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距離感

更新、遅くなりました。待っててくださった方、本当にありがとうございます!!


 部屋を出るとロズが待っていた。

 

「ごめん。待たせた?」

「いや、そんなことはない。悪いことしてないんだから、謝らなくていいんじゃないか?」

「あ……」

 

 そうだった。十分後という約束を破ったわけじゃないのだから、謝るんじゃなくて──。

 

「待っててくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 笑いかければ、笑い返してくれる。

 うん。すっごくいい感じだ。もちろん謝罪が必要なこともあるけれど、そうじゃない時は感謝を伝えよう。

 

「シチュー楽しみだね」

「大丈夫なのか?」

「何が?」

「体の調子」


 頭に置かれそうになった大きな手を避ける。

 心配してくれているのは分かる。けれど、頭を撫でられるのは良くない。気持ちが近付いている証拠だもの。 

 いつかのために、適切な距離を保つべきだ。


「疲労回復もしたから大丈夫だよ。ありがとう」

「そうか。無理するなよ」


 そう言いながら、再び手が伸びてくる。それを当たり前のように、もう一度避けた。


「何で避けるんだよ」


 少し不機嫌そうな声。


 ()ねた? 思ったより子どもっぽいところもあるんだ。

 うーむ。拗ねててもイケメンはイケメンだなぁ。どんな表情をしていてもイケメンだけど、それに(ほだ)される私ではないのだよ。


「私が頭を撫でるのはいいけど、撫でられるのは却下でよろしく」

「何でだよ」

「私の自尊心が傷付くから」

「………………は?」


 怪訝(けげん)な表情を向けられるが、私はにこりと微笑む。


「私はロズよりも年上なの。頭を撫でられるなんて、自尊心がズタズタだからね」

「それ、嘘だろ」


 うん。嘘だよ。

 嬉しくないということは変わらない。けれど、嫌だとも思わない。それでも、だめなのだ。


「女の子に、簡単に触れるのは良くないと思うよ。勘違いされちゃったことあるでしょ?」

「ハレも勘違いするってことか?」

「えっ? しないけど」

「なら、問題ないな」


 いや、問題ありだよ。ありまくりだよ!!


「……アメリアに勘違いされるかもよ?」

「しないだろ。中から見てるのなら、男女の情がないことくらい分かるさ」

「それでも、嫉妬はするかもしれない。チャラいと勘違いされちゃうかもしれないよ」

「心配してくれてんのか?」

「違う!!」


 なぜだ!? 距離をとりたいだけなのに、全く上手くいかない。


「ほら、行くぞ」


 腕を引かれ食堂へと向かう。強い力ではないのに、不思議と腕を振りほどくことは叶わない。


「自分で歩けるから手を離して」

「ハレに合わせてたら、日が暮れる。また変なことでも考えてたんだろ?」

「そんなことないよ」


 変なことではない。大切なことだ。

 いつの日かに備えておくために。



 食堂に着けば(にぎ)わっていた。


「あっ!!」


 ロズを見付けたリゼちゃんの表情がパッと明るくなる。

 頬を赤く染めるのは、単なる憧れなのか。それとも恋なのか。


「お母さん、お兄さんが来た! 大盛りにして!!」


 興奮した様子は可愛らしいものの、一瞬だけ私を(にら)んだ姿に女子を感じてしまう。


「お待たせしました!」


 私にも丁寧にお皿を置いてくれるが、視線は完璧にロズに固定されている。

 うーん。ラブのにおいがする。本当におモテになること……。


「あの、お名前を聞いてもいいですか?」

「俺がロズ。彼女はハレ。……お手伝いはいいの?」

「えっ……ぁ…………」


 顔は笑顔なのに、ここにリゼちゃんがいることを拒絶している。


「良かったの?」

 

 パタパタと逃げるようにリゼちゃんは去っていった。

 その背中を見送りながら、ロズへと話しかければ、顔に笑みを乗せたままロズの視線は鋭くなった。

 

「あの子、ハレのこと睨んだだろ。ハレも気付いてたよな?」

「そうだっけ?」

「そうだよ。何であの子を(かば)うのかは知らないけど、ハレは俺にとっても大切な人だ。そんな態度をとるなら、親切にする必要はない」

「……相手は子どもでしょ?」

「子どもと言っても、もう何も分からない年齢じゃないだろ」

 

 きっぱりとロズは言い切った。

 うーん。モテる男なりの苦労があったんだろうな。

 浮き名を流していたからプレイボーイかと思ってたけど、実際は違うもんね。(まと)わりつかれていただけなのかも。

 噂が一人歩きをしてしまったパターンかもしれないな。

 

「ほら、温かいうちに食べよう。よく噛んで食えよ」

「出た、おかん」

「おかんじゃねーよ」


 そう言って笑うロズは、いつも通りだ。

 そのことにホッとしつつ、距離が近いままなことが苦しい。

 きっと、もう既に情が()いている。少しでも早く気持ちのリセットをしないと。



「わっ……おいしい…………」


 木製のスプーンで食べたホワイトシチュー。優しくて、温かくて、懐かしい味と表現するのがピッタリな気がする。


「そんなに美味しそうに食べてくれると、あたしも嬉しいよ」


 明るいハツラツとした声の方に視線を向ければ、ニカリと笑い、ココア色の瞳を細めている女性がいた。


「さっきは娘が悪かったね。お詫びになるか分かんないけど、これはサービスだ。良かったら、食べとくれ」

「ありがとうございます。えっと、メリッサさん?」

「メリッサでいいよ。ハレちゃんとロズさんだろ? ダンからえらいべっぴんさんと男前が来たって聞いてたから、ふたりが食堂(ここ)に来た瞬間に分かったよ」


 うん、分かるよ。ロズはイケメンだし、アメリアは可愛くて優しくて天使で女神で神々しくて──。それなのに、幸せとは遠いところにいたんだよ。あいつらのせいで……。


「あはは、そんなに難しい顔をしなくても大丈夫だよ。それも胃に優しいから。ハレちゃん、具合はどうだい?」

「具合ですか?」


 あれ? 私、具合が悪いなんて言ったっけ? そもそも、具合悪くないし……。


「まだ万全ではないみたいで。これはミルクプリンですか?」

「そうかい。それで、特別な観光地もない町に長居してくれるんだね。これはね、甘酒とヨーグルトのゼリーさ」

「甘酒……。初めて聞きました」

「この町の名産だよ。健康にいいんだ。気になるなら、あとで飲んでみるといいよ」


 何と答えるか困っているうちに、ロズとメリッサさんの会話は進んでいってしまった。私の体調はいまいちで決定らしい。


 メリッサさんはお客さんに呼ばれ「ごゆっくり」と言葉を残して立ち去った。

 ロズはかなり甘酒に興味が引かれたみたいで、ゼリーを興味深そうに見ている。


「甘酒って知ってるか?」

「疲労回復、便秘解消、美白なんかに効果があるはずだよ。味は好みが分かれるかもなぁ。苦手だって友達もいたし。私は好きだけど」

「…………」


 急に黙ってしまったので、シチューから視線をロズに向ければ、何とも言えない表情をしていた。


 ……あれ? 私、前世のこと話してたや。



 

 

年度末から新年度はバタバタとしております。

ちまちま書いていますが、ゆっくり更新です。

そんななか、新しくブックマークしてくださる方、継続して読んでくださる方、本当にありがとうございます(*´∇`*)

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