第零章 Past DayS Ⅲ
今回もよろしくお願いします。
明けましておめでとうございます。新年最初の投稿が番外編と言うのも・・
とにかく今年もよろしくお願い致します。
~第零章 Past DayS Ⅲ~
愛の視線の先には和風の喫茶店があった。その店は和菓子などをメインとした店のようで店の装飾も和風であった。入り口から見える店の中の様子も、木材などが使われた落ち着いた雰囲気であった。
「愛、あの店が気になるの?」
ルイは愛の顔を覗き込んだ。愛はすぐに店の方から視線をそらした。
「すごい人気だね、けっこう並んでるみたい」
愛は再び店へと視線を向けると店の入り口から長い行列が見えた。
「並ぼっか?」
ルイは笑顔で愛に言った。愛は少し考えてからルイの顔を見て言った。
「一人で並んでいるから、回ってきていいよ。私、見たいものないし」
「本当に?ありがとう。じゃ私はちょっと行ってくるね」
ルイは顔の前で軽く手を合わせて謝り、人ごみの中へと消えて行った。愛は店へと軽くスキップするように向かった。この様なやり取りは二人の間で良く行われるものだった。愛はルイと一緒に買い物に出かけても、いつも一人で待っていることが多かった。それでも二人が一緒に出かけるのは、お互いを気に入っているからであった。
「美華ちゃん、よろしく」
店のキッチンから綺麗に装飾された和菓子が姿を現す。それを着物を着た美華がテーブルへ運ぶ。美華の着物の姿はとても似合っており、長く綺麗な黒髪が頭の左右にお団子を作っていた。多くの男性客の視線は美華に集まっていた。また和菓子などの評判も良く店内からは満足の声が上がっていた。
「いやー大繁盛、大繁盛!!」
店長はキッチンから顔を出し店内を眺める。
「美華ちゃんは可愛いし、働き者だし、本当にいい子だね」
店長は黙々と和菓子をつくるロイテルへ視線を向けた。
「仕事は出来るけど愛想が足りないのが勿体ない」
キッチンの奥から別の店員の声が響いた。
「店長、材料がこのままじゃ足りないです」
「分かったわ」
店長はホールとキッチンを見回した。
「ロイテルくん、ちょっと行って来てくれない」
ロイテルは和菓子の装飾をちょうど終え、軽く頷きキッチンを出て行った。
「お嬢様!!」
リシアは警護をわざと振り切るように人ごみの中を進む。
「私は買い物に来たの・・・・」
リシアの目線の先には行列の出来た喫茶店があった・・・・。
ルイは高級ブランドの宝石店の中にいた。
「今日は奮発してやる!!」
ルイはきらきらと目を輝かせ店内のショーケースを見て回る。
「高い・・・、こんなに高いとは・・・・」
ルイが隣のショーケースへと目を向けた時、隣の女性へ目が行った。その女性は美しいスタイルに綺麗な黒髪をしていた。
「あれ?箱美芽隊長・・・」
ルイの横にいたのは四季だった。四季は興味がなさそうに宝石を眺めていた。四季もルイの一声でルイに気がついた。
「君は第二小隊の・・」
「ルイ・シュータスです。第二小隊への配属の時はありがとうございました」
ルイは深々と頭を下げた。
「気にしなくていいよ、むしろ君が配属されてから無駄な事件で呼び出されなくて、助かってるくらいだよ」
「そう言っていただけると嬉しい限りです。今日は買い物ですか?」
四季は少し考えた後に答えた。
「付き合いだよ」
四季の視線の先にはクロアがいた。クロアは店員を捕まえ宝石の説明などを熱心に話させている。
「あれがクロア先輩・・・・」
「知っているのか?」
「もちろんですよ、あのクロス財閥の長女でAクラスの能力者。たった二人の第一小隊の一人ですから!!」
四季はルイの話を聞いてクスクスと笑っていた。すると店の中が静かになった。
