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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ZEBRANAシリーズ

ZEBRANA プロローグ

作者: 紫


目次

プロローグ

四階 VIPルーム『レアルジョールの間』

一階 ホステスクラブホール『ZEBRANA』

地下一階 グランドカジノホール『黒馬の間』

ZEBRANA GAMEの幕開け

愛情






プロローグ


黄金の香水を振り掛けた。


ピンク色の夕陽は大気に溶け込んでいるかのようだ。

南方の壁窓から、白漆喰の唯広い空間を、そのクリアピンク色と薄紫が染めつくす。


グレーの影が、スツールに腰掛ける彼女の細長い足許にまで伸びては、陽がシルバーのストラップのハイヒールを輝かせている。


グレーの香水ボトルを置いて、ドレッサーに映る自らを見つめた。


美しくシャープだ。完璧。


髪はシルバーカラーで、黒とチタンのメッシュが入っている。ワックスでボブ全体を鋭く後ろへ流す。


シルバーのシルクは女の体のラインに滑らかに吸い付く。プラチナ台ダイヤモンドのストラップでそのドレスは支えられている。


鋭い色のフェイスを囲うイヤリングは、シルバーの留め具で巨大なブラックダイヤモンドが漆黒に艶めき、その下を黒革のひだが揺れている。


シャラン・・・ 


シャンデリアを見上げた。


透明なクリスタルが、何にも染まらない輝きで背後の白い壁を一方向に広げている。その滑らかな透明を透かして、女は首を斜めにグレールージュのキャップを閉じた。


雄孔雀がまた天井のシャンデリアに昇り絶妙なバランスでゆらゆらと歩き、透明な先と空間の先で静かに、鮮やかに彩った。


また呼んで、飛び降りれば脚を骨折してしまうかもしれないから呼ばない。今度、観葉植物の高い木を多く置くべきだ。孔雀が木を伝って降りられるよう。


彼女はガラス製の鈴を静かに鳴らして静かに指をなぞりテーブルに置いた。


「あの子が降りるまでを見ていて」


そうバトラーに言ってから、白孔雀のバッグを手に持ち、男に微笑んでから歩いて行った。


白い空間を紫の陽が徐々に占領して行き輝きを持たせる。


肩越しに見つめ、今にグレーに輝き反射されるシャンデリアの時間帯を夜と変えて、

その時間帯だけ切にシャンデリアをいつも美しい高貴なグレークリスタルに変えたくなる。


銀色の光を鋭さも無く星の様に広げて、美しくするからだ。


そして、夜の帳が降りた頃には深みを持って空間を装飾する。空間から出て行き、歩いていく。


肩に黒の水洗い加工されたゴート毛皮のロングコートを掛けられ肩越しに微笑みエントランスから出る。


リムジンに乗り込み男に微笑する。

ベージュシートとクリーム色の石材床、ダイヤモンドのシャンデリアに、滑らかな黄金の金属・・・豪華な内装はあくまで落ち着き払う。


会場へ向かう。


「リリーズ様には毎回ご贔屓頂いて」


シャンパンを受け取り女は男に微笑みグラスを小さく掲げた。


女は貴族クラスに卸される宝石商のアルメリア女で、


愛人である男の妻は彼女の宝石の数々に惚れこむ顧客。


この2人の今の場に妻リリーズは不在。


「本日のゼブラナ“密時の宴”にお招き頂いて光栄ですわ」


男は、完全会員制を敷かれる高級秘密クラブゼブラナの会員だ。




美しく華麗な世界は幕開き・・・

緞帳を降ろされる時間から本格を極めた宴が始まった。





四階 VIPルーム『レアルジョールの間』



秘密クラブゼブラナ 仮面舞踏会


妖しげな宴時。


VIP ROOM『薔薇の間 香水・ショコラルーム』

