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第二章「魔王に喧嘩を売るだけの楽な仕事」その3

第一章にて戦った魔王エディス。

彼女はどのように評価されたのか?

「どれどれ……」


 早速目的のページを開いてみると――。


支配領土面積:ダメダメ

居城総合評価:ダメダメ

所有総合兵力:さっぱり

所有禁忌兵器:それなり

所有財産  :ダメダメ

魔王カリスマ:ほんのり

魔王戦力  :そこそこ


「ルゼ?」

「どうされました?」

「いや、もう少し具体的に書けなかったのか? 五段階表記とか、数字で書くとか」

「こちらの方が可愛らしいかと思いまして」

「まあ、いいけどさ。ん?」


 一番下に書いてある項目を見て、俺は目を丸くした。


「ルゼ、これは?」


 俺はページを指し示しながらも、ルゼに尋ねる。

 そこにはこう書かれていた。


総合評価:※※※厳 戒 注 意※※※


「どうされましたか?」

「いやいやいや、おかしいじゃないか。評価項目を見ても、そんなに恐ろしくない魔王だというのに厳戒注意だ!?」

「逆に聞きます。あなたは恐ろしくないと思いませんでした?」

「はい?」


 あの可愛らしい子が恐ろしい?

 何のことだと首を傾げていると、ルゼはやれやれと語り始める。


「あなたとエディスの戦いを見ておりましたが、あの子には底知れぬ成長性を感じました」

「成長性?」

「はい。貧しい家庭に育つも、優しく健気な心を持つ魔王。その心に惹かれ、彼女の元には、やがて賢く勇敢な配下が集うことでしょう。いずれ成長したら人類の脅威となります」


そ う言えば、エディスは辺獄神の間でも、とれんどとやらになっていたが、まさかその点も関係していたのだろうか。


「そんな大げさな」


 ――いや、いつもの冗談だよな?

