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第一章「魔王に殴られるだけの簡単な仕事」その2

魔王判定士の助手となる仕事に就くことになってしまった主人公。

はてさて、その業務内容とは?

 俺の叫びに対し、やっと女神様は満足してくれたらしい。


「よろしいでしょう」


 ニヤリと楽しそうに微笑むルゼを見て、俺は思い出してしまった。

 辺獄神の特徴というのは、ともかくサディスティックな性格をしていることだ。

 共通しているのは、苦しんでいる人間が必死に頑張っている姿を見て、その背中を奈落へと蹴り落し、地の底から這い上がる姿を見ては喜ぶ、という――。

 今更ながら思い出してみると背筋がぞくりと強張る。


「しかし、何故に魔王と殴り合う必要が?」

「魔王の実力を測るためです」


 ルゼは自身の銀髪を撫でながらもそう言った。

 見た目は超がつくほどの美女で、さながら銀色の花びらで周囲を誘惑する薔薇といったところか。

 しかし、ただの薔薇じゃない。

 罪人の血と汗と涙、その他諸々を吸いに吸いまくった刑場の土から、何の前触れもなく生えてきた異様な薔薇だ。

 あまりの美しさに、誰もが思わず手を伸ばそうとするも、植物とは思えぬ凶器のごとき棘を目にして誰もが手折るのを止めて逃げ帰る。そんな魔性の一輪と言えよう。


「もう少し穏やかな仕事だとよかったんだがね」

「各魔王の持つ兵力、財力、領土面積、所有している禁忌兵器を調べ上げる必要があります。とりわけ、助手の肉体労働が必要不可欠なのです」

「はいはい、そりゃあ光栄ですね。阿呆な俺にはぴったりの仕事さ」


 皮肉を口にしていると、ルゼが眉を顰める。


「イェルムルド・クロムライン――」

「イェルドでいいよ。昔みたいに」

「……そうでしたね。では」


 ルゼは咳払いをする。

 コホン、という上品な咳払いだ。

 そして、囁くようにこう告げる。


「お仕事の話をしましょう。ヤキサバ」


 暫時の沈黙――。

 一瞬、思考がピタリと止まってしまった。

 まあ、俺の聞き間違いだろう。絶対に。


「えっと、何か妙な単語が飛び出なかった?」

「そうですが、ヤキサバ」

「え、あれ、あの――」


 眩暈と同時に急な頭痛に襲われる。

 混乱のあまり血が逆流し、ついでに脳の一部を食い荒らしているんじゃあないか、という激しい痛みだ。

 ややあって何とか言葉を返すも、声がどうにも引きつってしまう。


「や、や、ヤキサバって、あの、その、俺のこと?」

「はい。焼いたサバはとても美味で、あなたにふさわしい呼び名ですから」

「え、いや、その、さっきイェルドって、あれぇ?」


 ダメだ、完全に会話がルゼのペースだ。

 昔はもっと優しかったような記憶があったのはまやかしだったのか。


「いや、あの、好きに呼ぶのは構わないんだが、出来れば――」

「かしこまりました。では、サバカンで」

「え」

「あなたもサバの缶詰は大好きでしょう?」

「まあ、それは否定できないな」

「そういうことなので、サバカンで確定ですね」

「は、はい……」


 有無を言わせず確定されてしまったようだ。

 なんだかもうどうでもいいや――。

 頭が疲弊のあまり、考えるのを止めようとしている。


「ではお話に戻りましょう。まず説明すべきは、ミセリアートと魔界との関連です」

「お、おう」


 よかった。仕事モードに入ってくれたようだ。


「ところでサバカン。魔王とは何なのかわかりますか?」

「え、あ……」


 これから俺はサバカンと呼ばれたら、ハイと返事をしなくてはならないのか?

