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【連載版】ドアマット聖女に花束を~虐げられた聖女が心を閉ざした時、聖女の中の人は旅に出る~  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売決定
第二章 聖女の中の人

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存在意義と積もる想い


「ご結婚はまだでしたか。失礼しました」

 

 おませなお嬢さんは三つ編みを揺らして、ぺこりと頭を下げた。

 私は笑顔で首を振り、ロズは耳を赤く染めたまま小さく咳払いをした。

 

「二部屋の用意ですね。一部屋、銀貨二枚。朝食は、サービスです。夕食付きなら銅貨三枚追加になりますが、どうします?」

「その前に確認したいんですけど、ペットは可ですか?」

「大丈夫ですよ。部屋からは出さないよう願います」

「分かりました。長く泊まると割引とかありますか?」

「何泊くらいの予定で?」

「一週間くらいは滞在しようかと思っています」

「二部屋に一週間滞在で銀貨二十六枚に夕食はサービスで、どうです?」


 さて、ペットの確認と値引き交渉をしたのはいいものの、宿の平均相場が分からない。

 ロズを見上げれば、それで頼んでいる。


「彼女は病み上がりなんだが、夕食のメニューは何でしょうか?」

「シチューですよ。お母さんのシチューは、お肉がほろほろで、お腹にも優しいのでオススメです!!」

「そうか、ありがとう。看板娘のお嬢さん」


 おかん属性の印象ですっかり忘れていたが、ロズはものすごいイケメンだ。

 そんなロズに微笑まれたからなのか、お母さんのシチューへの熱意からなのか、お嬢さんの頬はリンゴのように赤くなった。


「大盛りにしますね!」

贔屓(ひいき)するなよ」


 はりきった様子で言うお嬢さんに対し、おじさんからの厳しい声が飛ぶ。


「目の保養をさせてもらったんだから、その分くらいのサービスはいいでしょ? お父さんのケチ! お母さんのところに行ってくる!!」

「リゼ!!」


 ふんっ! とそっぽを向いて、リゼと呼ばれたお嬢さんは私たちの横を通り過ぎた。

 さっきまでの少しだけ背伸びをした雰囲気はなくなり、年齢相応な姿が微笑ましくもある。


「お恥ずかしいところをお見せしました。まだまだ未熟な娘でして」

「いえ。まだ遊びたい盛りでしょうに、手伝いとは感心ですよ」

「そう言ってもらえると助かります」


 おじさんは笑っているのに、どこか表情が暗い。

 そのことにロズも気が付いたのだろう。視線を向けられるが、私にも原因は分からない。特に会話でおかしいところはなかったはずだ。


「夕飯は九時までになります。もう始まっているので、いつでもどうぞ」

「分かりました。名前を伺っても?」

「失礼。ダンと言います。私と妻のメリッサ、娘のリゼの三人でこの宿屋をやってます。何かあれば私か、妻のメリッサに言ってください。メリッサとは食堂でお会いすると思います」


 そう言いながら渡された鍵を、ロズが受け取った。


「俺はロズ、彼女はハレです。短い間だが、世話になります」


 いくつか言葉を交わし、私とロズは部屋に行くために木製の階段を上がった。


「となりで良かったね。便利じゃん」

「そうだな……」

「どうしたの? さっきのダンさんの様子が変だったこと? ロズは特に変なこと言ってなかったよ」


 リゼちゃんと何かあるのだろうか。仲良さそうに見えたんだけどな。

 前世でも、今世でも、手に入れられなかったものがあった気がしたけど、気のせいだったのかな……。


「それもだが……」


 何とも煮え切らない。それが違うのなら、心当たりはないんだよね。どうしたものか……。


「どうして、新婚だと聞かれた時にまだ(・・)と答えたんだ?」

「そんなの、若い男女の旅には関係性が必要だからだよ。夫婦、婚約者、恋人、兄妹くらいしか納得するものはないんじゃないかな。私たちは見た目が似てないから、兄妹は無理でしょ?」

