから1メートル位の距離の所から氷結していく速度が遅くなる。
「これがあなたの二つ目の能力、相対速度の操作。あなたを中心に周囲の速度を操作する。これならどんな攻撃もかわせる、そしてどんな相手も捉えられる」
フロルの表情が険しく変化する。
「ご名答、さて私の能力の種を暴くことは出来た。あとは攻略するだけのようだ、フロルくん」
エングレープの目が鋭く光る。その目はフロルへ告げている。「さぁ出来るものなら、私に見せてくれ」フロルにとって二つの目の能力は最悪の相性だった。近接戦になれば勝ち目はない、遠距離戦であっても決め手がない。フロルはすでに自身の能力は奇襲や近接戦での補助としてしか、この男相手では意味がないことに気付いていた。フロルはあらゆる手を思考する。突然、フロルは大きく後方へと下がる。
「いい勘をしている。いや勘ではなく、しっかりと警戒していたのか」
フロルはエングレープが速度操作の領域を広げたことを周囲へ展開させた氷から読み取った。
「君は本当に優秀だ。ここで殺されるのも、捕まって殺されるのも実に勿体無い」
フロルにとって一番厄介なのは能力ではなく、エングエープ自身だった。この人は私よりも、四季さんよりも多くの死線を乗り越えている。圧倒的な経験量の差、そして精神の強さ。フロル自身もすでにいくつかの奇策を使い、エングレープへと迫っていた。だがどんな策に対してもこの男は冷静に対処する。
「君の最大の武器は能力じゃない、その観察力だ。私から決して目を離すことなく、策を練り続け私を追い詰めようとしている。そして、君が優秀だと分かる最大の理由は君が今も動かないことだ」
エングレープのその言葉がフロルの胸を貫く。「すべてばれている」フロルはどんなに策を練っても彼を詰み切ることが出来ないとすでに分かっていた。
「君では私に勝てないよ。君は私の初撃に反応出来た。そして、『この男が初撃、目標を確実に仕留められるであろう状況で能力を出し惜しみするのか?』と考えた。そして出た答えが『あれは全力だ』」
エングレープは話を続けたままフロルへと近づいて行く。
「君の出した答えは正解だった。でもそれはあの状況で出せる私の全力だった」
その時、フロルの頭の中に一人の男の顔が浮かんだ。『赤色の道化師』
「氷狼よ」
フロルの掛け声と共に無数の氷狼が現れ、エングレープへ向かう。エングレープは氷狼達の速度を落とし、簡単にかわし砕いた。氷狼は絶え間なくエングレープへ襲い掛かり、やがては山のようになりエングレープを包み込んだ。
「氷塊とか・・・・」
「これが奥の手とは、少し買いかぶりすぎたようだ」
フロルの真後から放たれた弾丸はフロルの胸を貫いた。しかし、エングレープの前にいたフロルは氷のように砕け、エングレープへと襲い掛かる。エングレープはすぐに能力を使い砕けた無数の氷の速度を落しかわす。
「こんなことも出来るとは」
エングレープは声の方を見た。フロルはエングレープから数十メートル離れた所にいた。突然、大きな地響きともに巨大な氷の壁が空へと伸びていく。氷の壁は巨大なドームを形成しエングレープを中へと閉じ込める。
「いい策だ」
エングレープは氷の壁が現れた瞬間にその場から逃れようとした。しかし、エングレープへ砕けた無数の氷が向かっていた。
「僕はあなたは二つの能力を同時に使えないと賭けに出た。だから、あなたに自衛の為に能力を使わせたかった。そして、あなたは能力を使った」
エングレープは透き通った分厚い氷の壁の中からフロルを見続けていた。
「フロルくん、君は確かに優秀だ。でも君は同じ間違えを二度したようだ」
フロルは背筋が凍るような不思議な気に当てられた。
「君のこの策は私を殺す為に行うべきだった。でも君は私を閉じ込めるという選択をしてしまった。そう、君は『彼には氷の壁を壊す手段はない』と考えた。違うかな?」
フロルは唇を噛み締め、新たな策を考える。
「10分間、それが君に与える時間だ。好きにするがいいよ」
エングレープはそれだけ言って目を閉じた・・・・
「君の勝ちのようだ・・・」
10分後、エングレープの視界にフロルの姿はなかった。
「残念ながら今の私にはこの壁を壊す武器はない。私の言葉を受け逃げることを選んだのか、それともはったりだと分かっていたのか?どちらにしても君の勝ちだよ」
~つづく~
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