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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
32/51

031ハッピーシショーライフ

 セムの家を後にしたわたし達にとって、ここで果たすべきことは全てやり遂げた。

「あとは戻るだけッスか?」

「そうだね。そうだ、最後に。さっきマナちゃんが何か言いたそうだったのは何だった?」

「ふぇ? えっと、いつの話ッスか」

「セムの家に向かうときに、ノアが話しかけてくる前に話してたでしょ。物語をあるべき姿にって。そのときの様子が少し気になったから」

「ああ、あの時の。……シショーの気を引こうと思わせぶりな態度を取っただけッス」

「本当にそれだけなら嬉しいんだけどね」

「…………え?」

「……じー」

「なっ? なっ?」

「じーっ……」

「あううぅぅ……」

 面白いくらいに狼狽えている。

 いつもはこっちが振り回されているので、なんだか新鮮な気分だ。

「マナちゃんが目を合わせようとしない時は何か気を遣ってる時だからね」

「バレてるッスか!?」

「それなりに長く一緒に居るからね」

「シショーの理念に反することかもしれないんで、言わなくてもいいかなって思ってたッス」

「そんな風に気を遣われた方が逆に気になっちゃうから、言ってくれたほうが助かるよ。何をどう思ったの?」

 しばらく言い渋っていた様子のマナちゃんだが、観念したのかひそめていた眉を戻し、いつもの顔に戻ってこちらを見返す。

「物語はあるべき姿に。これがリオルガーの基本原則であるって考え方はその通りッス。だけどそれって、今居るこの世界を否定していることになるッス。何事もなく平和が訪れたこの物語は間違っていて、洪水によって人間が滅びる物語こそが正しいんだって言われても、納得できないッス」

「マナちゃん……」

 やはり。

 同じような疑問を持っていたか。

「マナちゃんにはこの世界を否定することはできないッス。やっぱり物語はハッピーエンドで終わる方が嬉しいッス」

 もしもわたし達が、ただの一読者であれば。

 物語について、外野からあれこれ文句を言っていればいいだけの存在であったならば、それはどれほど幸せだったか。

 しかし、そうではない。『リオルガー』という立場である以上、その先に踏み込まねばならない。

「わたし達はティンカーによって改変されてしまった物語をあるべき姿に戻すリオルガーだ。やはり間違っている物語は正さなくちゃいけない」

「そう、ッスね。それがリオルガーの果たすべき役割ってことになるんスね」

 とても悲しそうな表情を浮かべながらマナちゃんが呟く。

「それなら早く戻って、そのティンカーを見つけ出すッス!」

 かぶりを振って気持ちを新たに、マナちゃんが力強く応える。

「本当に良いのか? 村に立ち寄ってカベルネ達に会いに行くくらいの余裕はあるけど」

「ん~、下手に名残惜しくなっちゃってもいけないッスから……って、会いたいのはシショーの方なんじゃないッスか~?」

「ハハハ、ま、まさかそんなことはないよ……」

「じゃあシショーなんで目を背けてるんスか!」

「さ、さあ、それじゃあ戻ろうか!」

 いつもの調子に戻ったの、かな……。

 ともかく、早くティンカーを見つけ出して物語を修正しなければいけない。

 わたしは荷物から『本』を取り出す。

 栞を抜けば、いつもの書斎に戻ることになる。

 そして訪れたこの世界はきっと、ティンカーの消滅とともに物語も幕を下ろすこととなる。そうなければ二度と訪れることは出来ない。ティンカーによって生じた物語は、ティンカーとともに消えてしまうのだ。

「じゃあ、いくよ」

「はいッス! ……フォーエバーノアちゃん。フォーエバーマイ・フェイバリット・エルたそ……」

「結局それに落ち着いたんだ……よっ、と」

 勢いよく栞を抜き取る。

 すると不思議な空間に包まれて、わたし達は再び空間転移の旅に向かうのだ。

「――どうやって書斎まで、もどってきたのかおぼえては、おらぬッス。気づいたときわたしは……わたしは……魔王ム」

「マナちゃん不穏なナレーションはやめて」

「……でーでっでっでー……」

 最後まで不真面目なやり取りをしながら、わたしたちはこの物語を後にした。


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