白の空間に上質な赤が施され純白ミンクの毛皮ソファーがボリュームを持った。ゲストの女は妖艶に笑みブロンドを撫で会話に華を咲かせた。

天井から床まで下げられたゴールドの滑らかな触りのシャンデリアに寄りかかり、女はジョーカーのカードを投げた。

スモーキーなこのモルトウィスキーにはやはりビターなショコラが合う。

薔薇の薫る中、女達は誰もがゆったりとした時を過ごしている。


VIP ROOM『ミンクルジアールの間 ブランデー・シガーバー』

黒石材の空間に濃緑の上質エナメルがブロンズ蛇と共にその場を彩り、男達は琥珀色の間接照明の中、葉巻をくゆらせ低く笑い合う。

金融の情勢を話し合っては、女の立ち入る隙の無い雰囲気で語り合う。


VIP ROOM『レアルジョールの間 SMルーム』

「そうでしょう?あたしは止めたの。これ以上何を望むの?ってね」


「彼も欲張りね」


「本当。本質を究めたいばかりにいつでもそう。それで知ってしまえば、上を望む」


「それは良い心がけになるわね」


「必ずしも?ハハ、幻想よ」


「だが、美しい者達は男よりも留まる所を知らない。欲望は同じだ」


条暁じょう さとるはボルドーのグラスを掲げ口端を上げ微笑み、ユウコは微笑し首を振った。


個室の空間は条と、日本情緒溢れる華やかさと柔和な微笑みの美を誇るゼブラナホステスユウコがチェスの駒を進める。


スパニッシュであり情熱的な目を上品に鋭くした条の妻は、ユウコの肩に軽く肘を掛け上目で微笑み合った。


「ねえユウコさん。彼に言ってあげてよ。今もランさんが消えた事取り上げるの。2人の時間の中では無いけれどね」


「まあ本当?条さん好きねえ」


ホステス・ランは今、マネージャーの男、鳥羽と共に失踪していた。


黒石か白・黄金の壁。

赤のビロードがゴージャスに装飾し天井から垂れ下がっては、太いローマ柱に燭台の黄金の光が広がる。

美しい絵画は完璧を誇り、調度品が落ち着き払って配置される。


そんな空間の中……


黒と群青ビロードの垂れ幕に彩られる鉄格子の中のスキンヘッドのマゾ男は猫の様に痩身をくねらせた。


毅然と立つ赤紫ボンテージの黒アイマスクブロンド女が、鞭で微笑し男を誘うのを上目で見つめ、男はホール上の雪豹に威嚇された。


猫の仮面のボブヘアの女パフォーマンサーが銀の玉と青い炎を吹かせ華麗な演術を魅せる。


それを背後に煙管に吸い付き、ユウコは目を細めて言った。


「一生帰って来ないほうが世の安泰では無いかしら」


「解き放たれて、世が安泰じゃなくなるけれど」


条の妻はそう言い、ユウコと一瞬を置き2人の女はアハハと面白そうに多少体をのめらせ笑った。


ユウコのクリームベージュのドレスと黄金とグレーのメイクはイヤリングのダイヤモンドで輝き、条の妻は黒ドレスにゴールドの装飾品が光った。

まるで悪意を輝きで隠すかのように。




一階 ホステスクラブホール『ZEBRANA』


三階 EAST高級スパサローン・大浴場『獅子の間』

女達にはあでやかな施しがなされている。

ローズエステ、ドイツ炭酸浴スパ、ダイヤモンド粒子エステ、黄金スパだ・・・


WEST美術品コレクションホール『孔雀の間』

多くの珍品がスポットライトに照らされ展示されている。誰もが興味深く眺めては、あでやかに微笑みあっている。


二階 オークション・イベントホール『白馬の間』 


秘密クラブゼブラナはデカダンな男性的絢爛さと悪魔的ゴージャスさの空間だ。ディーラーは大きくバリトンの声を張り上げる。

「今宵の出展品は、エントリー?12番 中世1000年の歴史を誇る某国王家の末裔が最愛の女性に送った由緒ある一品。スクエアブルーサファイアと純プラチナ台のパリュ−ル、そしてエントリー?13番 その彼が書き遺したという、幻の相続遺書。これは今現在でも有効だと言われています」

