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【連載版】ドアマット聖女に花束を~虐げられた聖女が心を閉ざした時、聖女の中の人は旅に出る~  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売決定
第二章 聖女の中の人

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思わず伸びた手


 歯切れの悪い返事をしてしまったからなのか、ロズがじっと私を見た。

 その視線に耐えられず、私の視線はロズから外れていく。


「ハレ? 何か隠して──」

「あっ‼ そういえばロズに聞きたいことがあったんだけど」


 にゃんた、みゃーこ。お願いだから、目を細めて私を見ないで。

 分かってるから。わざとらしい話題の()らし方だってことは。


「……聞きたいことって何だ?」


 困ったような顔をしながらも、深く聞いてはこない。

 有り難いけれど、申し訳なさが大きくなっていく。


 それでも言えない。

 にゃんたとみゃーこと約束をしたから。

 約束は絶対だ。二匹がいいと言うまでは……。


「あの、お金のことなんだけど」

「金?」


 不思議そうに小さく首を傾げるロズに、私まで首を傾げてしまう。


「私って無収入じゃない? ここの宿のお金もロズに立て替えてもらってるし、服とか眼帯もでしょ? 一体いくらくらいが相場なのかも、どうやってお金を返したらいいのかも分からなくて……」


 あぁ……。言ってて情けなくなってきた。

 無一文なんだよね。

 どうにかして、稼ぎたい。

 でも、この世界のお金のことは何も分からない。


 アメリアはお金を自由に使ったことがない。

 街に行ったこともない。


 やったことがあるのは、奴隷のようにこき使われることと、鳥かご(お城)の中から出ることなく治癒を行うこと。

 結局、聖女になってからも自由の欠片すら手に入れられていない。

 アメリアはそのことを疑問に思うことさえできなかったけれど……。


「そうか。アメリア嬢は外の世界を知らないもんな……」


 ぽつりと呟くと、ロズは紙にインクを走らせた。



「なるほど。今いる宿は高いんだね」

「清潔さや居心地、安全性を考えたら安いだろ」

「そんなことないよ。だって一般的な収入が一月(ひとつき)あたり銀貨七枚から八枚なんでしょ? 一泊あたり一部屋銀貨二枚は高級宿だよ」


 それなのに、部屋がめちゃくちゃシンプルだ。

 確かに清潔感はあるけれど、もっと豪華でいいと思う。


「俺が言ったのは、一般的な平均収入だろ? こういう宿を使うのは、金のある商人とか裕福な家だけだ」

「それじゃあ、一般的な収入の人たちはどうするの?」

「そもそも、旅をすること(まれ)なんだ。生まれた土地から出ないまま生涯を終える人も多い。それでも旅をする場合は、教会に泊めてもらう」

「えっ!! それなら私たちも──」

「即、取り込もうとされるぞ」

「……教会も聖女の力が欲しいのかぁ」


 そうなると、高くても宿に泊まるしかなくなる。

 野宿することもあるだろうけど、可愛いアメリアの体だ。それはなるべく避けたい。


「必要経費ってことかぁ」


 必要経費のバカ高さに目眩(めまい)がするが、仕方がない。

 少しでも稼げるようにしよう。

 借金がかさんでいく。


「金は国に請求できるし、聖女として治癒した時にもらってるだろ?」

「えっ? お金は何ももらってないよ」 

「…………俺も蓄えはあるからハレは心配しなくていい」


 なんだ、今の長い間は。

 ロズの顔も怖い。

 これは、国がきちんと支払わなかったやつか。

 ふーん。へーぇ。ほーぉ。きちんと回収しないとだね。利子付きで。


「アメリアのお金は当然支払ってもらうとして、そのお金は使いたくないかな。アメリアのものだし。あと、ロズに金銭的負担をかけるのもイヤ」

「そうか。それなら、国に旅の費用を別途請求するのは……嫌なんだな」

「うん」

 

 国に請求もしたくないし、ロズの負担になりたくない。

 だから、どうにかして稼ぎたい。でも──。


「治癒の力を使えば目立つよね……。他にできることって何だろ」


 前世の知識を使って、この世界にないものを広める?

