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出会い

 あれから結構走っている気がする。魔物は今回ばかりは許さんと言わんばかりに執拗に追いかけてくるが、どれだけ走っても疲れない。いつからだろう?魔物の攻撃をかわしながら考え事ができるぐらいの余裕ができたのは。不思議と力があふれる。自分の体なのに、何かが違う。


 一体、僕の体に何が起こっているのだろう?箱の中に閉じ込められていた時、育ててくれた女職員が魔物指数が高い、魔物化が近いとも言っていたが。……今は現状を解決するのが先だ。魔物に追われている状況で走り続けることができる。非常にありがたい。


 何か利用できるものは無いか?……お、ちょうど目の前に積みあがった箱の山がある。


 僕はわざと足を遅くし、魔物を引き付ける。そして箱の山に着くと、くるりと魔物顔を見る。魔物はやっと僕が弱ったのだろうと目を細め、思い切り腕を振り上げた。その時を待っていた!僕は振り下ろされた腕を避け、脇の下から走ってきた方へ引き返す。


 獲物を失ったその爪先は、背後にあった箱の山に当たる。その衝撃で、箱はガラガラと音を立てて魔獣の頭上に襲い掛かった!


 どうだ?箱の崩壊にうまく巻き込まれてくれればいいが……。


「ぐぁぁああおおおお!」


 魔物の方向が聞こえる……失敗だ。ただ怒らせてしまっただけらしい。どうしたものか……おや?


 ようやく外に繋がっていると思われる穴を見つけることが出来た。風はあそこから吹いてるようだ。先ほど崩れた箱が、梯子をかけるかのように引っかかっている。あそこさえ出られれば……。崩れた山をうまく登れば手が届きそうだ。


 希望が見えてきたことで、気持ちが前向きになる。だが、その前に魔物をどうにかしないといけない。

 僕は、足元にある箱の破片を手に持ち、とびかかって来る魔物に叩きつける!


 魔物は、僕が逃げるだけで攻撃してこない、と高を括っていたようだ。不意をつき額の急所に当てることに成功する。魔物はふらふらと倒れた。

 衝撃でのびてる今のうちに、あの箱の山を登って、外に出るんだ!


 今だ、走れ!チャンスは今しかない!


 僕は、崩れた箱の上をひた走る!駆け上がる!風は目の前から流れている、出口に違いない!


 あともう少しで外に出られるというところで、ドスドスと音が響く!箱を踏みつぶしながら魔獣が僕を追いかけてくる!


 もう目覚めたのか!?急げ!急ぐんだ僕の体!!ここで逃げなければチャンスは無いんだ!!


 魔物の咆哮のあと、前方からバゴン!と太鼓をたたく音がした。どうやらジャンプで僕の上を飛び越えたらしい。目の前のそれは牙をむき出しにしてこちらをにらんでいた。


 ああ、追い抜かれてしまった!


 飛び掛かってくると身構えたが、こちらを攻撃する気配がない。その目はちらりと足元の箱を見る。目的を察していたのだろうか、仕返しだというのだろうか、その手の鋭い爪で足場を崩しにかかる。その強烈な一撃にべきべきと悲鳴を上げる。箱は壊れてしまった。


 出口は魔物の背の後ろ。足場は壊れた。万事休すか……。こうなってはどうしようもない。もはや逃げても同じだろう。ここで死ぬのか……。座り込み目をつむる。


 今までの記憶が頭の中を流れる。これが走馬灯というものだろうか?


 これから来るであろう一撃を待つ。しかし、いくら待ってもその瞬間は来なかった。


 恐る恐る目を開ける。目の前に魔物がいる。しかし全く動く気配がない。触れてみるとひやりと冷たい。毛先には霜さえついているほどだ。先ほどまで執念深く僕のことを追い続けた魔物は目の前で氷漬けになっていた。


 ……なんだこれ?何が起こったんだ?


 動揺している僕の後ろから何か呪文が聞こえる。それと同時に、氷漬けになっていた魔物がキラキラと光を放ちながら消えていく。訳が分からないが、とてもきれいな光景だ。


「君、大丈夫?」


 背後から声がした。僕がゆっくりと振り向くと、一人のヒトが立っていた。薄暗くてわかりづらいが、薄い金髪の色をしていて、その耳は少しだけ尖っている。エルフィの耳というよりは、僕を育ててくれた職員のそれだ。となると、彼女はエルナ族ということになるだろうか。


「本当に大丈夫?結構ひどいけがをしているみたいだけど。」


 傷の心配をしてくれているようで、その口調は優しかった。僕は大丈夫、回復魔法が使えるんだと伝え、自分に≪治癒≫(マギ・リカバー)をかけて見せ、感謝を伝える。


「すごいね、もう回復魔法を使えるんだ!私は白エルナ族のブラン、君の名前はなんていうのかな?」


 女性は自己紹介をし、僕の頭を撫でてくれる。少しむずかゆい。


 エルナ族!しかも、今まで見たことのない【白エルナ族】の女性だ!僕の魔法を褒めてくた、嬉しいなぁ。それにしても、エルナ族の女性がこんなところ(廃棄場)にいるのだろう?疑問に思うが、まずは彼女、ブランの質問に答えよう。


「僕のことはcodeHM(コードフュミナ)1016-BDv(ブリードバージョン)25と呼んでください。」


 創られたヒト族に名前は無い。主に名付けてもらうことで、初めて一人前になれるのだ。それまでは管理番号でをやり取りをしている。当然、失敗作として廃棄された僕にも名前はない。


