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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
25/51

024明日のあさいち

「シショー?」

 わたしは何も言えずにいた。

 神様が大洪水を引き起こすから、自分とその家族だけが生き延びるように船を作り、動植物とともに乗り込めば良い。他の人間達は滅んでしまうが仕方ない。

 そんなことを言って納得するような彼らだろうか。ハムやウーウァの性格からいって、自分だけが助かれば良いとは思わないだろう。説明したところで納得してもらえるとも思えない。

 ここから物語を正しく導くことなど、わたしにはできない。

 いや、もしかしたらやりたくないのかもしれない。はは、これじゃ『リオルガー』として失格だな。

 もしかして、ノアも同じことを思ったりしたんだろうか。

 自分たちだけが助かるくらいなら、ともに滅びの道に向かってしまえばいいと。そんなノアの強い想いが予言を忘れさせてしまった。それこそが『ティンカー』の正体だったという感動的な物語だったのかもしれない。

「なんか大洪水が起きて、世界滅んじゃうらしいッス」

「はあ? 俺達だけでも早く逃げなきゃマズいだろそれ! 許せ息子達!」

 違った。むしろクズ親だった。感動的なシーンなど存在しない残念な物語がここにあった。

 しまったな、マナちゃんさっきの話聞こえてなかったんだっけ。とはいえ話しちゃったなら仕方がない。

「お前それでも善き人間なのか……」

「なっ、なんだよ! 人間滅んじゃうんだろ、せめて俺だけでも生き残らなきゃいけないってそういう話だろ!」

「そうだけどさ。うん」

「正直なところ、今の話を聞いても予言の内容はさっぱり思い出せない。しかし動物を集めろという命令を出したということは、おそらく本当の話なんだな」

「ああ。ところで時間がないと言っていたが、それはつまり二月十七日が近いということなんだな?」

「……あした」

「ん?」

「二月十七日って、よく考えたら明日じゃなかったかなーって」

「マジで」

「マジマジ。大マジ。てへっ」

 片目ウインクに舌出しルックで子供っぽさをアピール。

「いたずらがバレたときの子供みたいで可愛いッス」

「そんな軽いノリで許される内容じゃないだろ!? え? 明日って、ちょっと待て。方舟なんて作る余裕まるで無いじゃないか」

「あらー、これは人類絶滅フラグ立っちゃったッスねー。大洪水が起きちゃったら、生き延びるのはイカとかタコになるんスかね」

「あの悪魔どもが蔓延る世界など想像もしたくないわ」

「美味しーッスよ」

「食ったのか!?」

「マナちゃん、ここではタコは悪魔の生き物とされて忌み嫌われてるんだよ。我々で言えばゴキブリみたいなもんだ」

「ゴキブリより紙魚とかチャタテムシの方が怖いッス」

「そいつらは紙を食べるからね、ってそんなことは今はどうでもいいから! 話を戻すと、明日までにできることを考えた方が建設的だな。舟は作れないにしても、何かできることはないのか」

 顎に手を当て考える。

「明日死んでしまうなら、何をしたってムダになるんだがな」

「なるようになるってことッスね」

 二人して顔を見合わせ、息ぴったりに「ねー」と声を揃える。

「なんて楽観的な二人なんだ……」

 真面目に考える自分がバカみたいじゃないか。

「ひとつだけ約束してくれないか」

 ノアが声のトーンを落とし、真剣な表情をしている。

「息子達には何も言わないでほしい。勝手なことかもしれないが、たとえ明日本当に世界が滅んでしまうとしても、最後まで日常を過ごすことが一番の幸せなのではないかというのが持論だ。お前たちは逃げるなり好きにしてくれ。むしろこの世界に我々が生きていた証を伝えるメッセンジャーとして生き延びてくれ」

「やだ、ノアちゃんが格好いいッス」

「何とも都合のいい話だけど、良いよ。お前がそれでいいのなら、誰にも何も言わない」

「さて、それじゃ早く帰らないとな」

「どうしたんスか?」

「何って、最後の晩餐だろ。息子達にボケ老人と思われたまま死んでたまるか」

 そう言ってニヤリと笑う。子供のような、無邪気な笑顔だ。

「お前達、ハムのところに戻ったらセムの家に来るように伝えてくれ」

「わかった」

「ああ~、最後にラブリーマナちゃんの温もりをたっぷり味わうッス~!」

「わっ、にゃっ、もがががっ」

 マナちゃんは猫が飛びかかるように思いっきりノアに抱きつく。ノアの頬を擦りきれんばかりに頬ずりしている。

「わたし達も邪魔しちゃ悪いな。マナちゃん、ほどほどにしてハムのところに戻るよ」

「りょーかいッス! ああ~猫っ可愛がり~」

「だから預言者だぞっ! 偉いんだぞっ!」


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