表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/29

ふたつの魂


『主、みゃーが大きくなれば大丈夫みゃよ?』

「……大きくなれるの?」

 

 ビッグにゃんこが見れるのかな? 私を乗せて走ってくれるなら、馬くらいのサイズだろうか……。


『もちろんみゃ!』


 そう言うと、みゃーこは大きく飛び上がり、くるんと宙返りをした。


 ぼふんっっ!!


 真っ白な煙が立ち込めて、みゃーこが見えなくなった。

 そして、現れたのは──。

 

「…………大きすぎない?」

 

 呆然としながら、どうにか出せた言葉は思ったよりも冷静な声をしていた。


 見上げるほどの真っ白で大きな毛玉。

 雪だるまのようなバランスの体に、ふわふわで抱きつきたくなる尻尾(しっぽ)。ピンと立ったお耳に、くりくりの紫のおめめ。

 可愛いけれど、びっくりするほどの巨大ねこちゃんだった。

 

『みゃーこ、張り切りすぎだにゃ。お馬くらいでいいんにゃよ!!』

 

 てしてしと、みゃーこをにゃんたが叩く。けれど、その手はみゃーこの雪のような毛の中に沈み込むだけだ。

 

『主、乗ってみるみゃよ!!』

 

 嬉しそうな声は、ビリビリと鼓膜を揺さぶった。

 体が大きくなった分、いつも通りに声を出したら大音量になってしまったらしい。

 にゃんたは、耳を押さえて引っくり返ってしまっている。

 

「にゃんた、大丈夫?」

『耳が痛いにゃ……』

 

 半べそにゃんたの耳も尻尾もしょんぼりしている。

 そんな姿も可愛いけれど、やっぱり可哀想。

 

『にゃんちゃん、あたしに任せてちょうだい』

 

 いっちゃんが羽を広げて飛んだ。

 みゃーこの耳のそばまで行くと、何かを話しているみたい。首が痛いほどに見上げていれば、しゅるしゅるとみゃーこの体が縮んでいった。

 

『ごめんみゃ。大きい方が喜んでもらえるかと思ったみゃよ』

「大丈夫だよ。いっちゃん、ありがとね」

『どういたしまして。あたしは、そろそろ行くわね。マリーちゃんたちのところに向かうこと、伝えておくわ』

義父(とう)さんに、こっちに迎えに来ると騒動になるから、絶対に魔物の地を出ないようにも伝えてくれ」

『分かったわ』

 

 高く高く飛んだいっちゃんを、みんなで見送る。

 

「いっちゃーん!! アメリアの話のつづき、今度しようねー!!」


 そう叫べば、いっちゃんの体が傾いた。

 テンションが上がりすぎて、蛇行(だこう)しちゃうとか、いっちゃん喜び過ぎだよ!

 


「俺たちも行くか」

「そうだね。みゃーこ、お願いね」


 みゃーこは乗りやすいように、しゃがんでくれた。その背中に乗ると、ふわっふわだ。


「最高に気持ちいい……」


 これは、寝れるやつだ。

 あたたかくて、やわらかくて、ふわふわもふもふ。お日様のにおいがする。


『お昼寝してていいみゃよ!』

魅惑的(みわくてき)だー。でも、はじめてのみゃーこ乗りでしょ? 折角だから、起きてられるようにがんばるよ。にゃんた、寝たら起こして!」

『分かったにゃ!!』


 ロズを乗せた馬と共に、走り出す。

 揺れも少なく、風が心地よい。


「町が近くなったら、こっちに乗り換えるからな。聖獣を連れているって、バレない方がいい」

「それなら、そのまま馬に乗せてもらってた方が良かったんじゃない?」

「体、痛くなってただろ? 馬での長距離は、まださせたくない」


 無理だって言われたら、そんなことないと言えた。

 でも、私のためという言い方ではなく、させたくないとロズは言ってくれる。


「……ありがと」


 何で、アメリアはロズじゃなかったんだろう?