「これと、これと・・・・・、あとあれも・・、これでいくらになるの?」
クロアの買い方に多くの客の視線が集まっていた。
「やっぱり私みたいな庶民とは違うなぁ・・・」
「一応言っておくがあの金は自分で稼いだ金だよ」
四季の言葉にルイは驚き、自信の財布を覗き、口座の残高を思い出した。
「第一小隊ってそんなに第二小隊と違うんだ」
四季はまたクスクスと笑った。
「ハウンズは各隊に配当された予算から給料が出ているからね。第一小隊みたい少数だと給料も一人当たりが多くなるからね」
ルイは自分の小隊の人数を数え納得した。買い物を終えたクロアが二人のもとへ近づいて来た。
「四季、誰と話しているの?あなたに友達がいたの初めて知ったわ」
四季はクロアの言葉を受け流した。
「それじゃ、私達は行くよ。これからも頑張ってくれよ」
四季はルイの肩を軽く叩きクロアを連れて店の外へと向かって行く。
「あっつまらないことに巻き込まれないよう、早く帰った方がいいよ」
四季は一言呟きクロアと共に人ごみの中へ姿を消して行く。
「つまらないこと?」
ルイは頭をかしげ、二人の背中を見送った・・・・。
ロイテルは顔が隠れるくらいまで荷物を積み重ね、人ごみの中を歩いていた。彼の能力は電気、彼は能力を器用に操作し自身から微弱な電気を放ち周囲との距離を感じ取り進んでいた。
「すいません、落としましたよ」
ロイテルは声をかけられた。どうやら何かを落としたようだった。とっさに何か落としそうな物を考えたところ、ポケットに入れたカードキーが浮かんだ。ロイテルは意識を集中し、声のもとを探る。
「ありがとうございます。ポケットから落ちてしまったようで」
「え・・、何を落としたか分かっているのですか?顔まで荷物で埋もれて見えないはずなのに」
「カードキーですよね?」
「そうです!!」
「すいません、指の間に入れてもらえますか?」
ロイテルは指にカードが当たる感覚を感じる。
「ありがとうございます。どうもすいませんでした」
「いいえ、かまいませんわ。こちらも面白い能力者と出会えて楽しかったです。それでは失礼致します」
リシアはそう言ってロイテルから離れた。
「お嬢様、あちらの店に行かれるのでは?」
「いいえ、もう気は済んだわ」
リシアは満足そうにショッピングモールの出口へ向かった。
愛はようやく席に案内されメニューを嬉しそうに眺めていた。
「すいません」
「はぁーい」
愛のテーブルへ美華がオーダーを取りに向かった。愛は四つほどのメニューを注文し、美華が運んできた緑茶を飲む。店内の雰囲気を落ち着いており、緑茶の味も悪くなく愛は和菓子への期待で胸が一杯だった。
「美華ちゃん、そわそわしているけど、どうかした?」
美華は顔を赤くしてかなり緊張している様子だった。
「さっき私が注文を取った方、私の憧れの人です」
「憧れの人?」
店長には愛は目をきらきらと輝かせる小柄な少女にしか見えなかった。
「有名人か何か?」
「ハウンズの第・・・・」
「美華ちゃん、その憧れの人の連れの人来たわよ」
美華は愛の方へ視線を戻した・・・・
「あれは第二小隊のルイ・シュータスさん・・・」
ショッピングモールは大きな楕円型をした建物だった。内部は中心が楕円に刳り抜かれており、一階の楕円の中心部には簡単な催しが出来るようなスペースが設けられていた。そして今からそのスペースで何かの催しが行われようとしていた。準備されたステージへ一人の男があがり、多くの客の前へと立つ。その男の姿は道化師のようだった・・・
~つづく~
最後まで読んでいただきありがとうございます。
番外編はあと二話ほどで終る予定です。
それなりに準備はしていた企画なのでなるべく早く投稿出来るように致します。