「こーど?どういう意味??そういうのじゃなくて、きちんとした名前は無いの?」


 ブランは、僕のないものを聞いてくる。名前がないことをきちんと説明しないと。


「僕らは出荷され、主によって名付けられます。僕は失敗作として廃棄されました。よって名前はありません。そのため管理番号で呼び合っています。」


 僕は事実を淡々と答える。ブランは「ヒトの子供を廃棄?なにそれ、酷い……」とこぼした。


 僕、大人なんだけどなぁ……。しばらくして、名前が無いのは不便じゃない?と聞いてくるけど、先ほどの管理番号だけで事足りていたのだから問題ない。だけど、何か気になるのだろうか、ぶつぶつ呟いている。そして、何かひらめいたらしい。


「うーん。せんじゅうろく…いちまるいちろく……せいろ……は可愛くないわね。そうだ!セイル、セイルってのはどう?」


「せ……いる?え?僕の管理番号はcodeHM(コードフュミナ)1016-BDv(ブリードバージョン)25ですが?」


「名前よ、あなたの名前!無いんでしょ?」


 どうやら、ブランは僕の名前を考えてくれていたようだ。


 セイル…セイル。僕の名前はセイル。失敗作の僕には、主を得るどころか、名前など付けられることは無いだろう。それどころかこの場所で死ぬのかも、そう思っていた。そんな僕に名前が与えられた!しかも、エルナ族の女性にだ!すなわち、ブラン、いやブラン様は僕の【主】ということになる。廃棄処分された僕に主!なんと幸運なことだろう!


「名前を付けていただき、ありがとうございます!ブラン様。この僕セイルは、貴方のそばでずっとお仕えさせていただきます!この体は貴方の物です、お好きにお使いください。」


 僕の主に感謝を伝え、主への最初の挨拶を行う。そして、左手をとり口づけをする。育成所で習った通り、何度もこの日を夢見て練習していたんだ。よし、完璧に決まった。しかし、ブラン様は、顔を真っ赤にして、僕の手を振り払ってしまった。あれ?どこか間違っていた?あれれ?


「”様” 付けじゃなくて、ブランでいいわ。それに、貴方まだ子供でしょ?自分の体を好きなように使っうなんて言葉、言っちゃダメ!」


 ブラン様は腰に手を当て、怒ってますと言わんばかり。まるで子供を諭すかのような口調で僕を叱る。

 しかし、僕としても主となる女性を失うわけにはいかない。様付けは嫌いっと。頭に入れておかねば……ちょっと待って、子供と誤解されている?僕は大人だときちんと伝えておかないと。


「ブランさ…ブラン、僕は18歳になりました。もう大人なんです!子ども扱いしないでください!!」


「十分子供じゃない。」と、僕の抗議は一言で一蹴された。……え?あれ?違うの?


「魔物を倒し【浄化】したとはいえ、ここは【ゆがみ】が貯まりやすいわ。一度ここを出ましょう。」


 彼女は続けて、ここは危険だから一緒に行こうと提案してきた。


 浄化やゆがみという言葉が気になるが、ここで押し問答しても何もできないだろう。仲間の亡骸もあるし、あまり気分のいいものではない。僕は彼女の言う通りについて行くことにした。


 ブランは武器は使える?と言って腰につけていたベルトの一つを外し、僕に渡す。ベルトには白いケースに入った片手で持てる長さの棒がある。これは【魔道ナイフ】だ。棒に鍔がついただけの見た目だが、魔力を通すと青白い刃が現れる。護身用のありふれたナイフだ。この手の武器は護身術の実技で何度も使った物だ。軽く振り回してみるが、とてもよく手になじむ。しかし、このナイフを僕が持ってブランは大丈夫なのだろうか?


 ブランは、手に持っている杖を僕に向けて、呪文を唱える!


「氷よ、貫け!≪氷槍≫(マギ・アイシクル)!!」


 え?驚いている僕の真横を氷の槍は僕の真横を飛んでいく。

 グザッと音がして何かが倒れた。虎が大きくなったような魔物が氷に貫かれている。


「やっぱり、まだいるみたい。気をつけなきゃね。」


 僕に向けられた魔法かと焦ったけど、背後で狙われていたらしい。助かった。ブランは僕の頭を撫で、倒した魔物に近づいていく。そして、その体に触れ、「白神よ、哀れなそれを身元に……≪浄(マギ・ピュアラ)化≫(・ピュリファイ)」と唱える。彼女の腕から放たれた力は魔物を包み、その体を分解した。キラキラと光が天に昇って行って幻想的だ。先ほどの狼の魔物が消滅したのも、おそらくこの魔法の力だろう。もしかして、これが【浄化】なのだろうか?


 それにしても、先ほどの心配は杞憂だったらしい。魔法がメインでナイフ以外にも武器は持っているとのこと。僕はホッとすると同時に、主に守られてばかりではいけない、手に持ったナイフを握り覚悟を決める。負けてはいられない。



ブランに導かれ、何事もなく処分場の外に出ることができた。まさか、足元にダクトがあり、そこから外に出ることが出来たとは……


せっかく武器を貸してもらったのに、僕の出番は全くなかった。覚悟……。

設定:

依頼主のカスタマイズによりcodeHM1016-BDv25(セイル)の設定は、姿:少年・性格:子供になっています。

codeHM1016-BDv25は最も優秀な個体でしたが、出荷前検査で不合格となり廃棄処分になったため、予備のcodeHM1017-BDv25~codeHM1020-BDv25から、次に優秀な個体が依頼主に引き渡されました。

また、依頼主に引き渡されなかった残りの個体は、子孫を残す権利を奪われ、再教育し、労働用に回されます。

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