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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
20/51

019彼女がフラグをおったなら

「マイ・フェイバリット・エンジェルウーウァちゃんッス~~~!!」

「ひえっ!? ご、ごめんなさいっ」

「あーもーっ、なんで逃げるッスか!」

「マナちゃんはイナゴの襲来みたいなものなんだよ、きっと」

 畑の天敵。

「キャッチャーインザライキャッチャーインザライキャッチャーインザライ――つーかまえたッス」

「ライ麦畑でつかまえてごっこをやり遂げた!?」

「ごめんなさいごめんなさい……あ、マナさんとシショーさんでしたか。す、すいません取り乱してしまって。突然叫び声のようなものが聞こえてきたので、怖くなって逃げてしまいました」

 叫び声の犯人に抱きかかえられたまま、ウーウァは冷静さを取り戻す。

「えっと、お二人とも今日はどうされましたか?」

「ウーウァちゃんに会いに来たッス!」

「マナちゃんはそうだろうね。あのさ、今ハムとフィークスのところで動物集めの手伝いをしているんだけど、この辺で変わった動物は出たりするかな?」

「まあ! あのお二人のところに。そうですね、畑荒らしなんかはいますよ。正直、そんな害獣はいなくなってほしいものですけどそういうわけにもいかないんですよね。ハム様はすべての動物を集めていらっしゃるとか」

「なんスかなんスか、ウーウァちゃんはやっぱり自愛に満ちた天使じゃないッスか~」

「い、いえっそんな……。あ、お二人とも無事にノア様には会えたんですね」

「ラブリーノアちゃんの名前に違わぬラブリーっぷりだったッスよ」

「それは勝手にそう呼んでるだけだよね。うん、無事に会えた」

「そう、ですか。あの、様子はどうでしたか?」

「たっぷり可愛かったッス!」

「そういうことじゃないんだよね。何か思い当たる節でもあるのかい」

「ノア様は私のところにもやってきて、食料を集め、植物の種も保管しておくようにと命じられました。ですが、理由を聞いてもはぐらかすだけで何も教えてもらえませんでした。きっと周囲には言えないような予言を授かったのだと思い、言われたままに行動しているんですが……」

「ハム達も理由は聞かされず、突然動物を集めろと言われたみたいだしな」

「知らないのは私だけではないんですね。少し安心しましたが、それでも理由がわからないのは困りものですね」

「気になるッスか?」

「そうですね、せめて自分の息子にくらい――え? なんですか?」

 マナちゃんが後ろから小声で耳打ちする。

 少し首を傾げた後、ウーウァが続ける。

「わ、私、きになります!」

「やっぱり天使ッスーーー!! 何エルッスか!? ミカエル? ウリエル? ザドキエルくらいの階級にはいても良いッスね」

「ひゃあっ!?」

 自分で言わせてる時点でわかってるよね。ひどいマッチポンプだ。

「そんなに気になるなら、自分で聞いてみたら良いじゃないッスか」

「でもそれは流石に」

「ほら、あそこでじーっとこっち見てるッスよ」

「えっ!?」

「なっ!?」

 マナちゃんが指差す方を見ると、巨大な木の幹に隠れてひょっこりと顔を出す子供の姿があった――間違いない、ノアだ。

 指摘されたノアの方も動揺を隠せていない。

「な、なんでっ」

「ふふふ、マナちゃんのラブリーセンサーを侮ってはいけないッス。ここ最近ずっと隠れてシショーを見ていたことは全部全てまるっとお見通しッスよ!」

「そ、そんな……」

「じゃあ、感じていた視線ってノアのことだったのか!?」

「その通りッス」

「あれ? じゃああのワタリガラスってのは……」

「ギクッ」

 思いっきり顔を背けられる。

 もしかしてただからかわれただけなのでは。

「え、えーっと、そう。今日ここまでやってきて、それでも一緒に隠れてるってことで、疑惑が確信に変わったんス!」

「なるほど、それなら納得できる……のか?」

「それよりも、いいんスか? ノアちゃんに話を聞かなくて」

「そうだった! おいノ――」

 一歩近づいた途端、目にも留まらぬ速度でノアは姿を消した。

「くそっ、逃げられたか。なんて素早さだ」

「メタルスライム並みの逃げ足ッスね」

「やはり家族にも話せないような重大な予言なんでしょうね。仕方ありません、無理強いも良くないですし本人が話してくれるまで待つべきなんでしょう」

「なんて大人で立派な対応ッ……摩擦熱で頭が擦り切れるくらい撫でて良いッスか」

「やめなさい」

 ウーウァが声も出せずに本気で怯えてる。泣き顔が似合う少女グランプリがあれば三冠くらい取れるんじゃないかこの子。

「……結局何しに来たんだっけ」

「フラグの回収ッス」

「フラグ言うな。あまり迷惑もかけられないし、そろそろ戻ろうか」

「……? あの、帰られるんでしたらまた村に届けてほしいものがあるのですが、お願いしても大丈夫でしょうか」

「もちろんッス!」

「ありがとうございます。それではまた取って――あの、離してもらえませんか」

「おっと腕が無意識に……し、静まれ、マナちゃんの右腕よ……怒りを静めろ……ッス」

「何に対して怒っているんだ……」

「あの、よろしいですか?」

「どうぞッス」

 冷静に対応するウーウァと冷静に返すマナちゃんのやり取りがとってもシュール。

 急ぎ足で駆けていくウーウァの後ろ姿を見守っていたが、残念なことに今回は行きも帰りも一度も転ばなかった。

 なんで残念がるのか自分でもわからない。マナちゃんが感染ったのかな。

「これなんですけど、活力剤なんです。この前渡した果実を村の皆さんも気に入ってくれたようで、あの苗も早速育てているみたいです。ですがもっと早く成長させることができればと思い、作ったのがこちら。その名も『アルゴ・フラッシュ・オリジン』です」

「なんか格好良い名前ッス! 必殺技みたいで叫びたくなるッスね」

「農薬関係は中二病もびっくりするレベルの薬品名で溢れてるからなぁ」

「これは植物の成長を促し健康を維持するオリゴ成分と呼ばれるものが含まれており――」

 油断していた。

 ウーウァは農業関連の話になると我を忘れてマシンガントークを繰り広げる。

「――です!」

 ウーウァの目が輝いている。

 いや、いいんだ。これで彼女が満足したなら。

 小難しい講義を聞いた後、必殺技を詰め込んだひょうたんを受け取りその場を後にする。

 多分二人ともゾンビのように呻きながら歩いていたと思う。


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