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【連載版】ドアマット聖女に花束を~虐げられた聖女が心を閉ざした時、聖女の中の人は旅に出る~  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売決定
第二章 聖女の中の人

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似ているようで異なるふたり

お久しぶりです。

待っていてくれた方は本当にありがとうございます!

続きを開いてもらえて、とても嬉しいです!!!!


 何か聞きたそうな視線を感じたが、周りに人がたくさんいる食堂(ここ)で話をするわけにいかない。

 

 それからは何となく会話も減り、黙々と食べて部屋へと戻った。

 

「どうする? こっちに来る?」

「いや、女性の部屋に邪魔するのは……」


 色々と話さなくてはならないので、部屋の扉の前で声をかければ、まさかの反応。

 

「ロズって、距離感が独特だよね」

「え?」

「簡単に触れてくるのに、部屋に入るの躊躇(ためら)うんだもん」

「噂になったら困るだろ」

「知り合いもいないのに?」


 沈黙が流れ、ロズは乱暴に頭をガシガシと掻いた。


「ハレは危機感をもっと持った方がいい」

「ロズだから問題ないんだよ。ロズが好きなのはアメリアだもん」


 それに、にゃんたとみゃーこが部屋にいてくれる。

 何かあっても三対一だ。魔法使い相手でも聖獣が二匹も味方なら逃げられる気がする。


「ロズがにゃんたとみゃーこと戦ったら、どっちが勝つの?」

「にゃんたとみゃーこじゃないかな……」


 悩むってことは、なかなか激しい戦いになるってことか。


「じゃあ、そこに私の力が加わったら?」

「俺の敗けだ」


 思わずにんまりと笑えば、ロズはわざとらしくため息を吐き出した。


「俺の部屋よりは安全だな」

「でしょ? まぁ、ロズが私に害のあることやるわけないけどね」

「出会って間もないのにあんまり信じるなよ」

「信じるよ。ロズはアメリアの味方だもん」

 

 何が不満なんだか分からないけれど、もう一度大きなため息をつかれてしまった。

 ため息でアピールするくらいなら、言いたいことを言えばいいのに。

 


「にゃんた、みゃーこ。ただいま!!」

 

 ドアを開いてすぐのところに、にゃんたとみゃーこは、ちょこんと座って待ち構えていた。

 めちゃくちゃ可愛い姿に癒される。

 

「おかえりにゃ」

「待ってたみゃよ」

 

