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Acht;untitled  作者: 鳴谷駿
第五章 命灯
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第五章 奇節 Ⅱ

今回もよろしくお願いします。


~第五章 奇節 Ⅱ~

潮風に優しく吹かれた四季の髪がなびく、月明かりに照らされたバルコニーで二人は向かい合った。

「隊長、僕はもう大丈夫です」

四季はフロルから目線を逸らし、バルコニーから海を見た。海の波は優しく揺れ、月明かりに照らされ青く輝いていた。

「何が大丈夫なんだい?」

「傷もすっかり治りました、早くアステリオスにもど・・・」

「戻ってどうする?」

フロルは四季の予想外の反応に言葉を失う。

「また任務に・・・・」

「お前は何の為に任務につく?」

「僕は・・・・」

フロルは自分の中に理由を見つけられなかった。

「私は楽しむ為に軍に入り、ハウンズに入り、戦いを楽しんだ。ただ自分の・・・」

フロルは四季に近づいて四季の腕を掴んだ。

「違います、隊長はそんな人じゃない。この手が僕を導いてくれた」

四季はフロルを見つめた。

青く輝く綺麗な瞳が真っ直ぐに私を見つめる。

その目を私は知っている、綺麗な目、真っ直ぐで私と違う・・・



「君も懲りないねぇ、これで何連敗だい?」

四季は桜家の言葉に耳を傾けることなく、立ち上がりその場を離れて行く。

「箱美芽さん、僕達は昼いつも屋上にいるからさ。気が向いたらおいで」

四季は振返ることもなく去っていく。その後姿を桜家は楽しげに見つめていた。

翌日、昼休みに四季は屋上へ向かった。それは決して昼食を桜家達と取る為ではない。

「おっ箱美芽、どうしたんだ?」

楓は屋上に現れた四季へ声をかける。四季は顔を歪め、拳を握り締める。その時、屋上へ桜家が現れる。

「箱美芽さん、来てくれたの、いやぁ誘って・・・」

四季の蹴りが桜家へと向かう、その蹴りを受けたのは楓だった。桜家は自分と楓の位置を入れ替えていた。四季の蹴りは楓の頭を捕らえ、楓はそのまま意識を失った。四季は突然の出来事に固まっていた。

「箱美芽さん、初勝利おめでとう」

桜家は四季にクリームぱんを渡した。

「これは僕からのお祝い、あっ僕の名前は桜家。よろしくね」

桜家そのまま屋上の物置の上へと登り昼食を食べ始めた。四季はただ地面にのびている楓を見つめ続けていた。

その日以来、三人は屋上で昼食を取り始めた。三人での会話はあまり無く殆ど楓が、二人に話しかけているものだった。四季の時々見せる微かな笑顔は桜家と楓の密かな楽しみだった。三人は毎日のように顔を合わせ、互いを知り、理解していった。


箱美芽四季、彼女は強く、真っ直ぐな人間。だからこそ、他を理解し其れを受け入れられなかった。彼女にとって他はただの他だった。だから力を振るうことに意味はなく、自身の為にしか振るえなかった。

桜家咲也、彼は賢く、優しい人間。他を受け入れ、他を理解し、大切なものをすぐに理解し、彼は人を繋ぎとめる。彼は優しい故に力を振るわなかった、力だけに意味がないことを彼は知っていたのかもしれない。

茅離楓、彼はすべてを持っていた人間。でも彼もただの人間だった。


「箱美芽は模擬戦どうするんだ?俺は桜家と組むつもりだけど、箱美芽も一緒にどうだ?」

士官学校では毎年開催される大規模な模擬戦がある。模擬戦はすべての学年が参加し、生徒全員が1~6人の小隊を組んで生き残りをかけて戦う。

四季は物置の上の楓を見上げた。

「私と組むってことは、優勝するんだよな」

楓は物置から飛び降り、四季の前に立つ。四季は驚き目の前に現れた楓に、少し四季の顔は赤くなっていた。楓の目は真っ直ぐに四季を見つめる。

「当たり前だろ」

楓は手を四季の前へ出した、二人は嬉しそうに手を合わせた・・・・


模擬戦の一週間前、四季の携帯に桜家から連絡が入った。

「楓が死んだよ・・・・」

四季は言葉を失い、涙を流すこともなくその場へ崩れた。楓はバイトの帰りに車道へ飛び出した子供をかばって死んだ。それは彼らしい死に方だった、彼は簡単に命を投げ出した・・・



