027楽園のテンペスト
空全体を閃光が駆け抜け、視界は真っ白になり目を開けていられないほど眩い光が降り注ぐ。
風が吹きす荒び、空が雲に覆われていくような音がする。徐々に瞼の裏からでも閃光が収まった様子が伺えて、ゆっくりと目を開く。
前方には暗雲が渦を巻き、竜巻のような形となり生物のように蠢いている。天から地まで障壁のように連なり、追い風となって少しずつ近づいてくるような感覚に陥る。
「お、おいっ、なんだよありゃ!」
「くっ、すごい風だ……このまま引き寄せられてしまいそうだ」
「きゃあっ」
ウーウァが風に足を取られ、その場で転んでしまう。
「たたでさえ小さな体格なのに、その上ドジっ子属性持ちならこれはもう必然ッスね。よいしょっと」
そう言ってマナちゃんはウーウァを人形のように抱きかかえる。フードが風に舞って頭部を隠しているが、おそらくご満悦な表情をしているのだろう。
「これって、父さんの予言となにか関係があるのか!?」
「えー、ちょっとせっかくのヘアスタイルが崩れるじゃない。止めるように言ってよ」
「フィークス、そんな軽いノリでなんとかなる話じゃないって!」
真剣な男性陣とは対照的に女性陣は肝が座っているというか、昔から女性の方が強いのだということを伺わせる。
風が強く、目を開けるのもやっとの状態だが、これから世界が終わると言われても納得の光景である。未だに雨は降り出していないが、この空ではいつ雨音が聞こえてきてもおかしくない。
耳をつんざく風の音が少しずつ勢いを増していく。
そして巨大な竜巻の向こうに潜んでいた影がちらつき始める。今まさに産声をあげた赤子のごとく、金切り声が響き渡る。
耳をふさいでもその音は続き、徐々に低い唸り声へと変わっていく。
「あ、あ、……なんだ、ありゃ……」
僅かに漏れ聞こえた声に呼応して視線を動かすと、そこには空まで届きそうな巨大な人影がその場で立ち尽くしていた。
「きょ、巨人……?」
「なんスかあれ、もしかして進撃してくるやつッスか!? それとも多元宇宙捕食者ッスか!? いや、ネルフ襲ってくるやつが一番可能性高いッスかね」
「微妙に元ネタがわからないモノが入ってきたね」
「二番目のやつッスか? エルたそ~ってやつッスね。あ、しまった。これ三番目もエルたそ~って言えるッスね」
「緊迫した状況なのに、緊張感のないやり取りだなぁ……」
「あの……お二人ともいつも通りで、少しだけ恐怖心が和らいでいます」
マナちゃんに捕食されているウーウァは小さな声でつぶやく。
こんな馬鹿なやり取りに意味があるのなら、それはなりよりだ。
「おいっ、来るぞ!」
セムの叫び声が聞こえる。同時に、世界を覆う影が動き出し、障壁となった竜巻の向こう側から影の実体がゆっくりと姿を見せる。それは黒い影のままで何も見えないが、風の轟音とともに着実に前進している。
「これが……神様なのか……?」
風の響く向こう側、暗雲の先、大いなる存在。
これが神様でなければなんであろうか。