しっかりものの、にゃんた
それから、ロズと小一時間程の話し合いの結果。取り分は私が六でロズが四になった。
ロズは無償でやってくれようとし、私はどうしてもロズに仲介料を払いたかった。
互いが頑なに譲らず、最終的ににゃんたが仕切ってくれた。
『ロズが四割の利益を得て、そのお金をアメリアのために貯蓄すればいいにゃ』
「だが、これはアメリア嬢とハレの力によるビジネスだ。アメリア嬢のためでも、俺が受け取るわけには……」
『だから、アメリアのための貯蓄にゃ。今、表に出ているハレが六割の利益をもらって、残りをロズが管理するにゃ。いざという時の資金はいくらあってもいいにゃよ』
「ちょっと待って。アメリアのためのお金なら、私が──」
『話がまとまらないから、ハレはちょっと黙ってるにゃ』
そんなやりとりを得て決定したのである。
にゃんたがいなかったら、朝になっても決まらなかったと思う。
聖獣って、すごい。
尊敬の眼差しでにゃんたを見ていると、なぜかしっぽでぺしりと手を叩かれた。
『見すぎにゃ』
上目遣いで睨まれたが、その可愛さと言ったら……。
『まずは薬ができないことには、話にならないにゃ。ハレ、がんばるにゃよ』
「うん」
そうだね。こんなに話し合っても、薬ができなきゃ意味ないもんね。
「明日、市場に行って、力を込める対象を探そう」
『それなら、早く寝るみゃよ。治癒が使えても、頼らないで大丈夫ならその方がいいいみゃ』
てしてしとしっぽを揺らしながら言うと、みゃーこは枕元に丸くなって寝てしまった。
『今日は力も使ったから、疲れたんにゃね。主、タオルを借りてもいいかにゃ?』
「もちろんだよ」
魔法のトランクを開けると、にゃんたが近くに来たのでタオルを渡す。
『ありがとにゃ』
口でくわえて引きずっていく。
みゃーこへとタオルをかけると、ポンと頭に手を置いた。
『本当は、タオルは必要ないにゃ。それでも何かをしたいのにゃ』
ぽつりと呟かれた言葉は、誰かに向けてのものではないだろう。
だから、私はその言葉に何も答えなかった。
変わりに、にゃんたに渡したものと色違いのタオルを持つ。
「にゃんた、ありがとう」
アメリアのそばにいてくれて、ありがとう。
一緒に旅に出てくれて、ありがとう。
心配してくれて、ありがとう……。
ありがとうじゃ足りないくらいの感謝を込めて、にゃんたにタオルをかける。
必要ない。分かっているけど、何かをしたい。
その気持ちは、私も知っている。
「おやすみ、にゃんた」
『ハレ、おやすみにゃ』
主ではなくハレと呼んでくれたことが、何だか嬉しい。
にゃんたのことだから、私が親しい相手を作らないようにしたいと願っていたことに気付いていたのかもしれない。
気を遣わせちゃって、ごめんね。
そっと撫でればゴロゴロとノドを鳴らして、にゃんたは丸くなった。
「ロズも、ありがとね」
「いや。疲れてるだろうに長居して悪かった。ゆっくり休んでくれ」
伸ばされた手を今度は避けなかった。
けれど、触れる直前でロズの手が止まる。
「すまない」
笑ってはいるけれど、どことなく気まずそうな表情に、降ろされた手。
私が親しくなりたくないとロズを突っぱねたことで、こんな顔をさせてしまった。
ごめんね。私が臆病だったから……。
触れることなく離れていった手をガシリと両手で掴むと、私の頭に置いた。
そして、手を横に動かしてよしよしと撫でさせる。
驚きで見開かれたロズの瞳に、恥ずかしくって逃げ出したい気持ちが大きくなるけれど、それでも私はロズの手を動かし続けた。
傷つけてしまったことは変わらない。
私のやり方は間違っているのかもしれない。
それでも──。
「……ハレ?」
「何よぅ」
恥ずかしさのあまり不機嫌そうになってしまった。
そんな自分の幼さがまた恥ずかしくって、ロズを睨みつけて更に恥ずかしくなるという負のループ。
「ハレはさ、年上だって言うけど妹みたいだよな」
「はい?」
恥ずかしさも吹っ飛ぶような衝撃発言にロズをまじまじと見る。
「どう見ても、私の方がお姉さんでしょ」
さっきまでの行動をなかったことにして断言すれば、ロズは小さく笑うと私の頭を撫でた。
「おやすみ」
「……おやすみ」
鍵をかけ、窓は開けないようにと念を押しながら、ロズは部屋を出ていった。
「私の方が年上なのに……」
年下扱いを受けたことに不満を感じながらも、横になるとすぐに眠ってしまった。
***
翌朝、陽の光で優雅に目覚めた……なんてことはなく──。
『ハレ、起きるにゃ』
『そうみゃよ。早く起きるみゃ』
「うぅぅ……。あと五分だけ……」
『そう言って、もう一時間も経ってるみゃよ』
『ハレ。ハーレー!! ロズが迎えにきたにゃ。急ぐにゃ!!』
……ロズが迎えに?
えっ? なん……で……。
「──っっ!!?? 今何時!?」
『九時にゃよ』
「うわっ! やっちゃった!!」
アメリアは寝坊したことがなかった。
伯爵家にいた頃は朝日よりも早く起き、掃除や調理の下準備に取り掛かった。お城に行ってからもその習慣は抜けず、まだ外が薄暗いうちに起きていたっけ。
自身が早く起きてしまうとメイドさんの迷惑になるからって、静かにベッドの中にはいたけれど。
私になった途端の大寝坊。
言い訳などできない。
大急ぎで着替えと洗顔だけ済まし、眼帯を着ける。
部屋の中がぐちゃぐちゃ? うん。後で片付ける。
「ごめん、寝坊しちゃった。おまたせ‼」
バーンと勢いよくドアを開ければ、驚いた顔をしたロズと視線があった。
「待っているから、ゆっくり支度してきていいぞ。女性は時間がかかるものだ」
「ん? 別に大丈夫だよ。髪だけ結うけど、手ぐしでできるし」
んん? 何だろう、その視線は。
顔を洗ったし、着替えもした。化粧はしてないけれど、お城にいたアメリアはかなりの薄化粧だったから違和感もないはず。
まぁ、アメリアは化粧いらずだよね。
スッピンでも光り輝くほどに美しいわけだし。
だから、メイドさんたちも薄くしか化粧をしなかったのだろう。
カタリナはあんなに化粧を頑張っていたけど、いつの時代なの? って感じの古いデザインのドレスに、スッピンのアメリアの圧勝だった時、指差して笑ったもんね。
アメリアの中でだから、カタリナにダメージを与えられなくて残念だったけど。
パパっと髪を結い、あとで日焼け対策だけしようと心に誓う。
何もしなくても、うらやましいほどに色白で日焼け知らずだけど、将来のために対策はしておくべきだろう。
「はい、準備完了。お腹すいちゃった。朝ごはん何だろうね。……どこか変?」
「いや。俺の知っている女性たちとずいぶん違うから、驚いただけだ」
「まぁ、私は元々貴族じゃないしね。それに、アメリアなら濃い化粧も、締め付けるコルセットも必要ないもん」
にんまりと笑って言えば、ロズはちょっと困ったように笑った。
しまった、コルセットはセクハラだったか?
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