14 推しの特別な呼び名
ひとしきり、面と向かって笑われたミリオンは、あまりに楽しそうな少年の様子に、怒ることも忘れて屈託の無い笑顔に見惚れていた。
「何度も僕は翠天の影響を強く受けた人間だって言ってたのに忘れちゃったの? ショックだなぁ」
「それはちゃんと覚えてるわよ! あなたに会いたくって頑張ったもの。忘れるなんてとんでもないわ!けど、キラキラ木漏れ日の綺麗な森の中で見たら、あなたの翠に輝く姿がとっても澄んだ尊いものに思えて。人の目に映らない、けどキラキラと輝く妖精さんみたいだって思っただけよ」
臆面もなく真正面の少年の魅力を力説したミリオンに、少年が「ひゅっ」と息をのむ。そして「参ったなぁ……。君ってたまにとんでもないこと言うよね」と、彼女の天然ぶりにようやく笑いの発作が治まった様だった。
「わたしは大真面目にあなたがキレイだって思ってるわ。勝手にだけど、わたしらしく生きる力をくれたあなたに感謝してるの」
更に畳み掛けられたミリオンの言葉に、少年は頬を染めつつも、気まずげに目を逸らす。
「僕はそんな大した者じゃないよ」
ポツリと呟くと、ミリオンが否定の声をあげるのを寂し気な笑顔で遮った。
「僕は成るとしたら翠天なんだろうけど、君の言う妖精に一つだけ近いところはあるかな。人目に付かない様、逃げ隠れしてるってこと。責任を負わずに好きに生きたい、自分勝手な隠れたがりなんだよ、僕は」
意味ありげな言葉だったが、ミリオンにはその意図が分からない。だからこそ、推しの心を癒したい――と、あることを提案した。
大好きな彼が、自分の存在に嫌疑的なことは少なからずショックだったのだ。だから、ミリオンが彼に感じる魅力を少しでも伝えることが出来たら良いとの思いを込めて「これから毎日一緒に素材採取する」ことを。
そして今日、ダメ元な気持ちもあったが、意外にもあっさりと受け入れてくれた少年との素材採取は、これで三度目となった。
(彼も自分の魅力に気付けるし、わたしも推しと過ごせるし、良いこと尽くしねっ)
弾む気持ちを足取りにも表すミリオンは、今日も元気に歌を口遊みながら、林を奥へと進んで行く。
「今朝もキレイね! お天気が良いと――えと、翠天様が一層キラキラ眩しくて、嬉しくなっちゃうわ」
いつもの挨拶代わりの言葉を伝えると、少年は一瞬笑顔を曇らせ、不満げに唇を尖らせる。
「リヴィオネッタ」
「ん?」
「リヴィオネッタ。僕の名だ。今度からそう呼んで欲しい」
照れ臭そうに目を反らしたリヴィオネッタ。ミリオンはその初心な反応に目を奪われ、名前を教えてくれた喜びに目を輝かせる。
(リヴィオネッタ! リヴィオネッタ!! リヴィオネッタ!!! 絶対に忘れないわ、大事に呼ばなきゃ!)
「リヴぃんあ゛!」
「えぇー……」
心の中で何度も繰り返し、満を持して言葉に乗せれば、思いが勝りすぎて大切なところで噛んでしまったミリオンだ。心底残念な子を見る視線が正面のリヴィオネッタから向けられるのを感じて、彼女は半泣きだ。
「リヴィでいいよ。特別だからね?」
「リヴィ……」
今度はしっかりと音に乗せることが出来た。それよりも―――
(特別って!!!)
名前一つで、ぱぁぁっと分かり易く顔を輝かせたミリオンに、リヴィオネッタは心が温かくなるのを感じるのだった。
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