 確かに、最初にアメリアに笑いかけたのはミュゲルだった。でも、ミュゲルに比べて、明らかにロズの方が優れている。それに、アメリア限定で気遣いも完璧で、優しかった。


 やっぱり恋愛は苦手だな。私には理解できない。

 アメリアがミュゲルに恋をしていたのは分かったけれど、何故ミュゲルじゃないといけなかったのかが分からないや。


『起きるにゃよ! 主、寝てるにゃ!!』

「いろいろあって、疲れてるはずだ。ゆっくり寝かせておこう」

『それもそうにゃね』


 遠くから、にゃんたとロズの声がする。


 あれ? そういえば、どうして聖獣がふたりもいるんだろう。

 ひとりみたいなこと、ロズは言ってた気がする。



 聞きたいけれど、(まぶた)が重い。起きなきゃ……と思いながらも、みゃーこの毛並みの気持ち良さに抗えない。

 何でこんなに、もふもふは気持ちいいんだろう……。



 ふわふわとした意識の中、にゃんたの真剣な声がした。


『……カタリナが主を窓から突き落としたにゃ』


 ……ん? これは、私が寝てると思ってるやつ? 起きてるって言わないと……。

 そう思うのに、体はぴくりとも動かせない。どうにか声だけでも出そうとするのに、それもできない。


 わたわたと心の中でしているうちに、話は進んでいってしまう。


『アメリアは、にゃーたちを見るといつも優しい手を差し伸べてくれたにゃ。名前を付けてはくれなかったけど、アメリアの手に撫でてもらうと、心がぽかぽかしたにゃ』


 そんな幸せな時間もあったな……と思い出す。お城で出会った猫ちゃんたち。

 よくよく考えたら、伯爵家でも見ていた気がする。あの頃のアメリアは、自分が近付いたら猫ちゃんたちがいじめられると思って、遠目で眺めていただけだった。

 お城ではじめて触れた時の、あたたかさと、やわらかさに感動したんだっけ。


『にゃーたちは、カタリナも王国も許さにゃい。例え、アメリアが望んでにゃくても……』

「いいんじゃないか? ハレも、兄さんやカタリナ……アメリア嬢を虐げたたくさんの人たちを許すことはないと思う。にゃんたと同じ気持ちだよ」


 流石、ロズ! 大正解だ。

 それにしても、盗み聞きしているみたいで気まずい。早くしっかり起きたいのに、体は鉛みたいで起きられない。

 それだけ、この体は疲れていたんだろう。起きてすぐの修羅場に、国を出たんだもの。動けなくなるのは当然か……。



『ハレはアメリアのための存在だから、許さなくて当たり前にゃ……。そんなハレのために、にゃーがいるのにゃ』

「みゃーこは、アメリア嬢の聖獣か?」

『厳密に言えば、そうにゃ。今はアメリアもハレもひとつの(からだ)に入っているから、ふたりがにゃーとみゃーこの主になってるにゃよ』


 なるほど。私の聖獣は、にゃんた。アメリアの聖獣は、みゃーこなんだ。

 でも、体はひとつだから、二匹の聖獣と契約している形になるのか……。謎が解けた。



『問題は、アメリアが目覚めた時のハレだにゃ。魂がふたつも器に入っていることが異常なのにゃ。聖女を守るために神様がやったことでも、限界があるにゃよ』

「過去の文献でも、守り人の行く末は書かれているものがなかった。守り人が登場したあとの聖女については、数少ないながら記載があったが……」


 深刻な雰囲気に、いよいよ大ピンチだ。

 起きるか、いっそのこと本当に眠ってしまいたい。

 あれか? アメリアの時に眠りが浅かったのもあるのか? 物音に敏感で、アメリアは熟睡できてないみたいだったもんね……。



『ハレは、アメリアの目が覚めたら消えるかもしれないにゃ』


 そう呟いたにゃーの声は小さかった。それでも、確かにロズの耳には届いたようだ。

 ロズは、一言「分かった」としか答えなかった。けれど、その声は硬くて納得していないみたい。


 そして、私はというと……。

 最後まで盗み聞きのようなことをしてしまった罪悪感と、聞いてしまったことを伝えてもいいのか……という葛藤で、頭を抱えてしまいたかった。

 いや、動けないからどうしようもないんだけど!!


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