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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
27/51

026這いよれないマナちゃん

 翌日。

 ノアの方舟神話、最終日である。

 地を裂く咆哮に天を覆う雨雲、鳴り響く雷音で世界は終焉を迎えるという様相を呈することは全く無く、極めて穏やかでありふれた日常の目覚めであった。

「流石にいきなり世界が終了なんてことは、ないか。ほらマナちゃん、朝だよ」

「う~ん……」

 干し草のベッドで眠る彼女はあまり寝起きがよろしくない。

 普段は構わないのだが、こういう大事なときにはちょっと困る。

 だが、そんなときの裏技がある。

「起きなさい。起きなさい、わたしの可愛いマナちゃん。今日はとても大切な日」

「はっ!?」

 勢いよく飛び起きる。パッチリ大きな瞳も見開いている。

「これからお城に行ってしょぼい装備と端金を貰いに行くんスね! マナちゃんはセクシーギャルの遊び人でお願いするッス。後でお役に立つッス!」

「多分武闘家だろうね。性格は正直者か、いや、へこたれないかな」

「うーん、ハズレじゃないからリセマラ終了ッスね」

 特に意味のないやり取りだが、これで朝の目覚めはバッチリなので意味はあるのか、これ。

「今の所変わった様子は無いみたいだ」

「そう言えば二人とも、昨日から戻ってないみたいッスね」

 家の中の様子を見ると、確かにハム夫妻が帰ってきた跡はない。

「ただのよく晴れた普通の空って感じッス」

 窓穴から外を覗くといつも通りの光景が広がっていた。牧草を食べる羊に上空を旋回するあのワタリガラス、澄み渡る青空。

「天変地異が起きると動物たちが敏感に反応するって言うし、まだ何も起きていないんだろうな」

「そうッスねー……」

 強いていうならいつもより少しだけ風が吹いている程度だ。

「でも少し、この風、泣いています……って言う流れッスか!?」

「今日はもう少し大人しくしてくれると助かるかなー」

 シリアスシーンに突入する展開だから。多分。

 外に出てみても様子は変わらない。

 穏やかな日常が広がっている。

 と、遠方でかすかに声が聞こえてきて、周囲を見渡すとハムとフィークスがこちらに向かって呼びかけている。

「何かジェスチャーしてるみたいッスね。なになに、えーっと、『ゆ・う・べ・は・お・た・の・し・み・で・し・た・ね』やだもー何言ってんスかー」

「絶対違うだろ。手招きしてるし、あっちに下りていった方が良いみたいだな」

 急いで二人の元に走って向かう。

「ちょっとぉ、おっそ~い」

「まあまあ、結構距離があるんだからこれでも早く来てくれた方だよ」

 わたしが肩を揺らし息を整えている間にもフィークスの容赦ない文句は続く。

 マナちゃんは息を切らす事なくケロッとしている。改めて言うがわたしの体力がないんじゃなくて彼女が体力お化けなだけなんだからね!

「どーしたんスか? あ、昨日は家族水入らずで楽しかったッスか?」

「久しぶりにみんなが集まって楽しかったよ。全員揃ったのは神託を授かった時だから、もう何ヶ月も前のことだし――って、そんな話をしたいんじゃなくて!」

「ノアパパが居なくなったの」

「はぁっ!?」

「朝起きたら父だけが居なくなっていて、他には何も変わったところはないんですけど。手分けして探そうということになり、とりあえず自分達の家にやって来てないかと思って戻ろうとしていたんです」

「その様子じゃウチにも来てないっぽいわね」

 フィークスは大きくため息を吐いた。

 彼女たちはノアから何か聞いたのだろうか。確かめたいが、下手なことを言うと不審がられるし、何よりまずノア自身が黙っているようにと言っていたのだからあえて口にしないほうが良いだろう。

「我々も手伝いますよ」

「そう言ってもらえると助かります。とりあえずあの丘に集まろうという話になっているので、まずはあそこへ」

「わかりました」

 二人の後について、最初にノアと出会った丘に向かって歩いていく。

「まさか一人でどうにかしようと考えてるんスかねー?」

「神様に懇願とか? そんなことが可能なのかな」

「もしくは本当に一人で逃げちゃったとかッスか?」

「最低すぎる……。それは無いと信じたいけどな。ただでさえ人類の開祖があんな子供ってだけで落胆したのに」

「逃げるにしたって、どうやって逃げるのかって感じッスけど」

「そうなんだよなぁ……。ま、何にせよまずはノアを見つけ出さないと」

 村を通り抜け、小高い丘へと向かう。

 道中も特に変わった様子はなく、なだらかな斜面が続く道を息を切らせて上っていく。

 村への聞き込みはすでに終わっているらしく、やはりノアの姿は誰も見ていないとのこと。

「あそこにいるのは……ウーウァだ」

「マイ・フェイバリット・エルたそッスね!」

「なんかごっちゃになってるぞ、それ」

 丘の上にはすでにウーウァやセム達の姿もあった。

「抱きつくのは後で」

「ぐっ……」

 先にマナちゃんを牽制しておく。

 露骨にほっと胸をなでおろすウーウァ。もしかして、そんなにトラウマになってるのか。

「やはり居なかったのか」

「期待はしていなかったけどね。さて、これからどうやって手分けして探す?」

 ハムとセムがテキパキとやり取りを始める。兄弟なだけあって次々と意見の齟齬もなくスムーズに話が進んでいく。

 わたし達も含めて他の者はそれを黙って見ているだけだ。

 その刹那。

 空から轟音が響き渡る。


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