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好きな人と幸せになるまでの物語  作者: 朋佑
第二章
9/11

同窓会

 同窓会当日、俺は駅前で友達と待ち合わせをしていた。


「よ、待たせたな」


 爽やかな挨拶をしてくる眼鏡男子は長谷川忍。高校生時代によくつるんでいた親友だ。


「大して待ってないよ」

「少しは待ってたと分かる返し。全く嘘を言わないが、余裕のある返答をする。成程、これがモテる秘訣だな?」

「結婚してるって忘れてる?」


 大真面目な顔で何を言っているんだ。こいつは昔からこうだったが、大人になっても変わっていないらしい。最近、変わらない事の良さを実感したばかりなのに、こいつに至ってはどうなのだろうか。


「お前、大学から変わってないな」

「いや、変わっただろ。最近はファッションに気を遣ってるし、商社マンとしてそれなりに見た目を意識していてな」

「見た目の変化なんて知るか」


 他愛のない雑談をしながら現地に向かう。地図では目的まで五分ほどで到着するらしい。


「クラスメイトと会うのは久しぶりだな。高校卒業以来か?」

「そうだな。吉井とはたまに飲みに行ってるくらいかな。友春が妻帯者じゃなければ、三人で行くのだが」


 吉井と長谷川とで馬鹿やってた時を思い出す。確かにこの二人と飲みに行っている自分も、それはそれで楽しそうだ。


「―――悪いな。今度、予定合わせるよ」

「無理はするなよ。夫婦の営みを邪魔する程無粋じゃないからな」

「それはちょっと意味違くないか?」


 下らないやり取りをしていると、何も考えずに生きていられたあの頃に戻ったみたいだ。同窓会とは本来こういう目的で開かれるのかもしれない。


「―――」


 だが、今日の目的は他にある。俺は自分の過去と決着をつける為にここに来た。


「ついた。ここだな」


 会場に到着した。ホテルの様な場所で、普段はお見合いや婚活パーティーなどが開かれている場所らしい。

 受付を済ませて中に入る。まだ開始前なので人はまばらだが、見知った顔が何人もいる。同じくクラスだったのだから当然なのだが、参列者が全員顔見知りのパーティーとは、新鮮な気持ちだ。