さわめきが静かに巻き起こっては引いていき、掛け値が徐々に上がって行く。


一階 宴の会場

空間の幽玄さと密度さは比例し、濃密な闇は鮮明さのある焦茶を照明に置き彩っていた。


華麗な仮面を着けたゼブラナホステスハルエは、1階の宴の会場で仮面のゲストと語り合っていた。


サワ、


「・・・・・」


一瞬の波立つさわめき、ハルエはそちらを上目で振り返り、射抜くように彼女を見た。



ラン



もう一人のゼブラナホステス。


彼女は長いホワイトブロンドの髪を下げていて、コートを彼女の肩から取る男に微笑んだ。


黒ミンクコートから、グラマラスな身体を包ませるシルバー金属のドレスを覗かせ、それは滑らかに焦げ茶のランプの光を反射させている。


毛皮を預けて、会場を黒のルージュを引き上げ上目で艶を持ち見渡す。


仮面の瞳が妖しい光を受け恍惚として顎を上げ笑い「あーあ」と、高い声を低くして言った。


「無駄に休んでいて、ごめんね?」


そう、充分愛嬌ある声で言って、進み入る。


シルバーとダイヤのリングのはまる黒シルクのロンググローブの手腕で、キャディラックの金のキーを差し出されたトレイに乗せながら首を預けた。


そこから会場に目を転じゆったり歩いてきた。


「ハアイ、ハルエ」


「・・・・」


ハルエは腰に手を当て首を傾げ彼女を上目で見て、逆側に傾げさせるとグラスをボーイから受け取り、彼女に渡し下目で横の彼女を見た。


「ねえラン。あんた、いつもの様に人に気を持たせてないで、登場するのかペガサスのように飛んでいくのかはっきりしたら?」


ランはハハと笑い、しならせた背を伸ばしてハルエを見た。


「そんなの、知らない」


ランは歩いて行きハルエは鼻で小さく息を付き客達に微笑んでから、歩いて行った。

彼女が姿を現した事で、何かを企んでいるはずだと思考をめぐらせる。

ランはハルエ、ユウコからは毛嫌いされていた。

共に逃げたはずの鳥羽の姿は無い。






地下一階 グランドカジノホール『黒馬の間』


ランは一階で客達へ一通り挨拶を済ませると、常連2人と共に、黒マーブルにゴールドライオンレリーフのエレベータへ進んだ。

地下に現れたラン。


「大層な事」と、ゼブラナママ・グランドオーナーであるイサは、大きなまぶたを伏せ目を細め彼女を振り向いた。客達に微笑みランのところへ来る。


「おはよう。ラン」


「おはようイサ?」


ランは微笑み、滑らかな琥珀セピアと黄金の照明の光を装飾品の銀に反射させた。


分厚い唇と誘惑顔で背をくねらせ、男達をなまめかしく鋭い目で色気を持って威嚇魅了してから歩いて行く。


イサは腕を組んで彼女をくるりと振り返った。

何のために冷やかしに戻って来たのかしらと思いながら。


ランの常連の男2人はイサママと微笑み合って、ランに続き歩いて行った。


ランは一声上げ両手を広げて歩いて行き、シャンデリアの下に立つと上目になり、煌びやかな黄金と黒石材とブロンズ装飾を、そして人々を見回した。


豪華なゲーム盤の奥へと向かって行った。


センターを陣取るルーレットの奥のボックス席で、ランの年重の常連が彼女を見て口はしを強く引き上げた。

ランは他のブラックジャックやバカラなどのテーブル横を通って行き、彼に緩く微笑みかける。

ビリヤードの鉱石の玉を長い爪で転がし、林檎が混じっているのを取って唇をつけた。


「皆さん?いいもの、みられるかもよ」

意味ありげに彼女は微笑むと、イサの視線を無視してソファーに腰掛けた。

会場を見回し、微笑した。






ZEBRANA GAMEの幕開け


乱舞


狂乱


悦びでは無い



仮面が落ち


クリスタルは砕け


誰もが叫びを上げ切り裂くように声を上げた


舞うように逃げ惑い、


ランは


悪魔の様にソファーの充分重厚な黒革の背に腕を掛け、笑った。


断末魔のように笑い猛った。可笑しそうに。可笑しそうに。


シャンデリアは砕け散って黒石材の床に落ち、その繰りぬかれた黒石の天井から、赤くめらめらと炎が手を伸ばしくすぶった


一体何故、


熱せられた人々は叫び顔を歪め逃げ惑った。


全てを熱してしまおうと。


垂れ幕やソファー、皮製の壁が自然と火を着け炎にし始めて人々はそれを振り返り、目を見開いた。


焼け付きそう。


燃え尽きそうだ。


熱せられる体、熱せられる石材の床と天井に壁、太い柱にすがりつき逃げ退って女は泣き、男は熱せられれる暑さで気を失った女を支え、