 だがしかし、ルゼは真顔のままだ。


「いや、そもそもエディスと話し合いをすればそんな全面戦争とかにはならないだろ?」

「おや、奇妙なことを言いますね? ミセリアートのどの国の歴史上でも魔物と和平交渉を行った記録はございませんが」

「う……」


 俺だって歴史には疎いが、魔王が平和を脅かすたびに、勇者が担ぎ上げられ、魔王は勇者に倒されるということを繰り返してばかりだ。

 どちらかが完全に疲弊しないと、真の平和が訪れないと思うだけでも悲しいものだ。


「魔王を倒すにせよ、和解するにせよ、魔王を知ることがこれからの人類の行先を決めるでしょう。この本はまさに未来への道しるべとも言えるでしょうか」


 妖しく微笑むルゼを目にして、思った以上に大変な仕事をしているものだと実感する。


「ちなみに、別刊も予定しております?」

「べ、別刊?」

「はい。エディスに関する更なる特集を組む予定です。価格は倍となりますが」


 ルゼは再度妖しく微笑む。

 まるで貴族がショーケースに並べられている宝石を全部買い占める前に見せるかのような上品な欲望だ。

 間近で見ていると、改めて人類の未来は不安なものだなと実感してしまう。


「それでは、本日のお仕事をいたしましょう」

「お、おう」


 俺はルゼに冊子の見本を返しつつも身構える。

 今度はどんな魔王と戦わせられるのか。


「では、魔界に蹴り落しますので、小さなお子様の見えない場所へ」

「は、はい」

「当分はあなたを魔界に蹴り落とす日々が続きますので、とっとと慣れていただかないと」

「はい……」


 頷きながらも俺は公園の片隅へと行く。

 そして昨日と同じく四つん這いになると、躊躇なく魔界へと蹴り落された。

 慣れるしかない、と自分に言い聞かせていても、痛いものは痛い。

 蹴られた尻を撫でつつも瞼を開くと、目の前の光景に驚かされる。


「なんじゃこりゃあ」


 空からふわふわと降り注いでいるのは雪そのものだが、驚いたことにその色は白ではなく金色だった。

 恐る恐る周囲を見渡すと、一面銀世界ならぬ金世界が広がっていた。

 寒くはないが、不自然に温い風を浴びていると、ルゼがすぐ隣にいることに気が付く。


「サバカン。ぼんやりとしていると危ないですよ?」

「危ない?」


 足元を見てみると、朽ちた木製の足場ぐらいしかない。

 もしや、踏み外すな、ということか。


「はい。魔物が近づいておりますので」

「へ?」


 近くの雪原を見つめていると、何もいる気配がない。

 しかし、殺気のようなものを感じ、俺は反射的に後ずさった。

 その瞬間、空から巨大な何かが目の前に落下する。


「なっ!?」


 見えたのは――サメだった。

 人間なんざ軽く丸飲み出来るほどの巨大なサメで、その胴体には鈍色の棘が何本も生えていた。

 俺を捕らえ損ねたサメは雪の中へと潜り込むと、背びれを見せつけながらも金色の雪原を悠々と泳ぎ去って行った。


「ど、ど、どうしてサメが空から?」

「魔界のサメのジャンプ力はずば抜けておりますから」


 図鑑に書いてある一文をそのまま読み上げるかのように、ルゼは相変わらず涼しい顔で答える。


「サメはそもそも海の生き物だろうに」

「独自の進化を遂げたようです。他にも魔法を唱える個体や、炎の息を吐く個体も確認されているそうです」

「そんな無茶苦茶な……」


 サメには凶暴なイメージがあるが、先程のような凶悪な攻撃手段を持つともはや悪質なジョークを具現化したようにしか思えない。


「では、気を付けて行きましょう。今回の魔王は知名度が低く、さほど強敵ではないとのことですが、一応ご注意を」

「あ、ああ」


 俺としてはこれから殴り合いをする魔王のことよりも、またもサメが空から降ってきたらどうしようと心配しながらも、ルゼに導かれるまま黄金色の雪原を進んでいく。

 ミセリアートでは絶対に見ることの出来ない景色だが、誰も観光で期待とは思わないだろう。

 この生温い風とサメに襲われる恐怖、何よりも金色の雪の放つ光のせいで目が眩むせいか、どうにも落ち着かない。

 金貨の中で泳ぎたいという夢を持った奴が見たら幸せなのかもしれないが、少なくとも凶暴なサメと戯れる趣味がなければ心の底から楽しむことは出来やしないだろう。

 そして、道中でサメに五度ほど襲われてから、ようやく目的の場所に着いたようだ。

 眼前に見えるのは魔王の城なのだろうか、鋼色の城門に、漆黒の城壁、それに城の周囲は水堀で囲まれている。

 いや、果たして水なのだろうか?

 堀の中には毒々しい色をした液体で満たされており、枯れ木のような白い骨が何本も見え、落ちたら無事では済まないことだけは瞬時に理解できた。


「ちゃんとした城なんだな」

「まあ、これが普通なのですが」


 昨日のエディスの城は忘れるようにしておこう。


「はて、早速殴り込みに行きましょう」

「それはわかっているが、跳ね橋が上がっている。あれじゃあ城内には入れないぞ」


 城へ入るには跳ね橋を通って行かなければならないが、その橋が上がっている以上、何かしらの手段で橋を下げる必要がある。

 まさか、あの水堀を泳いで行けというとは言わないだろう。

 いや、言うかもな……。


「では、行って参ります」

「え?」


 すると、急にルゼが駆けだしてかと思いきや、高く跳躍した。

 険しい城壁をあざ笑うかのように跳び越え、あっけなく城内へと侵入してしまう。


「え、え?」


 俺が唖然としていると、ルゼが城内の仕掛けを動かしたのか、跳ね橋がゆっくりと下がり出した。

 やがて、完全に下りた跳ね橋を渡って城内へと侵入すると、ルゼが出迎えてくれた。


「やっていることが盗賊だな……」

「セキュリティを甘くしているのが悪いのです」

「あ、はい」


 はて、招かれざる客である俺達に対し、魔王はどんなおもてなしをしてくれるのだろうか。

 少なくとも、帰りにお土産を渡してくれる、そんな気前の良い奴だと助かるのだがね。

はたして、どんな敵が待ち構えているのでしょうか。

次回もまたお楽しみに。

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