「あ、上原に長谷川だ。おひさー」


 小走りで駆け寄ってくる女性は天海南。彼女もクラスでよく行動を共にしていた一人だ。


「おっす、天海。久しぶり」

「本当にね。高校卒業以来じゃん」

「天海さんは大学が他県だったからね。それにしても、暫く見ない間に綺麗になったね」

「そう? ふふん、ありがと」


 旧友との再会に喜ぶ。昔もこんな感じで三人で一緒にいたっけ。


「あれ? 吉井は一緒じゃないの?」

「吉井は今日は来ないよ。予定が合わなかったようだね」

「グループラインに書いてあっただろ」


 そうだっけと疑問符を浮かべている。相変わらず、吉井の扱いが雑なのも、当時を思い出させる。


「そっちこそ、夢城さんは?」


 夢城優子。天海といつも一緒にいた女子生徒で、夢城さんを含んだ五人が、いつも一緒だったメンバーだ。


「優は遅れてくるって連絡あったよ」

「そうか。夢城さんも高校以来だから、会えるのが楽しみだったんだ。どんなに素敵な女性になっているのだろうか」

「……お前、何かキャラ変わってないか?」


 長谷川はこんなに軟派な性格だっただろうか。変わってないと思っていたら、外見以上に中身が変わっていたらしい。


「何言ってるんだ。僕は変わってないよ。あの頃のままさ」

「さっきは変わってるって言ってただろ」

「ふふ、二人を見ていると思い出すなぁ。高校生の時の事」


 天海が楽し気に笑う。俺達のやり取りに当時の記憶を呼び覚まされているらしい。


「懐かしいなぁ。よく吉井も一緒になって三人で騒いでたよね」

「人を馬鹿みたいに言うな」

「夜中に学校のプールに忍び込んでたのは馬鹿じゃないと?」


 それを突かれると痛い。そういえばそんな事もしていたっけ。若気の至りってやつだ。


「吉井が言い出しっぺだ。俺は悪くない」

「確かに吉井が原因だったな。いつも何か事件を起こすのは吉井なんだよ」

「まぁ、あいつが一番おちゃらけてたもんね」


 ここに居ない吉井に全ての罪を擦り付ける。すまん吉井。今度飯を奢る事を心で誓う。


 始まるまでの時間。俺達は思い出話に花を咲かせていた。




 同窓会と言っても、何か催し物がある訳ではない。食食べ物がビュッフェ形式だったり、立食パーティーの様な体裁を取っているのが、基本的には飲み会と変わらない。


 恙なく会が進行していく。そろそろ俺も動きだすか。


「……すまん。ちょっと外すわ」

「ん? どうしたんだ? お手洗いか?」

「まぁ、そんな所」


 ターゲットが動いたのを確認し、俺も移動する。化粧室に入って数分後、出てきた所で声を掛ける。


「久しぶりだな。浅間」

「……上原? 何? 何か用?」


 不機嫌そうに睨んでくるのは浅間栞。当時はクラスで一番目立つギャルだった。今もその印象は変わらない程、明るい髪色に派手めな服装をしている。


「ちょっと夜風に当たらないか?」

「何? ナンパ? 結婚してるんでしょ? もしかして浮気?」


 ニヤニヤとしながら挑発してくる。昔から俺に当たりが強かったが、今も変わっていないのか。


「……話がある」

「そんなに怒んないでよ。わかった。わかりましたよー」


 軽く手をひらひらと振って了承する。俺は浅間を連れてテラス席に移動する。


「何よ、話って。もしかして、本当にアタシが好きだったって話?」

「―――暁夜月さんの事だ」

「……ちっ、お前もか」


 名前を出すと、露骨に不機嫌になる。今も彼女の中ではそういう扱いなのだろうか。


「単刀直入に聞く。暁さんは本当に自殺なのか?」

「……そうなんじゃない? どうでもいいし」


 爪をいじりながら面倒そうに答える。その態度に俺は無性に腹が立った。


「どうでもいい事ないだろ。同じクラスの仲間が死んだんだから」

「は? 仲間? たまたま同じクラスだっただけの他人じゃん。死のうがどうなろうが関係ない」

「お前、本気でそんな―――」

「知らねーって言ってんだろ!!」


 感情的に詰め寄ると、浅間が怒鳴り声をあげる。


「どうでもいいんだよ! 何でアイツの事でアタシが煩わされなくちゃいけねーんだ! 誰が死のうが何しようがどうでもいいんだよ!」

「浅間……」

「何その目? その目が昔から嫌いなんだよ。いつも上から見下して……自分の考えが世界の常識だとでも思ってんの? 自分が優秀だから正しいとでも思ってんの? ―――ふん、偉そうに。何様だよ」

「そんな事は―――」

「仲間は、クラスメイトは大切にとか、本当に言ってんだったら、アンタは何も分かってない。そんな奴の言葉は響かない。胡散臭い正論だけ並べて、納得するとでも思ってんの?」


 睨み付ける浅間の視線に俺は固まってしまう。何か言い返さなきゃいけないと思うのだが、言葉が出てこない。


「……二度と話しかけてくるな。この偽善者が」


 そう言い残し立ち去ろうとする。俺は掠れる程か細い声で、一つだけ疑問を投げかける。


「暁さんを……いじめてただろ」

「……」


 返答はない。浅間は質問に答えることなく去っていく。浅間がいなくなった事で、ようやく身体が動く様になった。


「……偽善者か」


 言い返せなかった。それは、俺の中でそう思っている部分があるからなのかも知れない。

 俺は自分のモヤモヤを解消するために真相が知りたかった。でも何処かで、これは正しい事で、遺族や関係者も知りたがっている、だから俺の行動は正しいと、自分を正当化する言い訳をしていた。


