廃棄場の魔物
失敗作に配慮する必要はないと言わんばかりに、ガタゴトと箱は揺れる。何とか出られないかとあちこち叩いてみたが、それはビクともしない。手から血が滲みだしたところで諦める。
僕は失敗作として破棄されるのだ、魔物指数が高いという理由で。あの人たちは、一体何を考えているんだろうか。どうしてこんなことをするのか。何もかもが分からなかった。
ずっと考えていたが、答えなんて出るはずもない。ただ一つ分かっていることは、ここから出られなければ死ぬということだけ。
僕を廃棄するために、どこかでこの箱を開けるはず。その時にきっとチャンスがあるはずだ。拘束しなかったのを後悔させてやる!
キキキーと耳障りな音と共に揺れが収まる。 おそらく、【廃棄場】と呼ばれる場所に着いたのだろう。そういえば、【育成所】でともに育ったエルフィの少年が、「悪いことしたら廃棄場から化け物がやってきて食われるぞ!」って言ってたっけ。
噂の類だろうとその時の僕は思っていたけど、もしかしたら本当なのかもしれない、少し身震いをする。
しばらくすると、体が浮き上がる感覚と共に、コトンコトンと音がする。なんだ??
またピタッと止まる。そして、ギギギと突然大きな振動と共に、足元がひっくり返る!僕の体は、箱ごと宙に投げ出された!
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
思わず叫んだが、どうにかなるようなものではない。あっというまに床に叩きつけられた。
衝撃で息が詰まり、一瞬呼吸が出来なくなる。
「ぐっ……はっ……はっ……はっ……」
なんとか呼吸を整えようとするが、うまくいかない。
鼻には、何かが腐ったような嗅いだことのない嫌な臭いが入ってくる。早くここから出たかった。だが、体は思うように動かない。ぶにぶにとした感覚の中に何か固いものがある。痛い、気持ち悪い。
何とか≪治癒≫をかける。何とか動ける程度で止めることにした。使いすぎていざという時に魔法を使うだけの魔力が尽きたってのはシャレにならない。
さて、地形を把握しよう……薄暗くてよくわからない。見上げると、天井が少し壊れているのだろうか?ヒビからわずかに光が漏れている。
何かに火をつけて明かりを取ろうかと考えたが、先ほどの匂いが気になるので、いきなり火をつけるのはこわい。座学の先生が、「腐った匂いがしたときはガス漏れの可能性があります、すぐに火を止めましょう。」と言っていたしね。火事は怖いのだ。
******
しばらくして、薄暗さに目が慣れてきた。
周りを注意深く見まわすと、壊れた箱がたくさん転がっているのが見える。目の前のこれは僕が入れられていた箱だろうか?こっちには落下で壊れたもの、表面がきれいなもの、錆でぼろぼろになったもの。失敗作として廃棄された仲間がどれだけここに廃棄されたのだろう??考えたくもない。
しばらく探索していると、箱のそばで何かがうごめいているのが見えた。
「ひっ……」
小さく悲鳴を上げてしまった。うごめいていたもの……それは瀕死のヒトだった。
耳が尖っているが顔がよく見えない。腕に焼き印の跡があり、その下に潰れてはいるものの何か文字が書かれている。codeEF20…A…暗くてよく見えない。だけど声に聞き覚えがある。廃棄所の噂をしていたエルフィ族の少年だ。僕と同じように失敗作判定を受けてしまったのか。なんてことだ……。
箱に体をつぶされてしまって動けないようで、助けを求めるようにこちらを見つめてくる。
僕は彼に近づき、箱を持ち上げてみる。箱自体はあまり重くなかったので、僕一人で持ち上げることができた。手元にあった石を間に挟み、なんとか体を引っ張り出してやる。彼の顔を見ると、恐怖と苦痛に歪んでいたが、僕を見るとふっと表情が緩んだ。
「た……すけて……く……れ……ありが……とう。」
彼はかろうじて言葉を絞り出し、そのまま気を失ってしまった。
体中から血が流れ出ている。急いで≪治癒≫をかけようとして気づく。彼の腹部に切り裂かれたような大きな傷がある……もはや助からない。
少年はそのまま息を引き取った。
彼を看取り、改めて周囲を確認する。転がっている箱の中には切り裂いたような傷がある。
「これは何かが切ったような傷だ。彼と同じ……」
何がいるのかはわからないが、嫌な予感がし、急いでここから離れようとした。
「あっ……」
右足に鋭い痛みを感じた。何か固いものを踏んでいる。
踏んでいたのはヒトの骨だった。鋭い何かに切られたような跡が残っている。
「まさか、これって……」
ふと視線を下に落とすと、そこには同じような状態のヒトの頭蓋骨があった。骨だけではない、原型をとどめていないような亡骸、欠損した一部、つい最近ここで死んだであろう亡骸もあった。
嘘だろ……!