誰もが息を呑んだ。


全てのコンピュータがいかれ狂いエレベータも扉もロックが掛けられた。



「嫌!!嫌あ!!!」



奇声と化した。アルメリア女は叫んだ


熱さで狂った女は駆け出し床に倒れ、一気に彼女のグレーシルクのドレスに自然に炎が広がった。


イサは激しく揺らめく陽炎の中、目を歪め視界がそれらの熱せられる陽炎で揺らめくのを進んでいく。


厨房から運ばれる水が床に落ちながら進んできて、一瞬にして湯気を出し沸点を超えてぶくぶくと、消えて行く。


彼女は燃えて肌を焼き気を失い、イサは彼女の所へようやく駆けつけ背に手を当てて、火傷を見回し声を押し殺し見開いた目から涙が落ちた。



バーテンブースのジョージは背後の酒瓶の全てが同時に激しくバリンと割れ散り青や緑の炎で一瞬空間を彩ったのを腕をかざし避け辺りの地獄を、一瞬を置き見渡した。


その内石壁の継ぎ目から炎がうっすらと姿を見せ始め、女達は熱くて呻きながらドレスを剥ぎ取り脱いで行き弱っていき、天井からも炎がぼたぼたと落ちて来た。


何故、一体何故、


全てを燃やし尽くそうと、全てを燃やし、尽くそうと・・・



ランはせせら笑い、一瞬青い炎の広がったリキュールグラスを回し上目で会場を見て妖笑いし、組む足をぶらつかせた。



「ねえ、こういうお熱い密夜も綺麗なんじゃない?」







愛情


暗い室内。

ZEBRANA火災から一夜明けた日の夜。

闇は濃密に充ちていた。


「いい子ね・・・いい子」


ランは怯える鳥羽の頭を膝に抱き、髪を優しく撫でた。

彼はガラス質の様な目で何処を見つめているのか、彼女の背を抱き膝に頬を、

全く閉じることも無く闇を見つめていた。


黒髪をなでてやり、彼は大きな目を開けている。


微かに震えた手はずっとかたかたと震えていた。まるで日に焼けた彼の肌などが偽物の様に健康的だ。見開かれる目も、堅く閉じられる口元も、まるで2歳児の子供の様にじっとしている。

ドラッグによるフラッシュバックに怯えていた。


ランは彼の耳元にキスを寄せて優しくシャツの肩を撫でた。彼女のホワイトブロンドは月光を受ける蜘蛛の巣の様に銀色に光って光りを透かし、窓の外に視線を流した。

温かい体温。感じる重さ。存在と恐怖。

「大丈夫よ。大丈夫だわ」


まるで別人になって彼はランに甘え抱きついて、離れなかった。

彼はひと時も離れたく無かった。身を預けていたかった。考えることなど、出来ずにそんな物は皆無だった。



ランの目から涙が透明のクリスタルの様に落ちた。


まるで宴での悪魔が嘘だったように。


窓の光りを背後に、俯き彼を見つめる瞳から、その先のアナタまで


涙が零れた。



彼は感情も無く闇を見つめるのが、ただ可愛らしくて、愛しくて、慈しみたくて・・・悲しくなる。


彼に愛情を置いている。それは確かだ。彼は自分を追って来てそして、いつしか薬に没頭した。


瞳を開いて愛情を、この手に取って感情を、

全てがぬくもりに変えるなら、この夜の全ての継続があるなら、いらない。

世の中などいらない。

彼が元のように笑いかけてくれるならば世などいらない。


二度と叶わないことは無い世の中で、様々な事をおろそかにしてきたとか、全てを捨てて、今体を向き合せる事を、ただただ望む。


何がどう変わっただろう。

ある一つの信条の元にのみ心を置いてきた。人生。変わることが無かった筈なのに。

ランは愛情を分かってしまったあの日から、全てを崩すことを願った。


愛してしまったから、今や恨めしい程にどうすればいいのかわからなくて、彼の全てを崩してしまった。壊してしまっても、笑いかけてくれたっていいじゃないと、訴えかけて、訴えかけた。心の中だけで、炎の中で。


アナタはどうして変わってしまったのよ・・・


ずっと羨望して見てきたのに。まるで、裏切られた気分。

逃げるあたしをどこまでも追って、あたしの愚かさに笑えば良い。

髪を撫でて優しく問いかける。

「楽しもうね。ゲーム、アナタの為に作ったのよ。笑ってね。あたしがみっともなくて、笑ってね・・・」


彼の頭を抱き締め抱え、顔をゆがめて涙を流した。

頬と頬の温度が同じなのに、同じなのに・・・


真っ赤に泣く顔は自分だけ・・・

アナタはあたしの為には泣かないのね・・・

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