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第二章「魔王に喧嘩を売るだけの楽な仕事」その2

かつての仲間ラミーグに、今のまともな職に就いているかを聞かれた主人公の言い返した言葉とは――。

「いや、まったく」

「断言して恥ずかしくないの?」


 流石のラミーグも呆れて言葉が出ないようだ。

 ラミーグとは長い付き合いだ。

 下手に理屈を捏ねるよりも真正面から率直に言うようにしている。

 そうすることで、嫌味は多少和らぐような気がする――からだ。



「で、そっちの仕事の調子はどう?」

「どうなのかしらね? 少なくとも、あんたよりはまともに稼いでいるわよ」

「そいつはよかった」


 小さく笑っていると、ラミーグが目を吊り上げてこちらを睨んでくる。


「あんたさ、それでいいの?」

「え?」

「昔のあんたはとんでもない変人よ」

「そう?」


 すると、ラミーグは無言ですたすたと歩き出す。

 どうしたのかと思ってついていくと、勇者様の足跡コーナーへと連れてこられた。

 中央には模型で作られた地図が置かれ、ラミーグはそれを指で示しながらもこう言った。


「一人で魔物共の砦を制圧し、時には自ら囮になって千もの敵相手から逃げ回ったこともあったじゃないの」


 場所を示しながら言われると、昔の懐かしい記憶が瞬時に蘇って来る。


「ああ、あったあった。いやあ、懐かしいなあ」


 しっかし、この地図はよくできているものだ。

 俺の攻撃の余波で作り上げたクレーターすらも再現している辺り無駄に完成度が高い。


「無鉄砲で、いいかげんで、能天気で――。でも、あんたは私達の勇者だった」


 ラミーグはこちらをじっと見据える。

 その目からは敵意に近いものを感じ取った。

 まあ、俺からすれば罵倒されるのは仕方ないにしろ、下げてから持ち上げられてもそんな嬉しくはないのだが。


「別に好きで勇者になった訳じゃないさ」


 俺のぼやきに対し、ラミーグはわざとらしく溜め息を零す。


「今のあんたは負け犬よ」

「負け犬?」

「そうよ。自覚がない辺りどうしようもないわね」

「犬は嫌いじゃあないんだけれどもね」


 その瞬間、ラミーグの拳が飛んでくる。

 鋭い右ストレートだ。

 そのまま俺の顎へと突き刺さる。


「痛い」

「もう少し痛がりなさいよ」


 そんなことを言われましても。

 身長差が30cm以上あるし、体重差も大きい以上、どうやっても俺を殴り倒すことはできないだろう。


「皆、時代の流れに合わせて変わろうとしている。なのに、何であんただけ、落ちぶれているのよ」

「さあね。今の時代の流れが、俺には早すぎるだけさ」

「馬鹿!」


 ラミーグはそれだけ言うと、俺に背を向ける。


「じゃあね。あんたと話していると疲れるから」

「悪かった」


 こちらの声は聞こえていないのだろう。

 ラミーグは足早に外へと向かっていった。

 当然、振り返ることもなく。

 一人取り残された俺はぼんやりとその場に立ち尽くす。


「負け犬、か」


 俺にはお似合いかもな、と思いながらも、ラミーグには申し訳なく思う。

 時代はもう勇者なんざ必要としていない。

 折角の宮殿勤めも辞めた以上、俺もきちんとした仕事をしなければならないのだが……。


「今の俺に何が出来るのだか」


 ぼそりと呟いてから、折角金を払った以上、最後に記念館を見て回る。

 一通り見た中で一番気合が入っていると思ったのはお土産屋コーナーだ。

 俺の仲間やルゼのぬいぐるみ、サブレ等が並べられている。

 特にルゼシリーズは大人気らしく、完売御礼との文字もある。

 俺のグッズは――どうやら俺の名前が刻んである木刀だけらしく、隅に置かれていた。


「あれ? 勇者の記念館じゃないの?」


 まあ、経営するためにも売れる商品を出すのは仕方ないことだ。

 記念館から外へと出ると、待っていましたとばかりにルゼが現れる。


「サバカン。お疲れ様です」

「お、おう。お疲れ」


 ルゼは手に書類バッグを持っており、どうやらエディスの調査は終わったようだ。


「しかし、あなたも注意力が落ちたといいますか」

「なんのことだ?」


 俺が首を傾げると、ルゼはわざとらしく溜息をつく。


「ラミーグにつけられていましたね」

「ああ。それ? うん、誰かにつけられているのはわかっていたさ。それで、記念館に入ったのだけれども、まさかラミーグとは思っていなかった」


 そこまで話していて、俺は気が付いた。


「というか、全部見ていたの?」

「ええ。あなたの記念館巡りを邪魔するのも可哀そうかと思いまして」

「そうかい」


 どちらかというと、ラミーグの邪魔をしたくなかったのだろう。

 そう言うと怒られるので、黙っておくことにした。


「それで、そっちの仕事は終わったんだな?」

「はい。こちらに」


 ルゼは俺に冊子を手渡す。

 ページ数は少ないものの、光沢のある高価な紙が使われている他、滑らかに文字が印刷されている点からもミセリアートでは見られない高度な印刷技術が用いられていることが何となくわかる。


「発行する冊子の見本となります」

「ゆっくりと読ませて貰おう」


 そんなわけで場所を近くの公園に移す。

 砂場に遊具、水飲み場の揃ったどこにでもある公園であり、俺達はベンチの上に腰かける。

早速本の表紙を見て、思わず眉をひそめる。


「えっと、月刊ルゼ通信?」


 表紙にはメロンを抱えたルゼの写真が載せられていた。

 まあ、いいんじゃないかなとは思うが。


「はい。色々悩んだ結果、月刊誌として刊行することになりました」

「え。この間見せてくれたような、一冊の本にまとめるんじゃないのか?」

「いえ、こちらの方が数倍儲かると踏みました」

「採算面で悩んでいたのかよ!」


 ツッコミを入れてから恐る恐る冊子を開いてみると、エディスについてざっと書かれており、彼女の健気な暮らしぶりや、アンケートを元に集めた情報、それに簡易的なインタビューまでも掲載されている。

 一日でここまで丁寧に仕上げたのかと思うと、ルゼの仕事ぶりに驚かされる。

 読み進めていくうちに、『魔王評価』という項目が目に入った。

 はて、エディスはどんな評価をされたのだろうか――。

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