百物語を終えて
投稿1秒遅れで企画参加できず
2023年8月。昨夜の19:00から一晩中行われた百物語は日の出の時刻5:00をもって語り手としての仕事を終えた。
百物語とは日本独自の怪談会で新月の夜に行なわれる。室町時代に始まり、江戸時代には盛んに行われていた事から割と形式は決まっている。怪談を語る部屋と行燈を100基据える部屋の計2間が必要であり、語り手が怪談を1話終えると、隣の部屋に行き行燈の中の蝋燭の火を1つ吹き消していく。100話語り終え蝋燭をすべて吹き消すと怪現象が起こると言われている。近年では99話で止め、怪現象を起こさない流れが主流である。ただこれに関し事実は違うのでは無いかと思う。怪現象を求め、百物語を話し終え、蝋燭をすべて吹き消しても何も起こらず白けてしまったケースが過去に多かったのでは無かろうか。せっかく一晩かけて恐怖や畏怖の集団心理を膨らませたのだから、最後の一話は蛇足と近年ではなっているのだろう。
今年の百物語。大手のスポンサーがついた事もあり大きな企画となった。会場は大型の体育館のような広い場所。一般的に10人以下で回す事が多い語り手も今年は200人規模1000話越えである。過去最大の怪談イベントにしたかったようで各地からプロアマ問わず怪談の語り手を集めたようだ。来場者も含めると数千人規模。さすがに1つの輪となり怪談をとはできない。語り手がいくつかあるブースに分散してそれぞれが小規模な輪となり怪談話をする。観客は更にその外側のパイプ椅子に円形で座る。語り手は怪談を1話終えると運営に指定された中央の台の上の蝋燭を1つ消し控室に戻る。そしてまた運営に呼ばれ別のブースの輪に加わり怪談を1つ話す…と言った具合だ。
語り手がそれぞれ動画・メールで運営に送った怪談。運営は数十人体制でイベント前に総チェックしている。類似の話が無いか。都市伝説と履き違えている話はないか。また、語りの速さ。文字量から凡その語りの時間。を考慮しブースや語る順番、控室、蝋燭の数、椅子の数、休憩時間等を全て事前に決めている。これはご苦労様である。運営側に几帳面な人物がいるのだろう。
運営が弾いた怪談話は少ない。登場人物の名前まで全く同じ怪談話や、口裂け女をなぞったような話は弾いたようだが、話数を多く集めることもアピールの一つ。それが利益を生む観客を呼び寄せる。多少似た話でも同じ時刻にブースを分ければOKなのである。
今回の百物語は様式の大半が守られていないが、娯楽と割り切ればよい。
そして百物語当日。私は語り手を示す青い浴衣を着る。用意した話は50話で1話当たり1分~5分。人によっては20分を超える長編の話も存在するので、私は比較的に短いと言える。開催直前、会場内には相当の数の観客が集まっていてかなりザワザワしている。怪談話は静かな語り出しが多いので「困ったな」と思っていたが、運営の開催挨拶の際にそこは注意があった。そして会場の明かりが黒橡色(青暗い色)に落とされ、行燈の中の蝋燭が灯されていく。真夏での開催、怪談話ということで暑いと困るが、会場はエアコンがキンキンに利いておりむしろ腹を下さないかが心配だった。
運営の中にヤリ手がいるからか開催は滞りなく行なわれた。だが語り手と観客はそうではない。語り手側の中には運営に伝えていた文面にアレンジを加え話が長くなっている者がいたり、1話しか用意していないのに話が飛んで黙ってしまったり、蝋燭を消し忘れたり、違う蝋燭を消したりと運営泣かせな語り手がいた。観客の中にも酔っぱらいや、携帯を鳴らしそれに大声で応答するものもいた。そういったトラブルは個人的には楽しめるのだが、やはり語り手が繋いだ恐怖感・話の腰を折られるので無いに越したことは無い。
私自身は特にトラブル無く、予定通り50の怪談を披露できた。
と閉会の5:00までの私は思っていただろうが、すでにもうそんな事はどうでも良い。意識は俺がすでに乗っ取ったからだ。
人格を乗っ取る回を真・百物語。乗っ取らない回を百物語としている。
人々の記憶から百物語が無害なものであると認識が改変されるまで慎重に待った。過去の真・百物語で意識の簒奪を成功させたヤツラも、事後に
「特別に怖い事は起こらなかった」
「家全体が震えていた。あれはきっとお化けだ。」
と本来の目的を隠すために偽装している。
今回は数千人に及ぶ人物の人格の乗っ取りが行なわれているので、間違いなく騒ぎになるだろう。人物の記憶は乗っ取った俺達は憶えているが、人格はと言えば別。引き継いでバレないようにするかは、各個人の責任となる。必ずどいつかがボロを出すだろうが、俺はそのようなヘマはしない。ただ次回の真・百物語の開催には相応の年月を空けなければならないだろう。正直俺にはどうでも良い事ではあるが。控えているヤツらにも機会は与えないといけない。
元々の人格はどこに行ったのかって?肉体を得るのに百年は待っていたんだ。そんなもの知るか。