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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
3/51

002この物語には問題がある

「ところでその格好は何だ」

 改めてコーハイに視線を向ける。彼女の格好はまるで書斎には似つかわしくない。白いローブのような服の上に全身を黒に近い藍色のチュニックで身を包み、その出で立ちはまさしく修道女のようだ。

 彼女の銀髪はフード部分に隠れているが、ちらりと覗かせる前髪と顔の色白さが服の濃淡をより一層目立たせている。

 本来なら足元を引きずるような裾は膝上までたくし上げられ、後ろで尻尾のように結ばれていて聖職者の雰囲気はかけらもない。

 これはこれでエ……いや、い……コホン、退廃的だ。けしからん。

「え? もっと短い方がお好みで?」

「誰もそんなこと言ってない。なんでそんなシスターみたいな格好なのかを尋ねているんだ」

「へへ~、可愛いでしょう。マナちゃんが用意してくれました。ほら、こうして洋書を持つだけでお手軽懺悔室の出来上がり。……えっと、コホン。アーメン、汝の罪を許し給えー」

「七つの大罪の権化みたいな奴が何言ってんだ」

「いやー、でも聖職者なんてどこも煩悩の塊みたいなやつばっかですよ。生臭坊主然り、悪徳神父然り。他人の不幸話聞いてほくそ笑んでるだけーみたいな」

「今すぐ寺社仏閣教会その他諸々に謝れ」

「それにほら、この本棚って図書館みたいじゃないですか。やっぱり修道服が一番似合うんじゃないかなーって思うわけですよ。パイセン、わかりません!?」

 書斎机奥の本棚まで移動して、机をバンバン叩きながら力説する彼女だが、何が言いたいのかまるでわからない。図書館と修道服が何だというのか。

「……どういう、ことだ?」

 わたしが首をひねっていると、袖がくいくい引っ張られる。そちらに目をやると、まるで西洋人形のような全身ゴスロリ衣装のマナちゃんが無表情にこちらを見つめている。

「図書館といえば、目録……。つまり、インデックス……」

「それ以上いけない」

 コーハイはテンションが上がるとヤバイ発言が飛び出すのだが、この子は素のテンションで危険な発言を繰り出してくる。一向に気が抜けない。

「まあコーハイちゃんから滲み出る可愛さは隠せないですけど、マナちゃんもとっても可愛いでしょう。ゴスロリマナちゃんは犯罪級の可愛さですよパイセン!」

 普通こういうキャラって自分の容姿を卑下したりすると思うのだが、こいつは自己評価がかなり高いのだ。可愛くないかと言われたら、まぁ、うん、悪くはないけど。よくある喋ると残念な娘だな。

 そんな残念娘がビシッと指先を伸ばした先、照れた様子で佇むマナちゃんが一歩下がりスカートの端をちょんとつまんではにかむ。

 コスプレ衣装を用意するのが彼女の趣味であり、気がつくとコスプレ会場になっていることがある。クローゼットもないこの部屋のどこに服を隠し持っているのかとか、そんな細かいことを気にしては負けなのだ。

 まさしく彼女は大和撫子七変化……純西洋風衣装だけど。。

 全身ヒラヒラフリフリの衣装はなかなかこの書斎に似合っている。ソファに座らせたら本当に人形と見間違うほどだ。

 本来ならもっとテンションの高い元気っ子なのだが、衣装もあってか落ち着いた様子で淑女を演じているのだろう。思わず頭をなでてしまう。よーしよし。

「んなっ」

「えへへー」

「マナちゃんばっかりズルいー。ちゃんとコーハイちゃんにも優しくしてくださいよ」

「真面目に仕事をこなして変態的な発言を控えるなら考えてやらんこともない」

「あー、それはちょっと難しいですね」

「ちょっとは努力しろよ……」

「あそこに山積みしてる本が全部問題アリなんですけど、面倒で放置してますから」

「なっ……もっと早く言えよこのバカ!」

「その言葉が聞きたかった」

「詰られて喜ぶんじゃないよ。ああもう、ちょっと見せてみろ」

 わたしはコーハイが示す本の山を見る。それらの本には表紙に『差し止め』の判が押されている。これがいわゆる問題アリの証拠である。判といっても押印されたものではなく、シールがペタッと貼られているような状態だ。とはいえ剥がしたり出来ず、最初からそういうデザインの表紙にしか見えないほどぴったりくっついている。

 え、ちょっと待って。これ全部そうなのか? そりゃ本棚から取り出されて長期間戻されてないのなら何かしらの問題が見つかったと考えるのが自然か……。蔵書管理は基本的に任せっきりだったので強くは言えないが、これは思った以上に骨の折れる作業量である。


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