 正しい事をする自分に酔っている。昔、そんな事を言われたことがあった。浅間にも彼女にも、見抜かれていたのかも知れない。


 本当は真相なんてないのかも知れない。隠された事実があるって、俺が思いたいだけなのかも知れない。


「……それでも」


 俺は立ち止まる事は出来ない。もう後悔だけはしたくないから。



 会場に戻り、浅間を探す。

 姿が見えない。もう帰った可能性は高い。

 受付に確認する為に出入口に向かうと、見知った顔が受付にいた。


「あ、お久しぶりですね。上原くん」

「夢城さん?」


 そこにいたのは夢城さんだった。長谷川ではないが、高校生の事より大人びた姿になっている。


「一瞬誰か分からなかったよ」

「ひどいです。私は直ぐに上原くんだって分かったのに」


 ふくれっ面で怒っている。誉め言葉のつもりだったのだが、不快にさせたのなら謝る他ない。


「ごめん。忘れたとかじゃないんだ。記憶よりも凄く綺麗になってて、凄いって事でさ」

「ふふ、冗談です。ちゃんと分かってますよ」


 冗談と聞いて驚いてしまう。昔の彼女はそんな事を言う人ではなかったのだが、見た目だけでなく、中身も大人になっている。


 夢城さんとの談笑をしたい所だが、今は他に優先しなければならない事がある。


「夢城さん、浅間を見なかった?」

「浅間さんですか? そういえば、私が来た時に出ていったのが浅間さんだった様な」


 出入口を指さす。やはりもう出ていったのか。移動手段も目的地も分からない彼女を追うのは難しい。


「……無理か」

「よくわかりませんけど、何かあったんですか?」


 疑問符を浮かべる夢城。俺はどう説明したらいいか分からなかった。


「いや、大した話じゃないんだ。ただちょっと、な」

「……もしかして、暁さんの事、ですか?」


 一瞬、心臓が掴まれたかの様な感覚に陥る。夢城の口から出てきた彼女の名前に、俺は動揺を隠せなかった。


「な、何で。どうして……」

「上原くんと浅間さんってあんまり関わりなかったし、二人を繋げる何かがあるとすれば、暁さんかなって……違いましたか?」


 夢城の推理は大体合っている。俺はまだしも、どうして暁夜月と浅間を線で結ぶ事が出来たのだろうか。クラスで話していた俺は分かるが、表面上、あの二人に接点はなかったはず。もしかして―――。