 にゃんたのしっぽはピンと立ち、みゃーこは私の足に体をこすりつけてくる。

 猫にそっくりの聖獣は、まるで猫のように私が戻ってきたことが嬉しいのだと教えてくれる。


「待たせてごめんね」


 そっと、二匹を撫でればゴロゴロとのどを鳴らした。



「そこに座って」


 木製の椅子を指差し、私はベッドへと腰を掛ける。

 シングルのお部屋なので椅子は一つ。ベッドに座ってもらうのは抵抗感があるし、こうなるのが当然の流れだろう。


 一瞬、眉間にシワを寄せられたが、気付かなかったことにする。

 仕方がないでしょ? 他に座るものがないのだから。

 アメリアの体を床に座らせる訳にはいかないじゃない。


「私の昔の話でいいのかな?」

「あぁ。アメリア嬢の中に来るまでって、どういうことだ?」


 椅子に腰をかけると、ロズは真剣な瞳で私を見た。

 そんな深刻な話じゃないと伝えるつもりで口元に笑みを浮かべて見せるが、張りつめた雰囲気は変わらない。

 逆の立場なら、にこにこと聞くのは無理だろうから仕方がないか。

 和やかな雰囲気の方が、話しやすくて助かるのだけど……。



「私ね、アメリアの中に来るまではこことは違う世界にいたの。魔法もない。精霊や魔族、聖獣もいない。科学の発展した世界」


 何て伝えれば良いのだろう。

 日本には王家も身分もなかった。貧富の差はあったけれど、平和な国だった。

 男性も女性も働いていて、ドレスを着るようなパーティーもセレブの人たちはやってるのかもだけど、私には関係なかったな。

 そう考えると、貴族と平民という考えはなくても、似たようなところはあったのかもしれない。


 とりあえず、私のことから話してみようか。

 それで、分からないことは少しずつ付け足して行けばいい。

 何が分からないのかも、よく分からないのだから。



「ハレって名乗ったけど、私の名前は雨宮(あめみや) 莉愛(りあ)。あだ名がハレだったの」

「あだ名?」

「愛称みたいなものかな」

「それにしては、随分と名前と違わないか?」


 なるほど、そこからか。


「私の場合は、私が参加するイベントは天気予報が雨だろうと全部晴れてたの。それで、()宮だけど晴れ(・・)宮だ!! って誰かが言って、そこからハレって呼ばれるようになったんだよね」

「なるほど?」


 こういうのって感覚だから、こっちの人には分かりにくいかもしれないなぁ。


「とにかく、ハレって呼ばれてたの。それで、学校に通って、就職をして、そうしたらものすごいブラック企業……。えっと……労働する時間って決まっているんだけど、それよりもたくさん働かされて、決まった時間よりも多く働いても、その分の賃金は出なかったんだけど……」


 伝わってる? 

 そんな視線を向ければ、ロズは大きく頷いている。


「それは、大きな問題だよな。市民は働き口がなければ飢える。だから、雇い主に強く出られない。辞めたところで、次の働き口がある保証もないから、自身の体と心に(むち)を振るって働き続けてしまう」

「そうなんだよ! それで死んじゃってたら意味ないんだけどさ」


 そう言った瞬間、ロズの表情はスコンと抜け落ちた。


「……ロズ?」


 じっ……とこちらを見る琥珀色(アンバー)の瞳に引きつった(アメリア)の顔が映っている。


 アメリアは顔が引きつっていても、美しくて愛らしいな……。

 さすがアメリア。存在が天使なだけのことはある。


 なんて考えて、思わず現実逃避してしまう。

 だって、ロズの顔が怖い。


「殺してやりたい」

「はい!?」


「ハレをそんなになるまで働かせた奴らを殺してやりたい」

「んー。それは、いいかな。そうしたら、私はアメリアの中に来れなかったかもだし」


 死んじゃったのはやっぱり嫌だけど、アメリアの中に来れなかった方が嫌だ。


 何もできなかったし、私以外の人がアメリアの中に入れたら、アメリアの人生は変わっていたかもしれない。

 それでも、アメリアに出会えたことは私の人生においての最大の幸福だ。


 前の人生では、親とは疎遠で彼氏はいなかった。けれど、友だちはいたし、職場でも励まし合う仲間はいた。

 それなりに人間関係は上手くいっていた。


 だけど、本当の意味で誰かを大切だとは思えなかった。

 友だちにも、仕事仲間にも、本音を話したりしなかった。

 明るくてノリの良いハレを演じていた。


 それはそれで楽しかったけど、誰かのために何かをしたいって感情をアメリアに出会ってはじめて知ったんだよね。


 アメリアのためになることは、何でもしたい。

 アメリアに幸せになって欲しい。

 アメリアが幸せになれるなら、私がいなくなることなんて大したことない。


 自己犠牲なのかもしれない。

 自己犠牲なんて、偽善者のやることで馬鹿馬鹿しいと思っていた。


 でも、違った。

 ただ、自分という存在よりも大切な人がいるということだったんだ。

 他の人もそうだったのかもしれない。



「ハレは今、幸せか?」

「もちろんだよ。アメリアに出会えたから」


 笑顔で答えたのに、ロズは変な顔をした。

 おかしいな。ロズだって、同じはずなのに。


「ロズもアメリアに出会えたから幸せでしょ?」


 だから、アメリアのために生きるんだよね?

 アメリアの人生を、今度こそ笑顔にするために。


 

 

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