序章「白羽の矢」
序章となります。
一応主人公の過去の話となりますが、興味ない方はすっ飛ばして次の話から読んでいただいても大丈夫です。
今日も僕は奇妙な時間に目を覚ます。
まだ、お日様が昇っていない時間帯で、室内にいる皆はぐっすりと眠っている。
もう一度寝直すため、僕はひたすら天井を見ながらも考え続けることにしている。
この頃は将来のことについてばかり考えていた。
誰かの役に立てるのかな。
それとも、一人で寂しく生きていくのかもしれない。
どうにかしなければと思っているものの、無力な僕ではどうすることもできない。
悲しさで泣き出そうとするも、その前にすとんと意識が飛んで行ってしまい、気が付くと起床の時間になる。
このクレイヒル孤児院に来てからどのぐらい経ったのだろうか。
未だに慣れないことばかりで、友達もいなくて、ただただ時間だけが虚しく悲しく流れていくだけだ。
楽しいことを探そうとしても、皆の話の輪にも入れず、今日も遠くから見ているだけだ。
どうせ同じ話の繰り返しなんだろう。
そう思っていると、皆の様子が違っていることに気が付く。
どうやらお客さんが来たようだ。
僕達の新しい親となってくれるかもしれない人が来てくれたのかと思ったけれども、でもそれならば猫を被ったように行儀よくしているはずだ。
気になって耳を傾けてみると、こんなことを言っていた。
「ゆうしゃを決めるんだって!」
「ゆうしゃを!? どうやって?」
……ゆうしゃって何なのだろう?
皆が玄関へと向かって行ってしまい、僕は一人ぼんやりと佇む。
一人でいる時間には慣れたけれども、それでもこの心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになってばかりだった。
ゆうしゃというのはどういったものかわからない。
でも、皆があんなに夢中になっているということはきっと凄いものに違いない。
カダヤ先生に聞こうかとも思ったけれども、先生も一緒に玄関でお客さんと話しているのだろう。
結局、僕には関係のない話だ。
期待するだけ無駄なのだと確信してから、僕は庭の方へ向かった。
お昼休みの時間や先生がお出かけしていて授業がない時、それに今のように一人でいたい時はいつも庭でぼんやりとしていた。
東屋の下にあるベンチに座って小池を眺めるのがお気に入りだ。
しかし、いつもは誰もいないはずなのに、今日だけは違っていた。
東屋の下に誰かがいる。僕の特等席だというのに。
じっと様子を伺っていると、そこには見たこともない大人の女性がいた。
その長い銀色の髪はとても神秘的で、その顔も遠くからでもわかるくらいに綺麗だった。
ドキドキとする心臓に自分でも驚きながらも、もしかしてカダヤ先生のお友達なのかもしれないと考える。
玄関にいるお客さんとは別にやって来たのかもしれない。
邪魔しちゃいけないと思って、その場から離れようとしたその時だった。
「待って」
綺麗な声に驚いて、僕はぴたりと足を止める。
「え、その……」
僕は何も出来ず、その場で固くなっていると、女性はこっちへ近づいてくる。
近づけば近づくほど、綺麗としか例えようのない人だ。
見つめられるだけで、身体が緊張のせいで石のように固まってしまう。
「あの、僕に、何の用、が?」
ぎこちなく尋ねると、女性が僕の手を取ってこんなことを口にした。
「あなたは、世界の平和のためにその身を捧げる覚悟はありますか?」
一体、この人は何を言っているのだろう?
でも、とても優しい言葉で、そしてまるでお菓子のように甘い言葉だった。
女性の質問に対して、僕は――。
初投稿になります。
慣れない事が多いので、暖かい目で見ていただければ幸いです。