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聖女に恋した男2 ミュゲルside

 

 今にして思えば、アメリアはロズベルトを好きではなかったのだろう。

 アメリアがロズベルトに向けた視線は、その他大勢に向ける微笑みだった。

 私にだけ見せる、柔かな笑みではなかった。


「アメリア……」


 誰にも聞こえない声で呟く。

 柔らかな色の微笑みは、もう見られない。

 私が壊したのだから。



 ***



 まるで通夜のような雰囲気のまま、会議は終了した。

 きっと、誰も私とカタリナが、この国をより良いものにできると思えないのだろう。私自身、無理だと思うのだから、皆がそう思うのは当然だ。


 いたたまれなくなり、早足で部屋を去る。

 すると、先に会議の部屋を出ていった騎士団長のレオンと副団長のクロウが見え、慌てて隠れた。

 これから国は荒れるだろう。その原因となったことが後ろめたく、真剣な顔で話す彼等の前を通ることができなかった。


「そういえば、家庭教師をしていた罪人はどうなったっけか?」

「あぁ、ユバルスですか。西の森の木に縛られたから、今頃は魔物のフンにでもなってるんじゃないですかね」


 ふたりの声が聞こえてくる。

 立ち聞きなんかしてはいけない。そう思うのに、足が縫い付けられたかのように、その場から動けなかった。

 レオンとクロウは、私をどう思っているのだろうか。

 昔から馴染みがあり、幼い頃は剣術を教えてもらったこともあった。もしかしたら、味方をしてくれるのではないか……。

 少しの期待と大きな不安。

 私は耳を澄ました。


「ロズベルト様は相も変わらずやることがエグい。これから先、ミュゲル様とカタリナ嬢は命を狙われ続けるだろうから、いっそのことユバルスみたいに殺しちまえば良かったのにな」

「そうなると色々と面倒だから、病で死んでくれたら楽で良いなぁと自分は思いますけどね……」

「違いねぇ!!」

 

 ふたりの言葉に、目の前が真っ暗になった。

 味方をしてもらえるなんて、あまい考えだったのだ。

 憎まれて当然だ。私は、国を危機に陥れた張本人なのだから。


「一番の問題は、あの二人の警護を誰がするかですよ……」

「それな。皆、アメリア様を慕ってたもんな」

「えぇ。心配そうにいつも瞳を揺らしながら、治癒をしてくださいましたからね。治った時のホッとした表情が自分達をとても心配してくれているんだと教えてくれて、皆アメリア様に心配をかけたくないからって無茶をしなくなりましたね」

「あぁ。強くなれば、怪我もしなくなるし、アメリア様の護衛にもなれるって訓練にも精を出してたな」

「そんなアメリア様を傷付けた者の護衛。皆、嫌がるでしょうが、仕事です。気持ちを切り替えてもらうしかありませんね」

「とは言っても、引き受ける奴がいるかが問題だ。金を積まれても絶対にやらねーって奴ばっかだろうしなぁ」


 溜め息をつきながら歩き出したレオンとクロウの背中を見送った。

 改めて、自分がしでかした罪を知る。


 何もかも捨てて、逃げ出したかった。

 けれど、城でぬくぬくと育った私は逃げたところで市井では生きていけないだろう。

 それに、私が逃げれば国は衰退の一途をたどり、国は終わる。


 何も罪のない民を巻き込んではいけない。


 そう思うのに、心は全てを捨ててしまいたいと叫んでいる。



「……アメリアを連れ戻せば、いいんじゃないのか?」


 聖女がいなくなったから、国が衰退するのだ。

 ならば、連れ戻せばいい。


 そして、今度こそ幸せにするのだ。


「そうだ。それがいい。何で気が付かなかったんだろう」


 そもそも、アメリアは私を好きだと言っていた。

 きっと探し出して迎えをやれば、喜んでくれる。

 これ以上、良い考えなんかないだろう。


 大丈夫。大丈夫だ。

 今度こそ、アメリアだけを見る。簡単に手に入る女に流されたりしない。

 アメリアだけを愛するんだ。


「そうなると、あの女は邪魔だな……」


 あと、子どももだ。

 だが、子どもには何の罪もない。子どもを処分したら、優しいアメリアは気にしてしまうだろう。

 王族()の血をひいている者を養子に出すのも、新たな火種になりそうだ。


「アメリアとの子が王位を継ぐのだから、男なら邪魔になるから死産だな。女なら、他国と縁を結ぶのに使えるか……」


 もうアメリアを失うという、同じ過ちは(おか)さない。

 大丈夫だ。カタリナを処分して、子どももどうにかして、アメリアに迎えを出す。

 これで、全てが元どおりになる。


 私は急ぎ足で自室へと向かった。

 私に忠実な影に指示を出すために。


 

「シン、出てこい。仕事だ」


 部屋に入ると、すぐに影を呼んだ。

 すると、音もなく私の前にシンは現れる。


「シン、これから頼むことは他言無用だ。まずはアメリアがどこに行ったのか、見つけ出して欲しい。それと、カタリナが子どもを産んだら──」


 必要な指示は出した。あとは報告を待つだけだ。


 アメリア、もう大丈夫だよ。

 私と幸せになろう。今度こそ、誰にも邪魔なんかさせないからね。



 

読んでくださり、応援してくださり、ありがとうございます!

ブックマークがなんと350人を越えました。

本当にありがとうございます(*´∇`*)

ブクマは続きを読みたいと思ってくださるお気持ちとして受け取らせて頂いています。

こんなにもたくさんの方に読んで頂けて、幸せです(((o(*゜∀゜*)o)))


これで第一章は終わりです。

次のページからは、ハレとロズベルトの旅が始まります!

引き続きお楽しみ頂けたら、嬉しいです!!

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