 まあいい、慣れるしかない。

 これが俺の宿命というのならば。


「そりゃあ、魔物の中から選ばれた者が魔王になれるんだよな?」

「いえ、違います」

「違うのか?」

「正確に言いますと、魔王というのは自己申告制なのです」

「はい?」

「眷属がいようがいなかろうが魔王と名乗ればその日から誰でも魔王となれるのです」

「そんなもんだったの!?」

「そして、魔界で最も力を持った魔王とその眷属や配下のみがミセリアートの大地を侵攻できる権利を持っているのです」

「な、なるほど。魔界に魔王が複数いるってことか。ちなみにどうやって最も力を持った魔王を決めるんだ?」

「最強魔王決定大会というものが定期的に開催され、それに優勝する必要があります」

「やたらに俗っぽい大会だな、おい」


 一番気になるのは、誰が主催しているのか、ということだ。

 そもそも、そういうのに限って主催者が一番強い、ということがありそうで怖い。


「かつての魔王メイルーサもまた魔界で一番の力を手にしたということです。彼奴は魔界へと逃げ帰りましたが、魔界にはまだまだ多くの魔王共がいます」


 随分と懐かしい名前が出てきた。

 メイルーサとはかつて俺が戦った魔王だ。

 水と風の力を自在に操り、大風で城をも吹っ飛ばしたとんでもない野郎だった。

 他の連中は未だにああだこうだ言っているのが、俺からすればそんなに悪い奴にも思えない。

 奴にはトドメこそ刺さなかったが、もう二度とミセリアートを襲うことはないだろう。


「ちょっと待て、魔王達が協力して襲えばいいんじゃないか?」

 何となく口にすると、ルゼは鼻で笑う。


 もう少しよく考えてから発言しなさい――。

 その目はそんなことを確かに語っていた。


「サバカン、いいですか? 言ってしまえば、魔界の連中からすると、ミセリアートの大地は理想郷なのです。当然他の魔王に邪魔されず独占したい、ということなのです」

「なるほど……」

「そんな魔王共の戦力をあなたの肉体で実感し、厄介な魔王とどうでもいい魔王を判定するといった、とても重要な仕事となります」

「それで給料がいいわけだ。辺獄神は魔王を倒してはくれないんだよな?」

「ええ、残念ながら。神々は人間と魔物への直接的な戦闘行為が出来ません」

「人間には理解の及ばない深い事情があるというわけだな」

「これを認めてしまうと、神々の中で荒っぽいのが各世界の武力制圧に乗り出しますので」

「そいつはおっかないもんだな」


 俺の知っている話だと、神々の大半は魔界とミセリアートの争いを単なる生存競争の一環としか思っていないそうだ。

 力が強い物が生き残るのが世の常であり、魔王が人界を征服しようがそれは人間が弱かっただけ、と思われているのだろう。

 魔物は人間と比べると寿命も長く、魔力や身体能力も生まれながら優れているため、これじゃあ人間が不憫だ、ということで神々の中には人間に救いの手を差し伸べてくれる辺獄神という存在も目の前にいるわけだ。


「人間が魔界にいる魔王達を全部倒すのも無理な話だもんな」

「そのうち、そんな勇者が現れるのではないでしょうか」

「ははは、そうかもな」


 笑いながらも、はたと気づかされる。

 それはつまり魔王以上に恐ろしい勇者が出現するということだ。

 果たして、それは人類にとって味方と呼べる存在なのだろう。

 脇から冷たい汗が流れるのを感じながらも肝心なことに気が付く。


「ところで、俺は誰の助手を務めるんだ?」

「私の助手となっていただきます」

「え?」


 喉から出たのは驚きというよりも間の抜けた声だった。

 おいおい、まさかルゼの下で働くことになるのか?

 ただでさえ、魔王と殴り合いになるとんでもない仕事でだというのに!?


「いや、だってルゼはこの職安の特別臨時顧問じゃないのか?」

「今日限りで辞めますのでご安心を」

「そ、そうかい」


 随分と思い切りがいいものだ。

 まあ、部屋を見る限りこの好待遇ぶりだし、そもそも神様だ。どこに行っても雇ってもらえるのだろう。

 ああ、実に羨ましいもんだ。

 もしも生まれ変わりというものがあるならば、是非とも辺獄神様になりたいものさ。

如何でしたか?

以降、主人公が「サバカン」と呼ばれるようになる点にはご注意ください。

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