 それがこの世界にあるのか、ないのか。それすらも分からない私には難しいか。目立つことに成りそうだし。

 この世界にあって、目立たず稼ぐ方法。しかも、それなりに実入りの良いもの……。

 えっ!? 無理じゃない? ハードル高すぎるんだけど。


「ハレの治癒の力って、モノに込められないのか?」

「モノ?」

「飲み物とか食べ物に込められたら、薬として売れるだろ?」


 なるほど。

 それができれば、実入りが良さそうだ。

 ロズは頭まで良いのか。天は何物も与えたんだね。

 ……ううん、ロズが生きようとしたからこそ手に入れた力なのかも。


「やったことないけど、やってみる」


 前世での風邪薬的なやつがいいよね。

 効きすぎ厳禁だから、微調整が必要かな。

 胃腸薬、頭痛薬、総合かぜ薬はマストとして、子どもと大人は分量が違うから準備はきちんと……って、そこは関係ないか。治癒の力を込めるんだもんね。

 あとは、湿布薬、うがい薬、子ども用にシロップみたいな飲みやすいのも欲しいよね。


「販売は俺に任せてもらってもいいか?」

「わっ! 助かる!! そうしたら、取り分も決めないとだね」

「取り分?」

「仲介手数料ってやつ? 私が六でロズが四でもいい?」

「いや、ちょっと待っ──」

「半々じゃなきゃダメかな?」


 これでも図々しいかも。

 もし、治癒の力を込めたものを作れるのだとして、労力が見合わない。


「やっぱり、私の取り分を三に──」

「ちょっと待て」

「えっ?」


 おや? 何だか不穏?


「どうやったら、そんなになるんだ?」

「まさか、私の取り分が三でも多かったパターン⁉」


 世知辛いけれど、面倒なところはロズがすべてやってくれるんだもん。仕方がな──。


「んなわけあるかっ‼」


 すごい勢いに、思わず体が後ろにのけぞった。

 そのままボスンと仰向(あおむ)けに倒れてしまう。


 白い天井を眺め、驚きのあまり瞬きを繰り返す。

 そんな私の顔をにゃんたとみゃーこが覗き込んだ。


「大丈夫みゃ?」

「起きられるにゃ?」

 

 にゃんたは楽しそうに、みゃーこは心配そうに言う。

 大丈夫だとお礼を言いながら起き上がれば、ロズは気まずそうな顔をしていた。


「すまない」


 まるで重罪でも犯したかのような雰囲気に苦笑してしまう。


「私が勝手にひっくり返ったんだよ。ロズが謝ることじゃない」

「いや。女性相手に大声を出してしまった。悪かった」


 頭を下げられ、思わず手が伸びた。


「大丈夫だって言ってんじゃん! でも、ありがとう」

「ありがとう?」

「心配してくれて、ありがとう」


 私の手によって混ぜっ返されたロズの髪はぐしゃぐしゃだ。

 そんな頭でキョトンとした顔をしているロズは、どことなく幼く見える。


 

 あーぁ。あんなに親しくならないように気を付けてたのにな……。

 前世では無意識に壁を作れていたのにな。手遅れだったじゃん。


 アメリア一番。これだけは決して変わらない。

 自分の意思とは関係なく、ロズも、にゃんたも、みゃーこも、大切な存在になってしまった。

 仕方がない、諦めよう。認めてしまおう。


 ねぇ、アメリア。

 私にもこれから大切な人が増えるかもしれない。

 それでも、あなたにまた表に出て欲しいという想いは変わらないよ。そのためなら、何でもする。


 だからね、お願いだから遠慮だけはしないで。

 この体はアメリアのもので、アメリアはアメリアの人生を歩んでいくんだよ。


 心が回復してきたら、でてきてね。

 この世界にはアメリアの知らない美しいものが、きっとたくさんあるから。



 

 

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