四季の頭に楓の姿が浮かぶ、それは彼女が最初に失った(もの)

「失いたくないんだ。私は怖いんだ、お前を失うのが。怖いんだ、怖くて、怖くて・・・」

四季の手が震える、その手をフロルは握り返す。

「僕は死にません」

「違う!!どんなに強くても、人は・・・」

フロルは四季を抱きしめたかった。しかし、彼の体ではそれは出来なかった・・、フロルは四季の手を放した。

「隊長、待っていてください」

フロルはそれだけ告げるとバルコニーから姿を消した。四季はフロルに握られた手を見つめる・・・・



桜家は短くなって煙草を床へ押し付け消した。焼かれた半身はすでに痛みを感じなくなっていた。ゆっくりと腰を上げ立ち上がる。そして、軍服の胸元から古臭い煙草の箱を取り出した。その箱はボロボロで少し血で滲んでいるようにも見えた。桜家は箱から煙草を一本取り出し、そっと口に咥え火をつけた。

「俺の番だな」

桜家は炎の海へと姿を消す・・・・



「咲也、何でお前は戦わないんだ?本当は強いんだろ」

「痛いの嫌いだし、疲れるのやだし・・・」

楓は大きな声を出して笑った。

「お前らしいよ。大丈夫、お前が戦わなくてすむ様に俺がしてやるよ」

桜家は楓を見つめた。

「何か俺、かっこわるくない?」

「かっこいいよ、戦わないのが一番いいに決まっている。でも俺達は力を持って産まれた。この力はきっと守る為のもの、だから俺はこの力でみんなを守る」

楓は自身の手を空高く上げ太陽に重ねた。

「太陽ってさ、俺達を照らしてくれてはいるけど結局は見ているだけだろ。それって神とかと一緒じゃん、結局は何もしてくれない。だから俺達がやらなくちゃ、俺達には立派な手があるんだからさ」

桜家は自分の手を見つめた・・・

「俺の手かぁ・・・・」

「なぁ咲也、俺達は軍人だ、いつかは死ぬかもしれない。もし俺が死んだら俺の代わりに守ってくれよ」

桜家は楓の言葉に少し驚いた。桜家にとって楓の言葉は想像もしていないものだった。

「あぁ、分かったよ」

「何だよ、その返事!!こういう時は俺に任せろだろ!!」

「やっぱり、やーだ」

楓は桜家に飛び乗った、二人は楽しそうにじゃれ合い笑った。



桜家は楓の墓の前に立っていた、そっと煙草を咥え火をつけた。

「俺、ハウンズの隊長になったよ。四季の奴も隊長やってるよ、あいつ強くなりすぎて俺が守ってもらっているくらいだよ。あいつはお前の所に来てるか?」

煙草の煙をそっと吐き出す。

「来る訳ないか・・。俺にも部下が出来たんだ、可愛い部下でさ、みんな弱いんだよこれがさ。最近、俺も分かってきたよ、お前の言っていたことの意味がさ」

桜家は煙草を消し、花束を墓の前へ置いた。

「また来るよ・・・・」



「あぁ・・・、俺もお前と一緒じゃないか・・・」



                    ~つづく~


最後まで読んでいただきありがとうございます。

実は昔に短編を投稿したのですが、その内容がやや桜家と四季の模擬戦に触れていたんですよね・・、第一章を投稿した当時から読んでいる方は結果を知っているかと。

もし希望がありましたらまた投稿致します。

今後もよろしくお願い致します。

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