「……知ってるのか? 暁さんと浅間の関係を」

「……何となく、ですが。確証はありません。当時、噂を聞いた程度です」


 遠慮がちに言う夢城に俺は少し安心する。もしかして彼女も何か加担していたのかと最悪の想像をしてしまったが、杞憂だったみたいだ。


「俺は今日、暁さんの事を聞きに来たんだ。あの事件の真相を確かめに」

「真相……ですか?」


 俺は夢城に暁さんは自殺をする様な人ではない事。もしかしたら何か隠された事実があるかも知れない事。それを浅間に問い詰めた事を話す


「なるほど。それを浅間さんに直接……答えを濁したのは怪しいと思います」

「俺もそう思う。だから追って来たんだが、もう無理かもな」


 浅間が今何をしているかは知らないし、何処に住んでいるのかも知らない。今から追いかけても無駄だろう。


「―――だったら、いい案があります」

「いい案?」


 夢城が指を立てて提案をする。上に立てた指を今度は真っ直ぐに会場に向ける。


「浅間さんが高校時代に一緒にいた二人。長瀬さんと林さんも今日、この会場に来ています。彼女達にも話を聞いてみましょう」




 長瀬と林は高校時代に浅間とよく一緒にいた生徒だ。彼女達なら浅間の現在を知っているかもしれない。もし知らなくても、当時の事情を何か知っている可能性もある。


「なーにー上原。話って」

「上原から話掛けてくるなんて珍しいね」


 長瀬と林の二人とテラス席に来た。夢城は長谷川や天海の所に行ってもらった。俺が単独行動をする時間稼ぎをしてくれるそうだ。


「二人、浅間が今何してるか知ってるか?」

「あさの事? ちょっと、違う女の話するなんてデリカシーなくない?」

「……そういう話じゃないんだ」


 ヘラヘラと答える長瀬。俺の真剣な面持ちに林がおずおずと尋ねる。


「……どうして、あさちゃんの事を?」

「話があったんだけど、帰っちゃったみたいで」

「話……」


 黙り込む林。すると今度は長瀬が切り出す。


「もしかして暁さんの事?」

「……っ! 何でそう思う?」

「上原があさに話しかける用事なんてそれしかないっしょ」


 何でもない事の様に言い切る。確かに俺と浅間に交友関係はない。一方的に嫌われていたみたいだし。


「……何か知ってるのか?」

「んー、まぁ、詳しくは知らないけど、よくあさが暁さんにちょっかい掛けてたくらいかなー」

「ちょっかい?」


 その言い回しに違和感がある。一体どの程度のちょっかいなのだろうか。


「そーそー、別に大した話じゃないけどさ。揶揄ったりとか……ほら、女子同士とかってよくあるっしょ? そんな感じ」


 要領を得ない説明に困惑する。確かに親しい仲なら罵りあう事もあるだろうが、冗談の範囲だし、あくまでも親しい事が大前提だ。あの二人が仲が良かったとは思えない。


「いっつも暁さんにあしらわれて、あさめっちゃキレたよねー。ぶっ殺してやりたいとかよく言ってたし」

「ッ! それ、本当か!」

「冗談よ冗談。本当にそんな事する訳ないっしょ? まぁ、暁さんが死んだ時は、正直まさかってビビったけどね」


 俺の剣幕に冗談と笑う長瀬。冗談と言われればそれまでだが、俺にはどうじても引っかかった。

 さっきの浅間の態度は明らかに暁さんを嫌うものだった。もし冗談ではないとしたら―――。


「……あさちゃんは、暁さんをいじめてたと思います」

「……え?」


 控えめな口調でそう話す林。しかし長瀬は笑ってそれに答える。


「いじめって大袈裟じゃね? ちょっとじゃれてただけだし、あんなのいじめの内に入んないって」

「……何をしてたんだ?」

「えーと、何だっけ? 悪口言ったり突き飛ばしたり、まぁスキンシップの範囲ってやつ?」

「何処がスキンシップなんだ?」


 笑って答える長瀬に、俺は怒りと同時に違和感を覚えた。

 いじめとは加害者ではなく、被害者が判断するものだ。やっている側にその意識がなくても、やられている側は辛いなんてのは大いにある。それがいじめの厄介な部分でもある。

 加害者に罪の意識がない。だから無くならない。教師の俺にとって、身近な存在であるからこそ、この感覚のズレは無視できない。


「……二人はやってなかったのか?」

「あーしら? たまにかな? ノリでさ」

「……お前ら」


 無性に腹が立った。いじめをいじめと認識していない二人にも。それに気付けなかった当時の自分にも。


「あー、そいえばあさの事だっけ? 今は何してんの知んないよ? お父さんに養って貰ってんじゃない?」

「父さん……?」

「ほら、あさってお父さんって警察の偉い人じゃん? よく知んないけどさ。あさも家族の話したがらないし、聞いたらキレるしー」


 浅間の両親。父親が警察の人間だったのか。しかも上の役職。彼女も立派な両親の元に生まれていたのか。俺と同じように。


「じゃ、あっしら行くね? もう用ないっしょ?」

「ちょっと待て」


 二人を呼び留める。俺はどうしても彼女達にこれだけは言いたかった。


「お前たちがどう思ってたのかは知らないけど、いじめってのは被害者がどう思ってるがが重要なんだ。お前たちにとっては何でもない事かも知れないけど、暁さんはそうじゃないかも知れない」

「はぁ? 何言ってんの? もしかして説教? ウケる」

「……」


 初めは笑っていた長瀬だったが、俺の雰囲気から何かを察し、真面目な表情になる。


「どっちにしても、アンタには関係なくない? 今更何言われたって、どうでもいいし」

「どうでも……」


 またそれか。本当にどうでもいいと思っているのか。人が一人死んでいて、それに関係しているかも知れない事柄なのに。その一言で片づけるのか。


 二人がいなくなった後のテラス席には、俺だけが取り残された。まるで俺が置いていかれたみたいに。過去に縛られていると言われているみたいだった。

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