アメリアファーストな男
「ミュゲル、諦めろ。我らが悪かったのだ。お前を聖女の婚約者にしたことも、そこの小娘からアメリア嬢を守れなかったことも」
突然現れた国王様。お話を聞いていたんですね。
聖女は護衛対象であり、監視対象だろうから当然か。
それにしても、変装魔法を使ってこっそり見守るなんて趣味が悪い。
いきなり出てきて、いい人っぽい発言をしているのも気に入らない。
アメリアを守れなかったくせに。
「聖女、アメリア。此度は、我が愚息が申し訳ないことをした」
深く深く頭を下げられてしまった。
これでは、許す以外の選択肢がない。
ミュゲルのことを責任とれとは言わない。
育て方に問題があったのかもしれない。けれど、ミュゲルは成人しているし、国王様は常に忙しい。子育てをできる環境にあったかと言えば、難しいだろう。
そもそも貴族は政略結婚が多く、子育てをあまりやらない場合が多い。幼い頃は乳母が育児をして、少し大きくなれば家庭教師やメイドたちが教育やお世話をしてくれる。親は、状況を聞いて指示は出すが、それだけだ。
きっと国王様も似たような状況だろう。
監督不足と言えばそれまでだが、国王様だけの責任とは思えない。
ミュゲルをアメリアの婚約者にしたのも、聖女を国に繋ぎ止めておくのに有効なのだから、国を治める者としては当然の行動だ。
ミュゲルがどういう気持ちでアメリアに近づいたのかは分からないけれど、アメリアの気持ちを無視して婚約させたわけじゃない。
けれど、聖女の生家だからと自分達のために罰を軽くしたことは間違っていた。
アメリアを保護すると言いながら、アメリアの聖女としての人気を利用しようとしたのだ。
……伯爵家なんか、没落させてしまえば良かったのに。
許す以外の選択肢がないと分かっていても、やっぱり国王様を許すことはできない。
謝る相手が違うのだ。私はアメリアだけど、アメリアではないから。
その違いに気が付いているのは、ロズベルトだけみたいだけど。
私は肯定も否定もせず、微笑みを浮かべた。
そんな私の反応を気にすることなく、国王様は言葉を続ける。
「国に留まって欲しいとは言えぬ。だが、ロズベルトは連れていってくれまいか? ちゃらんぽらんなようで、一途な奴だ。それに、魔法もこの国で一番だ。腕も立つ。役に立つであろう」
何でそうなるの? 頭の中、すっからかんなのかな? 頭を振ったらカラカラ可愛い音でもするんじゃない?
アメリアと国を繋げておきたいという下心が見えて、睨み付けたい気持ちを必死に抑えた。
アメリアは国王様に感謝していた。きっと今でも、親切にしてくれたと感謝している。
優しいアメリアのように行動するんだ。アメリアが戻ってきた時に困らないように。
「親父は黙っていてくれ」
ロズベルトの鋭い声が響く。怒る姿に、冷静さが戻ってくる。
ロズベルトは、国王様の視線から守るように私の前に立ってくれた。頼もしい背中だ。アメリアを守ろうとしてくれている。
やっぱり、気のせいじゃなかった。
お城では、たくさんの人が優しかった。その中でも一番優しかったのは、ロズベルトだった。浮き名を流しているなんて、嘘だと思えたほどに。
アメリアはミュゲルに夢中だから気が付いていなかったけれど、ロズベルトの態度はアメリアが特別なのだと言っていた。
ロズベルトがアメリアに、特別に優しかったのは、聖女だからじゃない。もっと──。
「親父の謝罪は、謝罪なんかじゃない。パフォーマンスだよ。アメリア嬢が、俺が付いていくことを許可してくれたとしても、俺は国のためにも親父のためにも何かをしたりはしない」
言い切ったロズベルトの言葉に、嘘はないように見えた。
やはりロズベルトはアメリアファーストの男。
素晴らしい!! 同士として認めざるを得ない。
「ロズベルト様は、どうしてこんなにも、良くしてくださるのですか?」
答えは分かっている。
それでも、ロズベルトの言葉で聞かせて欲しい。
アメリアに届けて欲しい。
私に視線を向けたロズベルトの顔は、赤く染まっている。
アンバーの瞳がじっと私を見詰めた。
……いや、違うな。私じゃない。私の中にいるアメリアを見詰めている。
「アメリア嬢、聞こえているだろうか? 俺は、貴女を愛している。今すぐに信じてくれとは言わない。けれど、いつか貴女自身の言葉で返事をくれると嬉しい」
アメリアへの告白に胸が熱くなる。
端的だけれど、アメリアを思いやる気持ちが私にも伝わってきた。
ねぇ、アメリア。どうしようか。
信じてみる? それとも、怖いかな?
返事がないと分かっていて、私はアメリアに話しかける。
きっと、伝わっている。私がアメリアの中で、アメリアの感情を感じ取れていたのだから。
私はね、信じてみてもいいんじゃないかなって思うよ。
私の体はアメリアで、アメリアの真似もしているのに、こんなにも簡単に見破ったのだから。
あなたのことを、愛しているんだよ。
それは、とてつもなく重い感情だろうけど、それくらいの愛があるならば、アメリアの心の傷を癒してくれるかもしれない。
きっと、ロズベルトはアメリアのためなら命も惜しくない。私と同じものを感じるもの。
「守ってくれますか?」
何を、とは聞かない。
それでも伝わったのだろう。ロズベルトは大きく頷いた。
「アメリア嬢と国を出る。俺たちのことは探さないでくれ。いなくなったものと思って欲しい。もし、探すようなら──」
最後まで告げることなく、ロズベルトは国王様へ冷たい視線を向けて言った。
どうやら、この二人の間には何かがありそうだ。ロズベルトは元々国王様によそよそしかった。
この態度は、怒っているからだけではない。もっと何かある。
何があったのか、私から聞くつもりはない。けれど、ロズベルトの味方でいよう。
ロズベルトは、私にとって大切な人だもの。こんなにもアメリアファーストで、何があってもアメリアの味方をしてくれる人を大切にしない理由なんかどこにもないのだから。
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