聖獣は可愛い
「──アメリアの美しさは、内から滲み出ているからね。もちろん、見た目だって誰よりも美しいよ? けどさ、魂だけで所作や表情の美しさって分かるの? 分からないよね? 憂いで伏せられた瞳が、喜びに溢れたのを見たことある? アメリアはね、魂も、見た目も、所作や表情、指先のひとつひとつが特別なの。(中略) いっちゃんはね、損してる!! 魂の美しさの大切さは分かるよ。けどね、アメリアの美しさを魂だけで括るなんて、あってはならない暴挙なのよ!!」
『わ、分かったわ。分かったから……』
何だか、いっちゃんがぐったりしている。
話し始めて、まだたったの一時間だ。ずっとここで休憩をするわけにはいかないけれど、話は始まったばかり。
アメリアの美しさが分からないなら、分かってもらうまで。アメリアの美しいお顔を、表情を、二度とただの皮扱いできないように。
「いっちゃん、今のは序章だよ? 赤ん坊編、幼児編、少女編に……」
『ストップ、ストーップ!! ハレちゃん、あたしが悪かったわ。止まってちょうだい。お願いよ……』
え? なんで?
「物語でいうプロローグ部分しか話してないのに……」
思わず溢れた言葉に、いっちゃんは震えている。
これは、まだまだ続くアメリアの話に歓喜で震えているっていう──。
「んなわけ、あるか」
頭に肘を乗せられた。
呆れたような視線を上からロズに投げ付けられ、ぐっと眉間にシワが寄った。
「声に全部出てたぞ」
「あれ? ホントに?」
特に聞かれて困ることでもないから良いけれど、気を付けよう。
アメリアの中での生活が長くて、思ったことを口に出すようになっちゃったのかな? あそこは、返事もないから、言いたい放題だったしね。
「アメリア嬢の美貌を皮扱いしたイグールが悪いから放っておいたが、ここら辺にしてやれ」
「なんで?」
「時間がない」
「あー、なるほど。確かにここで夜は明かさないかぁ」
納得だ。私は良いけれど、アメリアの体をここで夜明かしさせるのは、よろしくない。
そのうち夜営も始まるだろうけど、それは追々だ。
「一番近い町まで行く予定だ。そのためにも、聖獣とさっさと契約をしよう」
「聖獣と契約って、どうやって?」
『名を与えるのよ』
いっちゃんが心なしか小さい声で言った。
なるほど。名前をつけるのか。
それなら、できそうかな。問題なのは──。
「私もアメリアも、聖獣に会ったことないよ?」
いや、あるのか? 精霊と同じで気が付かなかったパターンなのかな?
長い沈黙が流れた。ロズといっちゃんは互いを見て、何だか目だけで会話をしているみたい。
「あー、何かよく見かける生き物はいなかったか?」
「よく見かける? ミュゲルとカタリナ以外でだよね?」
「当たり前だろ!!」
そりゃそうか。
あのふたりのどっちかが聖獣でした! とか言われたら、殴るわ。間違いなく、ぼこぼこにする自信しかない。
「……二匹いるかな」
「二匹か。そのうちのどっちかだな。呼んでみたらどうだ? 契約したいと望んでくれていたら、来るぞ」
「来るの!?」
それなら、呼んでみようかな。
「おーい!! にゃんた! みゃーこ!!」
何となく猫だからと、アメリアの中で勝手に呼んでいたあだ名を口にすれば、黒い丸と白い丸が飛んできた。
「わぁ!! 久しぶりだね。って、ふたりは私とは、はじめましてだね。どうやって、ここまで来たの?」
にゃーにゃー、みゃーみゃー、といつも鳴いているにゃんたとみゃーこ。
アメリアにとって、癒しの存在だった二匹。
登場の仕方的に、聖獣だったみたいだ。だって、飛んできたもの。
『やっと、名前で呼んでくれたにゃ』
『待ちくたびれたみゃよ?』
二匹はしっぽをてしてしと地面に叩きつけている。その姿は、抗議をしているようだ。
「えっと、ごめんね?」
『まぁ、いいにゃよ。これからは、主といつでも一緒にゃ』
『うれしいみゃー。名前もありがとみゃ!!』
白猫のみゃーこは、私の足元に可愛らしくすり寄り、黒猫のにゃんたは、私の肩に飛び乗った。
不思議なことに、飛び乗ったはずなのにめちゃくちゃ軽い。
「もう、契約済みだったか」
『違うにゃよ。仮契約だったにゃ。心の中でしか名前を呼んでくれにゃいから、ちゃんとした契約は今にゃよ?』
口に出して、名前を呼ぶのが必須条件ってわけか。
あれ? 待って?
「もしかして、ふたりの名前って……」
『にゃんた!』
『みゃーこ!』
二匹は片手を挙げた。めちゃんこ可愛い姿に癒される。癒されるんだけど……。
「えっ!? その名前になっちゃったの? ふたり的にはありなの? 大丈夫!?」
安直過ぎる名前に、冷や汗が止まらない。
名前って、一生ものだよね? 猫ちゃんだからって、呼んでた名前が聖獣の名前になるなんて、誰が思うの? 少なくとも、私は思わなかったよ!!
「ほら、アレキサンダーフォンとか、キャサリンシャーロットとか……。もっと洋風な名前の方が……」
『にゃんた、気に入ってるにゃ』
『みゃーこも、いい名前みゃ!! アレキみゃんちゃらも、キャサみゃんちゃらも、長くて言うのも大変みゃよ?』
そりゃそうかもだけど……。
聖獣って、特別なんだよね? もっと特別感のある名前が良かったんじゃないかな……。
『大丈夫よ、ハレちゃん。あたしたちにも名前の拒否権はあるわ。つまり、ふたりは気に入ってるのよ!!』
見た目が鷲のいっちゃんが、ばさりと羽を広げれば『にゃー』『みゃー』と可愛い声があがった。
「気に入ってくれたのなら、いいのかな? あの、確認したいんだけど、ふたりの性別は?」
『オスにゃ』
『メスみゃよ』
セーーーフッッ!!!!
性別が違ったら、どうしようかと思ったよ。
「よし。契約も済んだことだし、少し急ぐぞ。町までまだ距離がある。どっちか、ハレを乗せてくれるか?」
『みゃーにお任せみゃ!!』
意気揚々と、片手を挙げたみゃーこ。
でもね、その姿はねこちゃんサイズ。乗ったら、ぺしゃんこになってしまう。
「無理無理無理無理!! ロズ、動物虐待だよ!! こんな可愛い猫ちゃんに乗るわけないでしょ!!!!」
本人が許可したって、無理なものは無理!!
お読み頂き、ありがとうございます!
ブクマ500人に!!感謝です(((o(*゜∀゜*)o)))
もふもふ登場ですよ(*´∇`*)
黒猫のにゃんた
白猫のみゃーこ
聖獣です!