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散りぬれば のちはあくたに

 

  散りぬれば のちはあ()()() なる花を

  思()知らずも まど()蝶かな



 どうせ散ってしまったら、と厭世えんせい的な詠い出し。読み手を引き込む、この手腕。僧正そうじょう遍昭へんじょうのお人柄はさておいて、溜息の出るような完成度だと思いませんか。


 この名前で、嫌な予感がしてしまう?


 良い歌だと調べたら、作者が彼だった時よりはマシでしょう。目にとまるのは優れているから。そして、女性受けも良いのでしょうね。くちおしいです。


 という訳で、僧侶っぽいものを探してみました。


 まずは直訳してみます。『散り落ちた後は、ああ、これは()()()という花だ。そうとも知らずに飛び交う蝶よ』と、何となくおかしな感じになりました。お気付きでしょうか。これは強者揃い『物の名』ジャンルの短歌です。


 残念ながら、今となっては名詞の「くたに」は夏の花としか分かりません。リンドウや、ボタンだったと言われています。それを、感嘆に取るしかなかった「あ」と繋げて「あくたに」として訳してみましょう。


 すると『散り落ちた後は、くずとなる花を、そうとも知らずに飛び交う蝶よ』になりました。


 もう少し、やわらかくするなら『散ってしまえば塵となる花を、知るよしもなく迷う蝶だ』と、花の儚さや、蝶の虚しい様を歌っていることが分かります。


 お坊さんらしいですね。


 この世に永遠はないという、仏教思想のひとつになります。諸行無常の響きあり、と言えば平家物語の冒頭ですが、この短歌は同じ意味合いを持っているのです。

 

 

 

―――――――――――――――深読み篇

 

 

 

 古今和歌集 巻第十 物の名

 くたに 僧正遍昭


  散りぬれば のちはあくたに なる花を

  思()知らずも まど()蝶かな



 見た目の文字に、惑わされてはいけません。裏を返して深読みするコツは、まず音にする事です。


 ちりぬれば、これを、塵ぬれば、と当て変えます。「散り」のままにしない理由は、短歌のタイトルに注目です。くたに、とは花です。そして、あくたに、と転じます。あくたは漢字で芥となって、ゴミという意味です。


 そうなると塵芥ちりあくたとして、二文字でゴミの意味にしたくなります。


 塵芥ちんがいという古語の記録は、平家物語に登場しています。ちりという字は「じん」と読めば仏教用語。因みに煩悩を意味します。


 であれば結局、そっち方面なのだと納得です。


 高潔さをアピールしたいお偉いさんと、子どもに男女の営みを教えたくない大人達の忖度そんたくにより、短歌の花は「梅」と教わる事が多いと聞きます。


 梅なら同じ二文字ですから、ちゃんと梅と詠みました。桜だって愛でています。何か分からない「花」は、フラワーの意味を持っていないのです。


 では、軽く訳をあてていきましょう。『煩悩にゆるみ、後になると飽きて他に馴染む花というものを、知りもせずに迷うと言うのか』これが第一案。あくたを「飽く他」と取りました。


 蝶は「てふ」として『言う』と訳す説が有力です。


 蝶のままだと『男ごごろ』なんて、取り方もありますね。そうなってしまうと、塵芥ってどんな男の事を言ったのかしら、と頬が引きつる第二案。


 どちらを取るかはお好みで、上の句は『衝動のままに求めても、やがては飽きる男のさがを』と、いたしましょう。はい、塵芥。


 下の句は第一案で『知りもしないで、悩むと言うのか』と、男性に詠んだ事を思わせます。そういう励まし方は、やめてあげて。シャレにならない。


 第二案だと『知るよしもない、悲しい男であることよ』と、不貞でもバレたかのような言い訳に。


 諸行無常の響きあり…………

 

 

 

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