「そうだが……」


 耳が赤いな、とロズを眺める。

 浮き名を流していた人物とは、とても思えない。

 あれかな。姿形はアメリアだから、照れているのかな? うむ。これは、スルーでも問題ない案件とみた。


「とりあえず、部屋に荷物を置いてから十分後に部屋の前でいいよね? またあとでねー」

「え? あぁ、うん……」


 まだ何か言いたげな様子だけれど、気付かないふりをして鍵を開けた。

 まず目に入ったのは、ベッドの真っ白なシーツ。それから、陽の光がよく入る大きめの窓、若葉色のカーテン。木製の椅子とテーブルに、クローゼット。


 シンプルな作りだけど、清潔感がある。私とにゃんた、みゃーこが一週間過ごす部屋は、想像していたよりも過ごしやすそうだ。


「いい部屋だね。夜はみんなでベッドで寝ようね」


 ロズが魔法で軽くしてくれたトランクケースを開ける。その中から、鞄に入っていても違和感のない数着のワンピースをクローゼットにかけた。

 このトランクケース、軽いだけではなく、詰め込み放題だったりする。ロズだからできるのだろうけど、魔法ってすごい。



『ロズ、何か言いたげだったにゃよ?』

『聞かなくて良かったみゃ?』

「言いたかったら、あとで言うでしょ」


 私の言葉に、にゃんたとみゃーこは顔を見合わせた。そして、残念そうな目で私を見てくる。


『あれにゃ。ハレは、アメリア以外にも興味を持った方がいいにゃ』

『そうみゃね。ちょっと、薄情だみゃ』


 何とも失礼な聖獣たちの背中を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めている。


「私がいつか消えた時、あまり情が移ってない方がいいでしょ?」


 お互いに、という言葉はのみ込んだ。

 関わりすぎないように気を付けた方がいいだろう。旅を一緒にしているから、難しいかもしれないけれど。


 私を見ているにゃんたの目が真ん丸になって、口も半開きになっている。


『寝てなかったみゃ?』

「ごめんね。寝てはいたんだけど、アメリアの体は眠りが浅いみたいで、聞こえちゃった。起きようにも体が重くて起きられなかったんだよね」


 少しの間、固まっていたにゃんたは困ったように目を細めて笑う。


『聞こえたこと、ロズにはまだ言わないで欲しいにゃ』

「黙っているのも騙しているみたいじゃない?」

『ロズは、ハレが消えるかもしれないことを納得してないにゃ。それを、ハレ本人が知っていると知ったら……』

「世の中、知らない方が幸せってこともあるもんね」


 アメリアを通して知ってはいたけれど、私自身とロズは出会ってまだ一日も経っていない。

 それでも、私の心配をしてくれるような優しい人だ。私が知っていると分かったら、気に()むかもしれない。


「私は消えてもいいと思ってるんだけどね」


 アメリアさえ良ければ、それでいい。

 アメリアファーストの、アメリア至上主義。自分さえも惜しくはない。捧げられるものは、すべてアメリアに。


「アメリアにとって、最高の未来をプレゼントする。それが、私の存在意義だと思うのよ」


 アメリアだけが幸せになればいいとは言わない。

 けどね、アメリアを不幸にする要素になるのであれば、相手が神様であろうと戦う。



 何故、そんなにもアメリアに肩入れするのか。


 最初は傷付き続け、それでも人を信じ、愛し続けるアメリアをばかだな……と見ていた。

 いつしか、その強さと美しさに憧れた。


 アメリアを守りたいと願い続けてきた。

 救いたいと手を伸ばし続けてきた。

 誰よりも傍にいたのに、何もできなかった。

 もし願いが叶うのであれば、迷わずアメリアの幸せを願ったことだろう。


 きっと、理屈じゃない。私はアメリアを愛している。親愛でも、友愛でも、恋情でもない。

 

 アメリアの中で、アメリアを通してしか見えない世界の中で、まるで雪が降り積もるように、この感情が静かに大きくなっていった。


 アメリアを愛しているのだ。

 世界中で誰よりも──。


 

 

更新、遅くなりました。

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!

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