僕はその光景を見て、全身の血の気が引いていくのが分かった。股のあたりから生暖かいものが溢れ出す。
「うわああぁ!」
あまりのショックで叫び声をあげてしまう。
叫び声がまずかったのか、催したのがまずかったのか。奥からグルルルと何かが唸り声をあげた!
僕はとっさに振り向いた。間一髪で放たれた何かをよける。
「ガウウゥ!」
魔物だ!黒い狼のような姿をしているが、その大きさは見上げるほどだった。
廃棄所に化け物がいる。エルフィの彼が言っていたことは噂じゃなかった!僕は震える足を必死に動かして走り始めた。後ろからは、足音が迫ってくる。
怖い。逃げなきゃ。捕まったら殺される……本能的にそう感じた僕は無我夢中で走った。
******
「はぁはぁ」
どれくらい走っただろうか。もう走れないと思ったところで、やっと立ち止まった。……振り返ると、さっきまで追いかけてきていたはずの獣の姿はなかった。
「助かった? はあぁ……」
安堵のため息をつく。緊張が解け、僕はその場にへたり込んだ。さっきの魔物を思い出す。何だったんだろう、あの魔物は?あんなもの、見たことがない。
「とにかく、早くここを離れないと。」
まだ近くにいるかもしれない。そう思い、外へ向かう道を探す。ちょうど目の前に壁がある。壁沿いに、まっすぐ歩けば出口があるかも。足元にあった誰かの骨にごめんと謝って、壁にこすりつける。
薄暗い中わかりづらいが、なんとか目印をつると、左手を壁に沿わせ、壁伝いに歩いてみる。しばらく進むが何も見えない。
「おかしいな……」
さっきの魔物も見ていないし、他には何も見当たらない。
さらに長い時間歩いていると、壁に何かあった。目印だ……ああ、ダメだ。最初の場所に戻ってしまった。どうしようと天を仰ぐ。髪が揺れてくすぐったい……あれ?
指先に唾をつけて空を探る。壁の上から風が吹いているように感じた。
「そうだ!上に登れば外に出られるかもしれない!」
幸いにも天井は近い。このあたりの壁は傾斜があり、所々でっぱりと溝がある。握力はある方だし、なんとかいけるかもしれない。意を決して登ろうとする。
しかし、あともう少しのところで掴むものが無くなってしまった。溝に見えていたものもただの模様のようだ。悔しくて涙が出てくる。
「あと少しなのに……助けて……」
助けるものはいないとわかっていながらも呟いてしまう。
ゆっくり降りようとして、手が滑ってしまった!万歳をしたような体制で滑り落ちる。
僕がつかれるまで待っていたのだろう、足元にさっきの魔物がいたらしい。滑り落ちた僕の体が鼻先に当たったのだろうか、ギャフ!!と悲鳴を上げたあと、鼻を腕でさすっている。これはまずい!
痛みで怒り狂う魔物が僕にとびかかってきた!慌ててかわそうとしたが、腕を引っ掻かれてしまった!かなり痛い!ぐっと声が漏れるが、すぐに体勢を立て直す。あの時の焼き印に比べたら大したことない。だが、このままではやられてしまう。何とかしないと。
でも、どうやって? 考えろ、考えるんだ。どうにかしてこの場を切り抜けなければ。せめて何か武器があれば……そうだ、魔法だ。武器が無くても、僕には魔法がある!
なんで忘れていたのだろう?魔物の爪をかわしながら、魔法の詠唱をする。
「魔力よ、僕に力を! ≪魔弾≫!」
僕の手から魔力で出来た弾がが飛び出す。だが、それは相手に届く前に弾かれてしまった。
「どうして……」
何度も試すが、結果は同じだった。こちらの魔法は効果がない。魔物はしつこく襲い掛かってくる。絶望的だ。だけど、僕は死にたくない。逃げるしかない。だけどどこに?……いや考えるな!逃げ続けろ!