第五章 誰が為
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~第五章 誰が為~
ヅバイは階段を駆け上がり地上に出た。辺りは夜を楽しむ多くの人に溢れていた。その中でヅバイはジャスの姿を探す。人の間にジャスの背中を見つけた。ヅバイは人を掻き分けジャスの背中を目指す。その背中をヅバイは長年追いかけ続けた、そして今もその背中を追い続ける。ヅバイの体を酔いが襲う、平衡感覚が失われ、膝をつく。
あの人の背中が また 消えてゆく・・・
翌日、ジャスはすでにエグルガルムへ出発していた。
僕はある一族の最後の一人だった。僕等の一族は身体能力が高く、普通の人間より明らかに丈夫だった。「生きること」=「戦い」だった彼らは数を減らして行った。僕は本当の父も母もどちらの顔も知らない。孤児として小さな孤児院で育った、優しいシスター達は僕に色々な話をしてくれた。命の大切さ、力の意味、色々なことを僕に教えてくれた。言われた時は分からなかったことが、今では力を振るう為にその意味を何となく理解出来る。ある日、一人の老人が来て僕は孤児院を出た。そして、アピースに入ることになった・・・
とある任務で僕達はとても綺麗な町に行った。僕等が町を出る時に町は廃墟になっていた。僕は崩れた協会の椅子に腰を下ろし、ただ空を見上げていた・・・
「辛いか」
灰色の綺麗な髪がそっと夜風に揺られ、硝煙の臭いを放った。セルフィア隊長が僕の隣に座った、隊長は椅子に寄りかかり、前の椅子へ足をかけた。
「私が迷い無く命を奪うのを見てどう思う」
僕は隊長の顔を見た、隊長は煙草に火をつけ煙を吸い込み夜空へ吐き出した。
「何も感じないのですか?」
「そんな訳ないだろ。私はただの人間だ」
僕は綺麗な夜空から目を逸らした。横からゆっくりと深く吐き出される音が聞こえる・・
「あたしらは何故奪う、何故殺す、その理由考えたことがあるか?」
「あります・・・・」
「正義だからさ」
迷いのない隊長の言葉が僕を貫く。
「正義だから悪を討つ、それだけのことだ。だが正義と悪の境界線は何だと思う?」
「命を救うことですか?」
隊長は笑った、椅子から足を下ろし煙草を消し立ち上がる。
「じゃぁ、誰も殺せないだろ。勝利が正義をつくる、敗北が悪をつくる。だから私達は勝ち続け正義でい続けなくてはならない、これがすべてだよ」
隊長は協会の奥へ進み、焼け焦げた十字架の前で手を合わせた。僕も隣で手を合わせた。
「行くよ、次の任務だ」
「はい!!!」
全身が痛い、腹部が熱く動こうとすると激痛が走る。フェアはビルの下で瓦礫の中に横たわる。腹部へと手を伸ばすと左のわき腹を鉄筋が貫いていた。フェアは鉄筋を引き抜き痛みを堪える。
「負けられない、僕が負ければ・・・、僕の今まで奪ってきた命が・・・」
フェアは瓦礫を手すりに立ち上がる。フェアはゆっくりと目を閉じ開く、その両目に深く濃い赤い光が灯る、腹部の傷口が塞がっていく・・・・
中央ブロック 第二防衛線
「駄目です、全く止まりません」
中央ブロックは火の海へと化していた。フォークトは炎と共に周囲を燃やし尽くす。
「君がここの司令官さん?」
エグルガルムの兵の横に桜家が現れた。
「ここは僕等に任せて、北側のブロックに行ってくれるかい。僕達はハウンズ第二小隊、ノークさんからここの防衛、いや彼を止めるように言われてね」
桜家はにっこりとわらい兵士の肩を叩いた。兵士はすぐに状況を理解し、桜家に頭を下げ部下を集め指令を出した。
「みんな、聞こえている。これから僕等は幻想の道化師とやりあわなきゃいけない、すごく強いみたいだから無理はしないでよ。でもここを突破されると、大変だ」
朽ち果てた都市の大通りの先に炎が現れる、真っ白なスーツ、首元には派手なストール巻いた男が堂々と通りの中央を歩きながら現れる。
「標的のお出ましだ・・・・」
ヅバイがジャスの腕を取り立ち上がった時、ビルは大きく揺れる。ヅバイ達は崩れるビルから脱出し、ヅバイは通信機を取り出そうとした。
「まだ終ってないよ」
崩れたビルによる煙の中からフェアが姿を現す。ヅバイはすぐにフェアの以前との違いに気付いた、暗く赤い目、彼を包む雰囲気そのものが鋭く研ぎ澄まされている。ヅバイはすぐに両腕に剣を召喚し、フェアに向かう。迫るヅバイにフェアがチャクラムを振るう、一撃でヅバイの剣は砕ける。二撃目のチャクラムがヅバイを捉える、ぎりぎりで剣を召喚するがヅバイは瓦礫の中へ吹き飛ばされる。ジャスはすぐにフェアに手を向けるが、フェアはすでにジャスの懐へ入る。フェアの一閃をヅバイの部下が自身の体を盾に防ぐ、部下の体は二つに別れた。もう一人の部下が反撃に移ろうとすると、すでにフェアのチャクラムが胸を貫いていた。フェアはチャクラムを引き抜き、ジャスを睨む。ジャスは呼吸することすら出来なかった、一瞬でもこの男から目を離せば終る。そう本能が告げる、この男から逃れる方法を考えるが、すべてが自身の死へ繋がる。これが本当の死・・・
