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物語修復機構 -パロディ洪水伝説-  作者: いずも
『旧約聖書』 ノアの方舟 篇
2/51

001物語始めました

 世界中のありとあらゆる物語が集まる不思議な本棚がある。

 蔵書数は無限、いつでも取り出し可能、まさに夢のような本棚はとある異空間の書斎にある。

 部屋の中に一つだけある窓からは宇宙空間のような景色が広がり、時々ホログラムが浮かび上がっては様々な物語をダイジェストに映し出す。

 書斎には開けたらどこへ繋がっているのか誰も知らない扉が一つ。それと本棚を背に構えるいかにも文豪が筆を執るような木製の作業机、しかし執筆活動に使われることはなく物置場として何冊もの本が乱雑に積まれている。

 荘厳にして宝の持ち腐れである机の向かいには応接間のような光景が広がっている。長方形のテーブルと長さの違うソファーが二つ、向い合せで置かれていて、長さの足りない方を補うように一人がけのソファーも隣に置かれている。

 床は一枚物の絨毯が敷かれており、ソファーの隅やテーブルの上などあちこちに本が積み上げられている。下から見上げれば巨大なビルの群れのようで、都会の喧騒を思い起こさせる……ということにしておきたい。

 たまには片付けよう、うん。


 こんな書斎で何が行われているのか。

 一言で言えば『物語の観測』である。ここは物語の観測所なのだ。

 プログラムがバグによってエラーを引き起こすように、物語にもバグが存在する。そのバグによって物語は本来あるべき姿を失い、改変されてしまう。

 例えば。桃太郎のきびだんごを食べた犬猿雉が食中毒を起こし、単身鬼ヶ島に挑まなければならない桃太郎が生まれてしまうかもしれない。亀に乗った浦島太郎が龍宮城にたどり着けず迷子のまま年をとってしまったり。

 プログラムにはバグを修正するデバッガーが存在するように、物語にもそういったバグを修正して物語を正しく再編成する『リオルガー』が存在する。

 わたしたちリオルガーは物語の観測者としての役割と、物語の再編者としての役割を果たしているのだ。

「シショー、誰に向かって喋ってるんッスか? アブナイ人みたいッス」

「……いや、何でもないよ」

「カメラはこっちッスよ?」

「おっとマナちゃん、メタ発言は程々にね」

「はーい、りょーかいッス」

「うわ先輩超優しい。甘々。コーハイちゃんが同じ発言したらフルボッコにするくせにー」

「うるさい黙れ」

 わたしは吐き捨てるように短く言葉を投げつける。加えて冷ややかな視線を浴びせかける。

「ああ~、その視線がたまらんのです。ご褒美ご褒美。パイセンのその蔑んだ瞳で見つめられるとコーフンしますねぇ……もうコーハイちゃんはヘヴン状態ですよ」

 どうしようもない変態である。これも声に出してしまうとますます相手の思うツボなので、ぐっと罵詈雑言の言葉を飲み込む。なぜ会話するだけで胃がキリキリと痛むのか。

「おやおや、我慢は体に悪いですよ? ほら、コーハイちゃんにブッかけても良いんですよ? ぼ・う・げ・ん」

「……っ!」

 歯を食いしばりながら睨みつける。まるでこちらの方が始末の悪い子供のようだ。

 オーケー落ち着け。

 ちょっと人物紹介でもしながら気を落ち着かせよう。

 今ここにはわたしを含めて三人のリオルガーが存在する。わたし達には名前はなく、あくまでお互いを区別するために記号的な仮の名前で呼び合っている。

 先程から被虐趣味のある発言を繰り返す彼女をわたしは『コーハイ』と呼んでいる。と言ってもわたしが名付けたのではなく、わたしがリオルガーとして先輩ならば自分は後輩だからとコーハイちゃんを自称するダウナー系少女である。

 長い銀髪に上質紙のような白い肌。常に気だるげで眠たそうなジト目を向けてくるローテンションな彼女。

 わたしのことは先輩と呼ぶが、気分が高まるとなぜかパイセン呼びに変わってしまう。こうなると手がつけられないので早めに手を打つ必要がある。

 そしてもう一人のリオルガーがコーハイより一回り小ぶりな少女であるマナちゃん。コーハイより後にリオルガーとしてここに来たので、この子を愛弟子として育てようと思い愛弟子のマナちゃんと名付けた。

 ちなみにわたしは「センパイの先輩だからシショー」ということらしい。

 黒髪のショートボブで病的なまでに白いコーハイと比べるとクラフト紙のように健康的な肌の色で、小動物のように大きな瞳なのもコーハイとは対照的だ。

 純朴で健気、頑張り屋で好奇心旺盛と理想的な弟子なのだが、時々メタ発言をしてしまう癖がある、コーハイとは違う意味で危ない子なのだ。

 以上、そんなわたし達はゆるいサークル活動のようなノリで物語の観測活動を続けている。


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