プロローグ
数ある物語の中から、ありがとうございます。
ドアマット聖女の連載になります。短編を読まなくても、こちらのみでお楽しみ頂けます!
お付き合い頂けると嬉しいです(*´∇`*)
「お姉様、ごめんなさい!! ミュゲルの子を妊娠したの!!」
妹のカタリナが、部屋の外にまで聞こえるような声で言った。勝ち誇った笑みを浮かべて。
アメリアの婚約者であるミュゲルの慌てた姿が、カタリナのお腹の中にいる子どもが、本当にミュゲルの子どもなのだと語っている。
虐げられ、踏みつけられる。
散々な人生に見えた。
アメリアの中からずっと、ずっと、私は見てきた。
そんなアメリアにも婚約者ができ、はじめての恋をした。やっと幸せになれる……。
そう思っていたのに、何ということだ。この男は、アメリアを裏切ったのか。
今すぐにアメリアの耳をふさいで、抱きしめたかった。アメリアに愛していると伝えたかった。
目の前の糞共を殺したかった。
それなのに──。
「アメリア、私の王妃は貴女だから安心して。カタリナは側室だから。アメリアは治癒と、王妃としての執務だけ行えばいいよ。アメリアは話せないから、人前に出るものは、すべてカタリナに頼もうと思う。アメリアもその方がいいだろう?」
「もちろん、恋人としての夜の営みも全て私よね? そうよね、ミュゲル?」
「当たり前だよ。愛しのカタリナ……」
糞共は、何も言えない優しいアメリアを、自分達の良いように利用しようとする。
アメリアの中から睨み付けた。けれど、私にできたのはそれだけ。
私は見ているだけで、何もできない。いつもそうだ。
あぁ、アメリアが泣いている。顔は微笑んでいるのに、心が泣いている。
こんな時でも、アメリアは涙を流せないのか。文句のひとつも言えない。なんて、なんて、歪んだ世界。
こんなにも優しいアメリアに、世界はちっとも優しくない。
アメリア、あなたには私がいるよ。私が守るから。無理をしないで、ゆっくり休もう……。
アメリアの意識が深く、深く沈んでいく。それと共に、私の意識は初めて表へと向かっていく。
アメリアを侮辱し、アメリアの心を壊したこいつらを許すことはない。
聖女だ、何だのと崇めたくせに、誰もアメリアを守れなかったこの国も、見ているだけしかできなかった私自身も許すことはない。
私はにこりと笑みを浮かべた。
だって、アメリアはいつも微笑んでいたから。
「婚約破棄を申し入れます」
静かに私は告げた。
さぁ、はじめよう。
大丈夫だよ、アメリア。誰も殺したり、暴力をふるったりしないから。
安心して、私の中から見ていて。
あなたが安心して笑える世界を、私が作るから──。
短編版を大幅に加筆しています。
内容が異なる点もありますが、第一章の内容は大きく変わりません。
少しでも楽しんで頂けましたら、嬉しいです!