「あなたじゃ、僕には勝てません」
フェアはジャスへ近づいて行く。その時、白銀の一閃がフェアを襲う。フェアは紙一重でそれをかわす、続けて剣撃がフェアに繰り出される。フェアはチャクラムで無理やりヅバイを弾き、距離を取る。
「この人は殺らせない」
ヅバイはマントを脱ぎ、軍服の上着のボタンを外す。
「召喚 機怪剣 アテナ」
ヅバイの右手には白銀の剣が、左手には金と銀で装飾された剣が握られた。フェアは表情を歪めた。
「逃げてください」
ジャスはここに自分がいても、何の役にもたたないことに気付いていた。しかし、ここから逃げる、ヅバイをここに残すことを心が拒絶する。
「あなたを守らせてください、必ずあなたの元へ戻ります」
ジャスはヅバイの言葉に固まった。フェアの目の色が戻り、地面へと座り込んだ。
「待っていてやる」
二人はその言葉を聴いて驚いた。しかし、この男がそう言うことを本当にする男だと何となく分かっていた。
「あなたに伝えたいことがたくさんあります。だから待っていてください、僕があなたを守りますから」
ジャスはヅバイを抱きしめた、そして優しく口付けした。
「待っている」
ジャスはヅバイに背を向ける。ヅバイはその背中を見つめる、いつもとは違うその背中を・・・
「悪かったな」
ヅバイは剣を握り直す、フェアは立ち上がり目の色が変化して行く。
「あの女を殺そうとしたのに、あんたもだいぶお人好しだね」
「あの状況で攻撃を止める、お前には言われたくないな」
二人はゆっくりと互いの刃を構える。
「あの人があんたの戦う理由?なら二人でこの戦場から離れるならあんたと戦わないけど」
ヅバイは軽く笑い、白銀の剣を見つめた。
「本当に甘いな、それは出来ない。私はすでに二人の部下を失った、それに私の誇りがそんなことを許さない」
ヅバイの剣が一瞬、光を放つように光った。二人は同時に動き出す、響き渡る剣撃の音、互いの命がぶつかり光を放つ。
「まだ倒れないのかよ」
フェアは息を荒くしながらヅバイに尋ねる。
「倒れる訳にはいかない」
ヅバイの体はフェアより遥かに多くの打撃を、斬撃を受けていた。ヅバイは剣を支えにまた立ち上がる。
「お前だって分かってるんだろ!!その力、その剣を使うとお前の命も磨り減るんだろ。それでも俺には勝てないって分かっただろ!!」
フェアがどれだけ叫んでもヅバイはフェアに向かう。フェアは容赦なくヅバイを叩き潰す、すでに自分が勝利していることに気付きながらも・・・・
「まだ、私は負けていない」
ヅバイは剣を支えに立ち上がろうとする、体が悲鳴をあげ立ち上がることを拒絶する。それでも騎士は立ち上がり剣を振るう。フェアはチャクラムを捨て、ヅバイを殴り飛ばした。そして、ヅバイの腕を掴みへし折った。ヅバイは痛みを堪え、もう一方の剣を振るう。フェアは素手でその剣を止める。
「もうやめろ・・・・・」
フェアの目の色が元に戻って行く。
「俺はあの女を殺さない、もう俺はお前に勝った」
ヅバイが剣を捨て、フェアの胸倉を掴み頭突きを放つ。
「フェア・クラウル、お前は何の為に戦う?」
フェアは辛そうに答える。
「正義の為に・・・・」
ヅバイは地面に落ちた白銀の剣を拾い構える。
「その正義、私に示してみろ」
フェアはチャクラムを拾い上げ、ヅバイへと向かう・・・
「私の勝ちだ・・・・」
「最高でも引き分けの間違いだろ」
ヅバイの剣はフェアの胸を貫いていた。ヅバイは力尽き地面へと倒れてゆく・・、フェアはその姿を眺めていた。フェアは剣を胸から引き抜き、その場へ倒れ込んだ。
「これは死ぬかな・・・・・・、能力使わないと・・・・」
フェアは静かに目を閉じた・・・
~つづく~
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この二人の戦いは私の考える戦いの理由です。お互いに心に誓った誇りの為に戦います。しかし、その先に掴む勝利はどちらが正義なのか?その答えを感じとってくださると嬉しいです。
この様な文章にお付き合いくださる方、本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。感想や批評ありましたら遠慮なくどうぞ。 鳴谷 駿