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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『ギルガメッシュ叙事詩』 洪水物語 篇
39/51

038タンガンロンパ

「英雄王ギルガメッシュ」

 わたしはウトナピシュティムであることをやめ、ティンカーを追ってこの世界にやってきたリオルガーとして問いかけた。

「最後にひとつだけ、教えてほしい。今から稚拙で馬鹿げた夢物語の話をする」

 その目を見据え、まっすぐに対峙する。

「ふむ……良かろう。我は今気分が良い。どのような愚問であっても忌憚なく、我の心の内を話してやろう。お前もそれを望んでいるのであろう」

 そう言って彼は優しく微笑みかける。

 やはりわたしは誤解していた。ああ、きっと彼は民にもこうやって優しく笑いかけていたのだろう。

 そうでなければ民を慈しむような言葉は出てこないはずだ。

 それなら。

 わたしの心の奥にずっと引っかかっている晴れない霧を吹き飛ばす一閃を、出せない答えに対する解を以って打ち払ってほしい。

「わたしは物語の進行を阻害する『ティンカー』を取り除き、物語を正しくあるべき姿に戻すために行動する『リオルガー』という役割を担っている」

「え!? シ、シショー……?」

 マナちゃんが何言ってるんだこいつみたいな驚愕の眼差しでこちらを見つめる。

 構うものか。わたしは言葉を続ける。

「物語はあるべき姿に。それこそがわたしの行動原理であり、指標だった」

 ギルガメッシュは何も言わず、ただ静かに頷く。

「でも、ノアの方舟の物語でマナちゃんが言った言葉がずっと引っかかっているんだ」

「……え?」

「『何事もなく平和が訪れたこの物語は間違っていて、洪水によって人間が滅びる物語こそが正しいんだって言われても、納得できない』ってのは、その通りだなって。そうやって別の幸せな運命をたどるのかもしれない多くの人々の命を奪っておいて、それが正しい物語のシナリオだから仕方ないって言うことが正解なのかなって」

「…………」

 笑うことも否定することもなく、何も語らず、ギルガメッシュはわたしの言葉を待つ。

「ティンカーによって別の物語が生まれて、幸せな別の道筋が生まれたのに、それを壊して。まるでリオルガーこそが侵略者であり、運命改変論者みたいにやってきて」

 ああ、ぶどう酒のせいなのかもしれない。こんな馬鹿なことを言い出しているのは。自分の存在を否定するようなことを言っているのは。

「だから、教えてください」

 わたしは、わたしを演じることにも疲れてしまったのだろうか。

「物語に『ティンカー』は必要ですか?」


「――凄いですよ、差し止め判が一気に解かれていったんですって」

 ソファーにゆりかごモードのまま寝そべるコーハイが、気だるげな声で言う。

「お前、それは結構なテンションで喋ってる口調じゃないのかよ……」

「ええ~、差し止め判の消えた本を本棚に戻すのにどんだけ頑張ったと思ってるんですか。ご褒美くらいくれたって良いじゃないですかぁ」

「それがお前の仕事だろ」

「ぐうの音も出ない正論です」

 書斎に戻ったわたし達はあれからギルガメッシュ叙事詩、及び旧約聖書のノアの方舟、そしてそれらに影響を受けて描かれた物語を調べていき、差し止め判が消えていることを改めて確認した。

 コーハイは相変わらずソファーの上で横になっている。

 マナちゃんはメイド服に着替えてあちこちを掃除している。

「お前も少しはマナちゃんを見習えよ」

「何言ってるんです。こうやってソファーの上にいることで掃除の邪魔をしないという立派な手伝いを果たしているんですから」

「マナちゃんに全部まるっとお任せッス!」

 いや、少しは他の人にもお任せして良いんだよ。

「えーっと、今日のパンツは何色かなっと」

「ひゃあっ! えっちなのはいけないと思いますッス! 」

 くそっ、このネタのためだけに着替えていたのか! 最後まで手を抜かない子だなぁ。

「そういえば、二人ともすごく晴れやかな顔で戻ってきましたが、何か良いことあったんですか?」

 コーハイの問いかけに、マナちゃんは満面の笑顔で応える。

「マナちゃんはシショーの行動に感服ッスよ」

「そりゃあ良かった」

 わたしも自分の行いに後悔はない。

 あの後、わたしの問いかけに対してギルガメッシュはなんと応えたのか――


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